「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ
ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第35幕】
Report / manga:ジョン・カミナリ
logo design:フランチェスコ・アッカッターティス(2013/9/6 00:00)
電遊。辞書に載っていない造語である。電気的な遊び。いわゆる、テレビゲーム。道。その道を、自分の価値観だけを信じて最後まで歩むのが、侍精神である。電遊道は、妥協を許さないサムライゲーマーが歩むべき道。他人に影響されることなく、自分のゲーマーとしての信念を貫き通せばいい。たとえ、ゲームが別の道に進んでも、自分の好きな道をずっと信じ続けるのみ。たとえ、“これこそがゲームの未来形だ!”と言われても、自分の好きなゲームライフを思う存分楽しむのみ。
GAME Watch編集部と「電遊道」の打ち合わせをした時の話はまだ鮮明に覚えています。「連載記事は大変ですよ」と注意されました。イタリアのゲーム雑誌でも沢山の連載記事を担当した僕ですが、最初はネタが山のようにあると自信があっても、時が経つに連れ読者の興味を引き付けるようなネタを見つけることが難しくなる時もありました。
「電遊道」も例外ではなかったです。僕の人生の中で、初めて日本語で書く連載記事でした。「えっ? 僕にできるのかな?」と最初はとても不安でしたが、皆さんのコメントのおかげで自信が湧いてきて、「来月号はもっと頑張ります!」と、前向きに思えるようになりました。GAME Watch編集部のサポートや忠告も、レポーターとして成長するためにとても大切でした。これまでサポートして下さった読者の皆様、編集部の皆様、とても感謝しています。
長い付き合いでしたが、「電遊道」は11月1日掲載予定の第36幕で終了することに決めました。「電遊道」はまるで赤ん坊のように可愛がっていて、もうすぐ終わると思うと悲しくなります。しかし、「電遊道」が終わるということは何か新しい連載が誕生することを意味するのかもしれません。「電遊道」で学んだことを、これから実現する可能性のある新しい企画に反映させていきたいと思います。
まず9月27日に去年と同じく、「電遊道」の“東京ゲームショースペシャル”が掲載される予定です。そして最終幕は、少し時間をかけて編集するために11月1日に掲載することにしました。「イタヲタのレトロなゲームライフ」では、僕のゲーマー人生を彩ったキャラクター達を再度登場させます。こうご期待!
イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること。
もくじ
一刀両断~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~
話題のゲームニュースや注目のゲームイベントをピックアップして、僕の正直な感想を述べたいと思う。また、現在のゲームが抱えている問題を解決するアイデアや提案も、このコーナーを通じて考えてみたいと思う。ゲーマーの皆が納得できる未来のために!
其の一:初心に帰るレベルファイブ。ハードの垣根を超えるラインナップにびっくり!
数々のヒットを生み出してきた日野晃博氏が率いるレベルファイブは、8月26日にエプソン品川 アクアスタジアム ステラボールで発表会「LEVEL5 VISION 2013 “渦”」を開催した。会場は「レイトン」シリーズの新作が発表された「LEVEL5 VISION 2007」と同じだった。同社代表取締役社長の日野氏が、その会場についてこう語った。「レベルファイブの“スタート地点”ともいえる場所。レベルファイブが新たなビジネスに取り組んでいくうえで、初心に帰ったつもりで気持ちを込めてやっていく」。
初心。つまり、これまで築いてきたヒットシリーズに頼りすぎず、ゼロからやり直すかのような意気込みで、今後のゲーム市場に立ち向かっていくことになる。発表会の最後に紹介されたロールプレイパズル「LAYTON 7(レイトン7)」は、第6弾でストーリー的には完結した「レイトン教授」シリーズと何らかの接点を持っているように思えるが、その後明らかにされた新作である「ワンダーフリック」と「魔神STATION」は、過去の作品とは一切繋がりを持っていなかった。
僕が1番驚いたのは、新作が発売されるプラットフォームのほうだ。「LAYTON 7」は3DSの独占タイトルかと思ったら、iOS/Androidバージョンも同時に提供されるし、新感覚RPG「ワンダーフリック」は、異なるプラットフォーム間でのセーブデータを共有する「UNIPLAY」に対応し、スマートフォン(iOS/Android)、プレイステーション 3、PlayStation Vita、Wii U、さらに次世代機のプレイステーション 4、Xbox Oneの7つのプラットフォームでリリースされる。本当に驚きだった。プラットフォームの垣根を超えた新戦略。これこそが、ゲーマーに一体感をもたらす最高の展望だと思う。
発表された新作の第1印象だが、ゲーム性が謎に包まれた「LAYTON 7」は是非遊んでみたいと思う。現段階では「レイトンの思想を受け継いだまったく新しい発明の作品」と日野氏が語ったこと以外は謎に包まれているが、これから「レイトン教授」シリーズの主要な材料だったナゾトキが紹介されるだろう。期待感を高めるような謎めいたプレゼンテーションは、レベルファイブならではと感じた。
