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3人が見せる“表情”に隠されたモノ、「マフィア III」の交渉シーン
利益を得るために駆け引きを行なう「sit down」システムの魅力
2017年3月3日 19:28
GDC2017のセッション、「Designing System Driven Dialogue in 'Mafia III'」では、開発元であるHangar 13で、「マフィア III」のSystems Designerを務めたRemy Boicherot氏が、特に「sit down」の演出、システムを詳細に語った。
「マフィア III」は敵であるイタリアンマフィアのテリトリーを襲撃し、地域を支配するギャング達を倒し、自分のモノにしていく、オープンワールドクライムアクションだ。主人公であるリンカーンは奪ったテリトリーを3人の仲間の誰かに任せる。
ハイチギャングの「カサンドラ」、仲間に裏切られたイタリアンマフィアの「ヴィト」、アイリッシュマフィアの「バーク」の3人に分配していく。彼らの誰に地域を任せるか、それを決定するのが3人と共に1つのテーブルに座る「sit down」である。
1つの地域は2人の地域を支配する敵と、彼らを倒すことで現われるボスに統治されている。リンカーンは2人の敵を倒した後、ボスに挑むのだが、1人のボスを倒した時点で地域の支配権の半分を仲間の3人のうち1人に任せ、2人目の敵を倒した時点で再び選択、ボスを倒した時点で最終的にこの地域を誰に任せるかを選択する。このとき選択の仕方によって、1度は地域を任されたのに最終的に他の仲間に地域をとられるといった、“損得”が生まれる場合がある。
Boicherot氏達開発スタッフは「Civilization」、「Football Manager」、「The Sims」といったゲームを参考にシステムを組み上げていった。損得が発生するときに、仲間の態度は如実に変わり、それに対するリンカーンのリアクションも変化する。そしてこれらの反応について明確なメッセージは出ない。プレーヤー自身も仲間達の腹の底を探る、独特の緊張感のあるシーンを作り出しているのである。
この駆け引きを面白くしているのが仲間にシマを与えることで得られる「peaks」である。仲間が強力になるとリンカーンの能力がアップし、携帯弾薬数が増えたり、タフになったりする。しかし、仲間達のパワーバランスを考えると公平に分けるのが大事だが……手っ取り早く必要な能力をとろうとすると、仲間をえこひいきしがちである。あまりに冷遇をすると、仲間は敵となり、リンカーンに牙をむくのだ。
開発チームは領土を得たり、失うことでどのように感情が変わるか、仲間達のAIを設定していった。「悪感情に流されやすく」、「慎重な選択をすると怒る」、「視野は狭い」といった設定が行なわれ、満足、普通、怒りという性格設定をした。そして「頂点に達した怒り」、「戦争を決意」、「戦死」というステータスまでいくように設定した。仲間を怒らせすぎると彼らは怒り、離反し、そして殺してしまうこととなる。仲間が欠ける状態も設定したのだ。
そして仲間達の反応をどうすればリアルにするかを考えた。ステータスに合わせて要素が変化するダイナミックに、細かく変化するのは“不自然”だ。このため、テキスト、アクターの台詞は「1つのセット」とした。怒ったり、こちらに再考を促したり、他の仲間に嫉妬したり……そういった反応は劇的に変化するのでなく、カットシーンとして丸ごと作ることで、感情の波をより自然に表現するようにしたのである。
このため、3人のキャラクターが順不同でしゃべったり、途中で会話を遮るのでなく、それぞれが自分の言い分をリンカーンにしっかり伝えるという会話のタイミングを作った。「sit down」では、カードのポーカーのように“手順”が回ってきたときに、台詞、表情、ライティングで仲間達は自分の感情と、希望をリンカーンに伝え、リンカーン(プレーヤー)の選択に反応するのである。
こういった形でシステムを練り込みつつ、よりキャラクター性を深めていくこととなった。カサンドラなら、バークなら、ヴィトならどういうしゃべり方をするか、どういう仕草をし、どうリンカーンにアピールするか、そしてリンカーンはそれにどう答えるか……機械的ではない、より自然で、感情的なやりとりはどういうものか、「マフィア III」としてのキャラクター性を「sit down」というシステムでより深くしていったのだ。
ここで気をつけたことは「基本システムはシンプルに」ということ。キャラクターの表現や、台詞は練り込んでいくが、変化する状況、増減する感情によるステータスの設定はあくまでシンプルにする。複雑にしたくなるシステムをシンプルにすることも気を配ったとBoicherot氏は語った。
交渉している仲間達は様々な感情を見せる。貪欲さ、嫉妬、焦り、うぬぼれ……Boicherot氏は様々なステータスのヴィトの表情を紹介した。まるで百面相のように表情を変え、それでいながら年齢を武器に常に上に立とうとするヴィト。事前に説明されているからこそ、その台詞や仕草からヴィトの「現在のステータス」が見て取れる。彼の反応からヴィトの“手札”が想像できるのである。
Boicherot氏はこのシステムから学べることは、「会話は普遍的なシステムである」、「過剰な感情描写は、キャラクター性を損ねる」、「音声収録には限界があり、安易な作り直しはできない」という点を指摘する。
その上で、基礎的なシステムは早期にしっかり決め、試作システムを作りきちんと検討し、実装した上で試す、そして問題が発生した場合は、それが表面的なものか、コアなものかをきちんと考えるのが大事だと語った。
「マフィア III」は“感情”が大きなテーマとなる作品である。リンカーンの得ていた家族の愛情が深かったからこそ、彼は復讐鬼になった。ヴィト、カサンドラ、バークも秘めた想いを時にのぞかせる。彼らは善人ではなく、時にこちらの背筋を凍らせるような悪辣さを見せるし、特にこの「sit down」での交渉の時に、彼らが発散する「腹に一物ある雰囲気」はとても面白い。今回話を聞き、改めて本作の“深さ”を感じたように思う。
「マフィア III」は特に欧米での発売時期に連発してしまったバグのせいで、プレーヤーである筆者にとって不条理に感じるほどに低く評価されている一面があると思う。「マフィア III」が表現したかったものは何なのか、どこが面白いのか、今回のセッションはスタッフの“主張”を感じることができ、興味深かった。ぜひ登場人物の“感情”に注目して本作をプレイしてほしい。