★PS3/Xbox 360ゲームレビュー★

弾丸を曲げ物陰に潜む敵を射抜け!
特異体質を持つ“究極の暗殺者”の物語

「WANTED: Weapon of Fate」

  • ジャンル:サードパーソンシューター
  • 発売元:スパイク
  • 開発元:GRIN
  • 価格:7,140円
  • プラットフォーム:PS3 / Xbox 360
  • 発売日:6月25日
  • プレイ人数:1人プレイ専用
  • レーティング:CERO:D (17歳以上対象)

 スパイクが6月25日発売するPS3/Xbox 360用ゲーム「WANTED: Weapon of Fate」は、ハリウッド映画「WANTED ウォンテッド」をモチーフにした、3人称視点シューティングゲームだ。プレーヤーは驚異的な身体能力と、弾丸をカーブさせるという特殊能力を持つ暗殺者(アサシン)である。

 主人公であるウェスリー・ギブソンは父からこの暗殺能力を受け継いだ。彼らは1,000年も前から歴史の裏舞台で暗躍する暗殺組織「フラタニィ」の一員であり、ウェスリーの父クロスはその中でも優れた暗殺者だった。ウェスリーは本作で、その大きな運命と立ち向かうことになる。ゲームでは弾丸を曲げる「バレットカーブ」他、様々な特殊能力を駆使するユニークなサードパーソンシューターとなっている。レビューでは本作の特徴を紹介していきたい。



■ 爽快アクション映画の後日談。父と子の2つの視点で自らの運命を解き明かせ

ジェームズ・マカヴォイ演じる主人公ウェスリー・ギブソン。追いつめられていても軽口を絶やさない青年だ
ウェスリーの母。彼女の死には大きな秘密がある
物語後半でウェスリーは父のマスクとスーツを着る。原作コミックスでの彼の姿である

 「WANTED: Weapon of Fate」のモチーフとなった「WANTED」は日本では2008年9月に公開された映画だ。ウェスリーを暗殺者の世界に導く美女フォックスにアンジェリーナ・ジョリー、シカゴのフラタニィ支部のボス・スローンにモーガン・フリーマンを配し、カザフスタン出身の映画監督ティムール・ベクマンベトフがハイテンションな映画として作り上げた。

 もともと「WANTED」は同名のアメコミが原作となっている。原作では主人公はガスマスクのようなデザインの赤いレンズのついたマスクをかぶり、超自然的な敵と戦うという展開になっている。映画では、そういった方向性は押さえられており、監督の趣味が前面に押し出されたスタイリッシュなアクション映画となっている。

 上司に怒鳴られてばかりのさえないサラリーマンだったウェスリーは、ある日いきなりアンジェリーナ・ジョリー演じる謎の女フォックスに連れられ、自分が暗殺者として恐ろしい才能を持っている事を知らされる。ウェスリーは何かのきっかけで動悸が激しくなってしまう体質でこれがコンプレックスだったのだが、実はそれはアドレナリンの過度の分泌が生じさせるものであり、時間の流れをゆっくりと感じさせる才能だというのだ。この特異体質により、訓練すれば人の数倍の速さでものを認識できるようになるという。

 フラタニィは紡績を生業とする職人が作り上げた暗殺組織だ。“運命の織機”が指名したターゲットを殺すことで、歴史の安定を図ってきた。ウェスリーはフォックスから過酷な試練を課せられる。気絶するまで殴りつけられ、ナイフで手を貫かれるなど、何度も死ぬような目に遭い、組織の特別な技術で回復する。その過酷さと暗殺という仕事のシビアさにウェスリーは何度かくじけそうになるが、歴史を守るため、そして父を殺した組織の裏切り者と戦うため訓練をやり遂げ、一流の暗殺者に成長する。そして“本当の自分”を取り戻した彼の前に、大きな運命が訪れる……。

 暗殺者ウェスリー・ギブソンの誕生までが映画のストーリーである。ゲームの「WANTED: Weapon of Fate」はこの映画の後日談となる。本作では暗殺者となった彼が、自身の出生の秘密と向き合う姿が描かれる。ウェスリーを主人公にした現代の物語だけでなく、ウェスリーが誕生した直後の父親の活躍も展開する。プレーヤーはウェスリーと、父親クロスとなって、襲いかかる敵と戦うのだ。

