セガ、「ソニック ジェネレーションズ」インタビュー
駆け抜けてシリーズ20周年! 最新作開発秘話から20年の歩みまで

11月29日収録

収録場所:セガ本社

 

 20周年を迎え、最新作PS3/Xbox 360「ソニック ジェネレーションズ 白の時空」、3DS「ソニック ジェネレーションズ 青の冒険」も好評発売中の「ソニック」シリーズ。そこで、最新作「白の時空/青の冒険」について、そしてソニック20周年という記念すべき節目を迎えてのこれまでとこれからを、プロデューサー飯塚 隆氏にインタビューで伺わせて頂いた。



■ ヘッジホッグエンジンの改良から始まった「ジェネレーションズ」。初期には“歴代ソニックが全員集合”していた?

「ソニック」シリーズに長く携わり続け、「ソニック ジェネレーションズ」でもプロデューサーを務める飯塚 隆氏

―― 最新作「白の時空」と「青の冒険」について。まずは「白の時空」についてお伺いします。「白の時空」はどのようなコンセプトのタイトルでしょうか?

飯塚氏: 「白の時空」はシリーズ20周年記念するタイトルとして企画しました。そこで、“ソニックシリーズを遊んでくれた皆さんの頭に残っている思い出を、HDのグラフィックスとして甦らせよう! ”と。そこから「白の時空」のプロジェクトがスタートしていきました。

―― そのプロジェクトがスタートしたのは、いつ頃だったのでしょうか?

飯塚氏: 「ソニック ワールドアドベンチャー」の開発が完全に完了してからですので、2009年頃ですね。その当時に“ヘッジホッグエンジン”を改良しようという話があって。そこで、その改良された“ヘッジホッグエンジン”で20周年記念タイトルを作ろうというのがプロジェクトの発端でした。

―― ソニックタイトルの開発に使われているゲームエンジン「ヘッジホッグエンジン」ですね。改良ということですが、どのような進化を遂げたのでしょう?

※「ヘッジホッグエンジン」について詳しくはこちら

ヘッジホッグエンジンの改良により、HDグラフィックスでのハイスピードアクションが実現!

飯塚氏: 1番はやはりプログラムの高速化ですよね。PS3/Xbox 360のHDグラフィックスに特化した表現を高速に実現できるようにする最適化です。それに加えて、開発ツールとしての使いやすさの改善、表現の追加など、多岐にわたって色々な改良がされました。

 「ソニック ワールドアドベンチャー」がヘッジホッグエンジンを使った最初のタイトルなのですが、あの頃はゲーム側とエンジン側を平行して作っていたところがあったんですね。そのため突貫な部分がありました。それを今後長く使いやすい形に作り替えていこうというのが最初でした。

 そうした背景なので、このプロジェクトの1番最初のスタートは“ヘッジホッグエンジンの改良”が中心でした。そのため、すごく少人数でした。そこから、それを使った最初のタイトルとして「ソニック ジェネレーションズ」の企画が立ち上がったわけです。

―― 少人数だったということですが、それは何人ぐらいだったのですか?

飯塚氏: 初期は本当に、プログラマーメインで十数人ぐらいだったかと思います。それが3年前ですね。

―― 最新作の「ソニック ジェネレーションズ 白の時空」を遊ばせてもらって、あれだけのグラフィックスと演出であのスピード感を出せているのが、本当にすごいなと思いまして。やはり高速化がエンジン改良のひとつのポイントだったのでしょうか?

飯塚氏: そうですね。ヘッジホッグエンジンの改良にあたって1番重視した部分が“処理の高速化”でした。それによって「ソニック ワールドアドベンチャー」以上の高速表現が可能になりました。

―― エンジンの改良が始まってから、その後はどのような流れになっていったのでしょう?

飯塚氏: その当時の、2008年の時点では「ソニック」タイトルのロードマップに2011年リリースのプロジェクトが無かったんですね。昨年の2010年に発売された「ソニック カラーズ」はありましたが、そこまでで。その翌年にはソニックタイトルが無かったんです。

―― 20周年なのに?

飯塚氏: 20周年なのに(笑)。

 そこで、「せっかく20周年を迎えるんだし。このヘッジホッグエンジンを使って20周年らしいタイトルを作ろう!」とプロジェクトを立ち上げたというか、「20年の歴史を詰め込んだタイトルを作りませんか?」と社内に呼びかけたんです。その呼びかけが今作のスタートでした。

―― その時からプラットフォームは今の3つ、PS3/Xbox 360、3DSだったんですか?

