ニュース
【特別企画】弾ける笑顔と生活感溢れるマニラゲームショップ特大レポート
パシグ川の向こうにマニラ最大規模の海賊版拠点を発見 「キアポ/ビノンド編」
(2016/5/19 00:00)
パシグ川の向こうにマニラ最大規模の海賊版拠点を発見 「キアポ/ビノンド編」
最後は、今回訪れたエリアの中ではもっともディープだったキアポ/ビノンドエリアを紹介したい。
マニラ市を南北に分断しているパシグ川を渡ると、一気にアジアらしい庶民的なエリアとなる。カラフルなパラソルの下に、リヤカーで持ち込んだ品々が並び、狭い通路を買い物客や荷物を抱えた業者など多くの人が行き交う。マニラ有数の熱気と喧噪に満ちたエリアだ。
このエリアの見所は3カ所ある。1つはマニラライトレール カリエド駅からキアポ教会の間に広がる広大なマーケット。市民の胃袋となる食事処から、衣服、雑貨、偽ライセンス売り、PISONET屋まで、日本の秋葉原のようなエリアだ。
2つ目はカリエド駅から西に少しいったビノンドエリア。ここはマニラのチャイナタウンで、広州、深センを彷彿とさせるギッシリすし詰め卸売マーケットと、香港の今は亡き九龍城を偲ばせる魔窟エリアが広がっている。住人は中華系はそれほど多くないようだが、中国語が溢れ、商売の仕方も中国風だ。
3つ目は、キアポ教会から大通りを挟んで東側に広がるエリア。位置的には1カ所目のキアポエリアのすぐ隣だが、ここには全人口の9割以上がキリスト教徒というASEAN最大のキリスト教国にあって、圧倒的少数派となるイスラム教の拠点ゴールデンモスクがあり、同じキアポエリアでもまるで雰囲気が異なる。ここはマニラの中でもとりわけ治安が悪いことでも有名で、キアポ市民たちも異教徒に対する抵抗感もあるのか、モスク周辺には近寄らず、危ないため行かないことを強く勧められた。ただ、ゲームショップレポート的には、ここがもっともおもしろいエリアだった。
キアポマーケットには、駅前のパラソルエリアを抜けて少し北側に行くと専門店街があり、そこにゲームの改造や修理を行なうショップや、PISONETを製造販売するショップが集まっていた。ボロボロのビルの奥にあり、薄暗い明かりのなか、上半身裸の人々が、修理品に向かっている。ジャカルタで遭遇したゲームコンソールの修理、改造を行なっているショッピングモールPasar Glodokに雰囲気が近いが、Pasar Glodokは郊外にあったのに対して、こちらは都心部にあるところが凄い。
店の床には、持ち込まれた大量のXbox 360が積まれており、複数人で修理にあたっていた。なぜXbox 360が集まっているかというと、ここでPISONETのXbox 360バージョンを製造販売しているためだ。PISONETのPS3やPS4バージョンは「ない」という。
何故ないのか重ねて質問したところ、店のオヤジはそんな質問をするのはおまえが初めてだという口ぶりで、「ディスクを入れなければ遊べないから、欲しい人がいないんだ」と真顔で答えてくれた。つまり、PS3やPS4は、HDDのみで遊べるように改造できないから売れない、売れないものは扱うわけないだろ、と言っているわけだ。街で遭遇したゲームコンソールが稼働しているPISONETはすべてXbox 360だったが、人気なのはそういう訳だったのだ。
チャイナタウンは、ラッキーチャイナタウンモールや、New Divisoria Mallなど、ここ数年で建てられたショッピングモールが多く、街全体がリノベーションの真っ最中という印象だった。チャイナタウンには川と表現するには細すぎる水路がいくつも流れているが、水面が見えないほどゴミで溢れていたり、水面から腐臭を漂わせていたり、環境は極めて悪い。
このエリアでITを扱っているのが、中国語で“一路發”と同じ発音で縁起が良いとされる168ショッピングモール。ここも先ほど紹介したグリーンヒルズと同じように、複数の建物が中が繋がっており、モール歩きが楽しい。心なしか天井が低く、様々な色やデザインでコーティングされたiPhone用イヤフォン(の模造品)など、中国らしいアイテムがあちこちに並べられている。
