インタビュー

【タイトー特集】ON!AIR事業部 事業部長 川島健太郎氏インタビュー

中国展開について。ゲームの中心価値である“おもしろさ”をいかに損なわずに展開できるか

中国展開について。ゲームの中心価値である“おもしろさ”をいかに損なわずに展開できるか

ゲームの中心価値はおもしろさだと語る川島氏

――そして今回、中国展開について、gumiのような日本のメーカーでは無く、Qihoo360という中国のメーカーを選んだわけですが、その理由はなんですか?

川島氏:議論をする際、たとえば会社によっては課金の方法、集客の方法、ビジネスのスキームがというお話から入ることが多いのですが、Qihoo360とお話をしてグッときたのは、ゲームの中身についての話から来たんですね。「こういう風にしたほうがおもしろいと思う」とか、「中国ではこういうおもしろさのほうが合うんです」と入ってきたので、我々もそもそも課金の方法とかビジネスのスタイルとか、中国のお作法があるだろうし、手法としても大事なのですが、ゲームの中心価値は、ゲームのおもしろさそのものだと思っていて、その部分でお互い腹を割って話しができたというのは1番決め手になったと思っています。

――今回、Qihoo360とは「パズルボブル」の協業に関する基本合意を皮切りに、様々な形での協業を検討されているという話ですが、Qihoo360とはどの程度の規模感のビジネスに育てたいと考えていますか?

川島氏:金額でお伝えすることはできません(笑)。この答え方は論点としてずれてしまうかもしれませんが、大きなビジネスになるならない以前に、我々が作っているおもしろさというゲームの中心価値をいかに損なわれずに展開できるか、という観点で様々なパートナーと協業させていただきたいと考えています。

――なるほど、数でもボリュームでもないのですね。

川島氏:違いますね。いかにおもしろさをそのまま届けるかです。

――そうした部分がQihoo360とは出来そうだという手応えが掴めたわけですね。

川島氏:はい。「パズルボブル」に関してはその合意ができました。

――日本、韓国、中国と徐々に展開の準備が整いつつありますが、この先にあるのは何でしょう?

川島氏:まずは基本的な考え方からお伝えしたいのですが、ゲームという商品の中心価値はおもしろさだと思っています。これはローカライズ、カルチャライズ、各国の商習慣の違いを問わず、共通してあると思っています。

――共通の価値が存在すると?

川島氏:そうです。それを各国に受け入れていただいて、なおかつ文化に馴染みやすくしていくかという点でのカルチャライズです。その点をふまえて、現在我々が開発しているすべてのコンテンツはワールドワイドで展開したいと考えています。

――川島さんの仰る“おもしろさ”についてですが、中国で取材していて感じるのは、中国のゲームファンは、そもそもおもしろさを感じるポイントがかなりズレていて、個人的にこのズレ方が世界最大規模ではないかと思うぐらいなのですが、川島さんはどのように感じていますか。

川島氏:(笑)。確かに課金に対する考え方とか全然違いますよね。これは摺り合わせていくというよりはご提案していくというほうが近いと思っています。「パズルボブル」に課金して下さるお客様の6割はコンティニュー課金です。これはどういうことかというと、ゲームがおもしろいからもっと続けたいと思っていただいているということです。これはソーシャルゲームだとあまりない割合だと思っていますが、実はこの考え方はアーケードの文化なんです。

――なるほどなるほど。

川島氏:アーケードは、連コインしていただく文化ですから。ゲームでお金を頂く行為はそこがベースだと思っています。アーケードとソーシャルは文化的なものも違うし、課金の手法も違うんですが、おもしろいからお金を使うという部分に関しては共通だと思っています。ソーシャルゲームという枠では無く、アーケードゲームを作って、それをソーシャルで展開しているという言い方もできます。事業部的には1つになっているので、「グルーヴコースター」のように同時に展開することもできますし、今後も積極的に展開していきたいと考えています。要はおもしろいと言っていただいてゲームの価値を認めていただいて連コインしていただく、ということだと思っています。

――連コインという文化において、ソーシャルとアーケードが似通っているというのはおもしろい考え方ですね。

川島氏:はい。スマートフォンに関しては実はそうではない部分も結構あるのは事実です。「収集したい!」とかがまさにそうですが、私としてはそこを変えていきたいと考えています。やはりゲームはおもしろいから遊ぶのであって、おもしろいからお金を使いたいと思っていただける。そういう基本的な部分で勝負したいと考えています。それが、我々はアーケードを作ってきたという文化的な背景も含めた強みになるのではないかと考えています。

――「パズルボブル」の中国展開に関しては、まだテストも始まっていない段階ですが、成功の手応えというのはどの程度掴んでいるのですか?

川島氏:それがですね。正直に言いますと、手応えとしては掴めていませんし、わからないです。ただ、ローカライズ、カルチャライズに関わっていただいているスタッフの方やQihoo360の方々はゲームをおもしろく遊んでいただいているので、現場がおもしろいと思っていただいているものは、当たる当たらないはともかくとして、中国のお客様もおもしろいと持っていただけるのではないでしょうか。

――ユーザー数の目標は?