飯塚氏: いえ、最初はPS3とXbox 360の2つでした。元々がヘッジホッグエンジンの改良からはじまったプロジェクトでしたから。「白の時空」の開発が動き始めてしばらくしてから、任天堂さんから「ニンテンドー3DS」という新しいプラットフォームのお話を頂きまして。

 元々、20年っていう歴史を一緒に走ってきた任天堂さんのプラットフォームでも「ジェネレーションズ」を出したいという強い思いがあり、そこに3DSという新しいプラットフォームのお話を頂いたので、「じゃあ、PS3/Xbox360とは違う“もうひとつのジェネレーションズ”を3DSに出そう!」となっていったんです。

3DSの「青の冒険」では「白の時空」とは異なるステージを収録。2P対戦プレイなども楽しめる

―― まだプレイされていない方々に向けて教えていただきたいのですが、PS3/Xbox 360「白の時空」と、3DS「青の冒険」とでは、具体的にどのような違いがあるのでしょう?

飯塚氏: 1番違うのは“内容”ですよね(笑)。「白の時空」だけを作るところからプロジェクトは始まっていったわけですが、20年間の思い出を全部入れようとしても、さすがに期間もリソースも限りがありますから。「あれを入れたいけど入れられない……」とか、「このステージとこのステージはどっちも好きなんだけど印象が似ているから、どっちかで……」というような、取捨選択がいくつもありました。

 でも、取捨選択していく中で、「せっかくの20周年なのに、エメラルドコーストがないのはどうなんだ!?」とか、「シャチが飛び出るシーンは再現したい」というような喧々諤々がありまして(笑)。

 ステージ選びでそんな風に揉めているところに、3DSのお話を頂いたので、では中身が違う、選ばれたステージが異なるもうひとつの「ソニック ジェネレーションズ」を作ろうと。「白の時空」と「青の冒険」の両方で、ソニックの20周年を完璧に体験してもらおうと考えたんです。

 そういう流れで中身がまったく違う2本を作ったので、3DS版は単にPS3/Xbox 360版の移植ではない、というところを解りやすくしたいと考え、「白の時空」、「青の冒険」というサブタイトルを付けたわけです。

―― そうして2本の「ソニック ジェネレーションズ」が進むことになったんですね。今作は、「クラシック・スタイル」と「モダン・スタイル」という2人のソニックで楽しめるようという、やはり2種類というキーワードがありますが、そのコンセプトも初期からあったものなのでしょうか?

飯塚氏: 実を言うと、開発初期の頃にはもっとたくさんいたんですよ(笑)。2人だけじゃなくて、全シリーズタイトルのソニックがズラッと。

 例えば、「ソニック カラーズ」のソニックと「ソニックアドベンチャー」のソニックでも、細かな色々な違いがあって、それらのソニックをみんな登場させて“歴代ソニック全員集合!”みたいなものを最初はイメージしていたんです。

 でも、なにしろ違いが微妙過ぎるので、「これはこれとほぼ同じだし……」という感じに整理していって。最終的に、「3Dになってからのモダンなソニック」と「2Dの頃のクラシックなソニック」の2つが、ユーザーさんにも1番解りやすくて、この20年を大きく大別している姿だろうとなりました。



■ そのままの物ではなく“記憶の中にあるソニック”を再現。手触りを重視したチューニングがソニック開発の鍵

ポン、ポン、ポンとリズミカルにプレイが繋がっていくとより気持ちよさが高まっていく「ソニック」シリーズ。そうした手触りを重視したチューニングに多くの時間をかけている

―― シリーズをプレイするといつも思うのですが、例えば、“テンポ良くジャンプすると連続的にうまく進める”ような、手触りを重視した作り込みがすごく良くできていると感じるんです。そうした手触り重視な作り込みというのは、どういう順序で作り上げていくものなのでしょうか?

飯塚氏: まずは、作る前にステージ構想を考えるところから入ります。どういうステージにしていこうかという全体的な構想です。その段階である程度プレイのテンポを想像して、それを元にして仮でバネや足場を入れて実際に作っていくんです。

 それでグラフィックスがついて、実際にテストプレイができる状態になっていくんですけど……。遊んでみると“思っていたよりも感覚的に気持ちよくない”とか、“あともう少しいけばここに乗れるのに!”といったものが出てくるんですよ。やっぱり。遊べば遊ぶほど“ここをあと少し……”っていう欲求が出てくる。

 そういうのをもう徹底的に。地形をもう1度取り壊して変えてみたり、仕掛けや敵の配置なんかを調整したりして、パンパンパンとリズミカルにいけるようにしていきます。そこのチューニングにすごく時間をかけていますね。

 そういう作り方なので、ソニックのステージはいつも最初の設計どおりに完成になるっていうことが、ほとんどないんですよね。

―― アクションゲームに熟練した人が調整しないと難しそうなお話ですね(笑)

飯塚氏: そこはまあ、うちのレベルデザイナーも長くやっていますので(笑)。それに、何度も何度もテストプレイするうちに上手くなっていって、どんどん気持ちいいテンポが欲しくなっていって。それでまた調整して……という感じになっていきます。

