佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

Touch登場で果たしてOculus RiftはHTC Viveを超えた最強VRシステムになったのか!?

ワンランク上の入力性能&SteamVRアプリも完全動作

Oculus Touch

 このところ、VRでレースゲームを遊んだり(関連記事)、渋谷にオープンしたVRゲーセンで遊んだり(参考記事)、PlayStation VRをPCで使う方法を試したり(関連記事)してきたが、「なぜOculus Touchを紹介しないのか?」と疑問に思っていたVRファンもいるかもしれない。紹介が遅れた理由は、単純に製品が届かなかったためだ。12月15日、ようやく筆者宅にもOculus Touchが届いたので、遅れ馳せながら様々な検証を行なってみた。

 12月6日に正式ローンチを果たしたTouchは、OculusのVRヘッドセットであるRiftとセットで使用するためにデザインされたVRモーションコントローラーだ。そのデザインや機能は、PlayStation VRのPlayStation Moveが第0.5世代、HTC ViveのViveコントローラーが第1世代とすれば、第1.5世代と呼べるくらいに進化したものになっている。小型軽量で使いやすい形状、タッチセンサー搭載による幅広いハンドジェスチャー表現の実現などがそれにあたる。

 Oculus Rift+Touchという組み合わせは、価格的には118,400円(税・送料込み)と、初めからコントローラー込みのHTC Viveの価格(税込み107,784円)を1万円以上も上回る。しかしOculusが公式にはExperimental(試験的)と呼んでいる機能を駆使すれば、ある意味でHTC Viveを超えるVRシステムと化す。というのもTouch+Riftでは試験的なルームスケール設定が可能なうえ、Oculus Storeのコンテンツだけでなく、Steamで販売されているほぼすべてのVRコンテンツも動作可能になっているからだ。

 これによりRiftは完全無欠のVRシステムへと進化したのだろうか。いまもRiftとViveのどちらを導入するか迷っている方々のために、非公式の使い方も含めた両VRシステムの価値を検討してみたい。

Rift+Touchで実現する最新のVR環境

現時点で最高の機能を誇るOculus Touch

Touchのパッケージ内容。2つのコントローラーとカメラがセットになっている
ホールド感はハンドガンのグリップに近い
ViveコントローラーやPlayStation Moveと並べると、デザイン哲学が全く違うことがわかる
マルチプレイゲームで様々なジェスチャーを使ってコミュニケーション。とても楽しい

 まずTouchコントローラーそのもののデザインや機能について見てみよう。形状についての重要なポイントは、Touchコントローラーは手に持ったときの重心が手のひらの中心に来るようにデザインされており、VRコンテンツ内でのハンドモーションに極めてナチュラルな感覚を得られるようになっていることだ。この点、太い棒を持った格好・感覚となるViveコントローラーとは真逆である。

 グリップ部の形状や握りの感覚は、ハンドガンのグリップにごく近い。このため、VR内で銃を用いるコンテンツのプレイ感覚も至極自然だ。Viveコントローラーに比べて重量も軽く、プレイ時の負担も低い。かさばらないので、両手を組み合わせたアクション(例えば、銃を両手で構えることで安定させる)も比較的自然に行なえる。

 その上でTouchコントローラーならではのものとして、ハンドジェスチャー機能がある。Touchは各トリガーやボタン、スティックの表面がタッチセンサーとなっており、各指が触れているか触れていないかを検出できる。これにより様々なハンドジェスチャーを行なうことができる。

 具体的には、人差し指、親指、中指~小指の3パーツについて触れている・触れていないを読み取ることが可能だ。これにより、親指を立てて「いいね!」をしたり、人差し指で方向を指し示したり、人差し指と親指を立ててL字を作ったり、人差し指と親指のみを閉じて「OK」のジェスチャーを作るといったことができる。中指だけを立てることはできないが、これに両腕の自然な動きを組み合わせれば、表現可能なジェスチャーは極めて広範にわたる。

