AQIとDeNA、「スーパークリエイターズ」企画を発表

稲船氏、中氏、須田氏、はしもと氏、船水氏がソーシャルゲームを開発


7月25日 発表



都内のホテルで開かれた発表会
AQインタラクティブ代表取締役の許田周一氏

 株式会社AQインタラクティブは7月25日、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のスマートフォン版「Mobage」で開始する新企画「スーパークリエイターズ」の発表会を開催した。

 この企画は、日本の著名なゲームクリエイターが、スマートフォン版「Mobage」向けのゲームを開発するというもの。AQインタラクティブがパブリッシャーとなり、今回選ばれた5人のスーパークリエイターズが、それぞれ個別にソーシャルゲームを開発する。

 スーパークリエイターズとして紹介されたのは、株式会社comcept代表取締役の稲船敬二氏、株式会社グラスホッパー・マニファクチュア CEOの須田剛一氏、株式会社プロペ代表取締役社長の中祐司氏、株式会社マーベラスエンターテイメント執行役員CCOのはしもとよしふみ氏、株式会社クラフト&マイスター取締役の船水紀孝氏の5人。それぞれの代表作を挙げると、稲船氏は「ロックマン」(カプコン)、中氏は「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」(セガ)、須田氏は「NO MORE HEROES」(マーベラスエンターテイメント)、はしもと氏は「牧場物語」(マーベラスエンターテイメント)、船水氏は「ストリートファイター」(カプコン)。コンシューマーゲームでは名の知られたビッグタイトルのクリエイターが揃っている。

 発表会ではまず、AQインタラクティブ代表取締役の許田周一氏が企画の趣旨を説明。「日本のゲーム産業の礎を築いた素晴らしいクリエイターの方々に、ソーシャルゲームという新たな分野に挑戦していただく。現状、世界市場における日本のゲームコンテンツが非常に厳しい状態にある。日本のゲーム制作の素晴らしさ、日本のゲームクリエイターの底力を見せたい」と語った。

 DeNAを含めた3社の関わりについては、「我々はスーパークリエイターズのみなさんの開発を支援するパブリッシャー。DeNAさんには新たなステージを作っていただき、浸透して広めていただくことと、ソーシャルゲームのコンサルティング、エンジンの提供を担っていただく」としている。




comcept代表取締役の稲船敬二氏

 続いてスーパークリエイターズの5氏が、企画賛同の挨拶と制作タイトルについて語った。最初に登壇した稲船氏は、「スーパークリエイターズの5人の中に選ばれてほっとした。並じゃなくてよかった」とおどけて見せたが、「ソーシャルゲームはまだまだ過渡期。スーパーと呼んでもらって、並のゲームを作っていては恥。僕達がこの企画の中で新しいソーシャルゲームを作り上げていく」とその決意を述べた。

 しかし「それは簡単なことではない」と稲船氏は言う。「単にコンシューマーゲームを作ってきた方程式にのっとって、10億も20億も賭けて作ってはいけない。今までの経験を活かしたものを盛り込んでいきつつ、ソーシャルゲームを学んで皆さんの手に届け、広がりのあるものにしていきたい」と述べ、新たな方向性が求められることも強調した。

 その稲船氏が手がけるタイトルの名前は「JJ・ROCKETS(仮称)」。「稲船らしいゲームを作って欲しいと思っている方がいっぱいいるはず。それに応えた上で、ソーシャルに乗ったものを作りたい。昔から稲船のゲームが好きと言う人には飛びついてもらえるゲームにしたい」と述べた。

 具体的な内容については明かされていないが、稲船氏は「ソーシャルゲームの操作性やシンプルさを活かした上で作る。横スクロールアクションをずっと作り続けてきたし、今も大好き。ソーシャルゲームにも横スクロールアクションはあるが、面白くしようとして凝るととっつきにくいし、シンプルにしすぎると物足りない。そこを解決するゲームを作りたい」と語った。

 さらに稲船氏は、ゲームのキャラクター性についても言及。「僕自身はキャラクターデザイナーからこの業界に入ったので、キャラクターデザインも重視している。単に遊んで面白いだけでなく、キャラクターが世の中に広がっていくゲームにしたい。ソーシャルゲームのゲーム作りでは、そこが弱いと思っている」と述べた。

 稲船氏は最後に「5人は仲間でもあるがライバルでもある。作ったゲームは1位から5位まで順番が付くと思うので、5番にはならないように(笑)。1番評価の高いゲームにしたい」と語った。