 ただ、その上手いプレイの基準を強要し過ぎてはいけないと思うんですよ。「ソニック」シリーズを通して心がけている事なんですが、上手くなった時にテンポ良く気持ちよく遊べるというのは、あくまでも上達した人だけのハイレベルな気持ちよさであって、それができなければ進めないというゲームにはしてはいけない。

 普通はこう進んでここでジャンプして……というルートをプレイしていくところを、もっと上手くなると、より気持ちいいルートも見つかるというように。そういう通常プレイのルート、上手くなったルートというように、複数が存在する形でチューニングをするようにしています。

―― 今作ではシリーズ作からステージをチョイスしているということで、それこそメガドライブ時代のステージもあれば3D時代のステージもあるわけですが、それらに複数のルートを入れていくのは、非常に大変だったんじゃないですか?

飯塚氏: そうですね。特に「白の時空」の方は、ルート分岐にこだわったところがあります。

 昔の2Dの頃のソニックって、上下の分岐がすごく多くて。落ちても下に別のルートがあって、また落っこちてもさらに別のルートが下にあって、というような。それが他のアクションゲームとは違うと、メガドライブ時代に評価されていました。

 でもそれが、「ソニックアドベンチャー」で3Dグラフィックスになった時、3D空間の中にそんなにたくさんの上下の分岐を作るというのはできなかったんです。そこから、メガドライブ時代のシリーズのような“上下分岐の良さ”というのが以降のシリーズでグッと減ってしまったんです。それよりも“決められたルートをいかに速く気持ちよく進めるか”というゲーム性に変わっていったんですね。

 ですが、ここ最近の「ソニックカラーズ」や、今回の「ソニック ジェネレーションズ」では、もう1度メガドライブ時代のような分岐の多さを実現したいと考えまして。

 特に今作の「ソニック ジェネレーションズ」では、3Dのモダンと2Dのクラシックという2つのプレイスタイルがありますから。それぞれの良さをより誇張して、2つの異なる良さを体験してもらいたいと考えました。特にクラシックでは上下分岐を広くし、さらに新しさとして上下だけじゃなく奥側にも分岐したりしますから。本当にたくさんの分岐ルートがあります。

シリーズ作のステージをただ収録したのではなく、“時を経て成長した記憶に見合う「ソニック」”を目指したという飯塚氏

―― シリーズ原作のあるステージに対して、操作やプレイ感覚の調整はどのようにしていったのでしょう? 例えば、メガドライブ時代のステージもあれば近年のシリーズ作のステージも遊べるわけで、それらに対してシリーズごとに違っていた操作感覚や挙動の違いは、どう折り合いをつけていったのかなと。

飯塚氏: 最初は、今回のクラシックとモダンという2つのスタイルに対して、クラシックでは昔の横スクロールの操作や感覚を再現して、モダンでは近年のソニックのスタイルを保てばいい、という漠然としたところからスタートしたんですけども……。

 今この時代にメガドライブの頃の「ソニック」を触ってみると、意外にスピード感が足りなく感じるんです。自分が想像していたものとは全然違っていて、モダン・スタイルとの感覚の差があまりにも大きかった。自分の記憶にあった20年前の感触というのは勝手に補完されていたんでしょうね。最近のソニックと昔のソニックとを比べると、まったく違うゲームと言っていいぐらいの差があったんです。

 その違いをそのまま今作に持ってきてしまうと、操作感やスピード感の違いから遊んでいてストレスを感じてしまうと思ったので。クラシックは当時の良さも保ちつつ、モダンのスピード感に若干近づける形にしました。2つのスタイルの感覚の違いに違和感を感じない程度に、中間に近づけたという感じですね。

―― 記憶の中ではメガドライブ時代のソニックもすごくハイスピードだったイメージがありますが、記憶は誇張されているもので、実際に見てみるとそうでもなかったりするんですね。今作では、その誇張された記憶に見合う姿と、当時の良さを両立させなければいけなかったということですか?

飯塚氏: 今回の「ソニック ジェネレーションズ」に登場するステージは、エミュレーターのように昔の作品をそのまま収録しているのではなく、“みなさんの記憶にある「ソニック」”でなければいけなかったんです。

 私たちが今作のクラシック・スタイルで再現しなければいけなかったのは、1番長くソニックを楽しんでいる方だと20年になるわけですが、その時間の中で育っていった「ソニック」という作品の記憶なんです。その育った記憶に近いクラシック・ソニックを作りたいという想いがありました。

 その結果、実際に「ソニック ジェネレーションズ」とシリーズ作とで比較すると、それは全然違うものなんですけど、遊んだ感覚や気持ちよさは近くなるようにできたと思います。

