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PS3「METAL GEAR RISING REVENGEANCE」
ぼくなりに1番温かく見守ってきたプロジェクト(稲葉氏)
(2013/2/12 13:45)
ぼくなりに1番温かく見守ってきたプロジェクト(稲葉氏)
――いきなりプログラムからディレクションっていわれて、戸惑われたりしませんでしたか?
齋藤氏:もう、最初はかなり! どういうふうに、何から手をつけよう?っていうのはありましたね。今までは製品をパッケージングして、バグもないように、チームをまとめて最後に押し出すという仕事をしていたので……。そうではなく、最初から全部に関わっていくということになったとき、何からはじめようと迷ってしまいました。その時、稲葉から「何をしたいのかちゃんと整理しろ」という指導があって。1週間くらいかけて項目をあげていき、最後に稲葉と話し合いをしてまとめて、小島プロダクションさんに持っていってプレゼンをしてもらいました。
稲葉氏:一応、初めてなんで。ぼくなりに1番温かく見守ってきたプロジェクトですね。
齋藤氏:最初は温かかった……(しみじみ)。
稲葉氏:いやいや! 最後まで暖かかった!(一同爆笑)。“温かい”と“甘い”は違うからね!? ほったらかすとえらいことになる。
玉利氏:齋藤さんが「最初からこうします」というものをハッキリ出してくれたおかげで、凄くやりやすかったです。それこそまさに方向を決める“ディレクション”。シナリオなどを直すことになっても、どこに向かっていけばいいのか、というのが凄く明確で困ることはありませんでした。
稲葉氏:ディレクターって、仕事はハッキリしてるものね? 方針を打ち出して、それにそっているかどうか判断する簡単なお仕事……うそうそ(一同笑)。逆にそのどちらかができないとグダグダになっちゃう。あがったものに対して、迷いに迷って決断できないとか。そこはちゃんとするように、という話を最初にしました。
――特にシナリオは、急に方向を変えようなんていうのは凄い話ですよね。
是角氏:ぼくらがお渡ししたとき、シナリオやボスはそのまま使いますので「この期間で、あとはもうゲームデザインだけお願いできれば!」っていう。今考えれば甘かったんですけどね。
齋藤氏:こちらのほうでは、ある意味全部ぶっちぎって。このゲーム性にあうように話もキャラも全部変えます!って。
――こういうアクションを見せたいとなったとき「シナリオもこうであって欲しい」というものが出てくるのですか?
齋藤氏:1番最初に見せていただいたシナリオと、BOOT CAMPでプレイしていただいているアクションの方向性がまったく違ったんですよ。今のリズムに対して、暗めの話だった。テンション的にあわないのと、ゲームのスピード、進行的に難しいなというのがあった。ゲームに合ったシナリオにならないか? と。
玉利氏:最初は「前のシナリオを部分的に活かしながら、こういうところを変えて……」みたいなオーダーをいただいたんですけけど「そこを変えたら、この話が成り立たないなぁ」という根本的なところだったりもしたので、それであれば時代設定から一気に全部作り直したほうがいい、と。そのほうがゲームとシナリオが融合したというか、有機的にからみあったものになるし、それが1番ゲームの面白い部分だと思うんですよね。話とゲームどちらも面白くても、それがバラバラの方向を向いていたら面白い体験にならなくなってしまう。ゲームのなかに入って、ストーリーを身体で感じながらやっていくのが、ゲームの1番面白いところだと思うんです。
――そのあたりはもう、作り手側として体得されているというか……。
稲葉氏:いやいやいや、それはないです(笑)。うちは特にアクションゲームメーカーなので、今までの作り方はアクション9(:1で)、それがとにかく最優先。アクションにつながるモチベーションだけがあればいいので、そこのフックが1番求めるところなんです。統一感とか、二転三転する謎が謎を呼ぶといったことはあまり求めないんですよね。ボス戦に入る前に熱いシチュエーションがあるとか、凄く迫力あるシーンが欲しいとかはありましたが、そういった意味では今回は異例の作り方です。そういう意味では“厚み”があるアクションゲームですよ。シナリオが凄くちゃんとしてて、アクション的にも動機付けがキッチリしてて、凄く面白い形だなぁと思います。
齋藤氏:シナリオを書いていただくとき「このシチュエーションを入れたいから、どうしてもコレをお願いします!」って。ライバル戦のところは、どうしてもアレがやりたい! といったのがありましたからね。
玉利氏:そこがハッキリしていると書きやすいんですよ。色々な要素があるけれど、どれがメインなの? みたいなのがわからないと組み立てられなくなってしまう。それが以前ちょっと悩んでいたところなんですけど、齋藤さんは「これがやりたいんだ!」という筋が通っていて、それを中心に全部考えました。
齋藤氏:ぼくはシチュエーションだけを投げていたので「どうつながっていくんだろう」という(笑)。あがってきたときに「おお、なるほど!」と凄く楽しみながらストーリーを読んでいた覚えがあります。
お互いの得意分野が組み合わさったことで、より“厚み”のある作品に
――両社で共同作業をされたことで、今振り返ってみて「ここが1番良かったな」と実感されたところをそれぞれ教えていただけますか?