RPGのファンとして、さらに魅力的だったのは「ワンダーフリック」だ。電車の中で、親指1本で遊べるような直感的な面を持っているが、動画を見るとRPGファンを喜ばせるような世界の広大さやアイテムの豊富さなども確認できた。ゲーム機を問わず、普遍的な価値を持つRPGだと強く感じた。
唯一心配なのは、そのビジネスモデルだ。基本プレイは無料で、アイテムの購入などは課金制になっている。スマートフォンの分野では当たり前になりつつある課金システムだが、携帯ゲーム機、据え置きゲーム機のユーザーにはそのシステムが、まだ完全に浸透していないことだけが気になっている。
また、戦闘パートでサッカーボールのようにメダルをシュートするという操作はタッチスクリーンには最適だが、家庭用ゲーム機で同じ操作感覚を実現させたいのであれば、PS Vitaやタブレットを補助的な操作端末として使うことが第1条件になるだろう。「UNIPLAY」に対応するプラットフォーム間のインタラクティブ性が、もっと詳細に紹介されるであろうこれからの続報に注目だ。
「魔神STATION」もとても印象的な新作だった。日本に実在する駅を舞台にしたRPGで、しかも日本の歴史の著名な人物を登場させるなんて、本当に前代未聞の内容になっている。すごい発想力がレベルファイブの大きな特徴で、それはヒットシリーズの続編の制作が優先される現在のゲーム市場に希望を与えていると思う。
「魔神STATION」は明らかに日本人向けのゲームだが、全世界を意識したゲーム作りも大切であると同時に、日本人ユーザーをターゲットにした新作の開発もとても大事だと思っている。欧米と日本の両方のマーケットを充実させるレベルファイブの方針は見事だと思った。
スマートフォンに偏りすぎという見方もできるかもしれないが、第35幕で僕が語ったように、スマートフォンを従来のゲーム機と差別してはいけないと思う。一体感や統一性が求められる時代だからこそ、レベルファイブの決断は見事に的を射ていると確信している。
【LAYTON 7】、【ワンダーフリック】
(C)LEVEL-5 Inc.
【魔神STATION】
(C)LEVEL-5 Inc./Razest co.,ltd.
其の二:任天堂がエイプリルフール?! と思わせるような携帯ゲーム機を電撃的に発表!
8月28日に欧米のネット上に、冗談だと思われるような携帯ゲーム機の写真が流れた。「ニンテンドー2DS」。同時にゲームサイトには、「冗談ではない、本当に発売されるぞ!」というようなタイトルのニュースが掲載され始めた。ゲーマー達は最初、「あれ? 今日、4月1日だったっけ?」と疑ったようだ。正直僕も、そのうちの1人だった。誰かが作ったうまい合成写真だと思ったが、任天堂のオフィシャルホームページで正式なプレスリリースを確認した時、それが紛れもない事実だったことがわかった。
必然的に疑問が沸く。僕はこの新型携帯ゲーム機が世界的にヒットすると確信しているが、任天堂はこの発表で、裸眼立体視の余計さを認めたとも主張できる。僕は2010年に初めてニンテンドー3DSの裸眼立体視を体感した時、その臨場感たっぷりの映像に好印象を抱いたが、配布されたパンフレットに明記された「6歳以下のお子様は、長時間3D映像を見続けると目の成長に悪い影響を与える可能性があります」という注意書きを見た時、嫌な思いを覚えたのも確かだった。
任天堂は世界中で、とても良いイメージを持たれている。任天堂のゲームは暴力要素がなく、教育的・健康的という形容詞が最も合うハードやソフトを開発・制作してきたゲームメーカーだ。だからこそ、「何故、今回、子供が遊んではいけない携帯ゲーム機を作ったの?」とその時は、強く感じた。
その前置きがあったから、僕はこういう発表がいつか来るのかとずっと予想していた。ただ2DSの導入で任天堂は信頼において1歩後退したと思う。親が喜ぶようなシステムに生まれ変わったが、最初から3DSというシステムを支持してきたゲーマーがこの発表をポジティブに受け止められるとは思えない。何故ならこれからの新作開発は、裸眼立体視という機能を意識せずに進められていくと思うからだ。
それはさておき、2DSは3DSよりも、おもちゃ的なルックスを持っているので、以前よりも子供達の目に魅力的に映るだろう。「ポケットモンスター X・Y」の発売が近づいているし、そのゲームソフトと2DSを同時に購入する親子の行列を作る様子が頭の中に浮かんでいる。僕も子供だったら、折りたたみモデルよりも、カラフルでおもちゃのように見える2DSを選ぶに違いない。
1つだけ、2DSについて気になる特徴がある。やはり、ユーザーは主に子供なるはずなので、タッチペンではなく指だけでより直感的に操作できるように、タッチスクリーンをもっと大きなサイズにするべきだと思った。
任天堂は2DSの導入で子供ゲーマーのさらなる普及を目指しているといえる。しかし、たとえ2DSが発表されていなくても、携帯ゲーム機の分野で覇権をとられることはないと思う。欧米ユーザーも感じているが、携帯ゲーム機よりもWii Uの今後に注力するべきだ。Wii Uの普及率を飛躍的に上げるのが、任天堂のメインとなる課題だと確信している。
(C)Nintendo
其の三:Gamescom 2013で注目されたPS Vita最新作のディレクターはイタリア人だった?!