 これはViveコントローラーでは一部しかできない。Viveコントローラーには親指部分にタッチパッドがあるため、親指の開閉は個別に識別できるものの、人差し指や他の指についてはトリガーやボタンを押下することによってしか検出できない。このためViveコントローラーではハンドジェスチャーとゲーム的な各種操作を並立させることが難しくなっている。

 さらにTouchの特徴として、左右2つのコントローラーに装備された合計4つのトリガー+2本のアナログスティック+4つのボタンにより、Xbox コントローラーのようなゲームコントローラーの機能をほぼ網羅できている点が挙げられる。特にアナログスティックの装備は、ルームスケールを標準としないTouch対応アプリにとって、VR空間内の移動や方向転換を容易に行なうために非常に重要な装置となっている。この点についてはViveとの間で基本的な哲学の違いが見られる。

親指を立てるジェスチャー
人差し指を立てるジェスチャー
親指と人差指をL字に広げるジェスチャー

より自然に手を握った形となるTouch
棒を握った形となるViveコントローラー

試験的機能とされているが、ルームスケールの360度トラッキングも可能

標準のセットアップでは、2つのカメラを正面に配置
こんな感じでプレイエリアの設定を行なう
「Dead and Buried」。基本的に正面のみを向いてプレイ

 Touchのパッケージには追加のトラッキング用カメラも1つ含まれている。これはRift付属のカメラと全く同じもので、Touchの使用によって広がるプレイエリアをカバーするため、カメラ2個体制でトラッキングするための措置だ。

 というわけでRift+Touchでは、カメラ2つをプレイエリアの正面に並べた形が標準環境となっており、初回セットアップ時にカメラを正確にポジショニングすることが必要だ。そして、この標準のセットアップ状況では、180度のプレイ角度をサポートする。つまり、基本的にプレーヤーが正面を向いた状況でのプレイについて動作が保証される。

 これは、プレーヤーの背後が2つのカメラの死角になってしまうことからくる制限だ。実際、カメラ2つを正面に配置する標準のセットアップでは、Touchコントローラーを2つのカメラから見て体の背後に来るような位置に持ってくると、トラッキングが失われてしまう。Touchのローンチ前にプロトタイプ版で経験したものよりもトラッキングロストからの復帰は速くなっているが、それでもVRコンテンツ内で無作為に自由な方向を向きながら操作すると、たびたびのトラッキングロストに悩まされることになる。

 Touch対応のコンテンツはこのような180度のプレイ環境を前提にデザインされている。例えば人気のVRガンマンゲーム「Dead and Buried」では、多数のマトがプレーヤーの正面あるいは左右90度の範囲内に来るようにデザインされているし、ViveのTiltBrush的なVRペイントアプリであるQuillでは、グリップボタンを押しながら操作することで空間全体を回転させることが可能になっており、プレーヤーがぐるぐる回ることなく空間全体にアクセスできるようデザインされている。

VRペイントのQuill。プレーヤーが後ろを向かなくて良いように、空間全体を回転できるという機能がある

 Vive/Rift両対応のコンテンツでも違いを見ることができる。例えばゾンビシューティングの「Arizona Sunshine」では、Viveで使用すると、方向転換についてはプレーヤーの動きに任され、360°全方向を自然に向きながらプレイする形になる。しかしRiftでプレイする場合は、左右の旋回をスティックで行なう形となり、プレーヤーがプレイエリアにおける正面を見失わないよう、ワープ移動時にトラッキングカメラの位置がぼんやりと表示される仕組みになっている。

Vive/Rift両対応の「Arizona Sunshine」。Rift利用時はプレーヤーが後ろを向かなくて済むよう、スティックによる方向転換がサポートされる

非標準のルームスケール設定

 このようにTouchの標準である180度セットアップでプレイする限り、全方位に広がるVRコンテンツではViveのほうが自由度や没入度が上だ。しかしTouchでは、非標準ながらViveのルームスケールに匹敵するセットアップ方式が存在し、ほぼ同等の環境を再現することが可能だ。