 ほかにも、足場の隅っこでソニックがおっとっとってバランスを取ったりとか、そういう細かだけど記憶に強く残っていそうなところを大事に拾ったりもしつつ。そうした特徴はそのままに、より遊びやすいチューニングにしたというところですね。

―― 単純に原作ステージをそのままに再現しても、それでは意味がなかったんですね

飯塚氏: 今だと、例えばWiiのバーチャルコンソールなんかでは、メガドライブでのシリーズ作品そのものを購入できたりもしますから、それをそのまま「ソニック ジェネレーションズ」でなぞってもしょうがないですよね? ですから、今回は“新たなクラシック”と“新たなモダン”という2つを、チューニングして作りました。

―― その2つのスタイルでの能力の切り分けはどのように考えていかれたのでしょうか? 例えば、モダン・スタイルに慣れてからクラシック・スタイルをプレイした人からは、「ホーミングアタックが使いたい」という声も出てしまうのかなと思えたのですが、そのあたりは迷われませんでしたか?

飯塚氏: そこは、クラシックとモダンの2人のソニックは、完全に別の能力を持つ別々なキャラクターなんだというふうに割り切って考えました。

 確かに、モダン・スタイルと同じステージをクラシック・スタイルでプレイすると「ブーストがしたい」とか「ホーミングアタックしたい」って思うかもしれないんですが(笑)。あくまでもクラシック・スタイルはクラシックソニックの能力に合わせたレベルデザインをしていますので。全く異なるアクション性を楽しんで欲しいですね。



■ “記憶を蘇らせるエッセンス”を大事に。今作でついに実現できた“当時にできなかったこと”も

「ソニックと秘密のリング」にあったスキルシステムが今作にも登場。ソニックの能力を自由にカスタマイズできる
スキルの中にはミッションクリア等の条件で出現するものもあって、それらによってシリーズ作の特徴的な能力を再現することもできる

―― 今作ではクリアしたコースの前でソニックの仲間たちが隠れたルートのことを教えてくれたりとか、遊びこみをガイドしてくれるようになってますね

飯塚氏: やり込む事でチャレンジACTが開放されたりとか、ポイントが貯まってスキルを獲得できたり。あとはコレクション要素もオープンしていきますので。そういったところでも長く遊べるように色々と入れ込んでいきました。

―― 今作での「スキル」について詳しく教えて頂けますか?

飯塚氏: スキルのシステム自体はWii「ソニックと秘密のリング」で好評を得たもので、その要素を取り入れたものです。

 スキルのシステムを今作に入れようと思ったきっかけですが、今回は20周年記念ということで、様々なタイトルにあった独自のルールも入れていきたいと思ったんです。ですが、そういうものを強制的に入れてしまうと、ゲームシステム的にも複雑になってしまうんですよね。そこでスキルという形にして、ユーザーさんが好きにエディットできるようにしたわけです。

―― スキルの組み合わせのカスタム枠も5個保存できるようになっていますね。コーススタート前に切り替えができるようにも。

飯塚氏: そうですね。「このコースではこのスキルセットで遊ぶのがお気に入り」というような選択を楽しんでもらえたらと思います。そういうところからも、濃いファンの方の期待にも応えられる要素を入れられたんじゃないかなと思います。ファンの方が「ムフフ」と反応できるような細かいお遊び要素も入れていきましたので。逆にソニックを遊ぶのは初めてという方でも、20周年の歩みを垣間見てもらえるようになっています。

 そういうところからも、濃いファンの方の期待にも応えられる要素を入れられたんじゃないかなと思います。ファンの方が「ムフフ」と反応できるような細かい要素も入れていきましたので。逆にソニックを遊ぶのは初めてという方でも、20周年の歩みを垣間見てもらえるようになっています。

―― プレイしていると色々とシリーズ作をプレイしていた時のことを思い出しますよね。自分はまずケミカルプラントのステージを見て、ピンクの溶液の中に落ちまくった記憶を思い出して、「うへーここかぁ……」なんて思いました(笑)。気泡から息を吸う音なんかも原作そのままです

飯塚氏: SEはクラシックとモダンでそれぞれ変えています。シリーズ作を当時に遊んでいた時の思い出が蘇えるように。例えば、敵を倒した時の音が、クラシックですと「ポンッ」っていう音ですけど、モダンでは「バーンッ」っという音になっていたりとか。そういう記憶のきっかけになるものは、特に重要視して詰め込んでますね。

―― 記憶を蘇らせるきっかけになるもの、というのはステージのギミックにもあるのでしょうか?