E3に続き、ドイツで開催されたゲームショー「Gamescom 2013」でも、ソニー・コンピュータエンタテインメントとマイクロソフトの次世代ゲーム機、PS4とXbox Oneの新情報が公開された。SCEのカンファレンスではPS4のインターフェイスが初披露されただけでなく、欧州開発チームによる新作も紹介された。予想していたように両方のカンファレンスにおいて、小・中規模のデベロッパーにとってゲーム制作がいかにスムーズに、かつ安く進められるのかが重要なキーワードの1つとなった。
Gamescom 2013ではイタリアのゲーム産業にとって嬉しい出来事があった。グラッスホッパー開発の「Shadow of the DAMNED」でディレクターを務めたイタリア人ゲームデザイナーのマッシモ・グアリーニ氏が、イタリアでOvosonicoというゲーム会社を設立し、現在PS Vita用に「MURASAKI BABY」という新感覚アクションアドベンチャーゲームを開発している。その作品がGamescom 2013で行なわれたSCEのカンファレンスで強力なタイトルとして紹介され、イタリアの新聞や雑誌では、イタリアのゲーム産業の躍進を象徴するタイトルとして報道された。
「MURASAKI BABY」は、グラスホッパー的な雰囲気も醸し出しているし、とても芸術性の高い作品になっていると思う。ダークなグラフィックスや個性的なキャラクターデザインは、全てのユーザーの好感を得られないかもしれないが、ゲームとしてのクオリティはとても高いので、それはイタリアのゲーム業界にとって有意義な進歩を意味している。
イタリアでは、レーシングゲームの分野で定評のある有名なゲームメーカー「Milestone」が古くから存在するが、世界に発信できるようなアクションアドベンチャーを作るゲームメーカーはこれまでなかったので、「MURASAKI BABY」で、イタリアのゲーム業界がずっと抱えていたコンプレックスを乗り越えられたのではないかと思う。
イタリアは、ゲームデザインにおいても才能を持った人が沢山いると知られているが、ゲームという伝統や歴史があまりないし、ゲームに対して偏見を持つ政治家が沢山いるので、ゲーム産業はほとんど支持されていないという事実がある。イタリアでは、ゲームに投資する投資家を見つけるのが困難であり、素晴らしい企画書を提出してもそれを実現させるるケースは皆無に等しい。
そういう現状で、目標を形にしたマッシモ・グアリーニ氏の努力を評価したい。彼はこれまで、日本やカナダなどの世界中のゲームメーカーで実績を残してきたからこそ、SCEのパートナーとしてPS Vitaで新作の開発を任されることになったのだと思う。
世界で貴重な経験を積んでから、日本や北米で学んだことを母国で実用するというマッシモ・グアリーニ氏の例が、今ゲームデザイナーを目指しているイタリア人若者に希望を与えた。「イタリアも世界の商品と競合できる」、「イタリアのゲーム産業はまだまだチャンスがある」と。
「MURASAKI BABY」がきっかけとなり、これからOvosonicoだけでなく、イタリアの小・中規模ゲームメーカーが、日本のゲーム機用に新作を提供し、イタリアのゲーム業界の評判を世界的に改善させていくことを願っている。
(C)2013 Sony Computer Entertainment Europe