グリー田中社長、スマートフォン&ソーシャルゲームの“次”を語る

次のステップは「ゲーム性、ストーリー性」、新興国への進出で市場規模は今の「1.5倍」へ


9月20日~9月23日 開催(20日、21日はビジネスデー)

会場:幕張メッセ1~8ホール

入場料:前売り1,000円、当日1,200円、小学生以下無料



 東京ゲームショウ恒例イベントのひとつであるTGSフォーラム。会期初日の9月20日は2本の基調講演が実施され、1部ではCESA会長の鵜之沢伸氏、2部ではグリー代表取締役社長の田中良和氏がそれぞれゲーム業界の展望について語った。本稿では基調講演2部の模様をお伝えしたい。1部についてはこちらを参照頂きたい。



■ 1年間で人員を3倍に増やしたグリー。全世界10カ国11拠点を整備し、世界各地からグローバル展開を実施

GREE代表取締役社長田中良和氏
GREEの開発拠点は10カ国11拠点

 田中氏の基調講演は昨年のTGSフォーラムに続いて2年連続2度目となる。田中氏はここ数年実施している自社単独のカンファレンスGREE Platform Conferenceでも毎回基調講演を務め、同社のビジョンと、ゲーム産業の未来をわかりやすく提示してくれる。

 田中氏はまず“つかみ”として、基調講演に先立ち、会場を見てきたことを明かし、「ブースを見ておもしろそうなゲームがいっぱいある。ゲームを作るのはおもしろい仕事であり、我々は得がたい経験をしている」と語った。田中氏自身ゲーマーで、小学生からファミコンやファミリーベーシックで遊び、「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」、「ストリートファイターII」など多くのゲームをプレイしてきたことを明かした。

 次に田中氏は、自らが率いるGREEについて概略を説明した。GREEは2004年に創業し、2007年に金字塔となる「釣り★スタ」をリリースし、大ヒットを記録。フィーチャーフォン向けのゲームプラットフォーマーとして急成長し、社員数はグループ全体で1,864人に達することを紹介。今年はグローバル向けのプラットフォームGREE Platformを世界展開し、現在169カ国にサービスを提供している。

 社員1,864人という数字は1年前の約3倍ということで、この人員の急拡大の最大要因が、グローバル規模での開発拠点の整備である。日本だけで東京と大阪の2箇所に開発拠点があり、海外拠点ではサンフランシスコ、バンクーバーといった北米エリアに加えて、北京、ソウル、シンガポールといったアジアエリア、そして現在は中東のドバイ、ブラジルのサンパウロにまで開発拠点を設けている。

 田中氏は「短期的には日本のスタジオのタイトルのほうが競争力があるということが続くが、3年後で考えると、全世界でゲームを作ることの重要性は増してくる。GREEでは各地のスタジオと日本のスタジオの交流も進んでおり、世界中で交流が促進されることで、日本だけでは作れないようなゲームが作れる」と、開発拠点を世界中に置くことのメリットを強調。

 田中氏は、海外拠点の様子を写真で見せ、青と白のイメージカラーを基本コンセプトとしたオフィスで統一するなど、独自のこだわりをアピールしていたが、海外拠点の中でもとりわけ大規模なのがサンフランシスコということで、400~500人規模だという。これはソーシャルゲーム世界最大手のZyngaに準ずる規模だという。

【各地のオフィスの様子】
東京オフィス
サンフランシスコオフィスソウルオフィス



■ ソーシャルゲームの分野で次に求められるのは「ゲーム性とストーリー性」

ハードとインターネットの融合がソーシャルゲームを生み出した
スマートフォンの性能は、今後ゲームコンソールを追い抜く
ソーシャルゲームに求められるのはゲーム性、ストーリー性

 田中氏は、続いて本題であるソーシャルゲームの未来について話を転じた。田中氏は、基本認識としてソーシャルゲームは、ハードウェアとインターネットの発達によって誕生したエンターテインメントという捉え方をしており、PCとモバイルの垣根が曖昧になっているのが昨今のトレンドであり、今後はそれがさらに進展し、スマートフォンとPCが融合した新しいプラットフォームや、ゲームコンソールとPC、スマートフォンとの融合が図られるのではないかという見方を示した。

 田中氏が考えるヒントとして提示したのが、あと数年でスマートフォンが、ゲームコンソールの性能を追い抜くというNVIDIAの予測図。田中氏の講演ではたびたび使用されている図表であり、田中氏の中ではこの予測が確信に近いものになっていることを伺わせる。田中氏は、「このトレンドが続くとすれば、どんなPCよりも高性能なスマートフォンが生まれる。このスマホのハード性能が高まり続けるという前提で我々は何を作って行けば良いのか?」と問題提起した。

 次のヒントとして提示したのはネットワーク環境の進歩。ガラケー時代の2G通信では、データサイズが限られていたため従量制がメインで、3G通信時代ではデータ量が増大した結果、定額課金が当たり前になった。そして今後、LTEが主流になることが確実視されているが、田中氏は「LTEは今までの回線スピードでは実現できなかったことができる」とLTE時代に前向きな姿勢を見せ、「ハードのエッジ化、通信インフラの進化によって、遅い重いといった不利益を得ずに、ゲーム性やストーリー性を載せていくことができるのではないか」と、ソーシャルゲームの世界にもようやく、ゲーム性やストーリー性など、現代のコア向けのゲームに要求される要素が求められてくるという予測を示した。

