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【特別企画】気鋭の“MMOゾンビゲー”「H1Z1」はなぜこれほど注目されるのか?
トラブルだらけの早期アクセス、突然のスタジオ売却も、精力的な開発で将来性に期待!
(2015/2/11 00:00)
1月17日にSteamにてアーリーアクセスが始まったゾンビアポカリプス・サバイバルゲーム「H1Z1」は、何かとお騒がせなタイトルだ。
“有料プレイテスト”が建前のSteam早期アクセスでの公開とはいえ、初日はサーバーの不具合でログインすらできず、かろうじてプレイできた者もクリティカルなバグの続出にノックアウト。最初の1週間は仕様なのか不具合なのか判断つけがたい理不尽な現象のオンパレードで、ようやくゲームとしてまともに遊べる雰囲気が出てきたのは1月も終わりに近づいたころだった。
その矢先に、本作開発元のSOE(Sony Online Entertainment)が投資会社に売却されるというニュースが飛び込んできた。売り手はソニー、買い手はニューヨークに本拠を置く投資会社のColumbus Nova。「Ever Quest」以来、ソニーの関連会社として20年にわたりオンラインゲーム開発を手がけてきたSOEは新社名Daybreak Game Companyとして再出発するのだ。当の開発元はコメントを発し「(『H1Z1』を含む)SOEタイトルの開発・運営は変わらず続けていく」としているものの、ユーザーにとってはなんとも先行き不透明な状態と相成った。
これだけトラブルに見舞われればユーザーに嫌われて閑古鳥が鳴きはじめそうなものだが、そうはならないのが「H1Z1」の魔力。公開初日からここまで、ピークユーザー数3万人前後という手堅い人気を継続的に維持しているのである。この数字、Steam早期アクセスのタイトルとしてはダントツだ。
なぜ「H1Z1」は、こうまで未完成な状態であっても、開発元が身売りに遭っても、プレイする価値があるのだろうか。アーリーアクセス初日から2週間あまりのプレイを通じ、感じたところをご紹介していこう。
既存ゾンビゲーの良いとこ取りな仕様&将来性への期待を集めた「H1Z1」
「H1Z1」は、ゾンビウイルスでほとんど人類が滅亡してしまったポストアポカリプスの世界で、知恵と勇気を振り絞って生き延びることを目指すゲームだ。「バイオハザード」や「デッド・ライジング」、「Dead Island」とは違って、本作は純粋なオンラインタイトルであり、1サーバーに大勢のプレーヤーが参加するMMOGでもある。ジャンル的には「DayZ」の系列だ。
このジャンルは「DayZ」以降にわかに盛り上がり、近年では供給過多なほどタイトルが出てきている。「DayZ」のほかには「RUST」、「Unturned」といったタイトルが人気だが、これらのタイトルに共通するもっとも重要な特徴は“1番恐ろしいのはゾンビではなく人間”ということ。
つまり、オンラインゲームであるため大勢のプレーヤーとともにひとつの世界で暮らすわけだが、目当てのアイテムを探しにくまなく探索するよりも、それを持ってそうな人間(プレーヤー)を殺して奪ったほうが早いことが多いのである。こうして、この手のゲームは自然のなりゆきとして、大変な時間と手間をかけたデスマッチと化す。
ゾンビの群れをかきわけ、怪我や飢えと戦い、大変な思いをして集めた物資や装備も、1発の凶弾で根こそぎ奪われる。あるいは奪う。そのスリルや背徳感は、はじめから敵と味方にわかれて戦うゲームでは絶対に得られないものだ。その結末にいたるプロセスにどれだけの深みや広がりがあるかが、ゾンビアポカリプス・サバイバルゲームにおいてのキモである。
その点でいうと、「H1Z1」には2つの軸がある。「DayZ」のように探索するのに大変な時間がかかる広大な世界と、「RUST」や「Unturned」のように膨大なレシピからなる各種アイテム・建材のクラフトシステムだ。
広大な世界という点では、本作は将来的にかつてないほどに巨大なゲームになることが期待されている。開発元のJohn Smedley氏のコメントによれば「Planet Side 2の少なくとも32倍以上」、他の発言も調べてみると最終的には128km×128km程度にになるというコメントも見つかる。昨年末にUbisoftから発売されたオープンワールドのレースゲーム「The Crew」よりもさらに大きい。また、ゲームエンジンはMMOFPSのPlanet Side 2と同じものを使用しており、その実績から1サーバーで2,000人以上のプレーヤーを収容することも可能とされている。
クラフトシステムも、現時点で武器や各種の道具から木の家、鉄製の要塞といったものが用意されており、種類は限られるが農地の作成も可能だ。金属片と木の棒を合わせて手斧を作り、木を切って材木を得、木の板を削りだして釘を合わせて家を建てる。野生動物を狩り、焚き火で肉を焼き、汚水を浄化して飢えと乾きを癒す。危険な町中で集めた物資を、隠れ家の収納箱に集め、より確実に生存していける環境を整える。
こういった仕様をもつ「H1Z1」の世界は、数時間、数日をかけて自分の生存環境を作り上げていくという、ゾンビアポカリプス・サバイバルゲームのキモとなる要素がひととおり備わっているように見える。確かに理想としてはそのとおりだ。
しかしいまのところ、世界は8×8km程度の広さしかないし、1サーバーの収容人数は200人程度(それでも『DayZ』の4倍だが)でしかない。建物に関しても、ログイン直後に設置物をすり抜けられてしまう不具合のため隠れ家の防備をいくら固めても意味が無かったり、そもそも作れる家の形が最初から決まっていて工夫のしようがないなど、様々な点で本作は未完成だ。
未完成だからこそ早期アクセスという形での公開となっているわけだが、しかしそれでも30~50時間は新鮮な気持ちで遊べてしまうほどのボリュームと体験の質はある。
手ぶらで生まれて、布切れと木の枝で手製の弓を作り、数十分ほど探索。銃を持ったフル装備のプレーヤーの背後に忍び寄り、渾身のヘッドショット1発で殺害、装備を全部いただく。若干の罪悪感を感じつつ資材集めに出かけると、見知らぬプレーヤー集団と遭遇。話しかけようとした矢先、突発的に始まる銃撃戦。慌てて隠れるも、被弾して出血が止まらない。銃声を聞きつけて、また別のプレーヤーも集まってくる。急いで包帯を巻く。味方なのか? それともひとまず逃げるべきか? 負ければすべてを失うというスリルに手が震え、脳髄は痺れる。
たとえいまだにバグが多くとも、アイテムの配置や再出現の仕様が不安定でも、建物が期待どおりに財産を守ってくれなくても、この緊張感は味わえる。そして本作では、ほぼ週に2回のハイペースでアップデートが行なわれており、日を追うごとにどんどん快適に遊べる状態になってきているのだ。
さらに2月15日には、それまでのユーザーフィードバックをもとに、今後3カ月の開発ロードマップが発表されることになっている。ゲームの完成は1年後か、ひょっとすれば2年後になるかもわからないが、現時点で得られる面白さが将来的にはもっともっと広がると思わせてくれるからこそ、毎日数万人のプレーヤーが本作をプレイし続けているのだろう。