【特別企画】

EVOJ2024「鉄拳8」部門レポート! 発売後の初の大規模大会。シリーズ最新作でも日本VS韓国の激闘が継続!!

グランドファイナルで日韓対決を行う韓国代表は誰だ!?

 この時点で日本選手はグランドファイナルのウィナーズ枠に居るチクリン選手のみ、ルーザーズに残るのは韓国選手のみとなったので、グランドファイナルは日韓対決が確定した。韓国最強決定戦がここに始まったのである。

 ルーザーズセミファイナルはCHANEL選手と、ダブルドラゴンとして紹介したMangja選手の対決である。再びルールは2試合先取に戻る。

 Mangja選手はこれまでの試合展開からダブル選手のロウとは対称的に、比較的ディフェンシブに、丁寧に戦う印象を受けていた。矛がダブル選手ならば、盾がMangja選手だ。そしてCHANEL選手も比較的丁寧に戦うスタイルなので、今回はディフェンシブな試合が楽しめる構図である。

 ……と思っていたのだが、それは大きな間違いであった。1試合目はCELEBRATION ON THE SEINEステージ。船上で戦い、特殊なギミックもないスタンダードなステージだ。予想通り、「鉄拳8」のテーマである「アグレッシブ」とは違い、前作「鉄拳7」のような比較的ゆっくりと試合や、ローリスクな技の応酬により、最初の試合を制したのはCHANEL選手。

 そして2試合目、異変が発生したのは1-2でCHANEL選手がマッチポイントを迎えた4ラウンド目。ここまでは丁寧な試合展開で過去作の「鉄拳」玄人好みの流れだった。残り体力わずかのMangja選手がサマーソルトキックを空振りし万事休すかといった場面で、渾身のドラゴンアッパーカットがアリサを高々と打ち上げて、そこからのコンボで大逆転。今までハイリスクな行動を控えていたMangjaロウが突然牙を剥いたのだ!

サマーソルトキック1発目空振りからのドラゴンアッパーカットの瞬間。突然のアグレッシブプレイに「え?今戦ってるのダブル選手だったっけ?」と勘違いしてしまうような衝撃のシーンだった

 続くラウンドでもCHANEL選手のアリサが体力をほぼ満タンのまま冷静にロウの体力を2割程度まで削り、とうとう万事休すか?と思われた次の瞬間に渾身のダブルサマーソルトキックが炸裂し反撃開始、眠れる龍が目覚めた結果衝撃の逆転劇が発生した!

 試合先取数がイーブンとなり、最終決戦のステージはCOLISEUM OF FATE、YAKUSHIMAステージに次ぐ壁までの距離が遠いステージである。

 ここでも突然の大爆発を起こすMangja選手が1ラウンドを先取する。勝ちパターンも立ち回りはCHANEL選手が長時間制しているものの、突然飛び込んでくる渾身の一撃で大逆転を起こすというシチュエーションだった。この試合はフルセットまでもつれ込むが、最後は緩急織り交ぜたMangja選手のロウをリニアナックルで貫いたCHANEL選手の勝利に終わった。

奇しくもダブル選手、Mangja選手のロウを撃破した最後の技はどちらもリニアナックル。本当の技名はリニアナックルではないのでは……?

 そして間髪を入れず、グランドファイナルの最後の椅子を賭けたCHANEL選手とLowHigh選手の戦いが幕を開けた!!

 なんとここでCHANEL選手は今まで戦い続けてきたアリサではなく、ザフィーナを選択。アリサではドラグノフとの相性が悪いとの判断なのだろうか?

