iPhoneゲームショートレビュー

画面をなぞってコーナーを攻めろ
“不自由さ”にハマるレースゲーム

「DrawRace」

  • ジャンル:レース
  • 開発元/発売元:RedLynx
  • 価格:115円
  • プラットフォーム:iPhone/iPod touch
  • 配信日:6月29日(配信中)

 iPhone/iPod touch向けのレースゲームには、本体を傾けたり、画面をなぞってステアリングするものが多い。しかし、アナログスティックなどと比べて操作が大ざっぱになりがちで、携帯ゲーム機の廉価版に留まっているものが大半だ。そんな中で「なぞる」アクションをベースに、まったく異なる視点で作られたレースゲームが登場した。それが今回紹介する「DrawRace」で、間口が広くて奥が深い、優れたゲームに仕上がっている。




■ 指でなぞってコーナーを攻めろ

 「DrawRace」の最大の特徴は、コースを指でなぞって走行ルートを決定し、あとは車がルートに沿って走るのを見守るだけというゲームシステムだ。画面上にはアクセルバーが表示され、指をなぞる速度で車のスピードを調節できる。コースごとに決められた周回数でルートを描き終えると、「START RACE」ボタンを押してレース開始だ。

 もっとも、車は必ずしもライン通りに走るとは限らないのがミソだ。オーバースピードでコーナーに突入すると、車体がコーナーの外側に膨らんだり、出口でスピードが乗らずに、加速が遅れたりする。高タイムを出すには実車の運転どおり、スローインファーストアウト(コーナーの入り口で減速し、コーナーを進みながら加速していく)と、アウトインアウト(コーナーの外側から曲がり始め、内側をかすめながら、再び外側へと抜けていく)を組み合わせて、最速のルートを設定することが重要だ。


【スクリーンショット】
はじめにコースを選び、指でコースをなぞっていく。「REDRAW」をタップすればコースの再設定が可能だ。設定が終わればレース開始で、自車が赤、CPUカーが青となる。1度クリアしたコースは、タイムアタック、自己ベストとの対戦、サーバー上のゴーストカー対戦が選べる


ランキングは世界共通のものと、日本国内専用のものの、2種類で競える。画面上の%表示は全体の順位を表わし、数値が高いほど上位という意味だ

 ゲームモードは、1人でCPUカーと競い全20コースをクリアしたり、タイムトライアルができるシングルモードと、3人まで競える対戦モードがある。対戦モードでは順番にルートを設定していき、みんなでレースを観戦して楽しむスタイルだ。インターネットランキングにも対応しており、自分の最速タイムや、ランキングデータ上のゴーストカーと対戦もできる。ゴーストカー対戦では、自分のタイムに適したデータが自動的に選択され、UGCの仕組みがうまく取り入れられている。

 このように本作では、(CPUを含む)複数のプレーヤーがあらかじめ行動を計画しておき、一斉に情報を開示して結果を判定する、アナログゲームでいう「同時プロット方式」がベースとなっている。これはリアルタイム処理が不可能なアナログゲーム向きのシステムで、コンピューターゲームでは珍しいスタイルだが、うまく換骨奪胎して持ち込んだ点が秀逸だ。

 また、この方式では、自分の立てた計画と現実とのズレがキモとなるが、本作でも自分がなぞった走行ルートどおりに、必ずしも車が走行しない点が、ゲームのポイントになっている。ゲーム展開も「抜きつ、抜かれつ」のスリリングな展開になりやすく、思わず固唾を呑んでレースを見守ってしまう。運動会の徒競走で自分の子供の走りを見守るような面白さだ。

 なお、本ゲームでは複数の車が交差しても、衝突判定はない(ナムコの「ファミリサーキット」スタイルだといえば、ベテランゲーマーにはわかりやすいだろう)。ゲーム画面はトップビューで、完全な1画面ゲームとなっており、コース幅も狭いため、衝突判定まで入れたらゲームにならなかったのだろう。面白さ重視の優れた割り切りだ。


【スクリーンショット】
対戦プレイの場合は、順々にコースを設定していく。1Pが赤、2Pが青、3Pが緑だ。設定が終わればレース開始で、抜きつ抜かれつの展開が繰り広げられる。サクッと終わるので「もう1戦!」と声がかかるのは確実だろう



■ 適度な不自由さが一般性を増す

 本作のポイントは3つある。1つは「画面をなぞったとおりに車が動く」というように、入力行為と出力情報が自然に結びついているので、誰でもすぐに遊べること。レースシーンで指が画面を邪魔しないのも、iPhoneゲームとして優れている。2つ目は簡易的な物理シミュレーションとゲームデザインがうまく結びついており、ミスの結果がわかりやすいので、タイム短縮のしがいがあること。タイムアタックを始めると、思わずはまりこんでしまう。

 そして3つ目は、設定だけして、後は見るだけという「見守り系ゲーム」にも関わらず、ゲームのサイクルが短く、テンポがいいので、何度でも繰り返して遊んでしまう点だ。この手のゲームの代表例には、ロボットのアルゴリズムを自作して対戦させる「カルネージハート」などがあるが、カジュアルタイプのものはなかった。この点をうまく解消しており、ちょっとした空き時間でも、すぐに楽しめる。このように本作は「間口が広くて、奥が深く、ハマってしまう」という、面白いゲームに見られる特性を備えている。

 また補足として「適度な入力のしづらさ」を指摘したい。本作は前述の通り、コース幅が狭く、指でコーナーを追いづらい。またコース設定に比べて、スピード調節がしづらい。そのためiPhone特有の大ざっぱな入力になりがちなのだが、これが逆にゲームの間口を広げている。一方でカリカリにこだわって、コース設定を極められる奥の深さもあるのだ。この点は「誰でも字幕がつけられる一方で、凝った職人芸もできる」ニコニコ動画や、「140文字に限定されている一方で、実況などにも使える」Twitterなどと同じ、「制限ゆえの工夫」があるように感じられる。

 グラフィックスだけをみれば、トップビューの1画面ゲームで、コースを車がぐるぐる周回するだけという、まるでアタリ2600時代に戻ったかのようなレースゲームだが、これをうまく面白さに結びつけたゲームデザインがすばらしい。俗に「他のゲームと差別化をする上で、最もコストパフォーマンスが高い手段がゲームデザインである」などと言われるが、この格言をあらためて思い出させてくれる。


【コース紹介】
TUTORIALOVAL DRAWMATKINGS GLEN
CORTLAND INTMONANCOTHE EIGHT


(C)Copyright 2009 RedLynx Ltd, All Rights Reserved

(2009年 7月 27日)

[Reported by 小野憲史]