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【特別企画】転売屋がホビー商品で“儲け”を狙う理由は何か?

人気商品が高騰してしまうホビー業界の現状を考察

 ホビーを趣味としていて、避けて通れないのが「転売問題」だ。魅力的なキャラクターグッズ、凝ったギミックを持ったアクションフィギュア。現代は本当に多彩でハイクオリティな商品が発売されるようになった。しかし、商品化を喜び、期待した商品が標準小売価格以上の価格でしか販売されておらず、手に入れられないことがあるのだ。

 転売問題は昔からある問題で、その対象となる商品は多い。最近では「東京駅開業100周年記念Suica」の混乱は転売屋が絡んだため騒ぎが大きくなったといわれている。ゲームでも限定版は売り切れてしまうことが多いが、WiiやPS3のゲームハードの量販店での初日販売時に、行列に多くの外国人が並んで買っていってしまうエピソードも過去にはあった。本当に商品がほしい人以外が商品を求め、買い占めてしまう例は非常に多い。今回はホビーでの具体例を挙げて、問題を考えていきたい。

最も大事な問題は、「本当にほしいファンに商品が手に入らないこと」

 現在、標準小売価格24,840円(税込)の「DX超合金 VF-19ADVANCE」をAmazonで予約しようとページを見ると、価格が30,840円になっている。「PSYCHOBREAK サイコブレイク/ キーパー 15インチ スタチュー」は、標準小売価格41,990円(税込)がなんと98,000円で予約を受付けている。どちらも予約の時点で標準小売価格より高い。この状況には正直疑問を持った。なぜこんなことになっているのだろうか?

Amazonでの「DX超合金 VF-19ADVANCE」予約ページ。標準小売価格24,840円(税込)が、30,840円になっている
GOODSMILE ONLINE SHOPは予約で工場生産を調整することがあるという
タカラトミーモール。大手玩具メーカーの思い切った試みだ

 ホビー商品はヒットすると売り切れになり、なかなか再販がされない。流通量が少なく、再販されないのは、最近のホビー商品は製造工程が複雑で、作るノウハウを持つ工場も限られているし、メーカー側も受注生産ではなく、売り上げを見越した生産を行なうからだ。

 工場は次の商品を作る体制になっているし、そのスケジュールもきっちりと決まっているため、「人気があるからすぐに増産」という体制は難しいのだ。結果、市場は品不足の状況になり、こうなると「多少高くてもほしい!」と思う人も出てきてしまう。「妖怪ウォッチ」の「妖怪メダル」は大ヒットしただけに全国で品切れ状態になってしまった。そして転売屋の存在がクローズアップされ、テレビにも取り上げられた。

 こういった状況もあり、元来、ホビー商品や玩具は予約がしにくく、売り切れやすい。小売店は面積が小さい場合が多く、それでいながら商品の種類が多彩で場所を取るため、小売店では1つの商品について数個の“割り当て”で展開している。予約をしようにも、入荷数そのものが少なく、予約できない状況も多い。メーカーや問屋にとっては「売り切れることが望ましい」というビジネスであるのだ。

 こういった小さなビジネスを変えたのが、“ネット”の存在である。これまで大型店舗などもない地方のユーザーにとって予約も難しかった状況が、ネットによって改善された。ユーザーはより気軽に注文ができるようになった。また、「玩具の中古販売」なども行なわれるようになった。小売店のみで展開していた以前の状況に比べ、ユーザーは濃く、深いホビー商品を手に入れやすくなり、その状況がホビー業界全体を盛り上げ、現在の活況を生み出している一因なのは間違いない。

 しかし、一方で、人気の高い商品では、転売屋の存在が目立つようになった。疑問点はいくつかある。「なぜ、転売屋はホビー業界まで広がってきたのか?」、「彼らはどうやって商品を確保しているのか?」、「本当に儲かるほど、ホビーという商材は“オイシイビジネス”なのだろうか」。

 これらの疑問は、ある転売アイテムを扱ったブログの存在で簡単にわかった。そのブログには売れ線の商品が提示されており、注文開始時期が書いてある。扱うジャンルはホビーに限らず、スニーカーや、限定Blu-ray、家電など実に様々だ。こういったページを見ることで合点がいった。

 つまり転売屋はある特定の商品を狙っているのではなく、“なんでもいい”のだ。彼らは売れ線の商品情報を共有し、商品の予約開始時に殺到、そしてほんの一握りの“勝者”が商品の予約購入を完了し、それから転売用に出品するのである。転売をする人にとって、扱う商品の魅力は知らないし、興味はない。売れそうな商品であることだけが大事なのだ。もちろん手に入らなくても、「転売のチャンスを逃しただけ」である。

 転売はすでに「お金を稼ぎたい人の副業」であり、ある程度のブームになっている。転売屋にとって、商品の魅力は関係なく、“機会”をとらえた人がお金を稼げるゲームになっている。私たちがその商品化を喜び、見事な造形と、ギミックでキャラクターを表現した、「自分の宝物となるアイテム」が、小銭稼ぎが趣味の人の“道具”になっているという状況を改めて実感した。

 この絶望的な状況をどう改善させればいいのだろうか。1つの回答が「受注生産によるメーカーの直販」だ。グッドスマイルカンパニーのGOODSMILE ONLINE SHOPは商品に自社の予約販売枠を設け、さらに特典をつけてこの申し込みを加味して工場での生産量を調整しているという。コトブキヤや海洋堂など、ネット販売を行なっているところも多い。求めるユーザーにできるだけきちんと商品を届けるための工夫といえる。

 小売店での展開が中心の大きなメーカーは、一般販売商品のネットでの直販は、問屋との関係もあって、難しい一面があるのではないかというのが筆者の分析だが、タカラトミーは「タカラトミーモール」を開設し、ネット販売枠を設けている。一方バンダイはネット販売を行なう「プレミアムバンダイ」はとても好調だが、一般店舗では出回らない限定品がメインであり、一般商品のネット販売は積極的には行なっていない。

 ネットでの一般流通の販売は問屋を経由する小売店システムの販売に影響する一面は確かにあるだろう。また、せっかく用意した販売枠も、現在同様転売屋にすべて買い占められる可能性もある。しかし、「商品をほしい人が、確実に商品をゲットできる機会」というのは増えてほしい。

 興味深い対応をしたメーカー直営店の話を聞いたことがある。直営店での限定グッズの販売の時、開店前に大量に人が並んだが、開店前に店員が並んでいる人たちに対し、発売する商品の予約用紙に必要事項を記入してもらい、さらに商品への知識や思い入れを聞いて回ったという。そして、予約用紙を渡しても記入できない人、商品の知識がない人、質問に答えられない人などをどんどん断っていったという。結果多くの人が列から除外され、知識のあるファンのみの列となった。確かにこうすれば本当に商品がほしくて並んだ人が商品を買える可能性が高まる。並んでいるファンにとって、直営店の対応はとてもうれしかっただろうと思う。

 転売屋に関する問題の根源は、彼らの存在ではない。「ほしい商品がそれを求めるユーザーに届かない」という状況こそが問題なのだ。この状況を改善してほしい。ユーザー側もきちんとほしいと思った商品があればその商品の予約開始日をチェックするなど商品を購入する強い意思を持つようにしたい。現在、ホビー商品は多くのメーカーとユーザーの熱意により、かつてない高品質で遊びごたえのあるものになった。この文化をさらに発展させるために、ほしい人にきちんと商品が届くより健全な市場を模索していきたい。

(勝田哲也)