 クロスだけでなく、彼の母親もまたフラタニィの一員だった。クロスの物語は、フラタニィのパリ支部リーダー「イモータル」に命を狙われるところからストーリーがはじまる。その過去の物語は、現代のウェスリーにも続いていく。なぜ母は殺されたのか、母を殺したのは本当にイモータルなのか、謎を追おうとするウェスリーの前にパリ支部所属のフラタニィ達が立ちはだかる。プレーヤーはある時はウェスリーとなってイモータルを追い、ある時はクロスとなって妻でありウェスリーの母である女性を守るため戦っていく。プレーヤーはストーリーを追うことで、ウェスリー・ギブソンという「究極の暗殺者」の出生の秘密を解き明かしていくこととなる。

 ゲームは昨今のFPSやTPSの流行を取り入れたものになっている。マップで隠れるところを探し、敵の攻撃をしのぎながらチャンスを活かして物陰から飛び出し射撃を加える。敵の隠れているところに照準を合わせ、頭を撃ち抜き撃ち倒していく。本作はその駆け引きに加え、暗殺者の才能である「バレットカーブ」といった特殊能力を駆使していく。

 バレットカーブとは本来まっすぐしか飛ばない弾丸をカーブさせる特殊能力だ。目の前の物体をよけ、その物体の後ろにあるものを射抜くという能力は本作を象徴する力だ。物陰に隠れている敵をこの技で射抜く感触は他の作品では味わえない。この他にも、ナイフコンバットや、弾丸を爆発させる能力など様々な技を駆使して敵と戦う、ユニークな作品となっているのだ。


左から、ウェスリーの父クロス、親子の宿敵であるイモータル、そしてウェスリーの協力者でありクロスの友人であったペクワースキー
イモータルの部下である女暗殺者スパイダー。モーガン・フリーマン演じるスローン。ゲームでは映画で語られなかった過去のエピソードも明かされる
隠れている敵に向かって弾道を曲げて弾を打ち込む「バレットカーブ」。本作を象徴するアクションだ



■ 弾丸を曲げ、爆発させ、常人の数倍で動く。“暗殺者の血”が生み出す特殊能力の数々

弾をカーブさせて射抜くバレットカーブ。敵を倒してアドレナリンを回復できれば連続で使える
チュートリアルではつるされた豚肉が相手。映画のトレーニングシーンと同じシチュエーションだ
弾丸を爆発させるバレットエクスプロージョン。かたまっている敵をまとめて倒せる

 ゲームの基本的なシステムを紹介していこう。左スティックでキャラクター移動、右スティックで照準移動、右トリガーで射撃、左トリガーで銃を構える。カバーボタンを押すことで物陰に隠れ、左スティックで身を乗り出す。障害物の間隔が狭い場合は、瞬間的に移動できるクイックムーブが使え、これを使いながら敵に肉迫する。

 主人公の武器は拳銃だが、敵の武器は拳銃に限らないため、こちらの射程外からもどんどん攻撃してくる。このため、クイックムーブでの移動が必要となる。障害物から体を出さずに射撃する「ブラインドファイア」を行なうと、敵が弾を恐れて障害物に隠れる。この敵の“隙”は画面の周りが白くなるという形で表現され、この時は「チェーンカバーモード」となり、通常より早くクイックムーブができる。チェーンカバーモード時は敵の背後に回り込んだり、障害物越しにナイフを突き立てたりできる。敵が多くなる後半ではこの隙は作りにくいが、ゲーム前半はこの技を使うことで素早く多数の敵を倒せる。

 敵に接近するとナイフ攻撃が可能だ。ナイフ攻撃は一撃必殺で、成功するとカメラアングルが変わり、敵の喉を切り裂いたりと派手な演出が入り画面が血しぶきで一杯になる。時には敵の攻撃をものともせずにナイフで倒す、という攻撃も可能だ。無防備な敵の場合は羽交い締めにして盾にすることもできる。敵でナイフ使いが出てくる場合もあり、このときはボタン連打で敗れてしまうと一撃で倒されてしまうので注意が必要だ。

 ウェスリーとクロスは先祖より受け継ぐ特殊な能力を持っている。アドレナリンの分泌が常人よりも遙かに多く、その作用として精神を集中させることで飛んでいるハエの羽根を見分けるような時間の流れを限りなく遅くする認識力を発揮させることができる。この他、銃の弾道を曲げる力や、優れた肉体能力を持つ。フラタニィには優れた能力者が多数所属しているが、ウェスリーとクロスが持つ能力はその中でもトップクラスのものだ。優れた能力者同士の戦いは、相手の弾丸を自分が撃った弾でたたき落とすといった世界が展開する。

