インタビュー

【タイトー特集】ON!AIR事業部 事業部長 川島健太郎氏インタビュー

タイトーが目指すソーシャルとアーケードの融合とは?

タイトーが目指すソーシャルとアーケードの融合とは?

バカっぽい感じでいるのも管理職の大事な仕事だという
スマートフォンとアーケードの両方でヒットした「グルーヴコースター」

――川島さんは、この2年間、タイトーの開発現場を見ていて、開発会社としてのタイトーの強みとは何だと思いますか?

川島氏:1つは強いIPがたくさんあって、使われているものもあれば使われていないものもありますが、潜在能力は非常に高いということ。2つ目は“場の強さ”だと思っています。ゲーム開発は個人の優秀さにはそれほど依存しないと考えていて、たとえば優秀なディレクター、プログラマー、グラフィッカーがいたとしてもそれでチームを編成すればおもしろいゲームが作れるかというと私は必ずしもそうではないと考えています。

 大事なのは彼らが社内で半ば愚痴を言い合いながら、くだらない冗談とか、イタズラを仕掛けたりして、胸襟を開いてリラックスしながら会社で遊んでいてもいいと思うのですが、そういうやりとりをすることだと思っていて、そういう場がタイトーにはあるということです。それは古いゲーム会社が培ってきた文化だと思います。

 会社って出社すると構えてしまうところがあって、緊張するし、怒られてしまうんじゃないかとびくびくしてしまうんですが、そうではなく安全安心で好きなことが言えて、案だしをしていて、普通のアイデアではなくて、その上澄みの部分が出せるか出せないかということに関しては、場の力だと思っています。それがタイトーの開発には文化として残っていたというのは私の中で大きな驚きでした。

――その場の力、言い換えれば潜在能力のようなものになるかと思いますが、そうしたものが「LINEパズルボブル」や「グルーヴコースター」などを生み出してきたと言えるのでしょうか?

川島氏:そうです。それ以外にも折々でヒット作は生まれていますし、そうなると僕の仕事は僕が現場に立ってあれこれいうことではなく、その場の力を守っていくことだと思っています。なので、会社でバカっぽい感じでいるのも大事な仕事だと思っています(笑)。

――いま川島さんが直轄して持っているタイトルは1つもないんですね。

川島氏:ありません。ちょっと残念なんですけどね(笑)。

――タイトーは有効活用しているIPもあれば、先ほどの「バブルボブル」のように“死蔵”と表現していいようなIPもありますが、IPの活用について何かアイデアはお持ちですか?

川島氏:そうなんです。もったいないんです。そこら辺はまさに来期のラインナップの話になってくるので、いま広報が色めき立ってきましたが(笑)、インタビューのネタ的には欲しいですよね。タイトーのゲームといえば思い付く、アレとかアレとかアレとかは、近いうちに、今の形で復活すると思います。

――“今の形”とは何ですか?

川島氏:技術的に今の表現を取り入れるという意味もありますし、もうひとつは今の形とは要するにスマートフォンということです。かつてはそれがアーケードだったり、コンソールだったりしたわけですが、本質的にゲーム体験はどこで行なわれてもいいと思っていますので、遊び手にとって都合良く体験できる場を作れればと思っています。

――なるほど。

川島氏:あと僕はゲームをやるのに3つの場があると思っています。1つはじっくりやる。これは家庭用ゲームみたいに1時間以上プレイする。2つ目は隙間時間にやる。これはスマートフォンだけじゃなくて、アーケードも含まれています。5分、10分、ソーシャルゲームがその典型ですよね。3つ目は一瞬やる。で、これはあんまりないんです。株価とかニュースをちょっとチェックするあんな感じです。ちょっとした時間に楽しい体験をする、気持ちよくなる、そういうニーズは誰しもあると思うんです。

――言ってみれば、「Flappy Bird」みたいに、ゲームを始めて5秒でゲームオーバーになって満足するみたいな?

川島氏:そういうことですね。

――そういった刹那的な、瞬間的なエンターテインメントを作っていきたいということですか?

川島氏:そうですね。ぜひ作っていきたいです。たとえばそれはゲームそのものでなくてもいいんです。出撃命令がスマホに届いてもいいんです。「何月何日にどこのゲームセンターが襲われるから助けに来てくれ」とか。そういうのを読むだけでもちょっとした面白体験になるかもしれませんしね。僕としてはゲーム/遊びと、自分の生活をもっと被してリンクさせるということをもっとやっていきたいですね。

――川島さんが考えているのは、ハード単位でわかれているそれぞれのプラットフォームを、ゲームサービスという横串で繋ぐようなイメージですか?

川島氏:そうですね。今はもう技術的にもそうなっていますよね。スマートフォンも、アーケードの基板も、PS4も、全部PCみたいなものですから。ゲームソフトウェアを作る基板の技術は非常に均質化されています。「グルーヴコースター」のように、1つ作って、それを遊びたい場に出していくやり方を強力に推し進めたいと思っています。我々としては、スマートフォンにこだわっているつもりはなくて、こだわっているのはゲームであって、それをどこの画面に映すかだけです。

アーケード版「グルーヴコースター」の筐体

――8月以降AM事業も一部担当されるということですが、現在タイトーのAM事業はどういう状態にあって、今後どのように伸ばしていこうと考えていますか?

