CEDEC 2011レポート
配信1,200回を数える「週刊トロ・ステーション」の軌跡と制作体制
「まいにちいっしょ」が果たした使命とは? 新展開はPS Vitaで!
「どこでもいっしょ」に登場する人気キャラクター、トロとクロによる情報番組風コンテンツ、プレイステーション 3/PSP用「週刊トロ・ステーション」。可愛らしいキャラクターが、その見た目とは裏腹なシュールな会話を展開するのが魅力で、なおかつ毎週配信される最新の番組を無料でも利用できるということもあって、長く人気を集めている。
「CEDEC 2011」では、本作についての講演「『週刊トロ・ステーション』のつくりかた ~1,200回配信を可能にする制作体制とビジネスモデル」が開かれた。講演者は、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPAN Studio制作部アソシエイトプロデューサーの伴哲氏。
■ 「まいにちいっしょ」は役目を終え、次のステップへ
伴氏は「週刊トロ・ステーション」の前身となる、PS3用「まいにちいっしょ」の話から始めた。「まいにちいっしょ」はPS3のローンチに合わせて、ネットワークをメインとしたコンテンツが欲しいということで企画されたもの。PS3を毎日起動してもらうことと、気軽にアイテム課金を経験してもらうこと、PS3の機能をいち早く取り入れることなどを狙った実験的なタイトルとなっていた。具体的には、毎日ニュースを配信する「トロ・ステーション」と、低額のアイテム販売、定期的なアップデートによってこれらを実現している。配信は予定通りにPS3のローンチに合わせた2006年11月11日。
続いて、PSPでもPlayStation Storeが始まるのに合わせて、PSP版を提供することが決まった。こちらはPS3版の「トロ・ステーション」と同じものがPSPでも見られることと、PSP上のPlayStation Storeでアイテム課金を行なうことという2つがミッションとなっていた。前者は素直に対応し、後者はPS3版とは別の「庭いじり」という機能を入れることで対応した。2008年3月から開発を始め、10月15日より配信が開始された。
「まいにちいっしょ」はPS3/PSP合計で63万ダウンロードされ、100万個以上のアイテムを販売。「トロ・ステーション」の配信は2009年3月時点で約850回を数えた。そして2009年3月、「まいにちいっしょ」のネットワークサービスの啓蒙という使命は果たしたとし、次はネットワークでビジネス的にも成功を収めるという第2ステージへの移行が指示された。これが「新まいにちいっしょ(仮)」、後の「週刊トロ・ステーション」の開発の始まりである。
新作の開発にあたり伴氏らは、「まいにちいっしょ」の問題点を洗い出した。まず注目したのは、ユーザーからの「機能が多すぎて遊び方がわからない」という声。機能を重視してアップデートを繰り返した結果、コンテンツのわかりやすさが薄れてしまっていた。そこでわかりやすさを徹底的に追求するため、「まいにちいっしょ」のミッションであった毎日の配信やアイテム課金をあえて廃止し、高く評価されている部分に特化することにした。伴氏は「最小の労力で最大の効果が出る仕組みを作り、それを最大の努力で運営する」という柱で整理を進めた。
PS3のローンチに合わせて、実験的な意味合いの強い「まいにちいっしょ」を配信 | ||
PSP版のPlayStation Storeオープンに合わせて、PSP版「まいにちいっしょ」を配信 | ||
「まいにちいっしょ」の使命は十分達成したとされ、新たなステージへの移行に迫られる。その結果、わかりやすさを追求し、「まいにちいっしょ」のウリであった毎日配信すらも廃止するという大幅な変更を加えることになった |
■ 評価が頭抜けていた「トロ・ステーション」にコンテンツをフォーカス
まず「トロ・ステーション」については、週末にアクセスが集中していることがわかった。つまり1週間分の配信をまとめて週末に見ているユーザーが多いということだ。よって、これは週末にまとめて配信することで効率化を図ることにした。