 ゲームでもこれらの特殊能力を使うことができる。使用するためには「アドレナリンゲージ」が必要で、ステージをクリアしていくことで増えていく。アドレナリンを1つ消費することで使えるのがバレットカーブである。物陰に隠れる敵を一撃で仕留めるのは非常に爽快だ。アドレナリンは敵を倒すことで回復する。クロスではなぜかバレットカーブで敵を倒してもアドレナリンが回復しないのだが、ウェスリーの場合、バレットカーブで次々と敵を倒すことも可能だ。ちなみにバレットカーブを撃つときは拳銃をサイドスローで投げるように振り引き金を引く。現実にはこれで弾道が曲がるとは思えないが、ケレン味たっぷりの面白い演出だ。

 アドレナリンゲージを2つ消費すると「エンハンスドクイックムーブ」が使える。障害物と障害物の間を移動するクイックムーブにプラスする能力で、移動中時間の流れがゆっくりとなる。敵が頭を出しているときにこの能力を発動させればまとめて敵を倒すことができる。また、ゲーム後半では「バレットエクスプロージョン」が使える。これはバレットカーブで撃ち込んだ弾丸が爆発を起こすもの。複数の敵が固まっているところにこれを撃ち込めば一撃で多数の敵が倒せる。

 アドレナリンゲージはナイフコンバットで敵を倒すと2ポイント回復する。バレットカーブを効率的にどう使うか、エンハンスドクイックムーブで敵をまとめて倒すにはどのポイントが良いのか。ゲームを続けることでプレーヤーは体でタイミングを覚えていくことになる。プレイを続けていくことでゲーム全体のリズムがわかってくる。プレーヤー自身がウェスリーの優れた能力をどこまで引き出せるかが鍵となる作品である。


ブラインドファイアで敵を釘付けにすると使えるチェーンカバーモード。高速で移動し敵を倒せる。後半は敵が多くなるため使えなくなるのが残念だ
ナイフコンバットは一撃で敵を倒せる。時には飛び込んで使うのも有効だ。敵もナイフを使ってくる者がいて、ボタン連打に負けると問答無用で倒されてしまう
アドレナリンを2つ消費するエンハンスドクイックムーブ。引き延ばされた時間の中で、頭を出している敵を次々と撃てる
演出として時間がゆっくりと流れる場面も。敵の撃ってくる弾を拳銃で撃ち抜くことができる


■ 映画で登場した場所も。場所と時間が交差する

映画のクライマックスシーンとなった紡績工場。ゲームでは細かく再現されている
ウェスリーが普通の仕事をしていたときのオフィス。敵との戦いで火の海に

 ウェスリーとクロスは様々な場所で戦う。本作ではいかに物陰に隠れ敵の攻撃をやり過ごし、的確に反撃を食らわせるかが鍵となる。敵がどう来るか、どう戦うかを瞬間的に考え、乗り切っていく。暗殺者としてどれだけスマートな戦いができるかを模索する楽しさがある。筆者は1周目よりも、ゲームをクリアした2周目の方が楽しかった。やりこむごとに楽しさが増してくるゲームだと感じた。

 本作に出てくるステージは、事前に映画を見ているともっと楽しめる。ウェスリーの職場だったオフィスや、映画のクライマックスの場面となる紡績工場で撃ち合いができるのは非常に楽しい。ゲームのステージとして再現されているために各部屋の構造や、細部を見ることができ、さらに敵と戦うための位置取りという新しい視点で舞台を見つめ直すことができる。是非映画を見ておくことをオススメしたい。本作の楽しさがさらにふくらむだろう。特に紡績工場は現代だけでなく、過去も描かれ、印象に残るステージとなっている。

 もちろんゲームオリジナルのシーンも盛りだくさんだ。クロスの若いころの物語や、イモータルを追いつめるためのフランスへの侵入、地下墓地の探索など様々なステージが用意されている。ステージが進むごとに敵は強力になるが、プレーヤーの能力もアドレナリンゲージが増え他にも特殊能力がアンロックされ、全開で戦えるようになる。多数の敵をものともせずに倒していく爽快感が得られる。

 筆者のお気に入りは飛行機でのシーン。主人公はクロスだ。イモータルはクロス1人を殺すために飛行機をハイジャック、墜落させようと試みる。クロスは脱出を目指すため待ち受ける敵を倒しながら飛行機のコクピットを目指す。飛行機での撃ち合いは、弾の当たり所が悪いとドアを吹き飛ばし、空気が一気に逃げ出してしまう。非常に危険な戦場だ。

