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【特集】ゲーム産業振興の超先進地域、バンクーバーの今 その3

ますます進む、国際コラボレーション。“和魂洋才”ゲーム開発の可能性を探る

 本特集では、ゲーム産業振興施策の先進地域であるバンクーバーのゲーム開発模様をお届けしている。最終稿となる今回は、2014年にカナダ進出を果たしたバンダイナムコスタジオバンクーバー(BANDAI NAMCO Studios Vancouver)についてフォーカスしてご報告しよう。

バンダイナムコスタジオバンクーバーのホームページ

 前稿でお伝えした「External Development Summit(XDS)」で見られたとおり、ここバンクーバーでは国際的なコラボレーションでのゲーム開発が盛んに行なわれるようになってきている。そしてそれは、海外に進出した日本企業も例外ではない。その主役のひとつ、バンダイナムコスタジオバンクーバー(BANDAI NAMCO Studios Vancouverは、バンダイナムコの数ある海外スタジオの中でも、モバイルゲーム開発に特化したスタジオで、昨年には「Pacman 256」や「Pacman Bounce」といったヒット作を生み出した。

 そしてこれらのタイトルはいずれも国際的なコラボレーションの結果生み出されたというから興味深い。海外にスタジオを置く意味、特にカナダ・バンクーバーでゲーム開発を行なうことのメリットはどこにあるのだろうか。そのあたりに注目しつつ、バンダイナムコバンクーバーのエグゼクティブ・バイス・プレジデントの中山淳雄氏と、マーケティングマネージャーの服部大輔氏からお話を伺った。

バンダイナムコスタジオバンクーバーは、場所的にはブリティッシュコロンビア大学付属の教育機関、デジタルメディアセンター(Centre for Digital Media)の別館に入居中。まだまだ小所帯のスタジオだが、すでにヒット作を数本生み出している

和魂洋才的コラボレーション。バンダイナムコスタジオバンクーバーのやり方とは

「Pacman 256」
バンダイナムコスタジオバンクーバーのマーケティングマネージャー 服部大輔氏(左)と、シニア・バイス・プレジデント 中山淳雄氏(右)
ゲーム界全体でも昨年1番のヒット作となった「Crossy Road」。「Pacman 256」ではその開発元と共同開発を行なった

 バンダイナムコスタジオバンクーバーは、社員数にして20~30名程度のこじんまりとしたスタジオだ。場所的にはブリティッシュコロンビア大学付属の教育機関、デジタルメディアセンター(Centre for Digital Media)の別館に入居していて、バンクーバーのダウンタウンと郊外の中間的な地域に位置している。

 小所帯ながら2014年の設立から現在までにじわじわと規模を拡大してきており、これまでに国際共同開発ゲームとして「Pacman 256」、「Pacman Bounce」、そしてインハウス開発タイトルとして「Tap My Katamari」をリリース。設立から1年あまりの経過としては非常に上々、むしろ驚くほどにスピーディだ。

 中でも特に大きな成功(リリースから10日で500万DL以上を達成)を収めたタイトル「Pacman 256」について、マーケティングマネージャーとの肩書を持つ服部大輔氏はその企画・開発に深く携わっている。

バンダイナムコスタジオバンクーバー マーケティングマネージャー 服部大輔氏:「Pacman 2565」に関しては、2014年11月にリリースされて1億ダウンロードを達成した大ヒットタイトル「Crossy Road」を開発したHipster Whaleとの共同開発という形で進めてきました。私達は企画を出して、実際のコーディングはHipster Wahleが行なうという形です。

 そうした理由というのは、ちょうどこの作品の企画が持ち上がった時点で、モバイル業界のトレンドとしてCPI(ユーザーを獲得するための一人あたり平均単価)がうなぎのぼり、これは相当お金をかけないとユーザーが取れないぞ、という雰囲気がでてきていました。ちょうどその頃「Crossy Road」が大ヒットしてまして、講演などを聞くとマーケティング費用はほぼゼロといいます。それで1億人のユーザーを獲得していると。我々としては資金がすごいたくさんあるわけではないですし、まだ20数名の小所帯の会社ですので、「Crossy Road」の成功はすごく参考にしていました。

 その内容と、私達のIP、北米で1番強いのはパックマン、これを組み合わせて何かできないかなと。いろいろと案を考えてみた結果、だったら直接Hipster Whaleに声をかけてみよう、というところから開発がスタートしたんです。そういうわけで、ベースとしてはパックマンというIPと、Hipster Whaleの開発力をうまいこと組み合わせてできたのが「Pacman 256」ということになります。