齋藤氏:やはり世界観の作り方が非常に上手い。プラチナゲームズでもゲームに応じた世界観づくりをしますが、先ほど稲葉がいったようにアクションゲームとしてのさわり心地が第1なので、そこを重視してストーリーは後からついてくる、という形だったんです。キャラクターもアクションにあったデザインになりますし、シナリオに関してもそう。「METAL GEAR」の世界観は設定自体が重厚で、キャラクターの考え方、内面などの作り方や語り方も参考や勉強になったというか、刺激を受けた部分ではあります。
稲葉氏:会社としても、凄く勉強になりましたね。「METAL GEAR RISING REVENGEANCE」チームは、次にゲームを作るときに“ひとつ厚みを持って作れる”スタッフになったんじゃないかと思います。「METAL GEAR」という世界だから、得られた部分はあると思います。
是角氏:うちとしても、うちになかったところを教えていただいた。アクションゲームで1番こだわらなくちゃいけないところ。アクションゲームは、まずこれを中心に作らなきゃいけないというのを教えていただいた。それを教えていただいたことで、逆にうちの強みであるシナリオや演出に「こういう作り方だったら、こういう演出ができるね、こういうシナリオもアリだよね」という強みを頂戴したというか。うまく相乗効果としてのせることができた。
玉利氏:シナリオも、先ほどお話したように方向性を示していただけたので凄く明確に作業できたというのがある。以前は自分のなかで抑えていた部分というか「ここまでやっちゃいけないんじゃないか?」的な何らかの足かせがあったような気がするんですけど、もうそうしたものを取っ払って「とにかく面白いものを作るぞ!」というところに向けてぼくも大暴走してました。
是角氏:以前作っていたとき、ぼくらは「METAL GEAR」シリーズだからっていう変な“心のルール”みたいな、越えられないところがあったんですね。それがプラチナゲームズさんとやらせていただいたことで「えっ、いいのそこまでやって!」って。自分たちのなかの変なルール、壁を越えることができたと思っています。
齋藤氏:ぼくも「METAL GEAR」が凄く好きなんですけど、「METAL GEAR RISING REVENGEANCE」は新たなアクションゲームとして作らないといけない。その方向性の違いのなかで、どう世界観を壊さずにっていうのが1番苦労した部分ではあります。ぼくが好きな世界だけど、どうにか壊さず……けど壊さないといけない、みたいな。葛藤は一杯ありましたね。
稲葉氏:最初に小島監督から提示された制約が、驚くほど少なかったんです。とにかくアクションとして面白いものを作って欲しい。以上!っていう(一同笑)。たとえば、今まで作ってきた要素、自由切断を引き継ぐ必要もない。引継ぎたかったらすればいいし、要らないなら考え直せばいい。とにかくプラチナゲームズさんがやりたいようにやってくれと。「世界観の担保は、うちでしっかりやるから」というのがあった。だから、凄くやりやすかったですね。
――Youtubeのインタビューで最後に「いやぁ、つらかったよ」とおっしゃってましたけど?
齋藤氏:「ひどいプロダクションですね!」とかいってたやつですか?(笑)。
稲葉氏:あれは、プロジェクトをはじめるとき期間とか、求めるものがあるじゃないですか。「METAL GEAR」って名前がつく以上、当然ハイレベルなものが求められる。でも「これだけの期間しかないから」っていうことで「最初は好きにやっていいよ」というものが、もっともっとって。「これをやりなさい」じゃなくて「えっ、もっと早く出ないの?」とか「こういうのはないの?」というのがあって。「本当にひどいな、このプロダクションは!」みたいなのが本音としてポロッと出ちゃって(一同爆笑)。
誤解がないようにいっておきますけど、あれはぼくなりのリスペクトの言葉なんです。そういうことをダイレクトにいってくださる人じゃないと、仕事はできない。
是角氏:うちもたいがい締め切りはありますが、面白さには妥協はしない。思いついたアイデアはやはり実現したいので、締め切り前にまずそれができるか検討する。でも、まぁプラチナゲームズさんもたいがいですよね。「今の時期にそれを挑戦しますか!?」みたいな(一同笑)。いつまでも面白さを追求するところが……。
稲葉氏:思いついちゃうものは仕方がない!
齋藤氏:だって面白くなるし。
――それは開発期間が足りなくなる典型的なパターンでは……。
稲葉氏:齋藤の脳味噌の切り替え方が凄かったですね。プログラマーのときは、その思いついたことを「ふざけるな!」と止める立場だった。唯一心配したのはそこで、そういう考え方でディレクションをやると良くないんです。はっちゃけるかな? と思ったら、ぼくが思ったよりはっちゃけた。
齋藤氏:途中で色々とお説教をくらいました(笑)。