 このステージで圧巻なのが、墜落する飛行機の中を逃げ出すシーンだ。飛行機は大きく姿勢を崩し、床が垂直になってしまっている。その中をシートによじ登りながらクロスは進んでいくのだが、落ちていく飛行機の中でさえ、敵は自らの死を恐れずにクロスに銃弾を浴びせてくる。このシーンでは、時間の流れがゆっくりになっていて、敵の銃弾をたたき落としながら進んでいく。前方には敵、後方からは飛行機の爆発という、映画にもなかった派手なアクションシーンである。

 ボス戦では、盾を持つスワットのリーダーにはチェーンカバーモードで回り込んで撃ったり、空中からぶら下がってトリッキーな方向から攻撃を加えてくる女殺し屋スパイダーには、時間を引き延ばすエンハンスドクイックムーブで集中的に攻撃をたたき込んだりと殺し屋のスキルを駆使する駆け引きが楽しかった。

 フィールドにはコンセプトアートやコミックの表紙など隠しボーナスが配置されていて、これらを探すのも面白い。チェックポイントは多めに設定されているため、初心者でも少しずつ進んでいけるだろう。本作は3つの難易度設定が用意されている。ノーマルでは1度に3発ダメージを食らったら倒れてしまう。本作の体力設定はダメージを受けなければ回復していくルールだが、3発というのは厳しく感じた。隠れている敵を狙い、撃ち抜くというのが基本ルールのゲームなため、必然的に他の敵からの攻撃に無防備になりダメージを受けやすい。基本ルールと難易度設定の条件が合っていないと感じた。


自宅に侵入する謎のフランス人達。ウェスリーの出生の秘密に関する戦いが幕を開ける
ステージ2は父の物語。暗殺者同士の繋がりは組織の怒りを買った。クロスは妻を守るために戦う
ステージ3の主人公もクロスだ。クロスを始末するために、イモータル率いるフラタニィメンバーが飛行機を襲う
紡績工場での戦い。かつての激戦の記憶が蘇る。
ボス戦。左は盾でこちらの攻撃を防ぐスワットリーダー。チェーンカバーモードで回り込む必要がある。中央はショットガンを持つロシアン。バレットカーブでダメージを与え、隠れている場所から引きずり出さなくてはならない。右のスパイダーは空中からぶら下がるトリッキーな動きをしてくる。チャンスを活かすエンハンスドクイックムーブが有効だ


11人のキャラクターが用意されており、今のところアンロックできたのは彼のみ。SWATリーダーの場合は外見が変わった以外は能力も展開も変化がなかった。美女の暗殺者フォックスなどが使えれば楽しいが、差別化がどうされているかは気になるところだ

 本作のゲームモードはシングルプレイのみで、キャンペーンモードのほかはチュートリアルとステージ選択、ボーナス要素というところ。オンラインの対戦や協力プレイがないのがちょっと寂しいところ。ボーナス要素としては、ウェスリーやクロス以外のキャラクターでもゲームを楽しめるというものがあるが、専用のストーリーなどは用意されていないようで、こちらもボリューム不足の感は否めない。

 ゲーム自体も難易度設定だけでなく、後半は敵との格闘戦の入力がシビアだったり、映画「マトリックス」のように身体を振ってこちらの攻撃をかわすザコがいて無駄に弾を消費してしまったり、敵が後ろに回り込む傾向があるのに簡単に方向転換できない仕様だったりと、盛り込まれたアイデアがゲームの楽しさをスポイルしていると感じる点があった。こういった理不尽な駆け引きはあえて飲み込んでクリアを目指すというのも1つのベクトルだと思うが、昨今のゲームの価値観とは少々合わないところがある。

 映画の後日談であるストーリー展開、軽妙な台詞回しと、古の暗殺組織をテーマにしたシリアスなストーリー、特殊能力を駆使した戦いと、「WANTED: Weapon of Fate」は魅力的なポイントを多く持ったゲームである。特に映画を見た人にとって、ウェスリーになりきって戦える、というのはとても魅力的である。しかし、コンセプトにいまいち合っていない理不尽なアイデアや、ボリュームといった点がマイナス要素になっている。良くも悪くも、原作の魅力に依存したゲームという感想を持った作品である。


ステージに置かれているアイテムを取ることで、コンセプトアートやコミックカバーなどのコンテンツが増える

"Wanted: Weapons of Fate" interactive game (C) 2009 & TM Universal Interactive Entertainment, Inc. "Wanted" the movie (C) Universal Studios. All other trademarks and copyrights are property of their respective owners. All rights reserved.
WBIE LOGO, WB SHIELD:TM& (C) Warner Bros. Entertainment Inc. (s09)

(2009年 6月 24日)

[Reported by 勝田哲也 ]