 Hipster Whaleとの共同開発に加えて、パブリッシングはバンダイナムコエンターテイメントのフランスのスタジオが担当。バンクーバー、オーストラリア、フランスという3カ国をまたがったプロジェクトがいとも自然に進行していることについて、服部氏は「結構不思議な感じですよね」と笑う。このあたり、英語ベースのコミュニケーションが当たり前に行なわれる環境だからこそという部分も大きいようだ。

服部氏:そうですね、とくに現場レベルのやりとりも英語でスムーズに行なえるのがよかったです。そこはもう凄くスムーズで。日本発だとなかなかやりにくい案件かなあというふうに思っています。私自身は北米に10年くらい住んでいましたので、一応ネイティブに近い感じでしゃべれますので、その点でも難しさは感じずに済んでいます。

 それに加えて、開発のスピードも驚きだ。共同開発を行なったHipster Whaleにコンタクトを行なって、製品化までがわずか半年強ほどだったという。

服部氏:最初のコンタクトをとったのが今年の1月だったんですよね。3月にはGDCというイベントがあって、そこで初めて顔を合わせたんですよ。そこでもうプロトタイプができてまして(笑)。「ちょっと遊んでみてくれ」と言われて。私達としては企画の内容を詰めるくらいのつもりでいたのですが、プロトタイプを遊んだらもう面白くて。こちらとしては「パックマンの世界観を壊さずに、「Crossy Road」の機能をうまく組み合わせたい」という企画だったんですけど、それをまさに1月から3月の間に、バシッとハマるものを作ってもらえたという感じです。

 しかも、彼らもパックマンのことが凄く好きだったようで、オリジナルのアーケード版で256面までいくとバグってしまう、それをゲームにしようというアイディアも彼らから出てきたんですよ。ゲームの中身を彼らのほうがよく知っていたという(笑)。なので、話はとにかく速かったですね。はじめから日本側の承認もすんなり降りるほどによくできていて、とにかくスムーズでした。

 こういったバンダイナムコスタジオバンクーバーを戦略面で支えるのが、エグゼクティヴ・バイス・プレジデントの中山淳雄氏だ。中山氏は英語は留学で学んだとのことで、そこには大変な苦労があったというが、その苦労の甲斐もあり、今回「Pacman 256」で実現したスピーディな国際コラボレーションについて、バンクーバーという立地だからこそやりやすかった、としてこのように語っている。

バンダイナムコスタジオバンクーバー シニア・バイス・プレジデント 中山淳雄氏:私も日本で海外向け戦略プロジェクトというのをやっていたんですけども、日本で得られる情報ってやっぱり日本のタイトルばっかりで、1歩外に出るとほとんど通用しなかったりするんですよ。早い話が、「Crossy Road」というタイトルが非常に成功しているという話をみんなにわかってもらいにくいですよね。「Crossy Road」は去年(2014年)の11月に出てるんですが、その2カ月後にはコンタクトすることができて、さらに2カ月先にはプロトタイプもできていたりと。まさにこっちでやっているからこそできた、稀なタイトルだなあと思っています。グループの中でもこんな事例は他にないんじゃないですかね。

 「Pacman 256」に続くタイトル、「Pacman Bounds」も、他の企業との協業だ。こちらは地元カナダのゲームデベロッパー、Victory Squareという会社とのコラボレーションで、「Pacman 256」とは随分毛色の違うゲームになっていることにもきちんと理由がある。

服部氏:Victory Squareは実はAndroidのゲーム開発は初めてなんですよ。もともとはマイクロソフトのプラットフォームでゲームを出していまして。そんな彼らのゲームを見た時に「パックマンの世界観に合いそうだね」という話をしたら、その1週間後に簡単なモックアップを作って持ってきていただいて。それが面白そうだということで、Android開発の経験どうこうというよりはゲームの面白さメインでプロジェクトをスタートさせました。

海外スタジオは新しいことづくめ。全てがスピーディに進む、その背景

バンダイナムコスタジオバンクーバーのスタッフたち(公式サイトより)。非常に国際色豊かだ

 バンダイナムコとしてははじめてのモバイルスタジオだったということで、やることなすこと新しいことづくめ。その全てが非常にスピーディに進行していることは間違いない。このあたりについて中山氏は次のように語っている。