あくまで私見だが、「鉄拳」プレイヤーは1人のキャラクターに絞ってプレイする傾向が多いと感じる。そのためか、新作で既存のキャラクターが参戦する、しないという事は「鉄拳」プレイヤーにとって死活問題となっている気がする

 ドラグノフ対策で起用したと思われるザフィーナだが、流石はトッププレイヤー。対策をしているのはCHANEL選手だけではなかった。使用者が少ないレアキャラクターで、トリッキーな構えから攻撃を繰り出すため筆者にとっては攻略が難しいキャラクターなのだが、しっかりと横移動で特殊構えモードマンティスからの攻撃を回避して、反撃を叩き込むといった対処を正確に行ったLowHigh選手が1試合目を制した。

 2試合目からはキャラクターを再びアリサに戻したCHANEL選手。キャラチェンジを行ったが、LowHigh選手の猛攻を止められずもうあとがない状態へ。3試合目でもアリサを継続。高い攻撃性能とLowHigh選手自身の防御スキルに苦しめられるが、最終ラウンドではお互いにヒート状態で殴り合う構図に。しかしヒートで強化されたドラグノフの攻めにアリサに耐えきれるのか?と思われたシーンで、まさかの技が突破口を開いた。投げ技のスパムボムだ。スパムボムはアンドロイドであるアリサの頭部を相手に渡しそれが爆発するというコミカルな技である。投げ技なのでパワークラッシュ判定を持つ技には有効な技であるが、この時ドラグノフはそのような行動を一切していなかったため、投げ抜けは可能に思われた、ましてやトッププレイヤーとなれば抜けることは容易であろう。だが、それが炸裂した!

スパムボムで決着後、おもむろに席を立つCHANEL選手。何をするかと思ったらヘッドセットでスパムボム! 世界の頂点を目指す真剣勝負の中でこんなアピールを行える胆力と再現度の高さには思わず筆者は吹き出してしまった

 モノマネ芸でペースを取り戻したのか、4試合目の1ラウンド目はCHANEL選手が先制、勢いのついた積極的な攻めで2ラウンド目も勝利。3ラウンド目にはドラグノフの猛攻にラウンドを落とすが、首を横に振って「これアカンわ」みたいなリアクションをする余裕も見えた。が、LowHighの反撃が続きとうとう5ラウンド目までもつれ込む展開へ。ここで先程の投げのお返しと言わんばかりにドラグノフの投げ技が続けざまにヒット。

 そのまま冷静に上段派生をしゃがんでスカ確定からヒートバーストとヒートダッシュを絡めた空中コンボでとうとう力尽きるアリサ。グランドファイナルは、ウィナーズファイナルの対戦カードと同じというリベンジマッチとなった!

先程はCHANEL選手の窮地を救った頭部だが、今度はそれが敗因となってしまう。前述のリニアナックルの件といい、彼の繰り出す技には何か因果のようなものがあった

最終決戦はウィナーズファイナルの再戦!最強の栄冠を手にするのはどちらだ?

グランドファイナルへ残ったのはLowHigh選手(左)とチクリン選手(右)

 前述のようにグランドファイナルは日韓対決となった。ウィナーズ側はチクリン選手、ルーザーズ側からはLowHigh選手が勝ち残り、奇しくもウィナーズファイナルの対戦カードの再現となった。チクリン選手はLowHigh選手から3試合先取すれば優勝、LowHigh選手はチクリン選手が3試合先取する前に3試合勝利しリセットを発生させ、再びチクリン選手との3試合先取すれば優勝となる。

 キャラクターは再びリリVSドラグノフの構図となるか?と思ったがここでLowHigh選手が投入したのはボクシングで戦うファイター、スティーブ・フォックスであった。

 スティーブは過去作から相手の攻撃に合わせてカウンターの打撃を撃ち込むことが勝ちパターンのキャラクターで、主力技の「クイックフック」にて出鼻をくじかれた経験は鉄拳プレイヤーならあるあると同意してくれるだろう。

 その利点を活かして挑んだ1試合目。要所要所でスティーブの攻防一体の攻めが機能するが、あと一歩のところでリリが紙一重の勝負を制していく。

 ラウンド4では少ないチャンスでも大ダメージを得るチャンスへ昇華させていくチクリン選手のやりこみが光り、ウィナーズファイナル4試合目と同様壁が存在しない位置取りからでも防御が困難な2択攻撃を仕掛け、それが今回も命中しスティーブを撃破した。