グラスホッパー・マニファクチュア CEOの須田剛一氏

 続いては須田氏が登壇。「僕らはずっとコンソールで勝負してきたが、さらに日常の隙間を埋めるものがソーシャルゲームだと思っている。ソーシャルゲームによって、ゲームが占有する時間がすごく増えた。我々にとっては、より活躍する場が生まれ、より多くの方にゲームで遊んでもらえるチャンスが広がったと感じている。この話をいただいた時には、大きなチャンスだと思った」と、ソーシャルゲームに対して前向きな姿勢を見せた。

 須田氏が開発するタイトルは、AQインタラクティブやマーベラスエンターテイメントが関係するプロジェクトということもあって、「NO MORE HEROES」になることが明言された。須田氏は「Mobageさんから『ロワイヤル』をいただいて『NO MORE HEROESロワイヤル』をやりたい」と述べると、続けてゲーム内容については「殺し屋が主人公で、表現がバイオレンスなシリーズ。ソーシャルでどこまでバイオレンスができるかが課題。1番血が出るソーシャルゲームを目指したい」と、須田氏らしい挑戦的なコメントも飛び出した。

 「『NO MORE HEROES』シリーズなので、海外に向けてもパワーのあるタイトルを出していきたい」と言う須田氏は、さらに「ソーシャルでやりたいことはいっぱいある。100個くらい企画があるので、1つずつ丁寧に作って実現させたい」とも述べ、他のタイトルの開発にも意欲も示した。




プロペ代表取締役社長の中祐司氏

 次に登壇した中氏は、「10年ほど前に『ファンタシースターオンライン』を作ったが、ここ5年ほどはオンラインから離れていた」と前置きし、「当時は苦労した部分もあり、うまくやれた部分もある。今回はそれを活かして、スマートフォンの中で世界中の人が楽しめるものを作りたい」と述べた。

 プロペは先日、iPhone/iPad向けの3Dアドベンチャーゲーム「PD -prope discoverer-」というタイトルを開発し、iPhoneとiPadのApp Storeランキングで1位を獲得した。中氏は本作を挙げ、「これにはUnrealEngineを使っている。今後ソーシャルゲームに向かっていくにあたり、スマートフォン上のグラフィックスがどこまでいけるのかを試したものでもある。近々、Unityを使って4タイトルほどアプリを出す。それらを使っていると、iPhoneやiPadでもコンシューマーゲーム機と遜色ないものが出せる」と説明した。

 今回の企画について中氏は、「今はプロペ自身で作っているが、限界がある。今回お声掛けしていただいて、DeNAさんとも一緒にやれることで、より規模の大きいものを作れるので楽しみにしている」と述べた。制作するゲームのタイトルは明かされなかったが、「位置情報連動型の、育成型の冒険をするようなゲームを作り始めている」という。

 ソーシャルゲームに対しては、2歳になる自身の子供からインスピレーションを受けているという。「2歳では言葉も喋れないこともあるが、コミュニケーションの面白さ、好き嫌いや喜ぶという感情を強く感じている。そういうものをソーシャルゲームに取り込んでいけないかと考えている」という。実際にそれをもとにした企画を2つAQインタラクティブに見せたところ、両方とも好印象が得られたという。そのうちの1つが今回語られた新作で、「もう1つも作りたい」と中氏は語った。




マーベラスエンターテイメント執行役員CCOのはしもとよしふみ氏

 次ははしもと氏が登壇。「『牧場物語』が15周年を迎える中、ソーシャルゲームが出てきた時に牧場っぽいものが出てきた。『マーベラスは(ソーシャルゲームを)本気でやらないのか』と言われていたが、こういう機会が得られた」と述べ、満を持して「牧場物語」のソーシャルゲームを展開することを明らかにした。

 ゲーム内容については、「コンシューマーゲームでは友達と繋がるといった要素はあったが、現実には真夏の季節にクリスマスのイベントがあったりした。今回開発するものでは、季節も連動させるなど、ソーシャルだからこそできるゲームもやりたい」と語った。

 はしもと氏自身はこれまでソーシャルゲームについて、「どこまでやろうかと思っていた」と考えあぐねる部分もあったという。しかし先日、はしもと氏が知人とドライブに出かけた際、パーキングエリアに入るたびに、友人が「ちょっと待って」と言っては携帯電話を出してゲームを始めているのを見たという。はしもと氏はそれを踏まえて、「自分達が思っている以上にゲームが生活の一部になっているんだなと実感した。生活に根付いたゲームを作り出していきたい」と語った。




