【連載第9回】開発者が語るiPhoneゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

男女2人でタッチして遊ぶ新感覚パズル「Q?pid」を配信
キューエンタテインメントの開発陣にインタビュー

 世界中でブームを起こし、携帯電話市場を一変させたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしても注目を集めている。本連載では、iPhoneゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



12月21日 収録


 iPhone/iPod touchのタッチパネルは、最大5本の指を認識できるマルチタッチスクリーンを採用している。この機能を活かしたゲーム「Q?pid(キューピッド)」が、キューエンタテインメント株式会社から1月8日に配信された。男女のペアが1台のiPhone/iPod touchを使って遊ぶパズルゲームだ。

 5本の指で画面をタッチして遊ぶiPhone/iPod touchならではの新感覚のパズルゲームがどのようにして生まれてきたのか、キューエンタテインメント オンライン事業本部マーケティング部の瀬川圭一郎氏にお話を伺った。さらに同社の開発部グラフィックスデザイナーの小林賢五氏にも同席していただき、配信中のパズルゲーム「LUMINES -TOUCH FUSION-」についても尋ねてみた。


男女のふたりが指を絡め合いながら協力してパズルを解いていく「Q?pid」。価格は230円同じ色を四角く4つ以上くっつけて消すパズルゲーム「LUMINES -TOUCH FUSION-」。価格は350円



■ 男女が指を絡ませて楽しむ「知恵の輪」風パズルゲーム

オンライン事業本部 マーケティング部の瀬川圭一郎氏。普段は広報の仕事をしているが、新しいもの好きで早くからiPhoneを持っていたことがきっかけで「Q?pid」を開発した

――まずは新作「Q?pid」について、どんなゲームなのか教えてください。

瀬川圭一郎氏: 「Q?pid」は“触れる”をコンセプトにした、ちょっとユニークなコミュニケーションアプリです。ゲームの内容自体はシンプルなパズルゲームで、画面上に描かれている線の端にある矢印マーカーを、線の通りに指をスライドさせて反対の端まで動かすだけです。すべての矢印マーカーを線の端まで動かして3秒間制止するとクリアとなり、背景の歪んでいた白黒画像が正しいカラー画像になります。最初は使う指が2本ですが、3本、4本と増えていき、最終的には5本の指を使います。もともと男女で指を絡ませて楽しめるパーティーゲームの意味合いがあって、赤の線を女性、青の線を男性が動かして楽しむルールになっています。

――複数の指でタッチして遊ぶのはiPhone/iPod touchならではで、パズルゲームとしても新しいですね。しかも相手と協力して考えないと上手く解けないのは、今までにない面白味があります。

瀬川氏: 基本的には男女2人で指を絡ませて楽しむゲームです。イメージとしては、パーティーゲームの「ツイスター」に近いものになっていて、どの指をどの順番で動かさなくてはならないのか、考えながら楽しめるようになっています。

――最初は気軽なパーティーゲームかと思っていたのですが、実は知恵の輪のような硬派なパズルゲームになっているのですね。このゲームはどんな発想から生まれたのですか?

瀬川氏: 昨年の夏にiPhone/iPod touchのタッチする操作性や特徴的な機能を活かして、何か面白いものを作ろうというプロジェクトが立ち上がりました。その企画会議でiPhone/iPod touchのタッチ操作を連想させる形でアイデアを出す際、相手と自分がいろんな意味で触れられることをテーマに考えました。体に触れたいとか、心に触れたいとか、耳に触れたいといった感じでアイデアを膨らませていった時に、「指が必然的に触れあう」というのが面白いという話になり、フィンガーパズルを作ることになりました。

――指同士が触れあうコンセプトから、どのようにしてパズルゲームに進化していったのですか?

瀬川氏: 指と指が触れあうものを作っていく課程で、必然的に知恵の輪のようなパズルゲームになっていきました。我々としては、ジョークアプリを作るつもりで始めたのですが、完成したものはかなりソリッドなゲームになりました。我々はやっぱりゲーム屋なんだなと痛感しました。

――どのくらいの問題数が用意されているのでしょうか?

瀬川氏: 全部で40問あります。問題のデザインはディレクターがこだわり抜いて作っています。高いレベルの問題になると、複雑すぎて女の子が付き合ってくれなくなるかもしれませんが、そうなってもひとりで遊んで楽しめるようになっています(笑)。


男と女で指を絡ませて遊んでいく。最初の簡単な問題ならパーティーゲームとしても楽しめる指を順序よく計画的に動かしていかないとクリアできない問題も用意されている



■ 画像を揺らすアプリ「JellyPics」のプログラマーが開発に参加

――問題をクリアすると歪んでいた背景画像が元の画像に戻るような仕組みになっていますが、こちらはどのような発想から作られたのでしょうか?