 2試合目でLowHigh選手はキャラクターをドラグノフへ戻し、ウィナーズファイナルと同様のマッチアップとなった。ランダムで選択されるステージもDESCENT INTO SUBCONSCIOUSとなり、ウィナーズファイナルと全く同じ条件で試合が開始された。このステージは狭い階層で試合がスタートするため、リリの強力なセットプレイを行いやすい。1ラウンド目はその地の利を生かしたリリが勝利するが、それを活かせるのは何もリリだけではない。ドラグノフも壁を絡めれば一瞬でゲームを終わらせられる力があるんだぞ!と言わんばかりに逆襲をし2ラウンド目はLowHigh選手が勝利した。

ドラグノフの主力技ロシアンフック・アサルトがカウンターヒットしてしまえば、ヒートシステムを利用しなくても一瞬でここまで体力を奪い去る。LowHigh選手の壁までの空間把握能力とコンボ選択能力も合わさり、一撃必殺の威力を誇っていた

 ラウンド3では先ほどとは一変した小技による体力の削り合いが発生したが、残り体力数ミリでありながらヒート状態を維持したリリが渾身のラビットエアからの2択攻撃で逆転を狙う!今大会で本当に2択攻撃なのか?と疑いたくなるほどの命中率を誇っていたチクリン選手だが、ここでとうとうLowHigh選手に見破られ下段択をしゃがみガードされてからの確定反撃によって3ラウンド目もLowHigh選手が制した。しかし、4ラウンド目でも決して臆せずに強気に壁コンボからの2択攻撃を仕掛けるリリ、今度の選択肢はまたもや下段択。これが今回は命中し1本取り返す。

 最終ラウンドまで狭い2Fエリアで殴り合い、とうとうLowHigh選手にチャンスが来て下層へのギミック発動を絡めた大ダメージコンボが炸裂するか?と思ったところでまさかの攻撃が角度の関係か空振りしコンボが不発に終わる。これにより大ダメージ被弾のピンチを免れたリリが形勢逆転し、最後は立ちLPLPの連携で相手に背を向けてからの下段択を通してこれで2試合連取。チクリン選手が未だ到達していなかったEVO制覇の夢へ大きく近づいた。

 もう後がないLowHigh選手だが、キャラクターを変更せず再戦。選ばれたステージはARENAステージ。

 1ラウンド目はリリが壁を背負うピンチが何度か発生するが、ここでチクリン選手は壁を背にしているときだけ使える技を用いて壁際からの脱出を成功させる。こちらも高い空間把握能力が成せる技術だろう。そして落ち着いて1ラウンド目はリリが先制。

 2ラウンド目はドラグノフ体力8割程度の時点でリリは3割程度と大ピンチを迎えるが、ここで起死回生のカプリコーンキックが炸裂し、吹き飛んだドラグノフの後ろには壁が!! 一気呵成にチクリン選手は残っていたヒート状態を解放しつつ壁コンボからの今大会で何度も魅せたセットプレイを仕掛ける。今度は中段択を選択肢ヒット! そして再び起き攻めでラビットエアからの50%勝負に挑み、2連続で中段を選択しまたもやヒット! 神がかり的な命中率でこのラウンドも連取し、優勝まであと一歩となる。

リリを使用して同じセットプレイを仕掛けることのある筆者の経験則だが、チクリン選手の今大会でのこの2択ポイントでの命中率は異常としか思えなかった。人事を尽くして天命を待つという言葉の意味のように、天が授けた何かがあるようにも見えた

