ニュース
【FFXIV FAN FES】幻の“次世代MMORPG”「rapture」が「漆黒のヴィランズ」で復活した理由が明かされる!
2019年3月25日 00:43
スクウェア・エニックスは、3月24日に幕張メッセで開催中の「ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)」ファンイベント「FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2019 in TOKYO」のステージイベント「開発者パネル」の中で「漆黒のヴィランズ」の舞台となる第一世界についての情報を公開した。
今回登壇したのは、吉田直樹氏とコミュニティチームの望月一善氏、バックグラウンドアーティストの志田雅人氏と、高梨佳樹氏。バックグラウンドアーティスト、略してBGは簡単にいうと背景を製作する仕事だ。タウンやイベントマップ、レイドのマップ、小さい小物など「何でも屋で何でもやっています」と高梨氏。志田氏も同じBGだが、こちらは環境の製作やテクスチャ、ライティングのブラッシュアップなど、背景の最終的な調整をするのが仕事だ。ちなみに志田氏は「リターン・トゥ・イヴァリース」でリドルアナ大灯台を担当したのだが、実は「FFXII」でもリドルアナの製作に携わっていたそうだ。
タウン製作のフロー
開発パネル前半は「漆黒のヴィランズ」でプレーヤーの拠点となる街「クリスタリウム」を例に、「FFXIV」に登場する街がどのような手順で作られているのかを解説した。
ラフイメージ・アート作成
まずはBGが作業をする前に、吉田氏とBG班でアイデア出しを行なって、大体のイメージを固める。
吉田氏曰く、「クリスタリウムという町はクリスタルタワーを中心に据えて、そこを絶対的な防御場所としてそれを取り囲むように街が作られているという話を決めて、その時点で第一世界に行くということは開発に話していますが、ただ第一世界の建築様式はまだ決めていないので、いったん自由に描いてみてくれないかと話しました」。
第一世界のイメージを作るうえでも、まずは自由に考えて欲しいただファンタジー感を強く出したいという事と、クリスタルのイメージでとかいくつかの基本的な設定はあったが、そこから各クリエイターが自由に発想を膨らませた。いくつか描かれた候補の中から、クリスタルタワーを中心に多層構造の土台があり、ドームで形成されている街という方向性に決まった。
企画説明と発注
「紅蓮のリベレーター」のクガネは和風なので平坦にして欲しいというオーダーで作られている。そのため今回は多層の街が選ばれた。ただ同じく多層のイシュガルドは非常に複雑な構造をしているため、吉田氏でも「今でも道に迷う」と言うくらい道がわかりにくくなってしまった。そのためクリスタリウムでは、施設を集中させた上で多層にという条件が加味された。
開発に入る段階では、まだ街の詳細な設定やストーリーは確定していなかったが、シナリオ班からは街がどんな目的で作られたか、誰が住んでいるのかと言った設定とともに、
入れて欲しい要素の発注があった。入れてほしい施設にはマーケットや酒場のような必須施設のほか、ここだけの施設として「大工房」がある。
「大工房」はクラフターやギャザラーのクエスト導線を一カ所に集中させたいというゲームデザイン的な意図と、最後の抵抗拠点である街にはクラフターごとのギルドを置く余裕はないはずだという世界観的な理由で、一カ所に集めて活気がある方がいいという吉田氏のこだわりの産物だ。
シナリオ班から強いオーダーがあったのは主人公の部屋。ストーリー上で個室を使うので用意しておいて欲しいとのことだった。そのため居住区を作ることになった。また、独特の活気がある、自立した生活をしているというキーワードから、「生活感を大事に作っていく」という方針に決まった。
ゾーニング
方針が決まると次はラフアートをもとに必要要素をどこに配置するか、おおまかな街のレイアウトを考えていく。本来なら人様にお見せできるものではないと高梨氏が恐縮しまくったレイアウトには、簡略化された図形で街の配置図が描かれていた。これをもとに仮の3Dモデルであるモックアップを作っていく。
モックアップ作成
モックアップはライティングなどが一切ない、オブジェクトを並べただけのものだが、この段階でどの施設をどのように配置するかが3Dマップの中で決められていく。マーケットはドーム状のクリスタルの下にアーケードのように密集している。居住区の建物はグリダニアのものを流用。建物の大きさを基に何件くらいおけるのかを検証している。
この段階で一度吉田氏のチェックを受けるのだが、今回は意外なフィードバックが帰ってきたのだという。それはアートに描かれていた白い地面が人工物のイメージだというもの。最初のモックでは単に白い地面と解釈されていた。