アイテム課金については、この時点で1,500種類ものアイテムが配信されており、欲しいものが見つけられない状態に陥っていた。これも廃止し、有料コンテンツを3種類だけに絞った。
高評価部分への特化においては、「まいにちいっしょ」のコンテンツの中では、「トロ・ステーション」が飛びぬけて高い評価を受けていた。よってメインコンテンツを「トロ・ステーション」に据えることにした。またその内容についても精査され、ゲームやプレイステーションに関する情報が最もユーザーから反応が大きかったことがわかった。「まいにちいっしょ」は数々のゲームとコラボレーションしており、約100タイトルの紹介実績があったので、これを伸ばすのがいいだろうと判断された。
合わせて、ブランド変更も行なった。伴氏はこの点について、「『まいにちいっしょ』よりも『トロ・ステーション』のほうが知名度があった。メインコンテンツにすえるなら名前も変えるべき」と説明。その結果、「週刊トロ・ステーション」として新サービスが立ち上がることになった。
無料でも利用できるが、月額800円の「プラチニャ会員」を購入すれば、6時間の番組先行配信とバックナンバーの閲覧という特典が受けられる。当初は1~2日早く配信するという案もあったが、それだけ時間が経つと話題がとぎれるため、ちょっと早い程度に留めたという。また無料だと空き地にいるトロに家を貸してあげられるという特典もある。
結果として「週刊トロ・ステーション」は、累計100万ダウンロードをまもなく達成する見通しで、2009年11月の配信から約1年で「まいにちいっしょ」のアカウント数を超えた。
週末配信、アイテム課金の廃止、トロ・ステーションに絞ったコンテンツ展開といった答えを、ユーザーの利用状況やアンケート結果から導き出した | ||
「まいにちいっしょ」とはコンセプトを大きく変えて登場した「週刊トロ・ステーション」。有料会員だとトロに家を用意できるというのがうまい手 |
■ 「週刊トロ・ステーション」は約15人の体制で制作中。PS Vitaで動く新作も!
配信回数1,205回、制作本数1,676本という「週刊トロ・ステーション」のゲーム本体と番組制作は、株式会社ビサイド(BeXide)が担当している。制作スタッフは、取材とシナリオ執筆、スクリプトを手がけるプランナーが7名、取材とシナリオ執筆を行なう専業ライターが3~5名、小道具を制作するデザイナーが1名、バグ対応を行なうプログラマーが1名というのが平常時の体制。
記事はゲーム系はゲームクリエイターが執筆、雑学系は専業ライターが執筆する。クリエイターがゲームを見ることで、作り手のこだわりや苦労している点がわかるので、それが好評に繋がっているのではないかという。なお取材は掲載の5週間前に行ない、1週間で必要な素材を揃えて、掲載2週間前にはWEBで動画の形で提供して校正できる仕組みになっている。
伴氏はまとめとして、「毎月新しいものを出して0からやるのではなく、最初に仕組みを作って最大の労力で運営していく。そうすることで運営コストや制作コストを抑えつつ、ユーザーの方に満足していただけるものを作っていく」と語った。「週刊トロ・ステーション」という仕組みを作ったことで、運営面に最大限の力を注げるようにする体制を作ったことが、本作における重要なファクターとなっているようだ。
最後に伴氏は、「5年のノウハウを生かして新しいチャレンジを」と述べ、1枚のビジュアルを見せた。2011年発売予定のPlayStation Vitaで、田舎の家の前にトロとクロ、さらに他のキャラクターがいるというもの。「タイトルも何も発表できないが、これまでのコンシューマーゲームにはなかった新しいものを提供したい」という。
制作はBeXideが担当。総勢でも15人に満たない体制で番組が制作されている。ゲーム系の記事はクリエイターが書くというところが面白い | ||
取材開始から掲載までは約5週間。記事の校正はWEBの動画として行なうため、「トロ・ステーション」を知らない人でも理解しやすい | 詳細は一切不明だが、PS Vita向けのコンテンツを用意していることも明らかにされた |
(2011年 9月 7日)