先行体験
ジブリ作品をも感じさせる新作ノベルゲーム「たねつみの歌」体験版プレビュー
自分と同い年の母と娘、3人の旅はどのような結末に?
2024年10月11日 18:01
- 【たねつみの歌】
- 12月13日 発売予定
- 価格:2,750円
アニプレックスのノベルゲーム製作ブランドANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)は、12月13日にPC用アドベンチャー「たねつみの歌」を発売する。価格は2,750円。
「たねつみの歌」は、2019年に発足し、これまでに3作の作品を世に送り出してきたノベルゲームを専門としたブランドANIPLEX.EXEの新作だ。本ブランドはタイトル毎に異なるゲーム制作会社やクリエイターとタッグを組んで作品をリリースしており、今回はサークル「STUDIO・HOMMAGE(スタジオ・おま~じゅ)」で高い評価を受ける「ハルカの国」などを手掛けてきたKazuki氏が企画・シナリオを担当する作品となる。
はっきり言って今作の印象は地味である。中心となるのはメインビジュアルにも描かれている制服姿の3人であり、主人公とヒロインとの恋愛を描くいわゆる“美少女ゲーム”ではない。一方で、学園生活を満喫する3人の日常生活を描くほのぼのとした物語というわけではなく、スタジオジブリ作品を彷彿とさせる異世界を冒険する作品となっており、神々が住まう「常世の国」という世界での旅が描かれる。
今回はそんな「たねつみの歌」の体験版を先行してプレイしたので本作における序盤のストーリーと魅力について紹介していく。体験版の範囲にはなるが、物語についても触れるため「事前情報無しでプレイしたい」という人はネタバレに注意してほしい。
ANIPLEX.EXEとSTUDIO・HOMMAGEについて
まず最初に少しだけANIPLEX.EXEとサークル「STUDIO・HOMMAGE」について紹介したい。
ANIPLEX.EXEは、これまでに3作品をリリースしている。2020年に「ATRI -My Dear Moments-」と「徒花異譚」を同時発売し、昨年2023年には「ヒラヒラヒヒル」を発売した。最初の2作品については主人公とヒロインとの物語を描く作品となっていたが、「ヒラヒラヒヒル」は風爛症(ふうらんしょう)という架空の病気を取り扱った作品であった。ノベルゲームは高精細なCGを活かし、美少女キャラクターが登場する作品が多いが、この「ヒラヒラヒヒル」に関してはそういった方向性ではなく、かなり重いテーマを扱っている。
本ブランドは「ノベルゲームだから、 おもしろい」というテーマをかねてより掲げており、特にこの第3作目からブランドとして様々な方向性の作品を取り扱っていくという気概を個人的に感じていた。
冬に発売される「たねつみの歌」についても恐らくそういった意図があり主人公は16歳の女の子3人。彼女たちが異世界を旅する中での成長を描くものかと思われる。また、後ほど詳しく説明するが、中心となる3人は全員16歳である。ただし同級生というわけではなく、主人公の「みすず(16歳)」と、過去の時代からやってきたみすずの母「陽子(16歳)」、これに加えてみすずの未来の娘「ツムギ(16歳)」という同い年の3人が一緒に旅をするというかなり複雑な設定だ。こういった点もやや奇抜さを感じる要素になっている。
サークル「STUDIO・HOMMAGE」は体感できる物語作りを目指す同人サークルで、連作ビジュアルノベル「国シリーズ」を制作中。2023年5月には「ハルカの国」の第4話目となる「大正決戦編」がリリースされた。
STUDIO・HOMMAGEはかねてより「ハルカの国」が非常に高い評価を受けていることを耳にしていた。今回、ANIPLEX.EXEとタッグを組む形で初めて商業向けの作品をリリースするとのことで、SNSにて注目されていたことも記憶に新しい。ANIPLEX.EXEの3作品はいずれも大手のメーカーや、有名なクリエイターによる作品となっており、今回も話題性の高い同人サークルと協力するということで、個人的にも大変注目の1作となっている。
主人公が過去の母と未来の娘とともに旅するストーリー
