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Flash/AIR用ゲーム開発ツール「Adobe Game Developer Tools」発表

待望の検証ツールも公開! Flashゲームの開発環境をフルサポート

12月4日発表

 アドビシステムズは12月4日、ゲーム開発者向けの総合ゲーム開発環境「Adobe Game Developers Tools」を正式発表し、同日より同社の月額制のサブスクリプションサービス「Creative Cloud」ユーザー向けに無償配布を開始した。本稿では、事前に行なわれた説明会の模様をお伝えしたい。

Flash/AIR向けの総合ゲーム開発環境「Adobe Game Developer Tools」

挨拶を行なうアドビ システムズ マーケティング本部 広報部部長 新居千歳氏
「Adobe Game Developers Tools」の概要説明を行なうマーケティング本部 デジタルメディア 第二部部長西山正一氏
Flash/AIRにより、18億のユーザーにリーチ可能
「Adobe Game Developers Tools」の中身

 「Adobe Game Developers Tools」は、アドビとしては意外にも初となるゲーム開発者向けに特化した総合的なゲーム開発環境となる。ターゲットとしては、アドビが「Flashプラットフォーム」と呼ぶFlashおよびAIR向けのゲームアプリケーションの開発者で、「Adobe Game Developers Tools」を利用することで、より効率的で、よりパフォーマンスの高い開発が可能となる。

 解説を担当したアドビの西山正一氏によれば、Facebook向けゲームのトップ10すべてがFlashを採用しており、PC向けのブラウザゲームの分野ではもちろんのこと、スマートフォンやタブレットもAdobe AIRを通じてインストールベースを増やしているという。Flash Playerを搭載したPCは13億、Adobe AIRを搭載したモバイルデバイスは5億にも及び、計18億の端末に向けて同一のActionScriptを使ってリーチできるのがFlash/AIRの強みであることをアピールした。

 「Adobe Game Developers Tools」は、Flash検証ツール「Adobe Scout」、Flash開発キット「Adobe Gaming SDK」、C++からFlashへのクロスコンパイラ「Flash C++ Compiler」、Flashアプリケーション開発ツール「Flash Builder 4.7」、アセットやアニメーション制作ツール「Flash Professional」の5つのツールに分かれている。

 「Adobe Scout」、「Adobe Gaming SDK」、「Flash C++ Compiler」の3つに関しては、「Adobe Game Developers Tools」向けに完全新規で用意したもので、そしてこれは非常に意欲的な試みとなるが、「Creative Cloud」無償ユーザー、つまり体験版ユーザーに対しても無料で公開するという。ただし、「Adobe Scout」については、時限式での無償公開としており、後日、有償メンバー、つまりサブスクリプションメンバーのみの提供となる見込みだ。また、「Flash Builder 4.7」および「Flash Professional」についても「Creative Cloud」の無償メンバーシップになることで、30日間無料で体験することができるという。各ツールの概要は以下の通りとなる。

・「Adobe Scout」

 プロフェッショナルなFlashクリエイターなら、Flashゲームのパフォーマンス解析ツール「Monocle(モノクル)」の正式版と言えばピンと来る方も多いだろう。「CityVille」や「FarmVille」の開発で知られるZyngaや「Angry Bird」の開発元Rovio Entertainmentなどは、開発に協力する形ですでに「Monocle」を活用していたが、ようやくすべてのゲーム開発者が利用できるようになる。しかも当面の内は、一般人も含めすべてのユーザーに無償提供するというおまけ付きだ。

 「Adobe Scout」は、ゲーム開発では必須とされるパフォーマンスの最適化のプロセスで、大きな役割を果たす検証用のツールとなる。これを利用することで、対象のゲームがどのようなプロセスで動作しており、どこでパフォーマンスが低下し、その理由は何なのかが一目でわかるようになる。これにより、FlashアプリやAIRアプリに対して、今までできなかったレベルでの細やかなチューニングが可能となる。アドビの西山氏自ら、「業界待望のツールといっても過言ではない」と言い切り、Flash/AIR業界にとって大きなインパクトをもたらすツールであることを強調した。