飯塚氏: ステージに対しては、当時のエッセンスを残しながら新規にレベルデザインをしました。例えば「シティエスケープ」でしたら、最初はボードで坂を滑っていくところから始まって、最後はトラックに追いかけられる。これが「シティエスケープ」なんですよね。おおまかなイメージにあるものをしっかりと残しつつ、中身はまったく新規のステージとして設計しています。

―― そうしたステージを、例えば原作は3D視点のステージだったものを今回はクラシック・スタイルの2D横スクロールでもプレイできるわけで。その逆に2D時代のステージを3Dでも。それは相当に大変だったんじゃないですか?

飯塚氏: 大変だったと思います(笑)。最初に「グリーンヒル」から作り始めたんですけど、グリーンヒルが3D視点のモダンスタイルでプレイできるようになったのを見て、「ああ、これが今回の『ジェネレーションズ』なんだな」って。凄く解りやすい良さが伝わってきたんです。

 では今度は、最近の3D視点世代のステージを2Dにしてみようか、となった時、「横からだとこれってどう見せていけばいいの……?」ってなったんですよ(笑)。2Dの物を3Dにするとインパクトもあって魅力が解りやすいんです。でも、3Dだった物を2Dにして横に見せると……地味になるんですよね。ただ横にしただけではダメなんじゃないか? という懸念が出てきたんです。

 そこで、横スクロールならではの良さを新規に組み込んでいこうということになりました。「横向き=地味」ではなく「横向き=新しい」と感じてもらえるように、新規のレベルデザインをたっぷり詰め込んで。労力的には最近の3Dステージをクラシックな2Dにするほうが大変だったと思います。

「ソニックアドベンチャー2」より登場のシティエスケープ。トラックが追いかけてくるシーンが特徴で、今作のモダン・スタイルでは画像のように後ろから追いかけてくる
横スクロールのクラシック・スタイルでは、画面の奥から迫ってきて足場を壊したりと、より多彩な動きでソニックに迫る

―― 単純に横スクロールにしただけでは、ステージの特徴的なエッセンスが活きなかったんですね

飯塚氏: そうなんです。例えば、先ほどのシティエスケープでトラックが追いかけてくるというシーンにしても、横向き画面で後ろから追いかけられてもトラックの先しか画面には映らなくってインパクトが無いんです。

 そこで、単純に後ろから追いかけてくるだけじゃなくて、トラックが画面奥に進んでいってソニックと併走したり、奥から手前に攻撃してきたりさせてみようと。奥側を使うことで普通の2D横スクロールにはなかった新しさを作っていきました。そういう工夫を他のステージにもたくさん入れていきましたね。

―― そのあたりの新しい工夫が入っているのが“懐かしさだけじゃないジェネレーションズの新しさ”なんですね?

飯塚氏: 「グラフィックスが良くなっただけのリメイクソフト」とは思われたくない、という想いがありましたね。20周年を踏まえた上で新しさも感じてもらえるように、いろんな新要素を入れています。

―― 新しさを入れるところは相当に苦労されたのではないでしょうか? 「懐かしさを今風にしよう」だけならそんなに難しい話ではないと思うのですが、プラスアルファを加えるとなると、すごく迷ってしまうような……?

飯塚氏: スタッフはみんな苦労していました。新しすぎる物を入れてしまうと、そのステージのイメージを壊してしまいますから。

 例えば、シティエスケープのトラックを別の乗り物に変えてしまったら、それはもうシティエスケープじゃないんですよね。あくまでもシティエスケープはトラックに追いかけられてこそのものなので。

 ユーザーの方のイメージにある物を守るという大きな制約がある中で、新しい物や工夫を入れなければならなかったんです。

水のモンスター「パーフェクトカオス」。「ソニックアドベンチャー」当時にはできなかった水の表現がついに実現!

―― 新しさに“ファン目線のこだわり”が必要だったんですね。スタッフの方の中に、ソニックへのこだわりがすごいお目付役みたいな人がいるんですか?

飯塚氏: 特に誰がということもないですけど、うちのスタッフにはソニック愛の強い人間がたくさんいますので(笑)。「このステージにそんなことしたらダメだ!」という強いこだわりを持って取り組んでくれました。

 うちのスタッフには「この作品の当時はユーザーだった」というような者も多くいますからね。

 今作でやっと実現できた事もあるんですよ。「ソニックアドベンチャー」に出てきたパーフェクトカオスっていう巨大な水のモンスターがいますが、当時、ドリームキャストで開発していた時には「このハードなら、水の表現もできるんじゃないか!?」って盛り上がって作ったんですが、水の表現を滑らかにできるような性能は無くて……(笑)。単に水色のそれっぽい表現になってしまったんです。

 それが今、PS3/Xbox 360のスペックでついに再現できるようになって。今作のパーフェクトカオスの姿を見て私も「これこれ! これを当時やりたかったんだよー!」と(笑)。感動しましたね。そんな風に自分達も楽しんで作っていけました。



■ コレクション要素にも秘蔵のスケッチやミュージックなど20周年の歩みをぎっしり

コレクションルームでは、ソニックシリーズに登場したキャラクター達の紹介や、アートワーク、ミュージックなどを閲覧できる
シリーズ作の秘蔵のアートワークや、シリーズ原作の曲(ステージ曲と差し替え可能)等を満載。コレクタブルアイテムとしても充実している

―― コレクション要素についてですが、どんなものが収録されているのでしょう?

