【特別企画】

EVOJ2024「鉄拳8」部門レポート! 発売後の初の大規模大会。シリーズ最新作でも日本VS韓国の激闘が継続!!

いよいよ始まる最終決戦! 古くから続く因縁の日韓戦が「鉄拳8」でも開かれる!!

 1,200名から6名まで絞られた過酷なサバイバルレース2日目を生き残った前述のメンバーだが、その中の所属チームに注目してほしい。ウィナーズ側の選手の名前にDRXという名前が並んでいることにお気づきだろうか?

これは韓国のeスポーツチームの名称であり、「鉄拳」のみならず、「リーグ・オブ・レジェンド」や「VALORANT」などで実績を残している名チームだ。

 そして何より、2日目で惜しくもトーナメント敗退を喫した韓国鉄拳界のレジェンド、KNEE選手も所属するチームである。KNEE選手と同門の仲間たちが、決勝の舞台に3名も残っているのは、「鉄拳」大国韓国が今作でも健在であることを証明した結果と言えるだろう。

 そんなウィナーズセミファイナル第1試合は、LowHigh選手とInfested選手のDRX同門対決となった。LowHigh選手は今作最強キャラクターの呼び声高いドラグノフを、Infested選手はキャラスペックは高いと言われながらも、使用率はそこまで高いイメージのないニーナを選択した。

 両者の試合展開はチームメイト同士だからこその読み合いが発生したのかと思われる部分がいくつか見受けられた。

 1試合目の1ラウンド目ではLowHigh選手が、5ラウンド目ではInfested選手がレイジアーツという他格闘ゲームで言えば超必殺技にあたる技を相手の動きを先読みして打ち込もうとする場面が見られた。

レイジ状態のときに1回だけ使用可能な「レイジアーツ」。カットイン演出のあと相手の攻撃を体力で受けられるならば無視して攻撃を行い、その攻撃がヒットすればド派手な演出と主に大ダメージを与えるが、残り体力で受けられないほどの大ダメージを受ければKO負けとなるし、読まれてレイジアーツを防御されれば大きなスキを晒すことになる

 1ラウンド目ではLowHigh選手のドラグノフがニーナの攻撃リズムを読み切ってレイジアーツを使用したが、残り体力では受けきれないほどのダメージを受けてしまい不発に終わった。5ラウンド目ではニーナの放ったレイジアーツはガードされ、コンボ始動技である右アッパーを被弾してからの空中コンボでKOされ、お互いに放ったレイジアーツは不発となってしまった。

 だが、決して大雑把な試合ではない。2試合目の2ラウンド目ではニーナの残り体力が減ったところでパワークラッシュというアーマー性能のある打撃技を放ちながら強化状態に入るヒートバーストを行い、そこから形勢逆転を図ろうと攻撃を仕掛けたタイミングでドラグノフがヒートバーストを後出し。これにより安全に切り返しつつKOするというリスク管理も万全な立ち回りを見せていた。

体力の少ないニーナがヒートバーストで態勢を整え直し、反撃というタイミングでヒートバースト返し。筆者もランクマッチで逆転を試みてInfested選手と同じムーヴをしたところ、同様の手段で返り討ちに遭ったことが何度もあるため、思わず「あ~、トップ選手でもこういう詰みに近い状態になるんだなぁ」と声に出たシーンであった

 2試合目はそんな手の内を知った同士だからのタイミング読み、所謂「身内読み」とも呼ばれるタイミングでのレイジアーツでInfested選手が勝利。決着は3試合目に持ち越された。そんな最終戦、LowHighのドラグノフが2ラウンドを続けざまに連取し、3ラウンド目も優位に試合を進めていく。このまま勝負あったか?と思いきや、ニーナがしゃがみ状態からタイミングをずらしての勝負の鰓斬りが炸裂し、レイジ状態の恩恵もあり大ダメージを与え一矢報いる。

 だが、最後はLowHigh選手が確実にダメージを与え、投げからの下段が背面状態のニーナにヒットして勝負あり。ウィナーズファイナルへの切符を真っ先に手に入れた。

同門での激闘を制したLowHigh選手

 ウィナーズセミファイナル2試合目は再びDRX所属のCHANEL選手と、日本人でウィナーズ側から勝ち上がったチクリン選手の対決となった。CHANEL選手は日本人選手との戦績が高く、チクリン選手にとって山場となる試合であると予想していた。

 1試合目ではCHANEL選手はアリサを選択、チクリン選手はリリを選択した。「鉄拳」シリーズの傾向として女性キャラクターはバックステップや横移動による間合い管理や、攻撃の回避に優れているため、カウンターをどう決めるかが筆者としては気になったマッチアップとなった。