瀬川氏: 背景画像の演出の元ネタになったのが、画像をゼリーのように揺らせるアプリ「JellyPics」です。これを開発しているプログラマーの新藤愛大さんとは知り合いで、彼の開発した「JellyPics」を見せてもらった時に、この機能を取り入れたいという話になり、あの背景の演出ができました。「JellyPics」は、既にあるものを崩していく面白さがありますが、逆に壊れているものから正解に持っていく方がゲームとしては面白いと思い、「Q?pid」では逆転の発想で使うことになりました。

――ほかには、どんな機能が盛り込まれていますか?

瀬川氏: エディットモードで、自分が撮った写真やiPhone/iPod touchに入っている画像をステージの背景に置き換えられます。しかも、背景画像にメッセージを書き入れたり、ゲーム中のBGMをiPhone/iPod touchに入れた曲から選んで流すこともできます。これらの機能を駆使すれば、パズルを解いた時に、自己紹介ができたり、相手のお誕生日にメッセージを見せたり、プロポーズに活用することだってできます。初対面から人生の大事な告白まで活用できると思っています。

――プロポーズでは、女の子もちょっと引きそうな気もしますが(笑)。どんな人に遊んで欲しいですか?

瀬川氏: やはり、合コンなどで使って盛り上がって欲しいです。男女間の指が触れあうというのは、米国などでは当たり前のことで、それほどトキメキはなさそうなのですが、日本ではファンタジーがありますので(笑)、ドキドキしながら楽しんでください。ゲームプレイ中はクリアまでの時間を計測しており、どちらが上手くプレイしたかで相性の診断まで行ないます。


最初は何が描かれているかよくわからない背景だが、矢印マーカーを動かすと歪みがなくなる
クリアにかかった時間によって、2人の相性も診断されるエディットモードでは好きな写真を背景にしてメッセージも書き込める



■ 広報担当の瀬川氏が開発に参加した理由とは?

――瀬川さんは本来は広報担当ですが、御社では広報の方が開発に携わることもあるのですか?

瀬川氏: 当時、広報の仕事に余裕があったこともあるのですが、ミーハーなもので早い段階からiPhoneを使っていたこともあり、開発にも参加させてもらいました。以前からゲームを作りたいという思いもありましたが、広報の私がコンシューマーゲームのように長期間かけて開発するものに携わるのは不可能です。しかしiPhone/iPod touchなら開発期間も短いので、開発に参加できたというわけです。

――実際に開発してみていかがでしたか?

瀬川氏: プログラマーが、先ほど紹介した「JerryPics」を開発した優秀な方でしたので、開発は楽でした。こちら側で簡単な仕様書を作り、ある程度の素材を彼に渡したら、私がどんなものを作ろうとしているのかを彼が理解してくれて、スムーズに作れました。これは3人で開発しており、1カ月で概ね完成しました。逆にそれ以上時間をかけてしまうとビジネス的にも難しいだろうという判断もあって、開発は昨年の夏あたりで済ませました。

――すると開発が終わってから発売までにかなり時間がかかってますが、なぜでしょうか?

瀬川氏: アプリの配信が半年もずれたのは、配信のタイミングが必ずしも商戦期がいいわけではないと、Appleの担当者からアドバイスをいただいたからです。2月にはバレンタインデーがありますし、こういうゲームは米国でも受けるというアドバイスももらっていたので、バレンタインデーの時期に上手く展開できるように仕込むことにしました。

――なるほど。バレンタインデーに世界中のカップルが「Q?pid」で指を絡ませながら愛を育んでくれるといいですね。


【プロモーションムービー】



■ 音楽ゲームに最適な端末であるiPhone/iPod touchで「LUMINES -TOUCH FUSION-」を開発

アルバイトとして入社し、現在は開発部のグラフィックスデザイナーを務める小林氏。「LUMINES -TOUCH FUSION-」がいわばデビュー作となる
エフェクトはiPhone/iPod touchに合わせてアレンジされている