クリスタリウムは罪喰いなどの脅威から街を守るために当然守備を考えなければならない。だから当然門があると思っていたが、モックアップにはなかったので、吉田氏はそこに違和感を覚えた。また一般住民を守るために、居住区は最も防御が堅いクリスタルタワーのそばに存在していなければおかしい。居住区はドームで覆っていなければダメだし、クリスタルタワーにくっつけて欲しいという話になった。そういったやり取りを踏まえて、街はクリスタルタワーを取り囲むように多数のドームが連なっている姿になった。
街の正面には城壁のような構造物を入れて、マーケットは巨大なドームの中に全てを入れる形でモックアップが調整された。居住区はマンションタイプのような集合住宅になった。居住区のデザインについて、吉田氏は「マトリックス」に出てくる人類最後の抵抗都市ザイオンをイメージしたのだそうだ。高梨氏はザイオンを知らなかったため急遽「マトリックス」を見て参考にしてマンションのような居住区という形にモックアップを修正した。
アート作成
モックアップが確定した後、BGアートセクションにアートを発注する。今回はアートを発注して数日後に、皆川氏が「『rapture』のルックを利用することになった」と告げに来た。クリスタリウムのデザインを煮詰めている間吉田氏は自分の頭の中にあるイメージとのズレが気になっていた。当時ドームを支えている柱は金色だったが、そこは黒がいいとか、そういう明確なイメージはあるがなにぶん絵が描けないためにすべてを伝えるために苦悶しながら、そう言うものをどこかで見たことがあると言う話を皆川氏に話したところ「ちょっと待ってください、思い当たるフシがあるので」と「rapture」の資料を持って来たのだそうだ。
「rapture」は2005年にスクウェア・エニックスが次世代のMMORPGのテストケースとして発表した映像。製作期間は約4カ月。繊細なガラスのドームに柔らかな光が透過し、夕暮れを反射して輝く海の上を飛竜が飛んでいくという印象的な映像美の作品だ。
当時のスタッフによれば、これは新しい技術とデザインの研究のため、機材のスペックは度外視して「やりたい放題作りました」という実験的な映像だ。例えば照明のランプは、中に入っている電球をモデリングして仕込んでいた、さらにその電球の中にはフィラメントまでがモデリングされているなど、見えない場所までこだわり抜いて作られている。現代のスペックでも動かすのが難しいというすさまじさで、もちろん当時の実機では動作しない。プリレンダリングにはものすごい時間がかかったということだ。
「E3の映像が公開された2005年には、自分が『FFXIV』を担当することになるとは思っていなかったけれど、あの衝撃的な映像が、クリスタリウムという街を作ろうとしたときに心のどこかに引っかかっていたんですよ。それを皆川さんが繋いでくれて、これだとなって今のクリスタリウムが作られているので、FFXIVはすべてを回収していく。あれは実は胸像世界にある第一世界だったという壮大な複線だったと(笑)」と吉田氏。
もちろんそのプリレンダリングの映像をそのまま再現することはできないが、当時のモデルを再利用して加工しつつ街の装飾が作られていった。全てのリソースを貪欲に自作品の中に取り込んでいく「FFXIV」らしいアプローチが、オールドファンにとっても思い入れのある風景をゲーム内に蘇らせた。
本制作
曲線で構成された「rapture」のデザインはポリゴンを大量に使っている。それを「FFXIV」で再現するため、きれいに見えつつデータ量も落とすように試行錯誤しながら作られている。
ゲーム業界人には妄想力が必要
BG班は基本、シナリオ班などからの要望を受けて背景を作るが、要望以外に実際に実装できるかどうかわからないが、BGの妄想であれを足そうこれを足そうと考えている時が一番楽しいポイントだと高梨氏。吉田氏も、発注された資料を基に組み上げるのはある意味普通で、たまにそこから跳ねる人がいるのだと言う。頼まれたこと以外に、こう言うことをやったら面白いんじゃないか、小物を配置するならこうした方がいいんじゃないのなど、高梨氏は妄想力が凄いと絶賛。ゲーム業界を目指す人はそう言う妄想力を持って欲しいと語っていた。
実際クリスタリウムにはそう言うBGの妄想力の賜物と言えるような施設がある。例えばお酒や美味しいものを食べるのが大好きと言うスタッフの作ったカウンターには、ビールサーバーのようなものやテーブルや棚に並ぶ料理や酒瓶が丁寧に作られている。ちなみにカウンターに立っているモーグリ帽子を被った白いルガディンは、まだコーディネート前のキャラクターであることを示す共通仕様だ。
さらにクリスタリウムにはあちこちに白いニワトリがいる。実はこのニワトリ、「旧FFXIV」時代からいるが、使い所のないままになっていたものだそうで、ここでついに登場することになる。そんなニワトリのための鶏小屋もこだわりの産物だ。
