海外ゲームレビュー

帝国主義華やかなりし時代を描く合戦RTSの決定版
戦列歩兵が、戦列艦が、戦場で躍動する迫力!!
「EMPIRE: Total War」

  • ジャンル:リアルタイムストラテジー
  • 発売元:SEGA of America
  • 開発元:The Creative Assembly
  • 価格:49.9ドル(北米向け英語版)
  • 対応OS:Windows XP/Vista
  • プレイ人数:1人(オンライン対戦最大8人)
  • レーティング:ESRB:Teen
  • 発売日:3月5日(北米版)

数千の兵士が緻密に描かれる戦場。指揮官として華麗な戦術を駆使せよ

 「EMPIRE: Total War」は、英国のデベロッパーThe Creative Assemblyが2001年より展開している合戦に特化したリアルタイムストラテジー(RTS)「Total War」シリーズの最新作だ。このシリーズは「合戦」、すなわち、数千の兵士が陣形を組んでぶつかり合う風景を、指揮官の視点でゲーム化するというのがコンセプト。他に類例のない内容と高いクオリティで、欧米を中心に固定ファンが多い作品だ。

 シリーズは作を追う毎に扱う時代を変えてきた。第1作「SHOGUN」では日本の戦国時代を描き、第2作「Medieval」では中世欧州を、第3作の「ROME」では古代ローマ帝国を、そして第4作の「Medieval 2」では、進化したグラフィックスエンジンにより再び中世の合戦模様を見事に描き出し、骨太の戦場シミュレーションをさらに見応えのあるものにした。

 そして本作はシリーズの5作目にあたり、はじめて近代にテーマを置いた。本作がテーマとする西暦1700年~1800年という年代は、大勢の兵士が密集隊形を組み、隊伍を乱さず前進し、敵集団にぶつかっていくという古代以来の「合戦」が、現実に行なわれた最後の時代にあたる。また海においては、帆船同士の砲撃戦が大国の命運を分けるという時代でもあった。本作では、その両方を正面からゲーム化している。



■ 18世紀を席巻した陸海の「戦列」を見事にゲーム化。美しいグラフィックで描かれる戦場の風景

18世紀の主力兵種「戦列歩兵」
隊列を乱した敵兵に騎兵が突撃をかける
砲兵が敵陣へ向け砲弾をそそぐ

 本作がテーマとする18世紀のヨーロッパにおける戦場の風景は、日本では映像化される機会がほとんどないため、戦史に詳しい人でなければ、この時代にどのような形態の戦いが行なわれていたかを想像しにくいかもしれない。もし、この時代を描いたスタンリー・キューブリックの映画「バリー・リンドン」や、メル・ギブソンの映画「パトリオット」を見たことがあれば話が早い。

 この時代の陸戦における主役は「戦列歩兵」だ。かき集めてきた領民・市民にマスケット銃を持たせ、銃の扱いと、集団行動の訓練を施した兵種である。主力武器のマスケット銃は、50メートル先の人間に当たるか当たらないかという低い精度であったため、各個に狙撃する現代的な戦い方は不可能だった。そのかわりに、大量の兵士が密集体型を組み、鼓笛隊が演奏する行進曲に併せて前進し、敵の数十メートル手前で停止、前線士官の号令で一斉射撃するという方法で、最大の打撃力を実現していた。

 銃は前装式なので、撃った後も伏せることはできず、無防備にも立ったまま装填作業をする。銃弾を受けて前列の兵が倒れれば後列が飛び出て素早く穴を埋め、隊列を維持。そんな調子で、目と鼻の先にいる敵兵と、数十秒おきに一斉射撃の応酬をし合うという戦いだ。犠牲無しの勝利は絶対にあり得ず、損害と恐怖に負けて隊列を乱せば、銃剣突撃や騎兵の切り込みを受け、勝敗が決定づけられた。

 現代の感覚で言うと狂気としか思えないような戦いの風景だが、当時はこれが最も合理的な陸戦の形式であり、ライフル銃が普及するまで同様の戦い方が続いた。本作「EMPIRE: Total War」でも「戦列歩兵」が主役であり、前述した映画で描かれたような戦いが繰り広げられる。本作ではそれを、古代の槍兵や重装歩兵を再現してきたシリーズ伝統のゲームシステムをほとんど変えることなく、うまく実現している。

