【特集】

【年末特集】マンガランキングから見えてきた、2023年マンガトレンドは「Webtoon」!

注目ジャンル&バズった2つのキーワードも

【2023年マンガトレンド特集】

 2023年を代表するマンガといえば、何を思い浮かべるだろうか。アニメ放送が開始した「葬送のフリーレン」、流行語にもノミネートされた「【推しの子】」、映画が公開された「SPY×FAMILY」……まだまだ候補作があって悩んでしまう。

 そこで今回は、大手マンガアプリの「LINEマンガ」と「ピッコマ」で発表された2023年の年間ランキングに注目し、今年流行ったマンガとそのジャンル、テーマ、キーワードを探った。果たして2023年のマンガトレンドとは何だろうか?

「LINEマンガ2023年間ランキング」でわかる「Webtoon」の席巻

 国内マンガアプリダウンロード数NO.1を誇る「LINEマンガ」が発表した、全カテゴリ・全ジャンルを総合した「全体ランキング」に注目した。

【以降順位】

6.私の夫と結婚して(文/絵:LICO 原作:sungsojak)
7.キングダム(原泰久)
8.作戦名は純情(文:kkokkalee 絵:Dledumb)
9.喧嘩独学(ストーリー:PTJ cartoon company 作画:金正賢スタジオ)
10.結婚商売(絵:Antstudio 脚色:hanheun 原作:KEN原作)
11.【推しの子】(赤坂アカ×横槍メンゴ)
12.外見至上主義(T.Jun)
13.呪術廻戦(芥見下々)
14.余命僅かだと思ってました!(漫画:エシー 脚色:hyeyong 原作:Ari Choi)
15.アオアシ(小林有吾)
16.ブルーロック(金城宗幸・ノ村優介)
17.ナノ魔神(画:GGBG 脚色:Great H 原作:HANJUNG WOLYA (C)RIVERSE)
18.捨てられた王女の秘密の寝室(作画:Henie 原作:ヘリム)
19.義家族に執着されています(漫画:seungu 原作:Han Yoon seol)
20.明日、私は誰かのカノジョ(Cygames, Inc.・をの ひなお)

 第1位「入学傭兵」、第2位「再婚承認を要求します」、第3位「略奪された花嫁」、第4位「鉄槌教師」、第5位「俺だけレベルMAXなビギナー」、第6位「私の夫と結婚して」と続き、第7位に「キングダム」が登場。この「キングダム」を押さえた第1位から第6位までの作品は、すべてタテ読みマンガ「Webtoon」である。第8位以降も、TOP20の中で実に4分の3がWebtoonだ。

 Webtoonは独占配信や先行配信が主なためここでしか購読できないという事情はあるものの、「キングダム」や「【推しの子】」といった並みいる強力タイトルを押さえて(匹敵する)人気の高さに驚かされる。

 Webtoonは韓国で人気が爆発した、タテ読みフルカラーの新しいマンガ形態だ。コマ割りの横マンガに慣れていない人でも読みやすく、スマホでタテスクロールだけで読み進めていけるので、読む人を選ばない。そのため、海外で広く受け入れられており、世界中の人が読んでいるマンガだ。日本では2018年頃から韓国の人気Webtoonを翻訳して配信を開始。今年は「国産Webtoon元年」とも言われ、日本国内で制作されたWebtoon作品が数多く誕生した。

 作品数が増えた背景には、その独特な制作方法が関係している。Webtoonは従来のマンガ制作で主流の漫画家一人で作るスタイルではなく、原作、ネーム、作画、着色などの工程を分業する「スタジオ制」がとられている。アニメスタジオにも似たこのスタイルは、分業によって作業が効率化され、作家一人に依存せずにクオリティを保ちながらスピーディーに制作できる。例えば、第一話の作画中に、第二話の脚本に着手できるといったように、各工程の作業が同時進行で進められるのだ。

 また、スピーディーに作品が生み出されることから、その時代・その時々の流行りのキーワードやテーマが反映されやすい。つまり、Webtoonを追えばその時代の流行りが見えてくるというわけだ。