 具体的には、2つのカメラを対面で配置する方法と、カメラをさらに1つ加え、3つのカメラを三角形に配置する方法が試験的にサポートされている。2つのカメラで済ませる方法でも、部屋の端までカメラを引っ張るためにUSB延長ケーブルが必要だったり、カメラ3つの方法であれば追加のカメラを9,800円で購入する必要もあって敷居は高くなってしまうが、ともかくこれにより最大で対角4メートルの空間を360度のプレイエリアに仕立てることが可能だ。

 とはいえ現時点では公式にルームスケールの動作を保証しているわけではなく、Oculus StoreのTouch対応アプリ・ゲームは引き続き180°セットアップが前提になっている。このためRift+Touchのルームスケール使用はどちらかというと、次に述べるようにSteamVRアプリをプレイするときに真価を発揮する感じだ。

カメラ2つを対面に設置するパターン
カメラ3つの三角形に設置するパターン

Oculus Storeアプリに加えて、SteamVRアプリもすべて動作する

Rift+TouchはSteamVR互換機として動作する

 Oculusの公式アプリストアであるOculus Storeには既に80本近いTouch対応ゲームやアプリがラインナップされているが、それに加えて、Steamで配信されているHTC Vive対応ゲーム・アプリもRiftで利用することが可能だ。というのも、HTC Viveはマルチデバイス対応のSDKであるOpenVR SDKで動作しており、そのOpenVR SDKはOculus Riftにも透過的に対応しているためだ。

 実際にRift+Touchのセットアップを済ませた環境でSteamVRを立ち上げると、HTC Viveと同様にルームスケールセットアップが可能になる。プレイエリアのセンターと四隅を指定して「シャペロン境界」を設定するアレだ。これを済ませるとRift+Touchを、Vive+Viveコントローラーの互換ハードウェアとして、現時点で1,000本以上がラインナップされているありとあらゆるSteamVRのアプリを遊べるようになるのだ。

Rift+TouchにてSteamVRのルームスケールセットアップ。Viveと同じように設定できる

大量のSteamVR対応タイトル
TiltBrushはメニュー操作にやや違和感が生ずる

 Touch標準の180度セットアップでは、ルームスケールを要求するSteamVRアプリでTouchコントローラーのトラッキング喪失問題に悩まされることになるが、上述したようにTouchでもルームスケール相当の設定が可能なので、正しく設定した環境ではSteamVRのアプリをViveと同じように遊ぶことができるようになる。

 コントローラーの機能が一部異なることによる違いも多少存在する。上述の「Arizona Sunshine」のようなRift/Vive両対応のゲームであれば、Rift使用時にはTouchに合わせた操作系となるため問題はないが、TiltBrushのようにViveのみの動作を想定したコンテンツでは、ViveコントローラーのタッチパッドをTouchのアナログスティックで代用することになるため、ちょっとした不便が生じるのだ。

 具体的に言うと、TiltBrushでは左手のタッチパッドをスワイプすることで各種メニューをぐるぐると回転させ、様々な項目にアクセスすることができる。しかしTouchでは、それをアナログスティックで代用するため、メニューを一方向に回転させることができない。スティックを倒すと反対側のメニューも見れるが、スティックを離した瞬間にメニューが元の位置に戻ってしまう、という感じだ。メニューを回転させる代わりに手首を返すことで裏側のメニューにもアクセスできるので根本的に出来ない操作というのは発生しないが、使い勝手が変わることにはなる。

 このほかViveコントローラーのタッチパッドに強く依存したコンテンツについては、Rift+Touchで多少の違和感が生じることになる。とはいえ、機能的に決定的に不足しているわけではないので、基本的にはRift+Touchで全てのSteamVRアプリおよびゲームが遊べると考えていい。

