美しく幻想的なグラフィックスと、謎めいた世界、ユニークで壮大なパズル……。日本でも多くのファンを獲得しているアドベンチャーゲームシリーズ「MYST(ミスト)」。本作「ミスト:ウル コンプリートクロニクル」は、海外では 「Uru: Ages Beyond Myst」の名で発売された、「MYST」シリーズの外伝にあたる作品に、「TO D'NI」と「The Path of the Shell」という2つの追加パックを同梱したものである。プレーヤーは16ものユニークな世界を旅し、謎を解き明かしていく。 今作の最大の特徴はリアルタイムで描かれた3Dグラフィックスの中を冒険するというところだろう。今までのシリーズはプリレンダー映像のいわば「CGのつなぎ合わせ」だったため、移動に独特の緩急があり、制限も多かったが、今作ではキャラクタを自由に移動させることができる。さらに走ったり、ジャンプすることも可能で従来の「MYST」シリーズとはずいぶん違ったアクション要素もある。今回のレビューでは、すばらしい幻想世界の一端をご紹介していきたい。
■現代:チュートリアルも兼ねたウルの世界への入り口
本作では裂け目に渡された細い足場を渡ったりするため、基本的には3人称視点がプレイしやすいように感じた。ジャンプするタイミングなどもこちらの方がやりやすい。3人称の場合は、いわゆる「リモコン方式」の移動になる。「バイオハザード シリーズ」でおなじみの、前進を押すとキャラクタが向いてる方向に進むという操作方法だ。 ゲームをスタートすると、プレーヤーは突然広大な砂漠地帯に放り込まれる。前方には低い山があり、とりあえずそこを目指していくと、一台の車が目に入ってくる。ワゴンに幌をかけ、その日影で雑誌を読んでいる太った男、彼が冒険の案内人となる。ヒッピー崩れのような、ちょっとだらけた感じのこの男がプレーヤーを教え導く、というのが実に本作らしくてユニークだ。ゲームにつまったときは彼の元を訪れ、助言をしてもらえればいい。 フィールドには巨大な裂け目があり、ここには“遺跡”がある。かって栄華を誇ったという“ドニ”という文明の名残だという。プレーヤーの行動により、この遺跡が徐々に蘇っていくことになる。 プレーヤーのアクションにより遺跡のスイッチが入り、悠久の時を超えて蘇る。それとともに、フィールドにある「印」を探索。7つの印を見つけることで異世界への入り口が開く。この展開は他の時代にも共通する要素である。また、崩れかけた橋をジャンプで飛び越したり、さまざまなスイッチを試したりと、これからのステージの練習要素もある。このステージの攻略を通して、今後の時代のヒントを得ていくという仕掛けになっている。また、アトラスの娘であるイーシャもこのステージには登場する。謎がふくらみ、異世界への冒険心がかき立てられるステージである。
■めまいがするほどに広大な世界
しかし、大概のプレーヤーはスタートしてしばらくすると戸惑ってしまうのではないだろうか。いくつもの世界への扉はあるが、その世界どれもが何をして良いのか、ちょっとわかりにくい。マウスを動かし、反応するところを探し、徒労に終わってポータルに帰ってくる。この繰り返しになるだろう。 もちろん、この自由度は楽しみを与えてくれるところもある。最初から色々な時代に行き、個性豊かなステージの数々を見ることができる。本作の最大の魅力である「異世界の表現」をたっぷりと味わうことができるのは、わくわくする楽しさがある。しかし、反応するところが少なく、前に進んでいる感じが希薄だと、不安が心に持ち上がってくる。海外でも本作に関しては「少し難易度が高い」という評価があったようだ。最初のころは反応させられる部分を見つけられず、焦ってしまうところもあるだろう。 筆者はいきなり小屋に入ってしまい、つぎつぎと本の世界に挑戦してしまったから特にこの感覚が強かった。実は小屋に入る前の庭にある4つの柱の中にそれぞれ別の本が隠されており、この世界もまた冒険できるのである。こちらの4つの世界は、小屋の中の本の世界とは少し違い、プレーヤーのアクションに反応する場所がわかりやすい。筆者はここではじめて、「ゲームが進んでいる」感覚を得ることができ、少し安心したのだった。 この4つの世界は、謎を解き切らなくても一度旅をすると石柱が閉じ、本にアクセスできなくなってしまう。最初は不安になるが、この本は小屋の本棚に保存されており、いつでも再挑戦できる。この4つの世界を足がかかりに、謎を解き明かしていくことになるのだ。 ほんのちょっと、小さな事をきっかけに解法が見えてくる。本作の楽しさはここにある。死んだように静かな動きを止めた世界が、プレーヤーの試行錯誤によって動力を蘇らせ、ふたたび活動を始める。今までの世界が全く別な顔を見せる瞬間である。その情景は達成感と共に驚きをプレーヤーにもたらしてくれる。次項では、筆者が見つけた具体的な謎解き部分を少し紹介したいと思う。少しだけネタバレ要素もあるので、読む人は注意して欲しい。あくまで序盤の、つまりそうな、わかりにくいところを抜き出したつもりである。
■動き出す奇妙な機械、進めるごとに深まっていく謎