「ピッコマ2023年新作ランキング」から見える、今年のトレンドジャンル

 続いて、電子マンガ・ノベルサービス「ピッコマ」のWebtoonコンテンツである「SMARTOON」の「2023年新作ランキング」に注目したい。

 これは“2023年に連載を開始したSMARTOON”に限ったランキングのため、今年発表され、今年読まれた、まさに2023年を象徴するWebtoonと言えるのだ。

少年/男性Webtoon、キーワードは「主人公最強」

 まず第1位から見ていこう。ピッコマ、LINEマンガともに第1位を獲得したのは、少年/男性カテゴリ。

 ピッコマの第1位「俺だけレベルアップな件~外伝~」は、自分だけがレベルアップする能力を得て最強のハンターへと成長していく主人公を描いた、通称「俺レベ」の後日談。LINEマンガの第1位「入学傭兵」は、元最強傭兵の高校生が主人公のアクション劇。同じく第4位「鉄槌教師」は圧倒的な強さで教育改革を行っていく世直しの物語。同じく第9位「喧嘩独学」は、独学で喧嘩を学んで強くなりスクールカーストをひっくり返す、といったストーリーとなっている。

 これらはすべて「バトル・アクション」ジャンルだ。

 さらにストーリーに踏み込むと、主人公が最初から、もしくは序盤から、それぞれの世界で最強格に強いことがわかる。主人公の成長過程を描くか、もともとの実力をもって活躍する姿を描くかといった違いはあるが、いずれも「主人公が無双」状態で「主人公が最強」といった共通のキーワードが見えてくる。

俺だけレベルアップな件~外伝~

作画:DISCIPLES(REDICESTUDIO) 原作:Chugong 脚色:h-goon

□ピッコマ「俺だけレベルアップな件~外伝~」

俺だけレベルアップな件~外伝~
【あらすじ】

ハンター「水篠旬」の活躍により平和になった世界。 激戦を繰り広げたハンターたちも異次元からの侵略者もゲートも全て忘れたまま、平穏な日々を送っていた。 そんなある日、警察署に次々と犯罪者たちが自首してきた。 「24時間以内に自首しなければ生きていることを後悔させてやる」 影の化け物にそう脅されたと言って怯える犯罪者たち。 「どうせ、幻覚でも見たんだろう」 彼らの話に耳を貸さない警官たちの中で、刑事である「犬飼晃」だけがどこか違和感を覚えていた。 そんな彼は事件の真相を単独で調べ始めるが、意外なところから一人の高校生にたどり着く……。 空前の大ヒットを記録した「俺だけレベルアップな件」の後日譚が今始まる。

鉄槌教師

原作:チェ・ヨンテク 作画:ハン・ガラム

□LINEマンガ「鉄槌教師」

鉄槌教師
【あらすじ】

校内にはびこる不良、問題児そして腐敗した教職員... 。体罰が禁止され無法地帯となった学校では、自殺するまで追い詰める強烈なイジメが蔓延していたー。 崩壊した学校教育の現場に正義の制裁を下すのは、教権保護局所属の「ナ・ファジン」。 体罰に賛成するなんて?加害者にやり返してあげるだけだ! 胸がスカッとする鉄槌教育が今始まる!

喧嘩独学

ストーリー:PTJ cartoon company 作画:金正賢スタジオ

□LINEマンガ「喧嘩独学」

喧嘩独学
【あらすじ】

貧乏で力も弱い主人公・志村光太は、ひょんなことから動画配信サービス・ニューチューブで動画を配信することになる。喧嘩をテーマに動画を撮ることにした光太だが、ケンカの仕方も分からず途方に暮れてしまう。そんな時、ケンカの方法を教える秘密のチャンネルを見つけて…次第に独学で喧嘩を学んでいく光太。どんどん強くなる度に、もっと刺激的な喧嘩動画を撮る度にスクールカーストはひっくり返る!