 さらに本作では、歩兵に加えて、騎兵、砲兵をうまく連動させることが醍醐味だ。騎兵の華といえばスピードを生かした突撃だが、騎兵が劇的に強かった前作「Medieval 2: Total War」に比べると、その衝撃力は格段に弱められている。中世ばりの全身を鎧で固めた重騎兵が存在しなくなったことに加え、事実上すべての歩兵が銃剣を装備しているため、槍兵としての能力を持つことがその理由だろう。戦列の正面から突撃するのはほとんど自殺行為だ。したがって騎兵の使い処は、敵の背後に回り込んでからのヒット&アウェイ、あるいは敗走中の部隊を掃討する場面が主だ。

 その一方、砲兵は前作にも増して重要性が上がっている。初期の砲兵は一旦布陣したら一切動けないというお粗末なものだが、技術の進化と共に馬による牽引が可能になったり、新たな砲弾を利用できるようになり、野戦での活躍度がグッと向上する。特に新型砲弾による戦闘力の向上は劇的だ。「Canister Shot」という大砲用の散弾を使えば、大砲数門の一斉射撃で1歩兵部隊を壊滅させることすら可能である。また、戦場のほとんどを覆うほどの長射程を誇る「Mortor(臼砲)」と「Explosive Shells(炸裂弾)」の組み合わせは凶悪で、敵と直接接触するまでに大打撃を与えることができる。

歩兵同士の戦闘は、大量の犠牲者を出さずにはおれない。飛び道具が主流となったことで、布陣を誤ると同士撃ちによる損害も発生する。位置、距離、タイミング等をよく考えて部隊を運動させることが重要だ
騎兵、砲兵の連動が勝負を大きく分ける。特に強力な砲弾を使用可能になる後期の時代では、砲兵の重要性は格段に高まってくる。敵兵をまとめて吹き飛ばし、その士気をくじくのだ


イギリスのユニークユニット、一級戦列艦「ヴィクトリー」
歩兵は横に並ぶが、戦艦は縦に並べて運動させる。砲門が側面についているためだ
弾薬庫に火が付いたか、大爆発を起こして轟沈する艦船。船体もろとも乗員が四散する

・大迫力の海戦にも注目!

 そして、陸戦の主役が「戦列歩兵」となれば、海戦の主役は「戦列艦」である。本作では、シリーズで初めてファン念願の海戦がメインフィーチャーされ、18世紀の帆船による砲戦を見事に再現している。その主役となる「戦列艦(Ship of Line)」には、大きさと砲門数に応じて6種の等級があり、最大級の「1等戦列艦(First Rate Ship of Line) 」に至っては1隻で100門以上という、陸上の軍団を越える砲台を備え、数百名のクルーが搭乗する。甲板で活動するクルーを含め、全てが精密に描き出されるグラフィックスは、驚くほどの緻密さだ。

 戦列艦同士の戦いは、その名が示すとおり、戦列を組むのが効率的だ。当時の戦艦は側舷に砲門が集中しているので、敵に有効な打撃を与えるためには側面を向ける必要があり、複数の艦が連動して戦う場合は、一直線に並んで戦列を組むことになる。ただ、移動AIがあまりよろしくなく、適当に移動指示を出していると収拾不能なほどに艦船の動きが乱れてしまうのが難点だが、うまくコントロールして敵に集中射撃を浴びせれば効果絶大である。

 また、海戦で使用できる砲弾には用途に応じて3種類がある。通常の「Roundshot(砲丸)」は船体にダメージを与えるのに向いており、「Grapeshot(ぶどう弾)」は甲板の戦闘員を倒す用途に使われる。そして「Chainshot(鎖弾)」は、敵船のマストを傷つけ、帆柱を破壊するために使う。

 マストを失った艦は航行が不能となるため、まず「Chainshot」を使って敵の機動力を削ぎ、戦列を乱してから「Roundshot」で船体を破壊するというのが基本的な戦い方だ。もし敵船を破壊せず拿捕し、自分の艦隊に組み入れたいと思うならば、「Grapeshot」で船員を倒し、接舷して切り込みを行なうこともできる。その際は、船員のひとりひとりが武器を持って、甲板上で戦う姿を見ることもできる。船体のダメージが物理的な現象としてきちんと描かれることもあって、18世紀の海戦風景が非常に真に迫った形で体験できるのだ。