――続いては「LUMINES -TOUCH FUSION-」ですが、まずは小林さんの経歴を教えてください。

小林賢五氏: 入社して1年と9カ月になります。この「LUMINES -TOUCH FUSION-」は、メインデザイナーとして初めて世に出るゲームです。

瀬川氏: 水口哲也(キューエンタテインメント代表取締役CCO)が一押しのデザイナーです。

――「LUMINES」をiPhone/iPod touchで開発することになった経緯を教えてください。

瀬川氏: PSP版の「LUMINES」は、元ソニー・コンピュータエンタテインメントの久夛良木さんが「PSPで21世紀のウォークマンを作る」と語ったのを水口が聞いて、ビビッと感じたところから生み出されました。水口が21世紀のウォークマンとして解釈したのは、“ミュージックインタラクティブ”という、音に対して自分が介在する何かがあるというものです。iPodは携帯型音楽プレーヤーとしてはウォークマンのシェアを大きく奪ったハードですから、iPhone/iPod touchも親和性が高いと考え、当初から出したいと思っていました。

――開発期間とスタッフの人数は?

小林氏: 開発スタッフはデザイナーの私と、プログラマー、ディレクターの3人です。iPhone/iPod touchでの先行研究を兼ねた動きをしていたこともあり、開発には4カ月ほどかかっています。開発途中でiPhone OS 3.0の機能が発表されて、当初は予定していなかったIn App Purchase(アプリ内課金)を使って楽曲の追加パックを配信できるようにしたこともあり、開発期間が伸びました。課金システムの部分では特に時間がかかっています。

――PSPからiPhone/iPod touchへの移植にあたって苦労した点はありますか?

小林氏: プログラマーはPSPとiPhoneをともに理解している者でしたし、「LUMINES」自体がシンプルなパズルゲームですので、基本的な移植にはさほど時間はかかりませんでした。ただ、そこからどういう演出をしていくかという部分では試行錯誤しました。

――演出というと、ブロックを動かした時などのエフェクトは凝っていますよね。

小林氏: 実はiPhone/iPod touchでは、アニメーションをあまり多く出すと処理が遅くなってしまいます。その中で何ができるかを考えた結果、きちんとアニメーションするものを入れて、処理が重くならずに派手になる演出部分に注力しようというコンセプトで開発しました。例えば、PSP版ではブロックを回転した時や移動した時にエフェクトは出ませんが、iPhone/iPod touch版ではスキンごとに違うエフェクトを出しています。さらに、画面に触った時やブロックを落とした時にはエフェクトが出るようになっています。ブロックが消える時のエフェクトも1スキンごとに描いていて、細かい作業を積み重ねていくことによって、全体的にクオリティを上げています。

――コンシューマーゲームとiPhone/iPod touchでゲームの作りやすさを比べるとどうでしょうか?

小林氏: 基本的に作りやすさの点ではあまり変わりません。どちらかというと、どこまでこだわって作るかによって違ってくると思います。PSP版やXbox 360版には、1つのゲームモードに対して20~30スキンは入っていますし、ブロックも丸形だったり四角だったりします。しかしiPhone/iPod touchの場合はそこまで容量を入れられないので、少ないスキンでも豪華に見せることを念頭に置いて作っています。エフェクトを足すこと自体は、それほど手間ではないですから、1つ1つ変わったものをつけていこうと考えながら作っていきました。




■ 個人差によるタッチパネルの操作感覚の違いで一苦労

タッチパネル操作では苦労した本作。バージョンアップによってブロック操作がさらに快適になっている

――タッチパネルでの操作面で工夫した点があれば教えてください。

小林氏: 最初はコンシューマーゲームに倣ったバーチャルボタンを入れるのか、それともブロックの落下だけにボタンを設けるのか、はたまたスライドバーを画面上に用意してブロックを落としていくようにするのかなど、色々と検討しましたが、どれもスマートではありませんでした。その結果から、UIをなるべくなくし、指1本で感覚的にブロックをつかんでスライドして落とすという形を突き詰めていきました。

――シンプルを追求したら画面上にボタンを表示しない形になったわけですね。

小林氏: そうです。ゲーム画面の美しさは「LUMINES」の売りの1つですから、画面にはなるべく邪魔になるものを置きたくなかったのです。いっそスコアもなくそうという話も出ましたが、それはゲームだから欠かすわけにはいかないということで、そういった必要最低限のものだけにしました。

――操作はブロックを左右のスライドで動かし、下にフリック(指を払う)でブロックを落としていきますが、この操作を開発するのに苦労はなかったのですか?