少女/女性カテゴリは“西洋風”ロマンスファンタジーが独占

 引き続き、ピッコマの第2位以降を見ていこう。ピッコマ第2位「大公家に転がり込んできた聖女様」、第3位「大公殿下の甥っ子に懐かれてしまいました」、第4位「ニセモノ皇女の居場所はない」、第5位「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」……と続き、ロマンスファンタジーがランキングの大部分を占めている。

 なかでも、“和風”ファンタジーは一作もランクインしておらず、すべてが“西洋風”であることが興味深い。LINEマンガの第2位「再婚承認を要求します」、第3位「略奪された花嫁」も“西洋風”ヒストリカル・ロマンスであり、同ジャンルに分類される。

 少女/女性カテゴリでは、「西洋風ロマンスファンタジー」がヒットを独占したことがわかる。

再婚承認を要求します

作:Alphatart, SUMPUL, HereLee

□LINEマンガ「再婚承認を要求します」

再婚承認を要求します
【あらすじ】

ナビエは生涯、皇后になるための教育を受け、皇帝と政略結婚した「完璧な皇后」だった。しかし、皇后になって3年、皇帝のソビエシュは狩り場で出あった奴隷出身のラスタに一目惚れし、ラスタを宮殿に迎え入れ「皇帝の側室」という地位まで与えた。そしてソビエシュはラスタにはまっていくほどナビエを傷つける行動を繰り返す。ラスタは自身を皇后にしてほしいとソビエシュに哀願し皇帝の座まで狙う。ナビエは自身が皇后になるために努力してきたことが水の泡になったことを悟り離婚することを決心、隣国の皇后になるために再婚承認を要求するが…

略奪された花嫁

文・絵:SOY MEDIA 原作:Kanghee Jamae

□LINEマンガ「略奪された花嫁」

略奪された花嫁
【あらすじ】

ベルーク男爵の私生児 ルシナへ、一世一代のチャンスが訪れる。ドラゴンの地 タヤールを統治する大王かつ征服者のハカン。彼の略奪新婦となる代わりに与えられた、また新たな人生。わずかな自由でさえ切望していたルシナは、そうやって未知の世界へ足を踏み入れるのだが… 絶望の果てを照らす、たった一つの愛の物語。

政略結婚なのにどうして執着するのですか?

絵:jajak 脚色:TTM, Night Cat Mary 原作:DD

□ピッコマ「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」

政略結婚なのにどうして執着するのですか?
【あらすじ】

「俺の妻として認められるなどとは夢にも思わない方がいい。俺がバラジットの娘に跡継ぎを産ませることは永遠にない。」 ナディアはつい、私もそのつもりだと相槌を打つところだった。 ありがとうございます、侯爵様。 自分で言ったこと、守ってくださいね。 *** 「侯爵様は私と部屋を共にするつもりはないとおっしゃいました」 「……」 「なので跡継ぎを設けるためには妾を囲うしか…」 「……」 グシャッ 何かがつぶれた音にナディアはバッと振り返った。 すると夫が手をついているテーブルの端にヒビが入っているのが見えた。 どうしてあそこに突然ヒビが…?

愛は要らないのでお金でも稼ごうと思います

漫画:モルコ 原作:HÆON

□ピッコマ「愛は要らないのでお金でも稼ごうと思います」

愛は要らないのでお金でも稼ごうと思います
【あらすじ】

実の父である皇帝により長い間幽閉されていたアリスティーネ。 彼女は過去、現在、未来を見ることができる<帝王眼>の持ち主だった。 そんなアリスティーネは国同士の同盟の証として 怪物と呼ばれるタルカンと政略結婚をすることになる。 しかし皇帝は同盟を結んでからも敵対国である アイルゴを征服するための機会を虎視眈々と狙っていた。 父である皇帝からは虐待され、騎士や令嬢たちからも蔑まれてきたが この結婚を機に自由を手に入れることを決意する。 そのためにはタルカンの力が必要だと考えるが 彼には他に愛している女性がいるようで…。 そこでアリスティーネはお互い助け合うことを提案する。 本当の自由を手に入れるため幸せな結婚生活よりも自分でお金を稼ぐことを 選んだアリスティーネは果たしてその夢を叶えることができるのだろうか?