高いバックステップ能力で攻撃を回避しているCHANEL選手のアリサ。しかし、横移動も巧みに使い、そこからコンボ始動攻撃を当てるという技術はキャラ性能だけでなく、プレイヤーの反撃精度の高さも光る

 攻撃を巧みに回避するアリサと、高い攻撃性能を打ち出すリリの1試合目は、フルラウンドまでもつれ込んだ。この時点でステージギミックにより狭いステージに変化しており、壁を使った大ダメージコンボをリリが高い防御スキルを誇るCHANELについに炸裂させ、まずはチクリン選手の勝利となった。

何かが起こると言われたORTIZ FARMステージの最下層エリア。非常に狭く、壁に叩きつけるとそのまま跳ね飛ばされ、高く浮き上がってしまうため大ダメージコンボを叩き込む大チャンスとなる。その恐ろしさがとうとう発揮された瞬間だ

 2試合目は打って変わってスタンダードなステージ形状のURBAN SQUAREステージが選出された。接近戦でのリリの攻撃力は前の試合でも証明済みで、上手く高火力コンボの起点となる技を被弾しないように動くアリサと、積極的に前に踏み込むリリの構図となった。

 とはいえ、アリサも決して防御特化というわけではなく、デストロイモードのような突然チェーンソーを持ち出し攻撃する技によって壁側に押し付ける立ち回りでリリの体力を削っていく。この試合でのポイントは「どちらが相手を壁を背にする状況を作り出せるか」にあった。

 しかし、2ラウンド目とうとうアリサが壁を背にした状態で壁コンボを食らってしまい、強烈なセットプレイを食らってしまい、一気に試合のペースはチクリン選手に傾いた。

現在のリリの強さを支えるセットプレイ。壁コンボを特定の技で締めることで、すぐさまラビットエアという特殊移動へ派生。ここから繰り出される中段と下段の2択攻撃は視認して立ちガードとしゃがみガードを使い分け防ぎ切ることは困難である

 間合いを離して壁からのプレッシャーを避けるように立ち回るCHANEL選手がタイムアップ直前まで競ったラウンド3だが、チクリン選手の巧みな下段攻撃が残り4カウントでヒットしラウンドを連取。先にチクリン選手がウィナーズファイナルへリーチをかける。

 CHANEL選手はプレッシャーをもろともせず果敢に攻め立て、先にリリをレイジ状態圏内まで体力を奪うが、ここで丁寧な立ち回りに定評があるチクリン選手がまさかのリターン重視のカプリコーンキックをぶっぱなし、それが見事にヒット。そこからのコンボではアリサの体力を削りきれないと判断したのか、コンボを完走せず、途中でわざとコンボを中断し、そこからの起き攻めで大ダメージを与える「ダブルアップ」を選択。この判断が功を奏し、ウィナーズファイナルで待ち受けるLowHigh選手と対決することが決まった。

ルーザーズ枠で火を吹くのは2匹の龍!! 燃えよロウ!!

 一方のルーザーズ枠で異彩を放っていたのが、2名のマーシャル・ロウ使いである。1人は韓国のMangja選手。かつてはMalguというネームで活動していたとのことだ。そしてもう1人は先月解散したプロゲーマーチーム「魚群」に所属していた日本のロウ使いダブル選手である。

 ウィナーズ枠で敗れ、ルーザーズ枠へ移動となった選手たちは、このダブルドラゴンと対峙することになる。

 まず行われたのがMangja選手とInfested選手の対決だ。

 ウィナーズではLowHigh選手とハイレベルな同門対決を魅せたInfested選手のニーナだが、ここで衝撃のシーンが流れる。なんと1ラウンド目はラウンド開始後20カウントで、2ラウンド目は19カウントでMangja選手にラウンドを連取されてしまったのだ!!

 しかしそこはここまで勝ち上がってた猛者、3ラウンド目では巧みにダメージを与えこのまま反撃開始!と思っていたところに上段派生をしゃがんだMangjaロウのドラゴンアッパーカットからのレイジ状態の大ダメージコンボが炸裂。再び息を吹き返したロウがそのまま1試合目をストレートで制した。

1コンボの中に2回のステージギミックを発動させ、建物を大破壊しつつ一気に体力を奪ったInfested選手のニーナだが……
最後の削りきりの猛攻の中でローハイ(下段から上段攻撃の連携の通称)を放ったところにしゃがみで回避され、空振りの隙に渾身のドラゴンアッパーカットがヒット。これにより一気に体力とペースを奪われ大逆転劇が発生。「鉄拳8」の爽快感と恐ろしさが同居していたシーンだ

