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AppBankの「パズドラ」実況プレイは“うまくなってはダメ”だった

CEO宮下泰明氏が考えるゲーム実況の歴史と未来

8月26日~28日 開催

会場:パシフィコ横浜

宮下泰明氏

 CEDEC 2015の初日となる8月26日、AppBank代表取締役CEOの宮下泰明氏によるセッション「ゲーム実況の今後に関して」が開催された。

 このセッションではゲーム実況の歴史を振り返りつつ、AppBankがスマートフォンアプリ「パズル&ドラゴンズ」のゲーム実況で考えていたことが語られた。AppBankといえば、マックスむらい氏による「パズル&ドラゴンズ」(以下「パズドラ」)のゲーム実況放送が有名だが、大ヒット番組の裏には様々な考えが潜んでいた。

面白い動画から、面白い配信者へ

PCのMMORPG黎明期に動画配信という文化が広がった
ニコニコ動画の登場で、ゲーム実況のスタイルが確立した

 講演の始めは、ゲームの動画配信に関する歴史が語られた。宮下氏は、ゲーム実況の原点であり理想であるというテレビ番組「スーパーマリオクラブ」を紹介。動画とゲームを最もわかりやすく融合させた番組なのだという。

 ネットでの動画配信の黎明期は、各々が動画をエンコードし、自分のホームページに掲載するというスタイル。当時はMMORPGの黎明期でもあり、強力なボスを倒す動画を掲載するというものがあった。またFlash動画と呼ばれるもので、ツールを使ったスーパープレイを見せるものなども登場した。

 その状況に変化が起こったのは、YouTubeの登場による。2005年頃から、無制限にアップロードしていいプラットフォームが誕生し、全世界で動画を見る、アップするということが身近な存在になった。また従来はホームページで紹介されていた動画が、SNSを通じて動画そのものが共有されるということが増えていった。

 続いて2006年にはニコニコ動画が登場。動画にコメントを付けるという仕組みで、動画を見るだけでなく一緒に楽しむという文化が生まれた。その中で人気が出た動画は、ゲームとアニメ。日本のカルチャーで有名なものをみんなで共有して楽しむというものだった。ゲーム実況は2007年から本格化。遊びながら喋るというスタイルで、なおかつ配信者と視聴者の掛け合いで動画を作っていく。

 ゲーム実況は2012~2013年ごろから、ある変化が見られるようになった。面白い動画を見るために人気の動画を探すのではなく、人気の配信者の動画を見るという流れになった。配信者は人気を集めるため、発売してすぐのゲームの攻略を上げていくなど、情報や配信の質を高めていくようになった。配信者の動画のレベルが上がっていく中で、視聴者の目も肥えてきて、配信者を下手だなどと言うようになったり、配信者が人気を得るために放送内容を過激にしていった。

 ゲームコンテンツから見た人気度では、「マインクラフト」が圧倒的な人気。手芸のように作れる自由度がネット動画と相性がよかったという。また遊びの終わりがないMMOや、スーパープレイが見られる対戦系も人気が高い。「Grand Theft Auto」なども自由度の高さで人気がある。国産タイトルでは、「地球防衛軍」や「Demon's Souls(デモンズ・ソウル)」といった、ゲーム自体にツッコミどころが多いタイトルが人気を得た。

 ユーザー側にとっては面白いゲーム配信だが、メーカー側には難しさもある。アドベンチャーゲームなどでネタバレになるゲームはやりにくい。また著作権をどう扱うかも難題だ。たとえ動画が面白くても、企業的にはコンプライアンス的なところから突っ込まれてやりにくい。PS4ではゲームに配信の可否を設定できるシステムが搭載されたが、配信を許可すれば見てくれるというものでもなく、企業側としてはやはり使い方が難しい。

 ゲームメーカーがゲーム実況配信を活用するなら、有名な配信者と組むべきだという。面白いゲームが見られるのではなく、面白い配信者が見られているという現状から考えれば当然そうなる。ただ有名な配信者が預かれるゲームは1、2本なので、組むのは容易ではない。