“タイムリープ”“運命を変える”...さまざまな方法で「人生やり直し」

 続いて、ストーリーに注目してみよう。ピッコマの第2位「大公家に転がり込んできた聖女様」は薄幸の聖女が15回目の人生で成り上がっていく心温まるストーリー。LINEマンガの第6位「私の夫と結婚して」は、夫と親友の不倫現場に遭遇し殺された主人公が、10年前に戻って運命を変える復讐劇。ハートウォーミングとドロドロ展開と、で物語の方向性は大きく異なるが、どちらもタイムリープもの(死に戻り系)である。また、LINEマンガ第8位の「作戦名は純情」は、主人公が愛され量ゼロの運命を変えるべく奮闘する恋愛物語。ピッコマ第7位の「勇者パーティー辞めます。」は呪いによって女性の体になった主人公が第二の人生を歩んでいく、といったストーリーだ。

 舞台設定やストーリーラインはそれぞれだが、大ブームを巻き起こした「異世界転生」ものに近い、あるいはそこから派生したテーマだと考えられる。しかし、違う次元の世界へ行って戦ったり生活したりするだけではなく、主人公による「人生をやり直す」「別の人生を生きる」といった強い意志が感じられる。転生ものからもう一歩踏み込んだ「人生やり直し」といったテーマが浮かび上がるのだ。

大公家に転がり込んできた聖女様

漫画::Hwang bino 原作:Songiba

□ピッコマ「大公家に転がり込んできた聖女様」

大公家に転がり込んできた聖女様
【あらすじ】

「もう…なにもかも嫌。死にたい。」 聖女の力を持っているにもかかわらず、内定された偽聖女のために一生涯地下牢に閉じ込められ利用されてきたダイナー。 耐えがたい孤独と苦しみの中、死んでもなお繰り返される地獄から抜け出そうと、15回目の人生で今までと違った方法を選んだのだが、偶然か必然か大公家の養女になる。 「幸せな日々を送れるようにしてやるからな――。」 新しい名前とともに家族の温かみを知ったダイナーはこれ以上神殿に利用されまいと心に誓うが――… 傷ついた心を持つ本物聖女の心温まる成り上がりストーリー!

勇者パーティー辞めます。

原作:NariaTa 作画:GRAPHICTORY

□ピッコマ「勇者パーティー辞めます。」

勇者パーティー辞めます。
【あらすじ】

勇者パーティーのバトルメイジとして活躍する「ラニエル」。 彼は正義感と責任感が人一倍強く、魔法職でありながら勇者並みに戦闘に参加するのだった! ところがある日、仲間から煙たがられパーティーを追い出されてしまう。 パーティーを追放され一人取り残されたラニエルは、以前戦ったサキュバスに呪いをかけられて女性の体にされてしまうのだが…。 彼女は冒険者を引退し「ラニア」として第二の人生を歩むことにするのだった。 師匠の推薦で魔術アカデミーの助教授になったラニアのハチャメチャ教師生活が始まる!

作戦名は純情

文:kkokkalee 絵:Dledumb

□LINEマンガ「作戦名は純情」

作戦名は純情
【あらすじ】

人は一生を通して「愛される量」が決まっているという。 高校生の木無愛実は“人が一生の間に愛される量”が見える不思議なガラケーを手に入れるが、「愛される量」がまさかのゼロ?! 彼氏にも浮気されてしまうが、そんな運命を変えようと彼氏の親友・橘蓮と作戦開始! でも、ただの作戦のはずが、ふたりは惹かれあっていく…!?

「2023年マンガトレンド」まとめ

 2023年は、新しいマンガ形態の「Webtoon」が大ヒットし、「バトル・アクション」、「“西洋風”ロマンスファンタジー」ジャンルが人気を独占、その中から見えてきたトレンドテーマ・キーワードは、「主人公最強」と「人生やり直し」であった。

 これはあくまで筆者の解釈であるため、読者のみなさんもぜひ今年のマンガトレンドは何だったのか、自分なりに読み解いてみてほしい。そうして見えてきたトレンドは、今年の世相を反映している……のかどうかも、ぜひWebtoonを楽しみながらチェックしていただきたい。