インタビュー

挑戦し続ける新しい「鉄拳」。原田勝弘氏インタビュー

ストーリー、豪鬼、演出……そしてVR

6月14日~16日 開催

会場:Los Angeles Convention Center

 E3でのバンダイナムコエンターテインメントは、ビジネス向けのブースを出展していたが、「鉄拳7 FATED RETRIBUTION(北米では「TEKKEN 7(仮称)」)」が大人気だった。今回、「鉄拳」シリーズのプロデューサーを務める原田勝弘氏にインタビューを行なった。

 今作の最大の特徴は2D格闘ゲームのキャラクターである“豪鬼”の参戦である。他にもこのゲームのベースとなった「鉄拳7」でのこだわりや、本作、そして「サマーレッスン」の“VR展開”も話を聞いた。原田氏ならではのユーモアたっぷりの、楽しいインタビューとなった。

ストーリーこそ本作の本質。そのための演出や、見せ方にこだわる

 本作の最大のインパクトは“豪鬼”の登場である。原田氏は「今回の『鉄拳7 FATED RETRIBUTION(以下「鉄拳7FR」)』は、2015年3月より展開している『鉄拳7』に様々なものを追加した作品です。発表そのものは去年の末にしています。豪鬼は大きな要素ではあるんですが、「鉄拳7FR」の中心が豪鬼ではありません」と語った。

「鉄拳」シリーズのプロデューサーを務める原田勝弘氏
豪鬼の参戦。プレイ感、キャラクター性の追求にすさまじいものを感じさせられる
「俺の嫁」とたくさんのアメリカ人を喜ばせたニーナの参戦
“憎しみ”という言葉では語りきれない一八と平八。その物語の先にあるのは……

 それでも、やはり北米ユーザーに、Xboxのカンファレンスで「鉄拳7FR」を見せる必要があった。多くの人、「鉄拳」をあまり知らない人にも驚きを与えたかったと原田氏は考えたという。このため、豪鬼と平八を並べ、違うシリーズでのキャラクターが戦うと言うことでの驚きを与え、次にムービーシーンと思わせていた戦いが、そのままシームレスに対戦格闘に移行していくという“メカニズム”での驚きも与えるように演出した。このアイディアは非常にうまくいき、会場では豪鬼の登場に湧き、そのまま「おおお!」という驚きの声へと繋がっていった。まさに原田氏の狙い通りの反応が得られた。「バッチリでした。フックとして観客を引きこみ、ミクロな驚きも与えた。作戦通りでしたね」と原田氏は語った。

 今作のメインは豪鬼ではない。それはシリーズナンバーである「鉄拳7」の流れを汲む本作での中心は、平八、一八、仁の親子の戦いである。この戦いの“決着”を描くことこそ本編でのテーマであるという。このメインのストーリーを書きたいからこそ、プロローグとして、豪鬼を取り上げたとのことだ。ストーリーに関しては今後の大きなお楽しみとのことだ。

 しかし、メインではないといいつつも、やはり豪鬼へのこだわりは強い。豪鬼は全国のロケテストで登場しており、今回は最新のビルドのものとなる。筆者が驚いたのは、大キックから足払い、波動拳で追加ダメージという豪鬼の定番の戦いが「鉄拳」でできていることだ。

 原田氏は「こんなことやったのは僕らだけだと思います。2D格闘の“表現”を3D格闘で実現しているんです。攻撃が当たったときのゴン、ゴン、というストップモーションを豪鬼の技にだけ入れています。何よりも操作感覚がそのまま入っている。もちろん“戦略”も2Dの時そのままが実現できます。『ストリートファイター』シリーズのプレーヤーが培ってきたテクニックが、そのまま活かせるんです。みんなびっくりしてますね」と語った。

 通常は、異なる作品の場合はどうしてもどちらかによってしまう。しかし「鉄拳7FR」はそのどちらかに因るところを極力なくした。そが面白いんだと原田氏は言う。「2Dだったら勝てたのに、3Dだったら勝てたのに……」という言い訳の聞かないシステムを作れた、ということに自信を持っているとのことだ。

 そうなると今後さらに2Dキャラクター参戦か? という声も多いが、原田氏は「鉄拳7」では、やはりナンバリングタイトルなので、豪鬼がメインの要素ではないように、2D対3Dが本作の本質ではないということを強調した。今作はやはりストーリーこそがメインだという。戦う必然性と、世界観を重視して豪鬼を参戦させたのであり、受けが良いからといって安易に2Dキャラクターを増やすつもりはないという。

 もう1人の人気キャラクターがニーナだ。ニーナは実はアメリカで大人気で、その人気があったからこそ彼女を主人公としたアクションゲームの企画も通ったとのことだ。「誤解を恐れずに言うと、アメリカ人はみんなニーナが大好きです。それはわかっていました」と原田氏が断言すると、同席していた通訳なども担当したスタッフも「僕も大好き」とうなずいた。

 しかも今回のニーナはウェディングドレスをまとって登場する。原田氏が面白かったと感じたのはアメリカ人が「俺の嫁」という表現で、ニーナを褒め称えたところ。これは長い「鉄拳」の歴史の中で初めてのことだ。ニーナの参戦が明かされると「俺の嫁」、「My Wife」という言葉がアメリカユーザーのTwitterやFacebookを席巻した。「変な言葉と、変な価値観が輸出されてしまったな」と原田氏は思ったという。

 しかしニーナは恐ろしい女だ。この姿も結婚するためではなく、誰かを殺すためだと原田氏は語った。広報資料の画像でも実は返り血が描かれている。戦っている中で、スカートの下に武器を隠しているのも見える。嫁にするには危険なキャラクターだ。