 ひとまず指摘しておきたい本作の難点としては、描かれる映像のクオリティに比例して、動作させるPCに高い処理能力が求められる点だ。昨今ではHD世代ゲーム機相当のパワーで充分に遊べるゲームタイトルが主流だが、本作はそうしたレベルを超越した水準にある。全てのグラフィックスオプションをONにした状態では、4GHz駆動のCore2 DuoとGeforce GTX 285というハイスペックの組み合わせでも平均FPSが15程度となり、操作が難しくなるほどだ。さしずめ、RTS界における「Crysis」といった雰囲気である。平均的なPCで快適に遊べるようになるには、あと1年か2年ほど待つ必要がありそうだ。

本作でついにフィーチャーされた海戦は、常に変化する風向を味方に付けることも重要な要素だ。背後から風を受ければ自由自在に運動できる反面、向かい風となれば動きが鈍る。敵の機動力を奪い、砲門のない背後や正面から攻撃をしかけることが劇的な勝利につながる
時代が進めば蒸気船が利用可能になり、風向きを気にせずに航行できるようになる。砲門数の多い戦列艦とうまく連動させ、敵を囲い込むようにして戦うと効果的だ


■ 技術や経済の進歩を再現するキャンペーンモード。革命による新体制樹立も可能!

キャンペーンモード。欧州、アジアの11勢力をプレイできる
マップの分割は当時の政治単位に従い、イギリス、フランスが大胆に構成されている。ただしドイツは小国が多数という状況
交易スポットで富を生み出す商船。海賊対策のために海軍の派遣も必要だ

 本作のメインモードは、1国の指導者としてプレイするキャンペーンモードだ。キャンペーンモードでは、イギリス、フランス、スペイン、オーストリア、プロイセンといったヨーロッパの国々、あるいは中近東のオスマントルコや、インドのマラータ同盟といった11の国々のいずれかをプレイすることができる。

 前作「Medieval 2」や前々作の「ROME」では、キャンペーンモードで操作する属州の数があまりにも多くなりすぎ、制覇が進むとプレイが煩雑になったものだが、本作ではその反省を受けて、州の数がかなり減らされている。例えばブリテン島はイングランドとスコットランドの2州だけとなり、フランスに至っては1州だけである。その他、様々な面で簡略化が図られ、操作負担が非常に少なくスピーディにプレイできるようになった。

 とはいえ、戦略的な深みが失われたわけではない。マップの分割が大ざっぱになった変わりに、州内に複数存在する地方都市が経済・軍事関連施設の建設スポットとして機能するようになり、人口増加と共に様々な発展が可能になっている。例えばイングランドならばドーバーに海軍港を作り、オックスフォードに大学を作り、マンチェスターに工場を建てるといった形で、軍事・経済の機能を拡張できるのだ。首都にあらゆる施設を建設していた前作に比べてずっとわかりやすく、管理も楽になった。

 キャンペーンモードにおける目的は、指導する国毎に設定された支配地を獲得することだ。そのためには当然、戦争が必要になる。経済を成長させ、軍隊を編成し、敵を定めて攻め込む、というのが基本的な流れであり、その点は旧作と変わらない構造だ。たが本作では、「交易」、「研究」という大要素が内政に追加され、ゲーム性に深みをもたらしている。

 まず「交易」だが、本作ではヨーロッパのほかに、アメリカ大陸とインドという2つの地域があり、各地域を結ぶ航路上には、さらに数個の「交易スポット」が存在する。基本的には、その交易スポットに商船を配置すれば、その土地の交易資源を確保して国家収入を増やすことができる。だが、交易スポットには各国の商船や海賊が殺到するため、海軍による航路の維持が必要になるのだ。交易をおろそかにすれば経済的に難しい立場に立たされることになるので、強力な海軍を持つことは非常に重要である。

交易路に敵対勢力の艦船が配置されていると交易が遮断される。海軍を派遣し、艦隊決戦でこれを撃退。また海賊を放置していると力を付けてやっかいな存在になるので、はやめに叩いておきたい



・技術の発展により進化していく軍隊の運用

技術ツリー。軍事、経済、社会体制の3分野がある。基本的には、近代化を進めるほどに研究が加速するものの、民衆の不満が高まりやすくなるため注意が必要だ

 次に「研究」のシステムを解説しよう。「研究」は軍事、経済、社会システムに大別されたツリー状となっており、より強力な国に成長するために必須の要素となっている。各項目の研究は属州に建設された「学校」が行なう仕組みで、領土を広げ複数の学校を所有すれば、複数の技術を同時に研究することもできる。また、時折都市に出現する「Gentleman(紳士)」を学校に配置すれば、さらに研究スピードを加速できる。