 そして続けざまに選ばれたステージはARENA(UNDERGROUND)である。今大会はTEKKEN WORLD TOUR 2024ルールに基づいており、毎試合のステージはランダム選択を行うことになっている。普段の「鉄拳」の大会シーンでは負けたプレイヤー側がステージの選択権を得ることが多く、自分のプレイにあった、あるいはキャラクター同士の相性を考慮して有利なステージを選択できたが、今大会ではそれは不可能である。

 このステージはステージギミックの関係で大ダメージコンボが頻発する危険なステージ。ここでもMangja選手の操るロウの猛攻は止まらず、2ラウンドを連取。3ラウンド目、体力が少なくなったInfested選手のニーナが状況を立て直すためにヒートバーストのパワークラッシュ属性を生かした切り返しを行うが、そこに待っていたのはパワークラッシュ属性の技に一方的に打ち勝つことができる投げ技であった。完全なる読み勝ちでMangja選手がルーザーズ枠から1歩決勝の舞台へ近づいた。

苛烈な攻めが多い「鉄拳8」においては有効な防御手段となることが多いパワークラッシュ属性を持つ技だが、大きな弱点がある。それは投げ技には完全に無力であることだ。パワークラッシュ属性の技を投げ技で掴まれてしまうと投げ抜けできないため、今作では投げ技の価値も相対的に上がっている

 続いては日本の龍の登場である。日本を代表するロウ使いダブル選手だ。ダブル選手は最終日に残った選手の中で、最も「鉄拳8」のテーマである「アグレッシブ」を体現したプレイヤーだと筆者は考える。ダブル選手のロウの戦い方は、兎に角猛攻を仕掛けるスタイルだ。今作のメインシステムである「ヒートシステム」は、相手の猛攻に耐えるためヒートバーストを温存する守備的な使い方や、攻めを継続したり、コンボに絡めることでダメージを伸ばす攻撃的な使い方でプレイヤーの個性が出る。

 ダブル選手は「攻め」のヒートを行うプレイヤーで、早い段階でヒート状態になるヒート対応技をヒットさせ、ヒートによって性能が強化されたキャラクターを使って相手を圧倒する。そしてレイジシステムの使い方も特徴的で、発動時に相手の攻撃を受け止め、その後大ダメージを与えるレイジアーツを攻防一体の手段として多く用いる。

 格ゲー用語で言えば「ぶっぱなし」のような打ち方をするのだが、これが今大会中では魔法のように命中し続けていた。見ていて観客が熱狂するような戦い方をするプレイヤーだ。

 そんなダブル選手に対するのは、アリサで巧みに攻撃を回避し続けていたCHANEL選手であった。まさに最強の矛VS最強の盾のカードだ。

 1試合目、1ラウンド目では早速ダブル選手の魔法のレイジアーツが発動するのだが、魔法はかからずしっかりとガードされ、確定反撃を受けてKO。

 だが最速の龍も引けを取らず、別の武器であるしゃがみ状態でロウの強力な下段攻撃スライディングを意識させてからの中段攻撃での2択攻撃、そして対の選択肢であるスライディングキックも炸裂し取り返す。

 3ラウンド目、ややここで勝負の分岐点が見えたシーンがある。ダブルロウの猛攻をパワークラッシュで防ぎ、逆に守勢に回っていたいたダブルロウがヒートバーストによって切り替えそうとしたときには、多段技のチェーンソー攻撃にてアーマー判定の上から大きく体力を奪っていたのだ。これはもしかしてCHANEL選手がダブル選手のクセを研究していたのでは? と仮説を打ち立ててしまうほど見事なシーンであった。そしてそのままCHANEL選手が先に2ラウンド目を獲得。

 4ラウンド目ではスピードスターとも解説席から呼称されていたダブル選手のお株を奪うような猛攻でCHANEL選手が一瞬でロウの体力を奪いさる。そして残り体力が僅かになっても高速の攻めで反撃を試みるロウを丁寧に攻防一体のパワークラッシュ技を多用して完封。スピードスターの対策はバッチリか?と唸らされる1試合目であった。

 しかしこれだけがダブル選手の武器ではなかった。しっかりと上段派生をしゃがんで回避してからコンボ始動技で反撃、また先程は手を焼いたパワークラッシュ属性には一方的に打ち勝てるヒートスマッシュ技を命中させ一瞬で2ラウンドを連取、3-1で2試合目はダブル選手の勝利となった。

相手の手癖を1試合で見抜いて対策を講じて反撃開始したダブル選手のロウ。2ラウンドを連取したときには笑顔ものぞかせた

 3試合目はスタンダードなステージであるARENAステージ。ARENA(UNDERGROUND)ステージとの相違点はウォールバウンドという爆発を伴いながらキャラクターが高く浮き上がるギミックがないことだ。

 1ラウンド目では要所で横移動で攻撃を回避しコンボ始動技で反撃、2ラウンド目ではチェーンソーを生かした速攻でCHANEL選手が2ラウンドとも獲得し一足先にマッチポイントへ。3ラウンド目はダブル選手が執念の速攻でなんとパーフェクト勝利、4ラウンド目は残り体力わずかまで追い込まれるも、渾身のスライディング攻撃からの追撃で逆転。勝負はフルセットの大激戦となった!