ゲームショップもいくつかあり、PS4やXbox Oneなどの最新ハード、「ファイナルファンタジーXV」の予約受付を含む新作ゲームも取り扱っており、逆に商売にならないためか海賊版の取扱はほとんどなかった。「儲からないことはやらない」という華僑の抜け目の無さを感じさせた。
その一方で、携帯電話に関しては、1,000円程度から購入できるフィーチャーフォンの取扱が多く、iPhoneやXperiaなどはほとんどない。この中間層から富裕層までを対象にしたごった煮感がおもしろい。やはりチャイナタウンは外れがない。
最後に紹介するのは、キアポ東部、ゴールデンモスクエリア。教会の周囲にマーケットがあるなら、モスクの周囲にもマーケットがあるのではないかと当たりを付けて訪れてみた。キアポ教会近くの鉄橋から東側に渡ると、グッと人の往来が減り、ベッドタウンの雰囲気が強くなる。
期待したマーケットらしきものはなく車も通れるほど道は空いていた。仕方がないのでそのままモスクに直行して参拝し、子供たちとのふれあいを楽しんでからカリエド駅に向けて来た道を戻ろうとしたところ、街の風景が不自然なことに気づいた。空ディスクやディスクケースを扱う店はあるのに、肝心のDVDショップがひとつもないのだ。そういえば、入り口のガラスにはスモークが貼られ、中が見えないビルがいくつもある。海賊版レーダーがビンビンに反応した。
覚悟を決めてその1つに入ったところ、驚きの風景が広がっていた。ジャカルタで見つけた海賊版の卸売マーケットJEC Electronic(参考記事)を凌ぐ規模の海賊版モールだったのだ。細い通路以外、視界は海賊版で埋め尽くされている。予感はあったとはいえ凄いところに踏み込んでしまった。
落ち着いて辺りを見回すとパイプ椅子にだらっと腰掛けていた警備員が鋭い眼光でこちらを見ている。うっかり迷い込んでしまった観光客を装うとそのまま追い出される可能性があるため、ここは初めて訪れたプロの業者を装い、まっすぐ踏み込み質問を重ねてみた。
海賊版の価格はお店によるが、1枚30ペソ(約68円)から60ペソ(約140円)ぐらい。大量に買えば安くして貰える。全部で何店舗あるかは入れ替わりが激しいので誰も把握していないが、このエリアだけで数百店舗ある。扱っているのは映画やアニメ、音楽CDがメインで、ゲームはない。アダルトについては「このビルでは扱っていない。向かいの店に行け」とぶっきらぼうだが、実に多くの有益な情報を教えてくれた。
実際に向かいのモールに行くと、さらに広大な海賊版モールだった。警備員が語るようにアダルトDVDの専門店もあり、さらにTVドラマのDVDでよくあるようなスチールケースに入れられたシーズンパックの海賊版ばかりを扱うお店などもあり、本物を偽装した海賊版パッケージが大量に作られており、JEC Electronicより洗練されている。
奥ではシュリンク作業を行なっている従業員の姿も確認できた。店員はごく普通の半袖姿の男性もいれば、全身黒ずくめのブルカを被った女性もいて、その子供らしき姿も散見される。家族単位でこの海賊版ビジネスを手がけていることがわかる。
あらためてこのエリアを観察すると、モールタイプのビルはすべて海賊版を扱っており、ディスクの仕入れから、焼き込み、シュリンク、販売まですべてここで行なわれているようだ。ビルに止められた路駐の車は業者の車で、ここで買い付けて今回訪れたショッピングモールやマーケットに送られるのだろう。
ポイントなのはゲームの海賊版がないところ。もちろん、モールやマーケットではゲームの海賊版も見られたため、絶滅したわけではなく、こことはまた別の場所で処理されているのだろうが、これはチャイナタウンでも感じたことだが、ゲームの海賊版は確実に以前ほど需要がなくなりつつある。PS4やXbox Oneといった現行世代のゲームプラットフォームが、海賊版をシャットアウトしているところも大きく影響しているだろう。個人的には、海賊版の終わりの始まりを見た気がした。