 新キャラクターと言えば、「鉄拳7」の時点でインパクトの強い新キャラクターがいる。かわいらしさが衝撃的な「ラッキー・クロエ」はもちろんだが、中東地方出身のキャラクター「シャヒーン」はサウジアラビアやクェート、アブダビの新聞の1面を飾り、フィリピンの「ジョシー」は現地のニュースに取り上げられるなど話題を集めた。その反応は原田氏も驚かされた。

 「シャヒーン」は中東のコミュニティの人々の意見を受け入れ、さらに留学生など現地の人にもチェックしてもらいながらキャラクターを組み上げていった。「金の装身具はつけない」など現地の“常識”を活かしているとのこと。

 「鉄拳7FR」は、まずはアーケードゲームとしてスタートする。そして家庭用が発売される。ゲーム内容に関してはやはり「ストーリー」が大きな楽しみとなる。格闘ゲームとして対戦だけを楽しむのではなく、世界観やキャラクター性を楽しみ、ストーリーを体験する“アクションゲーム”としての楽しさも「鉄拳」は持っている。特に「鉄拳7FR」はストーリーモードでドラマ性を強調し、演出も加えてストーリーを盛り上げている。歴史を振り返る要素も加え、面白い体験ができるという。原田氏は「ぜひ気になる方は、まずソフトの予約が始まったら、予約してね!」と語った。

お手本がいないVRコンテンツ。「鉄拳」だからこそできるVRとは?

 そして、「VR対応」についても聞いてみた。原田氏は本作の「VR対応」をアナウンスしているものの、今はどのようなやり方がいいかを考えているところだという。単純に格闘を1人称で楽しめればそれでいいかというと、そうではないという。

格闘家の正面に対峙する……その恐ろしさは楽しさに繋がるか?
話題を集める「サマーレッスン」。その期待度は非常に高い
自身の経験と考えをユーモアたっぷりに語ってくれる原田氏。非常に楽しいインタビューだった

 “仮想現実”で、本当に格闘家の正面に立ちたいのか? 「例えば自分が子供だとして、体の大きなお兄ちゃんやお姉ちゃんに目の前でシャドーボクシングをしてもらっても……それは恐怖でしかない。僕も色々試したんです。『サマーレッスン』の前はそういうコンテンツも作っていた。しかし目の前に格闘家のチョップが迫ってきて、それが楽しいかといえば、絶対そうじゃない。みんなはまだそれに気づいてないんです」と原田氏は語った。

 かといって「鉄拳」の世界をガンシューティングにするのも違う。「じゃあそれもう『鉄拳』じゃねえじゃん! という話ですよ」と原田氏は言う。それ以前に「鉄拳」キャラクターに銃を向けても勝てなそうである。彼らはいともたやすく銃弾をかわし必殺の拳をこちらの顔面にたたき込んでくるだろう。現在原田氏はVR対応の「鉄拳」コンテンツを“おまけ”として企画を練っているとのことだ。

 また、「サマーレッスン」もビジネスモデルを模索している。最先端を走っているだけに、お手本がない。このためどうしていいかを考えている。「サマーレッスン」は商品になるかどうかも見えないところを、ファンの声でプロジェクトが前に進んだ。これは偉大な1歩だったが、しかしその先にも参考になるコンテンツがない。このためどうしていいかを考えている。「ただ、お客さんも含めて、みんながこれまでのゲームと同じように考えない方がいい。全然体験も違う、価値観も変わってくるので、売り方、買い方も変わってくるのでこれからだと思っています」と原田氏は語った。

 アーケードゲームのように施設を用意してプレイするというビジネスモデルもあるが、「サマーレッスン」のようなゲームは、公共の場所で楽しんでいる姿を見せるのはちょっと恥ずかしい。VRゴーグルをつけている人は近くに人がいるのがわからず、それを知るとぎょっとする。原田氏はいたずらでスタッフがVRゴーグルを外す瞬間に正面に立って驚く顔を見ているという。

 「VRゲームは価値観が大きく変わって、従来のゲームとは違うものになるという予感があります。今のゲームですら楽しさは色々わかれている。100時間遊べるというのが良いゲームだというけれども、格闘ゲームは……人によっては1万時間だけど、数分で楽しく遊べる人もいる。時間は絶対的な価値ではない。VRではさらに価値観が広がるんじゃないかと」。どうしていくかを色んな方面で、色々な人が模索している。

 「そのためにも体験会かなと」と原田氏は語る。今後VR体験会を企画したいのだが、予約で瞬殺される状況もある。ハードそのものも売り切れる可能性もありそうなると体験会も意味を成さない。「PSVR」を購入できるかもわからない現状がある。「僕自身も優遇されているわけじゃないですからね。僕が買えなかったら腹いせに『サマーレッスン』の発売を延期してやろうかなと」と冗談を原田氏は言ったが、PS VRを望む人が入手できるか、望む人は一体どれくらいになるか、様々なことが見えない。期待と共に、状況が見えにくい現状も感じた。

 最後に原田氏はファンに向かい、「色々チャレンジしています。20年以上やってきた格闘ゲームなだけに、ゲームの中身、モードなどにも色んなチャレンジをしています。まだ言えないことも多いです。もちろんVRもチャレンジですし、こういった挑戦ができるのは応援してくれるファンの皆さんがいるからです。ぜひ皆さん、今後も5千円……いや、ご声援いただけると僕もがんばれます。もちろん5千円でも良いです(笑)。今後ともよろしくお願いします」とメッセージを語った。