飯塚氏: コレクションには、シリーズ作の開発当時の資料やスケッチとかを引っかき回してきて。これまで世に出てていない物をたくさん収録しています。

 音楽なんかも、今回ゲームの中のBGMとして組み込まれている楽曲は有名なものばかりなんですけど、20年の中にはちょっとマイナーだけど個性的なソニックタイトルもたくさんありましたので、そういうタイトルの楽曲も20年間分たくさん収録しています。

 そういう意味でも非常にファン向けな、コレクタブル要素も強いというか、20周年記念タイトルらしい内容になったと思います。これだけの資料を詰め込んだソフトはもう……ないだろうなっていうぐらいです(笑)。

 あと、ちょっと変わった試みですけども、「白の時空」ではコレクションルームの中にパスワードを入力するとフィギュアが追加されるフィギュアルームという場所もあります。あえてパスワード形式にして、現実世界のいろんなところからパスワードがゲットできるようにしました。現実世界での情報収集をしてもらって、リアル宝探しのような感覚を楽しんでもらえたらと思います。

―― フィギュアルームなんですが、入り方が特殊ですよね。セレクトボタン/BACK ボタンを長押しという操作ですが、なぜそんな裏技みたいな操作に? (笑)

飯塚氏: パスワードやフィギュアルームという存在は、あえてゲーム内に表記しませんでした。あれは、フィギュアやパスワードっていう要素を知らない人が誤解して、ゲーム内をパスワードを探してウロウロしてしまったりしないよう、わざと隠しているんです。

 公式サイトにはルームの入り方やいくつかのパスワードも書いていますので、それらを見て、リアル世界での宝探し感覚を楽しんでもらえる方だけがルームに入れるようにしたかったんですよね。

―― 3DS「青の冒険」のコレクション要素はどんなものがあるのでしょう?

飯塚氏: 「青の冒険」では、すれちがい通信で100個のミッションをやりとりできるようにしていまして。それをクリアすることでコレクションが手に入るというようになっています。

 ただ、すれちがい通信だけにしてしまうと、すれ違う相手がいないと楽しめなくなってしまうので、「ゲームコイン」で手に入れられるようにもしました。あと、ミッションが難しくてクリアできないという人のために、やはり「ゲームコイン」でコレクション要素をアンロックできるようにしています。

 コレクションの中身には、やはり資料的な価値があるものをぎっしり詰め込んでます。ゲームプレイが得意じゃない人でも、すれちがい通信があまりできないという人でも楽しんでもらえるように配慮もしていますので、ぜひ、こちらも楽しんで頂ければと思います。

―― ゲームコインで救済できるようにしてあるのは非常に嬉しいですね

飯塚氏: 便利ですね。「すれちがい通信で遊びが増える!」っていうのをぜひやりたかったんですけど、例えば海外とかだと、地方じゃあ誰ともすれ違わないんですよね。広いですから、なにしろ(笑)。

 なので、「すれちがい通信で遊びが増える!」って言うとユーザーさんからは「俺が楽しめない要素が入ってる」というような、ネガティブな反応も出てしまうのでは? と思ったんです。そこをゲームコインという仕様があるおかげで補うことができましたので、ありがたい機能です。

―― 「白の時空」のダウンロードコンテンツとして“カジノナイト”が配信されていますが

飯塚氏: 「白の時空」だと「ソニック2」からのステージにはケミカルプラントが採用されているのですが、カジノナイトは何らかの形で入れたいよね、という気持ちはやっぱりありまして。「青の冒険」に入っていますけれども。

 「白の時空」でカジノナイトのステージを普通に作ろうとすると、正直なところ大変な労力になってしまうんです。なので、「ソニックスピンボール」という作品もあったことですし、「白の時空」にはダウンロードコンテンツ用にピンボールゲームとして入れることになりました。


「青の冒険」にはステージとして収録されているが、「白の時空」でもDLCのピンボールとして登場した「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」のカジノナイト。ソニックらしいアミューズメント感のあるステージだけに、思い出のある人が多いのでは?



■ 「白の時空」の3D立体視対応はなんと3DTV発売前から。プラットフォームの対応よりも先に独自研究

3D立体視の対応は、実は「白の時空」の開発初期から。3DTVの規格が誕生したときから独自研究をしていたという

―― 今回「白の時空」も「青の冒険」もどちらも3D立体視で楽しめるようになっていますが、開発当初から3D立体視の対応を考えていたのですか?