川島氏:まず、「グルーヴコースター(アーケード版)」が良い例ですが、現状タイトーオリジナルで新規タイトルの開発を進めております。最近だと「Left 4 Dead」がもうすぐ稼働を開始します。それからスクウェア・エニックスとはグループ会社ですので、OEMという形で「パズドラバトルトーナメント」や「ロードオブヴァーミリオンIII」、「ガンスリンガーストラトス2」などの筐体はタイトーが開発しております。企画とソフトウェア開発はスクウェア・エニックス、筐体の開発はタイトーという分け方になります。実はオリジナルの筐体を開発できる会社って、日本に数えるほどしかありません。この火を絶やさないようにしたいと思っています(笑)。

――すべて自社で筐体が作れるのはタイトーさんやセガさんなどいくつかしかないですよね。

川島氏:そうなりますね。我々は海老名に開発拠点も持っています。あと大きいのはソーシャルゲームを作って、それをすぐアーケード展開できる会社は日本でウチしかないということです。セガさんやバンダイナムコゲームスさんは会社や事業部が違うのですが、ウチの場合は、すべて同じ事業部ですから。この速度感は大きな強みですよね。

――その強みはもうすでに活用が始まっているわけですか?

川島氏:「グルーヴコースター」がその第1弾ですよね。スマートフォン版で200万ダウンロードのタイトルをアーケード展開して過去最高の出荷台数となっています。スマートフォンが先か、アーケードが先かというのはあるのですが、今後も引き続き、アーケード、家庭用、スマートフォンの連動を強めていきたいと考えています。やっぱりやりたいのは、自宅はスマートフォンで練習して、アーケードでその成果を見せるという形ですよね。アーケードはステージです。そこで自分が練習してきた技を披露する、でもいいですし、スマートフォンでの繋がりはあくまでバーチャルなものに過ぎませんが、ゲームセンターでの繋がりは顔が見えるリアルなコミュニケーションになります。こうしたことも我々にしかできない強みだと思います。

――その上でのタイトーさんの強みは、実際に店舗を持っていて、運営していることですよね。

川島氏:そうなんです。これは私の担当ではないのですが、すぐ近くにおり、横の連携もとれているので、ナムコが「ワンダーエッグ」でやっていたようなことはすぐできるんです。具体的な計画があるかというと、まだないんですけど(笑)。オペレーションも含めてすべて自社でできますし、実際にやろうとも思っています。1つのコンテンツを、ゲームセンターのオペレーションまで含めてできるので、ぜひやってみたいですよね。

――アーケード事業の海外展開についてはどのような状況ですか?

川島氏:海外展開については率直に言ってまだ調査をして可能性を探っている段階で、具体的な案件については特に進展していません。

――なるほど。意外にも現状ではドメスティックな事業になっているわけですね。この現状に対して、どのように考えていますか?

川島氏:当然、我々は、スマートフォンアプリと同様にアーケードも世界で通用するという仮説の元で動いていますから、当然展開したいという気持ちは持っています。ただ、ゲームセンターという業態がない国も沢山ありますから、我々の筐体をどこに置いていただくかというところから考えないと行けないので、どうしても時間は掛かってしまいますよね。

――たとえば中国では、場所以前に法律の縛りがありますが、中国展開の希望はありますか?

川島氏:もちろんあります。法的な問題が解決するのが大前提ですが、収益化の道が確保できれば展開したいですね。基本的には我々がおもしろいと考える、作り込んだ価値を、徹底して世界に広げていきたいですね。

――中国でアーケード事業というと、過去に解禁されていた時代に持っているライセンスで細々とやっているのがほとんどです。こちらもコンソール同様、開放が待たれる部分ですね。

川島氏:そうですね。健全に遊べる場がしっかり確保されれば、我々としても考えたいです。

ソーシャルゲームとしての展開が期待される「アルカノイド」シリーズと「スペースインベーダー」シリーズ

――タイトー全体として海外事業の今後の展望について聞かせて下さい。

川島氏:海外のお客様に対して、満足するに足るおもしろさを作り込むことが第1です。それができた上で、その地域のことを最もよく知り、おもしろさについて議論できるパートナーと組んで、パートナーシップを深めていきたいと考えています。

――タイトーのここに注目して欲しいという部分があれば教えて下さい。

川島氏:我々は今後の展開として秋から冬にかけて新しいラインナップを出していく予定でいます。ぜひそれを見て判断していただきたいと考えています。それはすべて日本だけでの展開では無く、海外も意識したタイトルになります。

――展開の順序としては、まず日本が先で、その後に海外という流れになるのですか。

川島氏:そこに関しては今後順序が変わってくる可能性は高いですよね。ただ、市場規模でいうと日本が1番大きいので、まずは日本ということになりますが、市場規模に変化が出てきたら当然変わってきますよね。

――将来的には中国向けのタイトルを作ったりすることも?

川島氏:当然あると思います。ただ、具体的にあるかというとまだ何もありませんが。地域毎にやりたいことって実はないんですよね。自分たちがまずおもしろいゲームを作るのが大事です。

――今回ひとつお伺いしたかったのですが、「バブルボブル」や「スペースインベーダー」、「アルカノイド」など、タイトーさんの有力なIPに対する海外からの引き合いは強いと思うのですが、これらのIPに対するアプリ化の計画はないのですか?

川島氏:実はですね、まさにそれらのIPは何らかの形で復活させることをいま着々と準備を進めているところです。引き合いがあるのは事実ですが、やはり魂を込めるのは我々自身でなければならないと思っています。

――それは楽しみですね。タイトーファン、ゲームファンに対してメッセージをお願いします。

川島氏:これからもできる限りおもしろさに注力してゲームを作りたいと考えています。ぜひご期待いただければと思います。

――期待しています。ありがとうございました。

(中村聖司)