小林氏: 画面をタッチした時に、反応しやすい人としにくい人がいたりして、感覚の個人差があるのには困りました。どの人に合わせていいのか、という点で非常に苦労しています。またブロックを落としたいと思った時の指の動きも人によって違うので、その調整でも大変でした。プレーヤーは横にスライドさせたつもりで指を動かしたのに、実際は指が斜め45度にスライドしていて、ブロックが落ちてしまうことがありました。意図しないところでブロックが落ちてしまうとストレスになるので、どこまでを落とす動きとして認識させるのかで何度も調整しました。

――個人差による調整はかなり大変ですね。

小林氏: さらに開発者がプレイしすぎると、プレーヤーとしてゲーム操作に慣れてしまうので、元々は癖のある指の動きの人でも馴染んでしまい、自然にプレイできてしまう点でも苦労しました。開発者がこれでいいと思ったものでも、プレイしたことがない人に触らせると、ブロックをちょっと動かそうとしただけでストンと落ちてしまい、ゲームにならないこともありました。慣れによって操作性の快適度が全く違ってくるので、その点でも操作には気をつけなくてはならないと痛感させられました。とにかく操作面でのチューニングには苦労しました。

――11月のアップデートで、操作系を中心に改良を加えたそうですが、具体的にどう変わったのですか?

小林氏: 操作の感覚的なところを見直してあります。それとゲーム全体の描画処理を軽くしてあります。画面に映っているものと、タッチパネルでの入力にタイムラグがあったようで、それがアクション性に影響が出ていました。そのタイムラグを軽減するために処理を軽くしたことで、快適に遊べるようになりました。


タイトル画面やアイコンの絵の影響で、ブロックを指で動かして操作するものと勘違いしている人も多い?

――何かプレイのコツみたいなものがあれば教えてください。

小林氏: YouTubeなどでプレイ動画を見ていると、ブロックを指でタッチして操作されているようですが、実際はブロックに触らなくても、画面上のどこをスライドさせれば動かせるようになっています。指でブロックが隠れて操作がしづらいと感じている人は、画面の端の方で操作してみてください。

――そうだったんですね。タイトル画面やアイコンが指でブロックを動かしている絵になっているので、てっきりそうやって遊ぶものだと思っていました。

小林氏: そうか、これは勘違いさせてしまいますね(笑)。




■ 楽曲の追加パックは検討中。過去の作品の楽曲は権利関係が課題に

拡張パックの「COMIC PACK」は、アプリ内課金で配信中

――楽曲の追加パックについて、今後も配信予定はありますか?

小林氏: お待ちいただいているお客様もいらっしゃるので、前向きに検討したいと考えています。今は他の開発があって取りかかれていないのですが、目処が立ったらやりたいと思っています。

――追加パックの販売状況はどんな感じでしょうか?

小林氏: 米国の方々は、比較的買ってくださっている印象があります。「LUMINES -TOUCH FUSION-」は体験版と正式版を出しているのですが、その比率を見ても有料側の比率が高く、なおかつ追加のコミックパックも買っていただいています。

――PSP版では数々のアーティストの方が楽曲を提供していますが、iPhone/iPod touch版では出せないのでしょうか?

小林氏: 検討はしていますが、PSPがUMDソフトだったのに対し、iPhone/iPod touchはダウンロードソフトになりますので、権利関係の問題が発生します。そこが簡単には行かないというのが正直なところです。




■ iPhone/iPod touchの開発で得たノウハウを活かして次のステップに進んで行く

今回の2本を足がかりに次のステップを探っているという

――今後のiPhone/iPod touchでの展開はいかがですか?

瀬川氏: 今はiPhone/iPod touchに限定せず、Androidなども含めたスマートフォンの独特な特長を上手く活用しつつ、世界中の人々が楽しめるようなものを考えていこうと思っています。世界配信のビジネスのとっかかりとして、いろんな勉強をさせてもらったので、それを活かして次のステップを探っているという状況です。

――iPhone/iPod touch向けに開発中のタイトルはありますか?

瀬川氏: 今も開発はしているのですが、受託タイトル的なコラボレーションになるので、弊社のブランドではないものになるかもしれません。プロジェクトとしては、これまでのノウハウを使って次に向かおうとしています。

――今後も期待しております。本日はありがとうございました。


(C)2009 Q ENTERTAINMENT Inc.
(C)2004,2009 Q Entertainment Inc. (C)2004 BANDAI/NBGI

(2010年 1月 8日)

[Reported by 川村和弘]