飯塚氏: 最初からではないんですけど、かなり初期の頃です。「白の時空」のプロジェクトが始まって、最初のグリーンヒルが動き始めたぐらいの時期に、3DTVという規格が生まれたんです。まだ規格だけで市販品の3DTVは出ていない頃だったと思います。

 それを聞いて、プログラマーに「これから3DTVっていうのが出てくるらしいから、やろうよ」って相談しまして。その時はまだPS3もXbox 360も標準ライブラリでの3D立体視対応はしていなかったので、我々は独自に3D立体視を作っていたんです。ですが開発途中に、両機種ともライブラリ側で3D立体視が正式にサポートされ……。残念ながら途中で乗り換えました(笑)。

―― ということは、3D立体視出力の作り方や調整にはもうすでに慣れていたんですね

飯塚氏: 例えば1枚のポリゴンに絵を描いて表示した場合は、3DTVだと平面に見えてしまうからNGとか……立体視になってもいいように初期から心がけて作っていました。なので、プラットフォーム側が対応した時にも、スムーズに乗り換えできましたね。

―― そうなると、3DSの「青の冒険」の3D出力対応よりも、「白の時空」の3D出力の方が先だったんですか?

飯塚氏: そうです。「白の時空」で3D表示を作り始めたのがずっと先で、3DSの話をもらって「青の冒険」の開発をするのはさらに後ですね。

―― そうだったんですか! 「青の冒険」が3DSだから「白の時空」も揃えたのかと思っていました。

飯塚氏: 実は逆なんですよ。3DSの話をもらった時には、「お、これで全部3Dだ!」なんて思いましたね(笑)。


■ ソニック20周年の歩み。時代と共に変わっていった求められるもの、ゲームの変化と進化

―― 20周年ということですが、その歩みはいわゆる“ゲームが遊びやすくなっていっている”歴史でもあると思うんです。言いようによっては温くなっているのかもしれない。昔のゲームの難易度を知っている人とそうでない人とでは、その隔たりにかなりのものがあるのかなと。20年という時間の中にはそのどちらもいらっしゃいますよね?

飯塚氏: そうですね。20年前のゲームってそれこそヒントなんてありませんでしたし。ギミックがどんな動きをするのかも、遊んでいる人が自分で試して発見していくようなものが多かった。

 それが今は、ノーヒントなギミックは「解らない! 」と怒られてしまったり、ガイドが無いのは不親切と言われてしまうかもしれない。それは、時代とともにニーズが変化したというか、マーケットが変化したのだと思います。

 自分たちはその中で、20年前の良さであったりの“貫き通すべきところを貫き通すこと”が必要だと思うんですね。でも一方で、合わせるべきところは今のニーズに合わせるというのも、もちろん必要なことです。

 アクションゲームはソニックを含め、全般的に難易度が昔よりも優しくなっていっているとは思うんです。遊びやすさを心がけての結果ですよね。「ソニック」だと、クリアしたら終わりではなくてよりテクニックを磨いた人はハイレベルなルートを進めるようになったりとか、そういうやり込みを用意したり。初心者の人の遊び方も上級者の人の遊び方も、どちらも兼ね備えるようには心がけていくようになりました。

ソニックが歩んだ20年の中でユーザーニーズが変わり、ゲームも変わっていった。そうした中で、飯塚氏自身の考え方も自然と変わっていったという

―― そうしたアクションゲームに対するユーザーニーズの変化について、飯塚さんは何か感じられていることはありますか?

飯塚氏: そうですね……。うちの開発にも若い人が多くいまして。それこそメガドライブ時代のシリーズ作を知らなかったので、今作を手がけるにあたって勉強のためにプレイしてもらったりとか。彼らの感性は今のユーザーさんに近いんだろうと思います。

 そんな彼らを見つつ、私や古くからいるスタッフも変わっていってます。当時は何とも思わなかった事も、今ではいろいろと思うんですよね。何かのゲームを遊んだ時に不親切な作りだったりすると、「突然こんな仕掛けが出てきて何でこんな使い方させるんだよ、解らないよ」とか(笑)。20年前はそんなこと思わなかったんですけども、自分達も感じるように変わってますよね。

 20年っていう時間の中でだんだんと、ゲームが特殊なものから一般的なものへとなってきていって……。こういう変化は自然なのかなと思います。

―― 確かに自分達も変わっていってますよね。正直なところ自分も今、初代「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」をいきなりやってもクリアできないんじゃないかって思います(笑)

飯塚氏: 難しかったですよね。それがゲーム性だったというか。スクラップブレイン(最終面手前)あたりでゲームオーバーになったりしたら、「もうやめだー!」って投げ出しちゃうかもしれない(笑)。