 この「研究」による最大の恩恵は、やはり軍事面だ。本作における戦闘ユニットの種類は、大別して「歩兵」、「騎兵」、「砲兵」の3種類で、過去のシリーズ作品に比べずいぶんとシンプルになっているのだが、「研究」で新たな技術を獲得する度に、各兵種の機能や戦い方が変化していくのだ。

 特に戦場の主役となる「戦列歩兵」は、特にダイナミックな進化を遂げるようになっている。初期段階では最前列しか射撃できないのだが、「Fire by Rank」という技術を開発すると、前列、第2列、第3列が順番に射撃する3段撃ちが可能になり、火力が倍増する。また、白兵戦装備である銃剣も、初期は銃口を埋めてしまう「プラグ式」に始まり、装着したまま射撃できる「ソケット式」、「リング式」となって、戦列歩兵が強力な白兵戦能力を獲得するようになる。

 大砲の進化も「研究」によってもたらされる。最優先で獲得したいのは、大砲用の散弾である「Canister Shot」と炸裂弾「Explosive Round」だ。前者は近距離での歩兵掃討に高威力を発揮し、後者は臼砲による長距離射撃に劇的なパワーを与える。しかし、国力が少ないうちは経済方面の研究を優先したほうが良いこともあり、軍事だけに傾倒するわけにもいかない。プレーヤーは常に悩ましい選択を迫られることになるだろう。

「Fire by Rank(3段撃ち)」の技術(教練)を獲得すると、戦列歩兵の火力が一気に高まるほか、新しい大砲の技術をいちはやく獲得すれば、圧倒的有利に戦いを展開できるようになる。技術的に遅れた国を見定めて攻勢をかけるのも楽しい

革命だ!プレーヤーは革命軍・政府軍のどちらかにつかなくてはならない
自由ドイツ軍とプロイセン軍の戦闘。勝った方がその後の社会体制を決める

 また内政面では、本作の時代背景を反映し、「革命」という画期的なシステムが導入されている。これは、前作以前にもあった「反乱」を、政治的により重要なものに位置づけたものだ。この時代、世間では啓蒙思想が流行し、体制変革を求める声が高まっている。その不満が頂点に達すると、首都州に革命軍が現われるのだ。

 その際、プレーヤーは体制側でプレイするか、革命軍側でプレイするかを問われることになる。そして革命軍側をプレイして首都攻略に成功すれば、国王は処刑され、政治体制が変わるのである。その際国旗も変わり、例えばフランスで民衆主導の革命が成功すれば、3色の自由フランス国旗へ、プロイセンならドイツ連邦旗となる。

 革命によって変化しうる政治体制は「絶対王政」、「立憲君主制」、「共和制」の3種があり、民心の安定、税収、研究の効率などにおいてそれぞれ違いがある。惜しむらくは「共和制」が全てにおいて最も優れているという単純なモデルになっているため、プレーヤーに選択の余地がないところである。せめて、いちはやく「共和制」に転向したら、周囲の君主国から次々に宣戦布告されるようなペナルティも欲しかったところだ。

 また、この時代の一大イベントであるアメリカ合衆国の独立戦争は、通常のグランド・キャンペーンモードとは別に、「Road to Independence(独立への道)」という特殊シナリオになっている。このシナリオ・モードはチュートリアルも兼ねていて、初期入植者とネイティブアメリカンとの戦いや、フレンチ・インディアン戦争といったシチュエーションを通じて、キャンペーンモードと戦闘の基本を学べるようになっている。

 アメリカ大陸に根を下ろした13の植民州は、やがてボストン茶会事件、バンカーヒルの戦いを経て、英軍との全面衝突に入っていく。この顛末は、通常のグランド・キャンペーンをアメリカ大陸内に限定した特殊システムで展開される。ゲーム本編のキャンペーンに比べ、ぐっと短くまとまったシナリオとなっているので、本作を初めてプレイする際は、まずこのモードを遊んでみると良いだろう。

「Road to Independence」では、英領13植民州の成立から、アメリカが独立を果たすまでの数十年間を、グランド・キャンペーンモードのチュートリアル的な展開を交えつつプレイできる。アメリカ原住民が強敵なので、最初は手こずるかもしれない
英軍との戦闘が始まり、ついに独立戦争の渦中へ。英軍の策源地はフィラデルフィアとケベックにあり、それをどう攻略するかが鍵だ