しかし、ひとつの機械に触れ、KIというアイテムを入手したとき、プレーヤーは気付くだろう。この遺跡は眠っているだけだ。目覚めの時を待っているのだ。瓦礫をこえ、渡り板を通っていくことで、亀裂の向こうに激しく回転する壁面を目にする。この遺跡の心臓なのだろうか? プレーヤーはこの時代に限らず、あらゆるところに渡り板や、工事に使うカラーコーンを目にするだろう。それは工事現場の道具そのままで、遺跡と全く違う、「現実」を思わせるアイテムだ。これらはプレーヤーに先立って遺跡の調査を行なっていたDRC(ドニ遺跡復元委員会)のものだ。彼らが活動している痕跡は遺跡のあらゆるところで見えるのだが、彼ら自身の姿はまだ見ることができない。 筆者はこの動く壁を見つけたところでちょっと詰まってしまった。解法は、この動いている壁に前進し続けること。そうすると突然亀裂が生まれ、この回転している部屋の中に入ることができるのだ。この仕掛けは動く壁面をずーっと見ていることで壁面の亀裂がほんの一瞬見えるというのがヒントとなっている。ちょっと長い時間見続けなくてはいけないので、見落とさないようにしたい。 この後、この遺跡の動力を取り戻すためのパズルに挑戦することになる。鍵となるのはシリンダーのような機械。床のパネルを踏むことで柱がせり上がって来るが、プレーヤーが離れるとこの柱が下がってしまう。まわりのスイッチやペダルの位置を確認してから、柱が下がりきる前に動作させ、また床のパネルを踏んで柱を上に上げるという作業が必要となる。 上記2つの他、いくつかの謎を解くことで遺跡が蘇る。ここでプレーヤーははじめて建物の外に出ることができる。今までの閉鎖された空間と全く違う広大な空間。さらに建物全体が回転しているという大がかりすぎる仕掛け、本作ならではの驚きが体験できる演出である。
最初の本と違い、オレンジ色の本の世界はこの広大な空間で謎を探すことになる。あるスイッチを入れると巨大なアンテナが持ち上がり、そのそばにある潜望鏡を覗くと物凄い勢いで動く太陽が見える。この太陽を潜望鏡の中心に捕らえることができれば、アンテナが太陽に固定され、エネルギーの供給を受けた遺跡全体が活動を再開する。 ここからは、どこに行けるか? 動きそうな物はないか? それに気をつけて進めていけばスムースに進んでいくだろう。広大な空間ではじまった冒険がやがて地下の密閉空間への冒険につながっていく。展開の上では、ちょうど左の本とは逆の流れになる。 筆者が特にユニークだと感じたのが「水槽」を使った仕掛け、実はこの水槽は金庫になっていて、ある方法を使って仕掛けを動かさなくてはいけないのだが、この方法を知るのが「取扱説明書」の発見なのである。この説明書の文面が調子のいい営業文章そのままで、きわめて現代的なのが面白かった。この水槽はDRCが設置したものなのだろうか? 本作はパズル的な謎解きの他に、ストーリーの謎も多数ちりばめられている。DRCの所属員はどこに行ったのか、遺跡の秘密は? ドニ文明は何故滅んでしまったのか? 本作ではさまざまな文章が書かれた資料を目にすることができるが、ひとつひとつの文章量が膨大で、しかもゲームの解法につながっているというよりも、「背景のための雰囲気作り」というニュアンスが強く、ちょっと読み解きづらい部分があった。 これら膨大なメッセージはもちろんきちんと日本語化されている。ゲームがある程度進んだ時点で、もう一度この世界を訪れ、ジグソーパズルのピースをはめ込むように文章によって浮かび上がる世界観を楽しむのが良さそうだ。この世界にのめり込みたいプレーヤーならばより楽しめる要素というわけだ。 本作は9,429円とコンシューマゲームと比べると少々高い印象を受ける。しかし、ボリュームを考慮すると決して割高なものではない。今回取り上げた二つの本もこの後もまだまだ多彩な展開を見せる。それだけの奥深さがある世界が基本のシナリオの分だけで6つ、さらに追加パック分で10の世界が用意されているという。じっくり腰を落ち着けて、たっぷり楽しめる作品なのである。 ストーリーもまた追加パックによりより深く、広く展開を見せる。「TO D'NI」ではより深くDRCの秘密が語られ、「The Path of the Shell」ではドニ文明の過去の姿が明らかになるという。さらに根幹的なストーリーを楽しむだけではなく、膨大なテキストの中にスタッフの遊び心を発見するのも面白い。膨大な謎があなたを待っている。「MYST」ファンにはもちろん、アドベンチャーゲームファンにも強くオススメしたい作品だ。たっぷり、じっくり楽しんで欲しい。 (C) 2005 Cyan Worlds, Inc. Published by Ubisoft Entertainment, S.A. All rights reserved. Ubisoft, ubi.com, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries. Uru, D'ni, Cyan(R) and Myst(R) are trademarks of Cyan, Inc. and Cyan Worlds, Inc. under license to Ubisoft Entertainment.
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(2005年2月23日)
[Reported by 勝田哲也]
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