 GREEはそうした未来の一端を覗かせてくれる具体例として「モンプラスマッシュ」、「ウォーコア」、「ともだち☆ドッグス」、「Wacky Motors」、「Wacky Pilots」といった自社タイトルを取り上げて多彩なゲームジャンルへの進出を画策していることをアピールし、ゲームにも流行廃りがあることを認めながら、「常に新しいゲームデザインが求められている。今受けているゲームデザインのゲームだけを作って行くのではなく、新しいチャレンジもしている。ソーシャル性を様々なゲームに織り込んでいくことが、ゲーム人口をカギになる。GREEではこうしたチャレンジを積極的にしていきたい」とまとめた。

 さらにプラットフォーマーとしてサードパーティーにも目を向け、カプコンの「モンスターハンター Massive Hunting」やコナミの「メタルギアソリッド ソーシャル・オプス」といった強力なIPのソーシャルゲームを取り上げながら、「GREEブースでは、新しい表現力、ストーリー性、ソーシャル性のゲームを展示している。ぜひ見ていただいてその意気込みを感じて貰いたい」と自信たっぷりに語った。

【GREEタイトル】

【ソーシャルゲーム発の文化】
本文では特に触れなかったが田中氏はソーシャルゲーム発の文化を構築する重要性についても触れていた。有り体にいえば、独自ソーシャルゲームのメディアミックス展開だが、「探検ドリランド」は課金ユーザーを増やすことより、そのIPのファンを増やす試みだという



■ 狙うべきは新興国。新興国&スマホ&ソーシャルで、ゲーム市場規模は1.5倍に

今後、インターネットアクセスの中心はモバイルに
スマートフォンビジネスは新興国が有望
ゲームビジネスは2020年に2010年の1.5倍に

 田中氏が次に示した未来は「モバイル・インターネットの台頭」。今後、スマートフォンの出荷台数がPCを抜き、インターネットのトラフィックもスマートフォンの割合が倍々ゲームで増えていくという予測データを示し、さらにスマートフォン関連のビジネスは先進国より、新興国のほうが圧倒的にポテンシャルが高いことを説明。

 田中氏は「スマートフォンは先進国でも普及するが、実はこの4年間で考えると、新興国で爆発的に普及する。4年間で10倍になり、将来的には半分どころか8割9割が新興国で販売されるという時代が来る。ゲームコンソールでは新興国でのゲーム需要は満たすことはできないが、スマートフォンであればそうした人々にもゲームを提供できる。日本で生まれ育つと、いつでもどこでもゲームで遊べると考えてしまうが、実はそれが実現できている国はまだまだ少ない。新興国でもゲームが楽しめる社会。それを全世界レベルで作りたい」と熱っぽく語り、今後は新興国も展開先として重視すべきことを強調した。

 この新興国展開の最大の武器として田中氏が考えているのが、「GREE Platform」である。現在169カ国向けにサービスを提供しているが、今秋を目処にプラットフォームレベルで現在日英の2カ国語から14カ国語への対応を完了する。現在、多言語対応はデベロッパーサイドで自力で対応していたが、今後はプラットフォーマーのサポートが受けられ、より多言語対応がしやすくなり、言語の問題で展開が難しかった東南アジア地域への展開などが現実味を帯びてくる。

 田中氏は、「GREE Platformのグローバル展開を通じて、プラットフォームの定義を変え、プラットフォームを作り直していく」と宣言し、「海外でゲーム開発を行ない、全世界で通じるゲームを作ることは可能」と断言し、基調講演を聴講している開発者に「一緒に新しいゲームを作り、全世界に提供しませんか」と呼びかけた。



ゲームは成長産業

 田中氏は最後にゲーム産業全体の未来についても言及した。田中氏は再度モバイル・インターネット環境が拡大していくという予測データを示しながら、「この大きな流れの中で、新しいモバイルデバイスを手にしている人向けにコンテンツを提供していきたい」と、今後も引き続きスマートフォン向けにコンテンツを提供していくことを改めて宣言し、田中氏の予測によれば、ゲーム市場は未だ成長産業であり、ソーシャルゲームも含めたゲーム産業は、2010年から2020年のわずか10年で、日本、世界とも1.5倍になるという極めて明るい未来を提示した。

 田中氏の話は、昨今のコンプガチャの問題やRMT問題、世界的なトラフィックの増大により、再び(部分)従量制に移行しつつあることなど、ソーシャルゲームを取り巻くネガティブな話題には一切目を向けず、ポジティブな話題のみに絞った講演だったが、現在の日本のゲームメーカーではあまり見られない圧倒的な攻めの姿勢や、海外展開にかけるブレの無さ、そして「今年と同じものを来年も作ってるようではダメ」という自己批判精神は大きく評価できる。外へ外へと攻め続ける同社の取り組みに今後も引き続き注目していきたいところだ。

(2012年 9月 21日)

[Reported by 中村聖司]