 優勝まであと一歩のラウンド3、日韓対決はこのまま日本の圧勝で終わるか?と思ったがそうはいかなかった、LowHigh選手も超一流のプレイヤーである。ドラグノフが最強キャラクター筆頭であり、プレイしているのも最強候補であるということを思い出させるようにたった2回のコンボ始動技をヒットさせただけでリリをKOしてしまったのだ。

キャラクター設定で、その圧倒的戦闘力から「白い死神」との異名で恐れられているドラグノフ。その名に恥じない恐怖を植え付けた瞬殺劇だった

 ラウンド4、チクリン選手のリリは攻撃的なスタイルから横移動を駆使してカウンターを狙うスタイルへ切り替える。その作戦が功を奏したか、ワンコンボで倒しきれる体力までドラグノフを消耗させる。ここから立ちLPLPから相手に背を向けた状態を作り出し、再び猛攻をしかける。まずは下段択が通り、ドラグノフをダウンさせる。ダウン追撃を行い、更に追撃のラビットエアからの2択攻撃、再び選んだ下段択はドラグノフの体力を奪い去り、長い激闘にとうとう終止符が打たれた!!

優勝を決めた瞬間と、その後喜びを全身で表すチクリン選手。悲願のEVO初制覇を成し遂げた

優勝者インタビュー、努力の天才が語る“鉄拳愛”

 大会上位入賞者へのメダル授与、賞品、賞金授与が行われた後、優勝者インタビューが行われた。チクリン選手はまず応援してくれた方々への感謝の言葉を述べた後、こう切り出した。

 「優勝したらどうしても言いたいことがあったんですけど……。本当にここ最近『鉄拳8』が凄く面白くて、毎日楽しくて凄い練習しててそのお蔭で優勝できたと思います。あと本当に『鉄拳8』は最高の面白いゲームですので、ぜひ皆さんも良かったらプレイしてみてください、お願いします!」

 と一礼をしてインタビューを終えた。チクリン選手の誠実、実直さ、そして「鉄拳8」への愛が溢れるインタビューだった。

好きこそものの上手なれという言葉が日本にはあるが、それだけではとても彼の偉業は言い表せないような気がした。筆者は「鉄拳7」シーズン3辺りから、チクリン選手の配信をよく視聴していた。視聴していくうちに、「努力の天才」との異名を持つ彼が、様々な困難に試行錯誤して立ち向かっていることが理解できた

 それは使用キャラクターの変更や猛者とのスパーリングのような格闘ゲーマーがよく行うものから、アーケードスティックのレバーに付いているレバーボールを従来のものより大きなものにするといった大胆なチャレンジもあった。本作ではゲーム性の大きな変更により主にディフェンシブな立ち回りより攻撃的な戦い方が重視されるため攻撃的なスタイルが目立ち、さらに操作デバイスもアーケードスティックからゲームパッドへ変更していた。

 そのような地道な努力が今回の結果に結びついたのは、なんともドラマチックな話ではないだろうか?また、かつての「リロイジャパン」の様に飛び抜けた性能を誇るキャラクターへの偏り、未知の強豪パキスタン勢の存在が明らかになるといった衝撃的な事件がなくとも十分見ごたえのあるタイトルであることが証明できた大会で筆者としては大満足な内容だった。

 そして現在多幸感に包まれてはいるが、「鉄拳8」のストーリーはゲーム的な意味、格闘ゲームシーン、どちらも始まったばかりである。大会会場では今後のアップデート内容が発表された。内容としては春にキャラクターの性能の見直し、夏期には新ステージの追加、2人目の追加キャラクターリディア参戦などがアナウンスされた。

 今年7月には今大会の本家の地、アメリカで「EVO 2024」の開催が予定されている。そのときにはまた新たな環境、そして今回は出場できなかったパキスタン勢の参戦、新たな猛者との遭遇が予想される。

 まだ戦いは始まったばかり。鉄拳8のシーンに飛び込む猶予はあるので、改めてチクリン選手の言葉をお借りしてこの記事を締めくくりたい。

「ぜひ皆さんも、プレイしてください!」