シーズナルイベントでは街中に様々な飾りが配置されるが、どこに何を置くかはBG班の独自性にゆだねられており、吉田氏も時キャラでログインするまでまったく知らないそうだ。ウルダハの雪だるまがミニストーリー仕立てになっていたり、守護天節で意外な場所に飾りがあったりするのは、BG班の遊び心だ。また、アバラシア雲海にあるモーグリの形をした島やハート型の島も各個人のスタッフの独自性の発露なのだとか。
ライティングなど環境の制作フローを紹介
志田氏が環境の制作について紹介した。環境の制作はマップに光を当てることでよりかっこよく見せるという仕事。「FFXIV」では光の変化があり、環境を変化させることによってプレーヤーに視覚的な新鮮さを提供している。
「FFXIV」の絵作りは3.0の時代から「Dark Fantasy」がキーワードになっている。これは従来よりもシリアスな雰囲気で、大人が楽しめるビジュアルにしたいというオーダー。作り直しだった「2.0」では明るめの色味が使われているが、「3.0」で暗い場所は暗く、明るい場所はより明るくして、絵を引き締めていって大人の鑑賞に耐えられる世界にしたいという方向性をだし、その後はずっとそれが踏襲されている。
その絵作りをするために、皆川氏が「一番ですよ」と吉田氏に推挙したのが志田氏だった。「蒼天のイシュガルド」では皆川氏と志田氏、吉田氏の3人で絵作りを行ない、「紅蓮のリベレーター」からは志田氏が1人で担当するようになった。志田氏は「Dark Fantasy」というテーマを自分なりに分析してリストにまとめた。
リストの中にあるケレン味について吉田氏は「分かりやすく言うと、多少このエリアで太陽の位置がおかしくてもかまわないというような。物理的に正しいことが絵として面白いわけではないので、最後は枠を越えてでも幻想的な絵を作っていくことのほうが大事」ということだと語る。
今回は「漆黒のイシュガルド」の新エリア「アム・アレーン」を例にデータ制作の例を解説した。アム・アレーンは過酷な自然環境化にある赤い砂漠という設定。
アム・アレーンのテクスチャには、サウジアラビア出張で志田氏が撮り貯めた1,000枚を超える写真をフォトショップで加工したものがテクスチャとして使用されている。
今回はたまたまサウジアラビア出張で、普段は行くことができないような場所で砂漠を撮影することができたが、もしそういう機会がない場合は東京近郊で賄われるそうだ。実はグリダニア中央森林は、新宿御苑と代々木公園で、ギラバニアの断崖は千葉県銚子市の屏風ヶ浦の素材が使われているそうだ。最近ではグーグルストリートビューで散策し、目星をつけてから写真を撮りに行くこともあるとか。
空と雲もテクスチャなので、フォトショップで作成されている。空は1時間ごとのグラデーションを切り替えて使い、雲は手書きや写真素材を使っている。入道雲が欲しいと思って、なんと自費でグアムまで撮影に行ったこともあり、とても楽しかったというのだから、この仕事を心の底から愛しているのが伝わってくる。
こうして必要なデータを揃えた後、専用ツールで約90ものパラメータを制御して環境の設定を行う。建物にライトが当たっていない時には、立体感もなくとてものっぺりした印象だが、ライトを充てることで雰囲気ががらりと変わる。空を設定し、環境光、太陽光、雲、遠近感を出すためのフォグ、光源としての太陽を設定した後、最後に印象を操作するためのカラーフィルタをかけて完成する。これを時間の変化に合わせて設定していく。
天の川は志田氏の手書き。「冒険者の皆様がスクリーンショットをたくさんネットにアップしていただけたので、作ってよかったとしみじみ思いました」と感慨を語っていた。雷やオーロラなど特殊な天候はエフェクトとして表示している。こうして一通り手が入った時点で、吉田氏のチェックが入る。色や明るさの調整や、ニュアンスや雰囲気など印象の調整のオーダーが入ることもある。
アム・アレーンに関しては、「もっと気温を上げて欲しい」という無茶振りが入った。アム・アレーンはこれまで出てきた中で最も暑い砂漠で、この地域を歩いているプレーヤーが猛烈な暑さを感じて欲しいという吉田氏からのオーダーだった。最終的に多少赤みを増した形で完成した。最後にこのエリアにキャラクターを置いた時に自然に見えるかをチェックして、環境制作の仕事は終了する。「ふと足を止めて、きれいな景色が見えると叫んでもらえたら私の仕事は成功かなと思います」と志田氏。「漆黒のヴィランズ」でも志田氏が環境を作ったマップが多数登場する。駆け抜けてしまう前に、立ち止まってそのエリアに込められた様々な想いを感じてみてはどうだろう。
(C) 2010 - 2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. LOGO ILLUSTRATION: (C) 2018 YOSHITAKA AMANO