「たねつみの歌」のプロローグは過去の回想で、主人公のみすずがまだ幼かった2013年を描く。病院の一室で母親の陽子とみすずが会話をする場面で、どうやら陽子は病に冒されていることがわかってくる。みすずも幼いながらもそのことを理解しており、本当は母と出かけたり、家で一緒に過ごしたいもののそれが難しく、母のことを気遣っている様子。とってもよくできた子である。
この場面の最後には「いつか一緒に冒険をしよう」という約束を交わすものの、それが叶うことはなく母・陽子はこの世を去ってしまったようだ。
時代は進んで10年後の2023年。16歳の誕生日を迎えたみすずは、祖父母に誕生日をお祝いしてもらう。高校生になり、将来への少しの不安を抱えつつも、日々生活していた彼女だったが、夜中に自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやら窓の外にその声の主がいるようで、窓を開けてみるとなんとそこにいたのは自分と同い年の母・陽子だったのだ。見た目が記憶にあるお母さんではないこともあってか“感動の再開!”というわけにはいかなかった。加えて、ややがめつい性格をしており、物言いが少し失礼だったり、残っていたみすずの誕生日ケーキをがっつくなど、遠慮がない印象だ。実際に自分の親が同い年になり目の前に現われたとしても、にわかには信じがたいと思う。なんなら、学生時代の親と同じ時間を生きることはありえないので、名乗られなければ気付けないようにも思う。
また、事情を聞いてみると、陽子は1996年からやってきたのだと語り「こことは別の世界に『神々の国』というものがあり、近々終りを迎える」さらに、「その神々のお弔いを手伝うのが人間の巫女」であり、それをみすずや陽子を含む“私達”に任されたようだ。
陽子が“私達”と言ったのには訳があり、巫女役はもう1人いる。それが「ツムギ」だ。彼女は未来の主人公・みすずの娘。みすずは陽子に説得され、2050年の未来に移動し、ツムギとの合流を果たす。そんな3人が異世界で旅をするというのが冒頭のストーリーとなる。
ジブリ作品を想起させる要素もある3人の旅路はどのような結末に……?
この異世界「神々の国」に移動する方法だが、寂れた廃トンネルを抜けることでそちらの世界に移れるというものだ。ここまでは基本的に現実の世界の延長線上の話だったが、ファンタジー要素が出てくる。また、トンネルを抜けると異世界に飛ばされるというのは、スタジオジブリの映画「千と千尋の神隠し」を彷彿とさせる。
体験版ではこのあと「神々の国」になんとか到着し、最初に「春の国」を訪れる。ここでは自分たちを中心とした文化を持つ人々が登場し、みすずたち人間とはやや異なる思想を持っている。そんな異文化との関わりを経て生まれる3人の考えや、異世界での立場など丁寧に描かれている印象だ。
キャラクターについても少しだけ掘り下げると、主人公のみすずは幼い頃に母親を失っている苦労人で、その事もあってか気遣いができる。全体的におっとりしているが、言動にはややひょうきんな部分もある。みすずの母にあたる陽子は、先述したようにがめつい。が、ズバズバと決める判断力を持っており、この先の物語では主人公・みすずはもちろんだが、彼女もキーマンになりそうな予感だ。ツムギは、ちょっと生意気な性格で陽子とはやや馬が合わない雰囲気だが、みすずに対しては素直で、この先3人はどういった役割を担うのか非常に楽しみだ。
ゲームとしては選択肢が一切ない作品であるが、今のところの印象では、特に主人公みすずの心情描写がしっかりと盛り込まれており、退屈することはまったくない。加えて、あえて同い年3人を起用している点についても理由があると思われるため、今後この要素がどのようにストーリーに関わってくるのかにも注目だ。
体験版はかなりのボリュームがあり4時間から6時間ほどといった印象を受けた。プロローグに加え、3人が出会い「神々の国」に到着するあたりで終わるかと思いきやそんなことはなく、そこからかなりのボリュームがあり、春の国の物語の完結部分までが収録されている。少しでも本作が気になっている人はまずは体験版をプレイしてみることをオススメする。
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