トラッキングはViveと同じく、身体的に誤差を感じることが全くないほどの高精度。このためSteamVRアプリもほぼそのまま全機能を利用することができる

 逆にViveのほうには、「ReVive」という非公式のアプリを通じてOculus Storeのアプリ・ゲームをプレイできる方法がある。ReViveではViveコントローラーを使ってOculus Touchの機能をエミュレーションできるので、事実上ほぼ全てのOculus Touch対応タイトルをViveで遊ぶことも可能だ。ただ、その場合、Oculus Touch特有のジェスチャー機能が完全に再現できないという問題が存在する。ただし、今のところTouchによるジェスチャー機能をゲーム的に必須としているコンテンツはOculus Storeにもないため、事実上は全てのゲームが問題なく遊べると考えて大丈夫だ。

Vive+ReViveでOculus Touchのコンテンツをプレイするの図

トータルでベストなVRシステムはどれだろう?

Oculus Touch

 Rift+Touch、あるいはVive、どちらにしても何らかの方法でお互いの対応ゲームがほぼ完全に遊べるというのは面白い話だ。そうなると、それぞれの“エクスクルーシブタイトル”の存在には意味がないため、ハードウェア的にどちらがより優れたVRシステムだろうかという純粋な疑問が浮上してくる。

 ルームスケールでの活用を前提とする場合、コスト的にはViveのほうが有利だ。税込み107,784円のViveには標準のシステムとしてルームスケールのトラッキング機能と2つのモーションコントローラーが含まれているためだ。また、国内での店頭販売も活発に行われているため、入手性も高い。

 一方、Rift+TouchはHMDとコントローラーが別の製品となっており、トラッキング性能を最大化するためにカメラ3つの設定を行なうのであれば、税・送料込み128,200円の投入が必要となる。Viveと比べると、同じことを実現するために2万円の追加コストが必要ということになる。

ルームスケール対応フルセットで128,200円の買い物となる

電池1本で20時間は連続で使える。入れ替えれば即継続使用も可能

 となれば、あとはHMDの表示性能の差、コントローラーの使い勝手の差ということになるだろう。Riftは実効視野角がやや狭く、水平方向ではViveのほうが20度も視界が広い。このためVR空間内の視界の広がりはViveのほうが上になるのだが、そのぶん画素密度はRiftのほうが高く、映像の緻密さという点ではRiftのほうが優れている。

 コントローラーの機能については、Vive/TouchともVRゲームのプレイに必要な最大公約数的な部分は同様に備えている。上述したようにViveではトラックパッドによる操作系という特殊性、Touchにはジェスチャー機能という特殊性が存在するが、それぞれの対応アプリ・ゲームを本質的にプレイ不可能になるほどの差はない。

 使い勝手に影響する連続使用時間については、Viveコントローラーは満充電で4~5時間程度となる一方、Touchは単3乾電池2本(コントローラー1つに1本)にておよそ20時間連続の使用が可能となっている。Touchは充電機能を持たない代わりに乾電池を利用する形としたことで、電池を入れ替えればすぐにプレイを継続できるというのがメリットの1つだ。Viveは定期的にUSBケーブルを繋いで充電する必要があるところに多少の面倒臭さがあるが、たくさんの電池を買って蓄えておく必要はない。

 というわけで、RiftとかViveを分かつ要素は、もはや見た目とか使い勝手とかの、個人個人の好みによるところに絞られてくることになりそうだ。いずれにしてもTouchが登場したことで、Oculus RiftはHTC Viveと同様に最高&最先端のVRコンテンツを楽しめるハードウェアプラットフォームとしての完成を見たことは間違いない。筆者宅にはRift+TouchとVive+Viveコントローラーを同時に使える環境が構築されているが、実際にどちらのシステムを使うかどうかは、もうコンテンツによりけりという感じになりそうだ。