中山氏:本スタジオの設立にあたっては、これまでと違うゲームの作り方をできる方向性を模索していました。海外の開発スタジオ自体が初めてですし、産業としてもモバイルは日本でも手がけ始めたばかりのことでしたので、その意味で2つのチャレンジを同時に行なってきた感じですね。実は人も新しいんですよ。私はDeNAで、服部はGREE。モバイル畑の人が集まっていまして、バンダイナムコで5年、10年とやってきましたというひとは今、実は2人くらいしかないんです。

 社員については、バンクーバー自体がインターナショナルな感じなので、南米系やアジア系の人も多いです。生粋のカナダ人、アメリカ人はむしろマイノリティだったりします。つい近年、カナダに移住してきて市民権を取得しました、というひとも多いですね。はじめから国際派になってしまうというのはバンクーバーでやることのいいところの1つですね。

 それから、土地柄もあるんでしょうけど、こちらにはメチャクチャ日本好きの人が多いんですよね。ただそれを受け入れる箱がなかったというのが問題で、例えばこちらで採用したブラジル人の例ですと、日本企業だと思って入ったら社員は全員カナダ人で、しかもサンフランシスコの管轄だから日本に行くチャンスは1回もなくて残念だった、みたいな方もいました。そういう意味でいうと、いまこちらのオフィスにはバンダイナムコのキャラクターが大好きで入ってきた人もかなり多いんですよね。それで、「Pacman」のゲームが作れるぞということで、だいぶエキサイトしていますね(笑)。

 設立直後から国際色豊かになっているというバインダイナムコスタジオバンクーバー。スタジオの中では常に6、7カ国語が飛び交っているという。そのようなチームが内製タイトル1つ、コラボタイトルを複数、そして独自の研究開発にもリソースを割きつつゲーム開発を行なってきているという。その中で特に強みであると感じられること……それはスピードの速さだ、と中山氏はいう。

中山氏:感覚的ではあるんですけど、「決める事」に慣れてる人が多いように感じています。20代とかの若い人も多いんですけど、バンとシェアして、「よしこれでいこう」とバンと始めることを自分で決められる人が多いです。日本だと新卒の方を見てると「で、どうでしょうか?」と。自分で決めることが当たり前な人がほんと少ないという印象ですよね。こちらの人たちが日本でうまく仕事ができるかというと必ずしもそうではいんです。根回しして、空気を読んで、というところではないんですよね(笑)。そのかわりに、いいと思うことは、チームワークの中で積極的に主張していくという文化がありますね。

服部氏:特にモバイルですとABテスト等にもあるように、実際に試して、反応を見て、それから直せるんですよね。ですからモバイルでは尚更スピードが重要になっています。悩むよりとりあえずやってみたらいいじゃない、という文化ですね。やってみれば1周間で終わるのに、2週間悩んでいてもしょうがないわけで、ダメだったらダメで次を試せばいいと。それができるのがモバイルのいいところであり、強みとしないといけない部分ですね。「Pacman Bounce」もそういうスピード感で開発をしています。

中山氏:こちらの人たちはそういう教育を受けてきていますので、人材の親和性がモバイル向きだなあという印象はありますね。特に日本でのブレインストーミングの経験に比べると、こちらの人は「浅く広く」が得意な人が多い感じです。もう、ポンポンとアイディアを出してくれますし、じゃあこれをやってと、企画書を作ってくれとか、頼んだ時のスピードは2倍とか4倍くらい速いです。細かいことはあとでいいやという割り切りもできますし。

充実した公的支援が事業を加速。理想的なワークライフバランスでゲーム開発を

カナダ連邦政府およびブリティッシュコロンビア州による支援施策を具体的なレベルでサポートする組織、バンクーバー・エコノミック・コミッションのNancy Mott氏

 そういったスピード感の中で立ち上がってきたバンダイナムコスタジオバンクーバー。そのスムーズな立ち上がりが実現される上で、カナダ連邦政府・ブリティッシュコロンビア州政府、そしてバンクーバー市による公的支援制度の存在があったことも間違いない。

中山氏:会社を立ち上げ、プロジェクトを進めていく上で、税制優遇などの公的支援は間違いなくメリットになりました。人件費でいうとサンフランシスコの7割くらいの給料で人も雇えますし、これに30%の税制優遇をかけると、負担は半分くらいになるんですよね。アメリカ市場で売れる物を作るということが、半分のコストで実現できるというのは、間違いなく大きなメリットです。実は税金がかえってくるまで1年かかるのと、人を増やしたのが今年(2015年)なので、実際に帰ってくるのは来年なんですけどね。

