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VRゲーミング最前線!「Oculus Connect 2」特別レポート その3

次世代のストーリーリング、コミュニケーション&クリエイションの姿

9月23日~25日開催



会場:LOWES Hollywood

「Henry」
「Toybox」
「Medium」

 本稿では、9月23日から25日にかけてハリウッドで開催されたOculus VRの開発者向けカンファレンス「Oculus Connect 2」にて体験デモが披露された3つのOculus VR謹製コンテンツ「Henry」、「Toybox」、「Medium」についてレポートする。

 2013年のOculus Rift DK1発表以降、まずゲーミング分野からVRの魅力を主張してきたOculusは、ここにきて“ソーシャルVR”という新しいパラダイムを強くプッシュし始めている。老若男女、すべての人類がVRでつながっていく世界。Facebookが掲げる10年越しのビジョンに向け、Oculus自身も大きく舵を切り始めたという格好だ。

 そういった切り口でOculus謹製の新コンテンツを見ていくと、ゲーマー/ノンゲーマーの別を問わず、VRの魅力を幅広く伝えていこうとするOculusの姿勢がより良く見えてくる。非言語的で、肉体的で、誰にでも楽しめる、新しい形のメディア。VRの力が何を可能にしてくれるのか、その入口を見てみよう。

驚きの実在感で愛らしいキャラクターを描くVRシネマ「Henry」

こんな感じで“視聴”
クルクルと表情の変わるHenry
お友達が来ず、だんだん沈んできて……
妖精たちが風船の動物に乗り移ってお祝い!

 Oculus Rift向けの謹製コンテンツの中で、もっとも広範なオーディエンスに向けて作られたと思われるのが、Oculus Story Studioが製作したVRシネマ「Henry」だ。

 そこに込められたインタラクティビティは、Oculus Riftのヘッドトラッキングのみ。Xbox Oneコントローラーも、Oculus Touchも使わない。ストーリーの展開を、“その場”に居ながら見るというものだ。これを楽しむためには活発なエネルギーも、強い参加意識も必要ない。映画を見るような気安さで、もうひとつの“世界”に入り込める。

 ユーザーがOculus Riftをかぶると、そこは大木にくっついた小さなお部屋。正面に見えるのは小さなテーブルと、「Happy Birthday」の飾り文字。今日はお誕生日会のようだ。

 トトトッ、と足音がするほうに目を向けると、隣の部屋はキッチンのよう。そこから愛らしいハリネズミ、Henryが登場。大きなイチゴのバースデイケーキを持って、ユーザーのほうに笑顔を振り向けながらやってくる。

 こうしてHenryのお誕生日会が始まるのだが……待てど暮らせど、パーティを祝うお友達はやってこない。手付かずのケーキを前に、だんだんと表情が暗くなっていくHenry。すると、ろうそくの芯から不思議な精霊たちが現われて……。

 とてもこじんまりとした空間で展開する、小さなハリネズミの小さなストーリー。七転八倒の後半部分を含め、シーケンスはわずか5分少々という短さ。一切のシーンチェンジもなく、ユーザーはいろいろな出来事に翻弄されるHenryの姿を基本的には眺めているだけだ。

 それでもユーザーは、シーケンスを通して、Henryの中に優しくひょうきんで、でも寂しがり屋な人格を、しっかりと見つけることができる。それは、Henryが見せる様々な表情やしぐさ、時折ユーザーに送る視線に、現実並の実在感、メッセージ性があるからだ。格言に曰く、目は口ほどに物を言う。Uneal Engine 4+Oculus対応PCの性能による映画品質の映像描写も、その説得力を高める上で一役買っている。

 PlayStation VRの「サマーレッスン」も同様だが、この「Henry」からも、VRにはキャラクターの魅力を伝える圧倒的なパワーがあることを知ることができる。特に「Henry」ではシーケンス全体を通して音声言語が全く使用されていない点が面白い。表情、ふるまい、状況に対する反応という、非言語的な情報のみで、Henryの実在感と人格をありありと伝えてくれるのだ。

 その意味で「Henry」は、非常にパワフルなデモだ。受け手の言語、あるいは人種・文化圏すら問わず、非常に短時間で、キャラクターの魅力を伝えてくれる。筆者としては、北米の名だたる映画会社がVRに巨大な投資を始めている理由が1発で理解できた。

だがしかし……ハリネズミゆえのつらい運命がHenryを襲う!

【Henry Premiere in Hollywood】

VRならではの対人コミュニケーションツール「Toybox」

筆者と……
Oculusのスタッフが一緒にプレイ
突如始まる卓球勝負

 VRコントローラー「Oculus Touch」用デモアプリである「Toybox」については、東京ゲームショウ 2015の際にもレポートしたが、Oculus Connect 2のデモルームではさらにジックリ触ることができたので、改めてその感触をお伝えしておきたい。

 「Toybox」はその名の通り、VR空間のオモチャ箱のようなアプリケーション。2つ1対のVRコントローラー、Oculus Touchでもって両手をVR空間の中に持ち込み、直感的な操作(というより動き)で、VR空間内のオブジェクトを自在に動かして遊ぶことができる。