■ 現時点では未完成な部分も。バグやゲームバランスの改善後、日本語版の登場が望まれる

中央に殺到する防衛軍。現時点では、AIがらみの不満点が多く見受けられる。映像が素晴らしいだけに、中身もしっかりと進化して欲しいと思うところだ
都市内の行軍は、放っておくと地形に部隊がひっかかりやすいため細かい指示出しが必要。このあたりが改善されれば、本作はさらに楽しめる作品になるはず
対AI野戦における筆者なりの最強布陣。大量の臼砲を戦列歩兵で囲み、延々と砲撃を加え続ける

 「Total War」は、ゲーム性において他に類例のないシリーズである。最新作である「Empire: Total War」もまた、旧来のコンセプトを守りつつ拡張し、プレーヤーにユニークな体験を与えうるタイトルに仕上がっている。ただ、長くシリーズをプレイしてきた観点から言うと、期待したほどではない点、残念な点もかなり見受けられた。

 ひとつは、グラフィックスの大幅な進化に対し、AIの進化がほとんど見られなかったところだ。陸戦では、少し地形が複雑になると歩兵や騎兵の陣形が意味不明なほどに乱れ、収拾不能になることがある。移動経路を見つけるアルゴリズムがまだ完璧ではないためか、指定された移動先に向かう際、わざわざ面倒で危険な道を選ぶこともしばしばだ。例えば城塞の内部から外に出ようとするとき、城門を使わず、わざわざ城壁に吊したロープを伝ってノロノロと降りていくような状況だ。また、砲兵が射線上に味方が居てもお構いなしに砲撃するため、気がつけば同士討ちで砲兵がほぼ全滅しているということもよくある。それを避けるためには、プレーヤーがミクロな操作を延々続ける必要があり、戦術を愉しむ余裕がなくなってしまう。

 コンピュータ操作の軍のAIも、はっきり言うと手応えなしである。野戦で対陣すると、決まって騎兵を散発的にこちらの側面に送り込んで来る。それに連動して歩兵部隊を繰り出してくるならいいのだが、こちらが遠距離の砲撃命令を出していない限り、微動だにしないので、撃退は簡単だ。

 また敵側が防衛の場合は、AIのパターンにはまった動きが目に付く。こちらが砲撃を始めると前進してくるのだが、砲撃を止めると即撤退するという、こちらの命令状況を内部データで監視しているとしか思えない動きをするのはとても残念だ。結果として砲撃だけで戦闘が終わってしまうこともあるし、よしんば攻撃をかけてきても、気の利いた動きは皆無で、正面から散発的に突っ込んでくるために、防備を固めていれば簡単に撃退できてしまう。また、城塞の防衛戦では、AIは消極的すぎ、ほとんどの部隊を城塞中央に留めることが多い。したがって、砲撃だけで過半を打ち倒すことが可能で、こちらの犠牲ゼロで勝利というのも珍しくない状態だ。

 その他、AI軍の戦術パターンには無数の弱点、おかしな点が見受けられる。このため、キャンペーンモードでは、「臼砲」を大量に配置し、それを取り囲むように「戦列歩兵」を並べ、ひたすら砲撃を続けるというスタイルが最強となってしまっている。グラフィックスが進化して非常に映像の臨場感が増しただけに、そういったAIの問題が余計に目に付いてしまうのだ。この点は、今後パッチや拡張パックなどで相応の進化を見せて欲しいと思う。

 また、各所におかしな不具合も散見された。キャンペーンモードでは軍隊や艦隊の分割、移動、合流の操作が、特定の条件下でうまくいかなかったり、交易地点に配置した船舶を一切移動できなくなったりと、移動AIが絡む部分の問題がいくつかあるほか、戦闘シーンでは、建物に騎兵が入り込んでしまい、一切操作が不能になるという不具合にも遭遇した。ゲームがクラッシュしてデスクトップ画面に戻されるシチュエーションも度々あった。これでは未完成なままリリースしたと見られても仕方がない。

 幸い、開発元のThe Creative Assemblyのチームは、本作の継続的なアップデートのために開発作業を継続しており、フォーラムで報告された問題点について逐次改善していく意志を表明している。この先、様々な問題点が解決されてくれば、本作はさらに面白く遊べるゲームになっていくはずだ。そうなればパブリッシャーのセガも、旧作と同じく日本語版をリリースするだけの条件が整うことになるだろう。それが実現することを大いに期待したい。


【スクリーンショット】

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(2009年 4月 20日)

[Reported by 佐藤カフジ ]