 最終ラウンドはCHANEL選手が体力を巧みに奪い取り、優位に思えたが土俵際の粘りをダブル選手が見せ、最後までわからない激闘となったが、最後は奇襲攻撃のリニアナックルが炸裂し勝負あり。ダブル選手は5位入賞、チクリン選手が「ラストサムライ」となったのだった。

決着後、手を叩いて喜ぶCHANEL選手。感情を爆発させるのも納得の激闘であった

ラストサムライ、たった一人の戦いへ

 そしてウィナーズファイナルではチクリン選手と韓国のLowHigh選手が激突。

 奇しくも韓国最強プレイヤーKNEE選手との対決と同じリリVSドラグノフのマッチアップとなった。ここでは3試合先取したプレイヤーがグランドファイナルへ駒を進める。

 ステージのランダム選択で最初に選ばれたのはDESCENT INTO SUBCONSCIOUステージ。2階から始まり、特定の攻撃を当てると地面が割れる演出が発生し、下の階層へ移動する特徴がある。

 最初の階層の2階ではステージが狭いため、壁に追い詰めての強烈な攻めを展開できるチクリン選手リリが猛攻をしかけ、2ラウンドを続けざまに勝利。しかし3ラウンド目では1階層下に進みつつLowHigh選手が勝利、4ラウンド目の序盤でさらに下層へ移動し、最下層へ。最下層は今までの階層とは違い壁までの距離が非常に遠いため、リリの強烈な攻めを展開しにくい不利な戦況に陥ったが、壁を使わずとも的確にダメージを与え1試合目を先取したのはチクリン選手。

 しかし壁を利用できるのは何もリリだけではない。次に選ばれたINTO THE STRATOSHEREステージでの試合ではドラグノフが巧みな横移動でリリが壁から逃れられないような位置取りをキープし、逃げ場をなくした上でLowHigh選手がストレート勝利を決めた。

苛烈な攻めが出来るのはリリだけではない、ワンチャンスで相手を粉砕する破壊力を持っているのがドラグノフ。最強キャラ筆頭は伊達ではない

 3試合目はSANCTUMステージ。2度壁に叩きつけると壁が破壊され、その場合次のラウンドでは下層にステージ移動。またはファイナルラウンドでもステージ移動が発生するというギミックの発動条件がかなり特殊なステージである。

 ここでも最初はチクリンリリが壁を有効活用して強力なセットプレイを仕掛けて勝負ありか!?と思いきやここでお互いの体力が少なくなり、技が交差し決着するような場面でしか発生しない演出のスーパースロー演出が発動。技が交差するかに見え、最後に立っていたのはリリであった。この演出からの決着には会場も大いに湧き上がった!

リリがセットプレイを仕掛けた瞬間にドラグノフが攻撃を仕掛けていたのでから演出が発生していたのである。つまりドラグノフ側はセットプレイを打ち破る行動を行っていたのでは?と演出の面白さ以外のみならず、プレイヤーの行動理由を推理する楽しみも発生したシーンだった

 お互いに壁を利用するものの、前述の壁破壊ギミック及び下層ステージへの移動は発生しない戦いは、最後も壁コンボからのセットプレイを決めたチクリン選手がグランドファイナルへの切符へリーチを決めた。互いに壁を有効活用できるキャラクター、プレイヤースキルを持っているマッチアップだが、ここで運命のいたずらが起こった。4試合目に選出されたのは本作で最もステージが広いため、壁を利用しにくいステージであるYAKUSHIMAステージであった。

 ここではお互いの攻撃力が活かされにくいのか?と思ったがそんなことはなく、ド派手な殴り合いが展開された。試合はフルセットまでもつれ、今まで丁寧にドラグノフの攻撃を防いでいたリリが突然のカプリコーンキックを奇襲で命中させ、そこからヒートバーストを利用したコンボで壁が使用できない位置からでも強力な起き攻めを展開、ここで選択した中段択が刺さり、グランドファイナルへ駒を進めたのは日本のラストサムライ、チクリン選手であった。