クラフト&マイスター取締役の船水紀孝氏

 最後に登壇した船水氏は、「今まで僕達がやってきたものとは違うものを作らなければいけないのかなと思っているが、今まで僕らが培ってきたものづくりをやっていこうと思っている。それにしても何かした方がいいかなと思ったので、僕達がスマートフォン向けゲームを作るにあたってキーワードを作った」と述べた。

 そのキーワードは「生ゲー」。船水氏は「季節感、ライブ感などを大事にするという意味を込めた。旬なネタを旬な時期に、旬なうちにみんなに提供できる、というのを考えている」とその趣旨を語った。

 ゲーム内容やタイトルについては明かされなかったが、「今まで僕達がやっていた、アーケードゲームの感覚に近いと思う。アーケードゲームの開発や、ゲームセンターの運営のノウハウを活かしていきたい。日々変わるみんなの好みや、難度設定を活かしていけたら」と方向性を示した。船水氏は最後に「モバゲーで生ゲーで頑張ります」とコメントした。




ディー・エヌ・エー代表取締役社長の守安功氏

 スーパークリエイターズに続いて、ディー・エヌ・エー代表取締役社長の守安功氏も壇上に上った。「私は30代後半だが、小学生の頃にファミコンを触って以来、いろいろなゲームに触れた。今までいろいろなゲームを作ってきた著名なクリエイターの方々に『Mobage』向けのゲームを作っていただけるということで、1ゲームファンとしてどんなゲームが生まれてくるか楽しみにしている」と、個人的な思いも込めて期待感を示した。

 守安氏は続けて、今回の企画におけるDeNAとしての意義についても説明。「これだけ著名な方々が参加することになったのは、ソーシャルゲーム市場がすごい勢いで拡大しているからだろう。『Mobage』がソーシャルゲームを始めてから、まだ2年経っていないが、現状でモバコイン(『Mobage』上の有料通貨)が消費される量が月間100億円を越えてきている。他のソーシャルゲームプラットフォームも含めると、日本だけで年間2,000億円を越える市場になってきているのでは」とソーシャルゲームの市場規模を見通した。

 さらに守安氏は具体的な話として、同社が自社展開しているソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」についても言及した。「今、日本で1番人気のあるソーシャルゲームだと思うが、この1年間での売上は300億円になる。パッケージゲームの換算だと、1本6,000円で500万本売れていることになる。ソーシャルゲームの市場がコンシューマー市場と比べてもそん色ない規模になってきたと思っている」と数字を示して語った。

 また昨今のフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行の流れについても述べた。「スマートフォンではゲーム性やグラフィックスのレベルが格段に上がる。ソーシャルゲームがダサい、面白くないと言っていたユーザーさんを、ソーシャルゲームの世界に引き込めると思っている。スマートフォンに移行するに従って市場は拡大すると思っている」という。

 続けてスマートフォンにおける世界展開のメリットも強調。「これまでは端末の仕様差などがあって、日本のコンテンツを世界に持っていくのが非常に難しかった。この壁がスマートフォンでは一気に取り払われ、同じ端末仕様で動くようになる。日本でも世界でも、ユーザーに同じゲームが届けられる。日本で成功したソーシャルゲームの市場を世界に広げたい」と述べた。

 最後に守安氏は、「プラットフォームを広げるにはよりよいコンテンツ、面白いソーシャルゲームは当然必要になる。これまで世界で売れるゲームを作ってこられた皆さんと、世界ナンバーワンのソーシャルゲームプラットフォームを作っていきたい。今までソーシャルゲームと言うと、インターネット側のプレーヤー(開発者)が主で、ゲーム業界のプレーヤーとは温度差がある、違う業界だと感じていた。これが一緒になることで、ソーシャルのノウハウとゲーム作りのノウハウが融合し、ユーザーさんにもっと大きな価値を届けられると思う」と述べ、ゲーム業界への期待感を示した。

 なお今回紹介されたスーパークリエイターズを選んだ基準について許田氏は、「ガチガチな基準はないが、過去に世界で通用する素晴らしいコンテンツを出した方々というのが1つのくくりにはなっている。今日は過去に一緒にお仕事させていただいて、今回の趣旨に同意していただいた方に来ていただいている」と説明した。このほかにも既に声はかけているものの準備が整っていなかったり、これから声をかけたいクリエイターもおり、「今後も積極的にお誘いしていきたい」としている。


(2011年 7月 25日)

[Reported by 石田賀津男]