 これに対して、たとえばIT企業のメッカであるシリコンバレー等の地域では、同様にスタジオを立ち上げるのは「不可能に近い」と語る中山氏。その理由は人件費や生活コストの高さだ。

中山氏:サンフランシスコで起業するなら、競争相手がFacebook、Twitter、Evernoteなどになります。そういった世界的な企業がシリコンバレーで最高のエンジニアを雇うための給料に対して、ゲーム会社が競合していくというのはちょっと不可能に近くて。彼らの給料は絶対出せないんですよ(笑)、儲かり方的に。それからシリコンバレーは生活コストも1.5倍くらいになってしまいますので、給料に見合う生活ができるかというとなかなか難しいんですよね。

 バンクーバーという立地だからこそ得られるメリットには、もう1つの側面もある。優秀な人材を確保しやすいという面だ。カナダ連邦政府が行なっている施策のひとつとして、こういうものがある。それは、大学の博士号以上の人材と教授を集め、大学と一緒にチームを立ち上げて研究プロジェクトを行なうことにより、かかったコストの半分を政府から支援してもらえるという施策だ。

中山氏:“マイタック”という制度になります。これの場合、インターンなので給料もそんなに高くなくて、日本の新卒の半額くらいで博士課程の人に研究をしてもらうことができます。今回私達のケースはフェイシャルエンジンの研究というもので、それがちょうど彼らの研究対象と重なっていたのが幸運でした。私達のニーズとピタリとはまった、という感じです。ちなみにその研究者の彼は、今度日本のスタジオのほうに採用になります。共同の研究から、そういう関係まで発展させられるのは素晴らしいですね。

 こういった形で海外スタジオを立ち上げ、国際的な人材獲得をしていくというのは(英語にさえ苦労しなければ)大変な理想に思えるが、やはり日本との違いもあり、難しい面も存在する。労働者としての権利意識の違いからくる、労働慣習の違いがよくやり玉に挙げられるが、バンダイナムコスタジオバンクーバーではそのあたり、どうだろうか。

中山氏:特に有給や、残業の重さが違うように思えますね。有給は権利なので、使わなかった場合は払い戻しをするか、翌年に持ち越すかのどちらかににになります。日本みたいに、2年使わなかったらナシね、というのはこちらではありえない話で、確実に保証しないといけないんですよね。それからこちらでは、残業は2倍です。日本だと1.25倍ですけど、それだけ残業することの価値は重く見られています。ただ、アメリカみたいに「それは私の仕事ではないのでやりません」みたいな過剰さはありませんので、それほど苦労しているわけではないですね。

 仕事のスピーディさもあって、残業はあっても1、2時間がせいぜいだといい、(今のところは)ゲーム業界でありがちなデスマーチとも無縁だという。これについては服部氏も同様なようで、双方が「バンクーバーはゲーム開発に理想的」と声を揃えて語ってくれた。

服部氏:中山も私も、両方とも家族と一緒にこっちにきましたが、やはり家族と過ごす時間は圧倒的に増えました。ワークライフバランスでいうと、家族にとっては非常にいい状態が作れています。仕事は凝縮して、残業しても1、2時間。あとはきちんとプライベートの時間を作れます。今丁度忙しい時期なのですが、日本みたいなデスマーチというのは今のところないですね。

中山氏:日本だと上司が働いている間は退社するのに抵抗があるみたいな話もありますが、こっちの人たちはそれについて何のプレッシャーもないみたいですね。私が遅めに仕事してても、勝手に帰ってます(笑)。働きやすさに関してはこっちは抜群にいいですね。もう日本に戻れないんじゃないかというくらいです(笑)。私としても可能であれば、ここで仕事を続けていきたいですね。

 今後益々求められていくであろう国際的なコラボレーションによるゲーム開発。その拠点として理想的な条件が整っているバンクーバー市。日本のゲーム産業が海外に飛び出していくために、理想的な橋頭堡となる土地であることは間違いない。そうして実現するであろう“和魂洋才”的なゲームタイトルの実現に、筆者は心を踊らせている。それをいちはやく「Pacman」シリーズで実現した、バンダイナムコスタジオバンクーバーの今後にも注目していきたい。

(佐藤カフジ)