・「Adobe Gaming SDK」

 Flash/AIR向けのゲーム開発の生産性を高めてくれるオープンソースのフレームワークやランニングリソース、サンプルコードなどを集めたパッケージとなる。具体的には、「Adobe AIR SDK(Flash/ActionScript向けのクロスプラットフォームアプリ用SDK)」、「Starling(GPU対応2D表示フレームワーク)」、「Away3D(GPU対応3D表示フレームワーク)」、「Features(GPU対応入力コンポーネント)」、「ATF Tools(Flash/AIR対応の圧縮テクスチャ作成ツール)」、各種AIRネイティブ拡張(ANE)などで構成され、一部のANE以外は、基本的にすでに公開済みのライブラリーの寄せ集めとなる。

・「Flash C++ Compiler」

 その名の通り、CやC++で書かれたゲームを、Flash向けに再コンパイルするというツール。デモではC++で書かれたというEpic GamesのUnreal EngineのデモンストレーションをFlash向けに再コンパイルしたものを見せてくれた。西山氏によれば、ファミコンのような古いゲームソフトでもこのツールを介してFlash/AIR化すれば、過去の資産を18億人に向けて再度配信することが可能になるという。

・「Flash Builder 4.7」

 こちらは既存のアプリケーションのアップデートとなる。64bit化を皮切りに、最新のFlash PlayerやAIR、Apache Flex 4.8 SDKをサポートするほか、Adobe Scoutとの連携機能も備え、ゲーム開発をより効率的に行なえるツールにアップデートされている。

・「Flash Professional」

 Adobeの各製品との連携をサポートしたアセット作成ツール。

【「Adobe C++ Compiler」デモンストレーション】

【Adobe C++ Compiler】

Flash/AIRゲームのパフォーマンスを劇的に改善するツール「Adobe Scout」

ゲーム開発エバンジェリスト アンディ・ホール氏
「one more thing」ということで、スマートフォンやタブレット上のデータを、クラウド経由でPCの「Adobe Scout」に飛ばすことも可能だということだ

 説明会の後半では、実機によるデモも行なわれた。デモでもっとも丁寧に説明を行なったのが「Adobe Scout」だ。

 アドビ システムズ ゲーム開発エバンジェリスト アンディ・ホール氏による実機デモでは、スクウェア・エニックスの新作ブラウザゲーム「クリスタル◆コンクエスト」をサンプルに、「Adobe Scout」を使って同作のパフォーマンス上のボトルネックをたちまち浮き彫りにした。

 ホール氏は、「Adobe Scout」を、現実世界におけるレントゲン検査のようなものだと切り出し、これまでFlashはパフォーマンスに問題があってもその特定が難しかったが、今後は「Adobe Scout」を活用することでピンポイントで患部が見えるようになると語った。

 ホール氏が「Adobe Scout」を起動させた状態で、「クリスタル◆コンクエスト」を立ち上げると、リアルタイムでモニタリングが始まり、フレーム毎のパフォーマンスグラフが右から左に流れていく。ゲームのシーンはMMO空間の街中で、それほど動きは激しくないが、ユーザーが多いためか、時折負荷の高いフレームが存在していることがわかる。

 各棒グラフはよく見ると4色に色分けされており、合計フレーム時間の中で、何に時間を消費しているのかが一目でわかる。ActionScriptの実行にもっとも時間を使っていることがわかるが、さらに個々に細かく見ていくと、“イメージの解凍”に膨大な時間が掛かっていることがわかる。また、実行されてるコードを見ることもでき、まさにピンポイントで問題が特定できるようになっている。これを活用することで、既存タイトルも含め、パフォーマンスの改善や、アプリケーションそのものの高速化に大きく寄与しそうだ。

【「Adobe Scout」デモンストレーション】

【Adobe Scout】

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(中村聖司)