 ブロックを持つ、投げる、積み上げる。ラケットとボールを手に持って卓球をして遊ぶ。片手に花火、片手にライターを持って、火花を飛ばして遊ぶ。光線銃を手に射的をしてみたり、スリングショットを両手を使って撃ってみたり。両手のTouchをリモコンに見立て、ラジコン戦車を操縦して遊ぶ。およそ現実空間でできそうなことは、そのままの感覚でできてしまうのが面白さの基盤だ。

 だが、その面白さを決定的なものにしてくれているのは、マルチプレイ要素だ。「Toybox」のデモは2つのデモルームが1対になっていて、片方からOculusのスタッフが参加し、試遊者と一緒に遊ぶ構成になっていた。Oculus Riftをかぶり、Oculus Touchを両手に持って、VR空間に見えるのは、同じ装備で同じ空間に入っているOculusのスタッフだった。

 身振り手振りや、Oculus RiftのHMD部分に内蔵されたマイクを使ったボイスチャットを通じて、いろんなオモチャの遊び方を教えてもらう。慣れてくるとこちらにも余裕が出てきて、光線銃の撃ち合いが始まったり、相手を小さくしてしまう“縮小ビーム”でいたずらしてみたり。もはや言葉を交わすひつようもなく、いろいろな遊びで笑いが漏れる。

 面白いのは、こうして2人の人間が、互いを間違いなく人間であると認識するために、高品位の3Dグラフィックスが必要ない、ということだ。「Toybox」に映される人物の映像は、HMDをつけた頭部と、Oculus Touchでトラッキングされた両手だけだ。それでも、その動き、ハンドジェスチャーを含めたふるまいは人間そのものであるし、ボイスチャットでの会話も“そこ”から聞こえてくるので、それは間違いなく現実の人なのだと簡単に認識できてしまうのだ。

 逆に考えてみると、「Toybox」の中で、センシングされていない人物の胴体や足の動き、あるいは表情といったものを無理に描写していたらなら、その実在感は格段に嘘くさく、不気味なものなっていたはずだ。つまり、技術的に実際に得られる情報のみで映像を構成してあるところに、この体験における説得力のカギがある。

 となれば……今後さらにセンシング技術が進み、フルボディのトラッキングや、視線や表情のトラッキングが可能になれば、VRを通じたコミュニケーションは更に強力になる。やがては、現実で出会うこととの本質的な違いがわからなくなるほどに強化されるかもしれない。「Toybox」はその意味で、真のソーシャルVRに向けての先駆けいえるだろう。

Oculus Touchでは様々なハンドジェスチャー表現が可能であることから、言葉を用いないでも様々な感情をやりとりできる

【Oculus Touch】

VR時代のデジタルクリエイション「Medium」

片手にオブジェクトを掴み、もう片手で造形。粘土細工をしているような感覚だ
ブシューッと、ペン先から立体が出てくる
盛ったり、削ったりが自由自在

 Oculus Touchのように、VR空間内に自分の“手”を持ち込めるデバイスを用いれば、これまでフラットスクリーン上では大変面倒だった立体造形も、とても簡単にできるのではないか……? という素朴な考えを、非常にハイレベルな形で具現化したもの、それがOculus謹製のデジタルスカルプトアプリ「Medium」だ。

 Oculus Touchを両手に持ち、Oculus Riftをかぶると、そこは自分だけの3Dアトリエ。利き手には万能の“ペン先”、逆手には補助メニューを呼び出せる操作パネルがある。ペン先をオブジェクト追加モードにして、形状を球体に、あとはペン先の大きさを適当に調整してからトリガーを引くと、ブシューっと中空にメタボール的な立体物が出力される。これを好きに使って、好きな大きさ、好きな形のオブジェクトを作れるというわけだ。

 この中では両手のツールを通じてオブジェクトの追加/削除、あるいはペン先の色調整、塗装モードやろくろモードへの変更といった操作ができ、センスしだいでありとあらゆる立体造形ができる。UIにややクセがあって(あるいは筆者の期待とは少々機能構成がズレていて)使いこなすのにはやや時間がかかったが、もともと立体造形にセンスの有る人なら数分から数十分で、かなり本格的な作品も作れそう。

 この「Medium」が示すところは大きい。従来、デジタル造形というのは、例えばプロ向けデジタルスカルプトツール「ZBrush」のように、フラットスクリーンゆえの非直感的に操作に習熟する必要があった。それが大きな壁となってデジタル造形がプロ御用達の世界になっていたわけだが、「Medium」は違う。コンピューターに触れたことすらない人でも、粘土をいじるようにデジタル造形ができるのだ。

 筆者の造形は、現実のスキルがそうであるようにヘタクソなものだったが、例えば彫刻家とか、造形師など、これまでデジタル造形にリーチしていなかった才能が「Medium」のようなVRアプリを通じて発揮されるとしたらどうだろうか。デジタルの世界がますます豊かになっていくに違いない。

 ひととおり試した所、「Medium」は手軽さに重点を置いていることもあり、スカルプトツールとしては最低限の機能しかなく、使い道はある程度限定されそうではあった(遊びの域を超えることはないだろう)。だが、可能性は示している。いま、フラットスクリーンで使用されているプロ向けの各種3Dツールが、VRのチカラを用いるようになったら……。それはもう、とてつもない革命になるに違いない。

センスのあるひとなら、これくらいの造形が数分でできてしまう。しかも、従来のような3Dツールとはちがって3Dツールに関する専門知識は一切必要ない!

【Introducing Oculus Medium】

(佐藤カフジ)