―― その辺りが20年という時間で変わってきた1番の変化でしょうか。昔のゲームはたたき落とされるのが当たり前で、クリアという1番わかりやすい形で自分の上達を実感できたというか……

飯塚氏: 昔のゲームはソニックに限らずですが、セーブ機能などもありませんから、毎回ゲームを遊びはじめるたびに1面からでしたよね。それで1時間後ぐらいにゲームオーバーになって、「あぁ今日は1時間もできた」って言いつつ、また1面からプレイし始めるというような(笑)。長く遊べることに喜びを感じていたんですよね。

―― それはある意味、上達の喜びが1番わかりやすい形だったのかもしれませんね。けれども、今その面白さを味わうには時間があまりない、という人も多いでしょうね……

飯塚氏: 今は娯楽が本当にたくさんありますから、昔と同じというわけにはいきませんよね。

―― そうした時代から、今のゲームは“クリアできることが普通”というようになっていったわけですが……

飯塚氏: クリアできた後に、そこからどれだけ楽しめるかがひとつのバリューになっているんだなと思います。

 「ソニック」もそういう意味では、1度クリアしただけでは終わらないような、たくさん楽しめる作りにしていくということを、今後もやっていくのだろうなと思います。



■ 20周年のフィナーレ「ソニック ジェネレーションズ ファン感謝祭」はみんなでアットホームに! 12月23日東京ジョイポリスにて開催!

「ソニック ジェネレーションズ ファン感謝祭」で行なわれる「白の時空」タイムアタック大会。こちらは1位の賞品となるソニック20周年フィギュア(ソニックチームサイン入り)
ソニック20周年最後のスペシャルライブも開催! 観覧は自由。出演は、「ソニック ジェネレーションズ」のサウンドディレクターを務めた瀬上純氏、種子田健氏(ベース)、河村徹氏(ドラムス)。

―― さて、12月23日に東京ジョイポリスで「ソニック ジェネレーションズ ファン感謝祭」を開催されますが、そちらはどんなイベントになるのでしょう?

※「ソニック ジェネレーションズ ファン感謝祭」については詳しくはこちら

飯塚氏: 今までソニックのイベントを国内でやる機会があんまりなかったんですよね。今年の6月には1度開催したんですけど、ゲームの発売前に何かすることはあっても、発売後に何かするというのはありませんでした。

 今年は、20周年ということで我々もイッキに走り続けた1年だったんです。応援してくれていたファンの方もそうだったんじゃないかなと思います。いろんなグッズを出したり情報を出したりと、本当にたくさんの事をやってきましたので、それを追いかけるだけでも大変だったんじゃないかな……と思いますね。

 ですから、ファンの皆さんも含めて「お疲れ様でした!」と、20周年の締めとして最後にまた楽しんでもらえる場を用意できれば、と思いまして企画しました。12月23日ということで世の中的にも賑やかなムードの中、楽しく20周年を締めくくれればと思っています。

 感謝祭のテーマは“みなさんと一緒に楽しむ”というものです。ゲーム大会をやったりクイズ大会をやったり。参加してもらえるだけでもプレゼントを用意してますし、サウンドチームも、クリスマスというその時期にあったスペシャルライブをやりますので。アットホームな感じに楽しめるイベントにしたいですね。

―― ソニック20周年は本当に盛りだくさんでしたね

飯塚氏: そうですね。応援してくれたファンの皆さんだけでなく、協力してくれた弊社の関係者も含めて(笑)。「本当にみんなお疲れ様でした! 」ということで。イベントはみんなで20周年の打ち上げをしましょう、という感じですね。

―― 3DSと「青の冒険」を持ってくれば、そこでたくさん交換もできますね

飯塚氏: 自分やスタッフも持って行きますよ。「青の冒険」のプロフィールカードは「自分の好きなソニックタイトル」なんかも書き込めて、ファン同士で交換するのに最適な作りになっていますので。お時間があればみなさんぜひ3DSを片手に集まってもらいたいなと思います。



―― それでは、最後にファンの皆さんへ向けてお願いいたします。

飯塚氏: 今年はソニック20周年ということで、ちょうど今から1年ぐらい前から、いろんなイベントや企画を準備してきました。

 皆さんがこのインタビューをご覧頂いている頃には20周年も残りわずかだと思いますが、これからは、これまでたくさん応援してくれた皆さん、新しくソニックを楽しんでくれるようになった皆さんと一緒に、次のソニックの“ジェネレーションズ(世代)”を作っていきたいなと思います。

 20周年の記念作品である「白の時空」と「青の冒険」を楽しんで頂いて。また次の記念作品が何周年になるかまだわかりませんが(笑)、その時まで大切にしてもらえたらと思います。ありがとうございました。

―― ありがとうございました。

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(2011年 12月 22日)

[Reported by 山村智美 ]