 また生放送は既存ユーザーが見るもので、新規ユーザーを増やすことには向いていない。今のデイリーアクティブユーザーが多いならやればいいが、ユーザーが少数の時にやるのは相性が悪い。そして視聴者の統計上、動画を見るのは小・中・高の男子が中心なので、彼らに届く言葉は何なのかを考えて近づいていくのが大事だとした。

ゲーム実況を取り巻く環境が変化し、素人が気軽に実況しづらい状況もある
ネット動画で圧倒的な人気を誇る「マインクラフト」。終わりがないゲームは相性がいい

「パズドラ」を長寿命化させるため、実況者は下手であるべき

ツイキャスで「パズドラ」の番組を配信したのが始まり

 次はAppBankにおける「パズドラ」の取り組みについて語られた。「パズドラ」が他のゲームとは違うと感じたAppBankは、記事の10本中5本ほどは「パズドラ」にしたり、攻略サイトを作成するなど、接触的にプッシュした。

 「パズドラ」をやり続ける理由は、ダンジョンを突破するためのモンスターを育てることと、自分の腕前という2つのバランスにある。長くやり続けた人が強くてうまいし、うまくドロップを動かせる人が強い。それは当然なのだが、AppBankでは「そういう世界観を作るとゲームの寿命を短くする」と、自社の記事の人気を考えるだけでなく、「パズドラ」をもっと長寿命化させることまで考えたのだという。

 当時社長を務めていたマックスむらい氏は、「他にもっと遊び続ける理由があるんじゃないか」と考えたのだという。その好例が、「ポケットモンスター」のアニメ。主人公のサトシは、強いモンスターを手に入れたいのではなく、ピカチュウと仲良くなることで強くなろうとする。敵となるロケット団も、サトシの邪魔をしたいのではなく、ただピカチュウが可愛いから欲しいだけ。そういうメッセージを出し続けたことで、「ポケットモンスター」は長寿命化したと考えた。

 つまり、「パズドラ」は強ければいいというロジック感をなくすことが重要だった。この頃、ツイキャスで2回目の降臨ダンジョンの実況プレイを放送したが、このときはマックスむらい氏がものすごく下手で、30回ほどコンティニューしてようやくクリアした。下手なりにやっているのが見ていて面白かった。

 その後、ニコニコ動画に「パズドラ」の実況番組の提案をした。当時、実況ではスマートフォンゲームを一切やっていなかったが、「パズドラ」の開発元であるガンホーの協力も得て「降臨放送」を開始。マックスむらい氏がノーコンティニューでクリアすれば、課金アイテムの魔法石をプレーヤーに5個プレゼント。1回コンティニューするごとに1つずつ減ることにしたところ、視聴者がマックスむらい氏を応援してくれるようになった。

 しかし番組を続けるうちに、マックスむらい氏がドラマを見せつつも必ず勝つようになった。長く遊んだ人、腕のある人が勝つという形になってしまった。これでは「パズドラ」の寿命を縮める方向に向かってしまうため、その後は「負けたら終わり」というルールで実施。ベルゼブブ降臨でマックスむらい氏が負けたところで、以後はガンホー公式放送へと移された。

 その後、改めて番組の方向性を考え直し、ランク100になるまでのストーリーを見せねばならないと判断した。この層は無課金ユーザーがほとんどなので、マックスむらい氏もアプリを初期化した上で無課金ユーザーとして再スタート。少しずつ強くなっていくという動画を展開している。

 コンテンツの寿命を延ばすためには、ベテランがプレイを見せるガイドではなく、あえて下手なプレイで上達するところを見せる方がいいというわけだ。そもそも、コンテンツの寿命まで考えてメディア展開するという発想からしてユニークだ。ゲーム配信も立場の違いで様々な思惑があるものだと考えさせられるセッションだった。

ニコ生の「降臨放送」はレギュラー番組になった
勝ち続けてはいけない方針があるため、負けたら終わりという番組展開に

(石田賀津男)