川島氏:凄く沢山集まるといいなと思っています(笑)。

――ユーザー数でいうと日本と中国では10倍ぐらい違いますが。

川島氏:ええ、日本の10倍ぐらい集まってくれるといいですね。中国市場では、すでに似たようなゲームがたくさん出回っています。我々の「パズルボブル」は元祖であり、オリジナルだと思っています。

 ここに関しても、日本市場ではローンチする際、実はおっかなびっくりでした。というのも、すでに市場に似たようなゲームがたくさん出回っていたからです。LINEさんにも「LINEバブル」がありましたし、この分野は飽きられつつあるのではないかと思っていたんですけど、我々はステージを徹底して作り込んでいることもあり、ここに関しては自信に繋がりました。

 コンティニュー課金していただくためにはいかにステージをおもしろく作るかが重要になってきます。やり応えや爽快感など、ソーシャルゲームってその場の快感に寄りがちなんですけど、我々としてはむしろゲームの難易度は上げても構わない。考えることにカロリー使わせても構わない。とにかくステージの作り込みを徹底しておもしろくしようと、それでダメなら仕方がないと。しかし、結果的には我々のアプローチは、お客様には大変好評で、似たようなゲームが先発して沢山出ているにもかかわらず、同ジャンルではナンバーワンのタイトルになることができました。それを中国のお客様にも理解していただけるのではないかという自信はあります。

――誤解を恐れずにいうと、後発であるにもかかわらず成功できたのは、ステージを作り込み、おもしろさの面で明確な差別化ができていたからという考えですか?

川島氏:そうですね。ステージが作り込まれていた点と難易度設定が適切だったため。要するにゲームとしておもしろくデザインされているという部分が大きかったと思っています。

「LINEパズルボブル」のおもしろさは、反射が上手く決まり「俺、かしこい、俺、うめえ」と感じられる瞬間ではないかという
反射が上手く決まり、ドカッと落とせると気持ちがいい

――川島さんが考える「パズルボブル」のおもしろさのコアとは何だと思いますか?

川島氏:実はその話はプロデューサーの西脇をはじめ、何名かのスタッフとずっとしています。何かというと、短い記事や広告などでおもしろさを一言で言えないとお客様に伝わらないんですね。僕がずっと主張しているのですが、キーワードの中に載っからないのは「反射させてすり抜けるときのしてやったり感」です。「俺、かしこい、俺、うめえ」っていう(笑)。この「俺、かしこい、俺、うめえ」って感覚はパズルゲーム特有のものだと思うんです。

――反射がうまくいって大きなかたまりをぼろっと落とせると気持ちいいですよね。

川島氏:気持ちいいですよね。偶然たまたまもあるにせよ、「俺がこの軌道を考えてしてやった」というのはおもしろさのポイントだと思います。

――中国在住の方と話していておもしろかったのは、「ブレイブフロンティア」や「チェインクロニクル」、「クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ」など、いわゆる日本産のAAAタイトルが軒並み中国でうまくいってない。どういうことかというと、「日本のゲームはおもしろくないんだ」というわけですね。さらに「だから、IPだけ我々が借りてゲームを作れば、凄くおもしろいものが作れるんだ」というわけです。これは凄い時代が来たなと感じました。

川島氏:わかります。そういう感覚はここ何年かで急速に勃興している部分がありますが、その自信というのは、売上、収益、会社の規模に裏打ちされているわけです。そしてもうひとつ言えるのは、お客様に近いんだと思います。自分たちこそが目の前でお客様の動向を見ていて、何がおもしろいかを知っているんだということですよね。それは正しいと思います。だから我々は現地法人を作るのではなくて、現地パートナーと密接にコミュニケーションを取りながら進めていく道を選択しました。間違いなく僕らよりお客様のことを知っているのは事実ですから。その彼らがおもしろいと思って貰えるゲームをいいかにパフォーマンスを発揮して作るかというのが大事だと思っています。

――それでは今後、仮に、「スペースインベーダー」や「アルカノイド」といったタイトーさんのIPを使って新しいゲームを開発したいという希望があった場合、どうしますか?

川島氏:それはありがたい話しなので「ありがとうございます」というと思います。ただ、我々が作っておもしろいと思うものをライセンスアウトでご提供するという形であれば、おそらく受けると思います。

――おもしろさの維持のために、自社開発にはこだわりたいということですね。

川島氏:はい、こだわりたいですね。たとえば、フェラーリというブランドの車があって、フェラーリって格好いいなと。ウチも車作りたいからフェラーリって名前だけ貸してくれないかと言われてそれを許すかって話ですよね。

 私が前にいたバンダイナムコゲームスや、セガさんは、車業界でいってみればトヨタや日産ですよね。フルラインナップで、あらゆるタイプの車を用意している。それに対して我々は会社の規模としては小さいので、どちらかというとフェラーリやマセラッティみたいな会社になりたいですよね。広く沢山というよりは、少数だけどほかにはない魅力があるよねという感じにしたいです。

(中村聖司)