【連載第68回】韓国最新オンラインゲームレポート

韓国iPhone/iPod touchゲーム事情
韓国にiPhone 3GSのビッグウェーブが到来! 「アイオン」向けアプリなど、韓国独自のアプリをご紹介


2009年11月28日発売



 2009年11月28日、韓国においてAppleのスマートフォン「iPhone 3GS」が発売された。今までは韓国政府や携帯キャリアとの交渉が難航し、iPhoneの発売が中々決まらない状況だったが、ようやく全ての交渉がまとまり、韓国の携帯キャリアKT(Korea Telecom)を通じて韓国展開がスタートした。北米や日本に比べて1年4カ月遅れてのスタートとなる。

11月28日午後2時、ソウル市蚕室室内体育館において、iPhoneの発売記念イベントが行なわれた。iPhoneユーザー第1号(右)の写真で、彼は27日午前11時から27時間並んだという

 発売が世界から1年4カ月遅れたこともあるのか、韓国での反響は想像以上のものがあった。発売から約1カ月が経過した2009年12月30日の時点で、販売台数は20万台を突破し、現在は25万台に到達している。韓国でこれまでもっとも売れたスマートフォンはサムスンの「OMNIA」だが、それでも1年で16万台に過ぎない。iPhoneは僅か1カ月でそれを抜いているのだ。また、12月に突破したiPhoneの20万台という数字は去年の12月、韓国全体の携帯電話端末機販売台数の1割以上に及ぶ数字だという。韓国に、いまiPhoneブームが巻き起こりつつある。

 その一方で、iPhoneに対応したゲームはどうかというと、実に寂しい状況になっている。その理由については後ほど詳しく紹介するが、韓国のAppStoreは他エリアのAppStoreとは違い、Gameのカテゴリが無く、正式にゲームを提供できる環境が整っていないのだ。ゲームのレーティングを決めるゲーム物等級委員会とのトラブルで、Appleは韓国だけGameのカテゴリを外して展開するという異常事態となっているのだ。

 ただ、韓国のゲームメーカーも座して見守っているだけでなく、韓国にiPhoneが発売される以前からiPhone/iPod touch向けのゲームを開発、展開していたメーカーや、ゲームの提供にこだわらず、自社のPC向けオンラインゲームのサポート系のアプリを展開するメーカーなど、様々な動きが確認できた。本稿では韓国産のiPhoneゲームの紹介を始め、混乱含みの韓国iPhone/iPod touchゲームの現状についてお伝えしたい。



■ 韓国2大モバイルゲームメーカーCom2usとGamevilは約1年前からAppStoreにゲームを展開中

 まず、韓国でiPhone展開前の状況から紹介していこう。韓国の2大モバイルゲームメーカーとして知られるCom2usとGamevilは1年前からiPhone/iPod touchゲームをグローバル展開している。モバイルゲームメーカーにおいて、海外とのビジネスは各国の通信キャリアとの話し合いが必要となるが、iPhoneならAppStoreに登録するだけなので、手間が省けて、ビジネスがしやすくなったという。

 Com2usは2009年に実に8つものタイトルをリリースしている。その内4タイトルは従来の携帯電話向けに開発されたモバイルゲームをiPhone向けに移植したもので、残り4タイトルがiPhone/iPod touch専用のタイトルである。移植版は結果がイマイチだったというが、iPhone専用のタイトルを展開してから大ヒットを記録しているという。

 Com2usは09年第4四半期(10月~12月)の海外売り上げの中で、AppStoreの売り上げが7割ぐらいを占めるほど、既にCom2usのビジネスにおいて重要な位置付けになっている。今年は計16個のタイトルを展開する予定だという。09年に発売された4つのタイトルをスクリーンショットで紹介したい。

【Homerun Battle 3D】
ホームラン数を競い合うゲームで、Com2usのラインナップの中でも最も人気のあるタイトルだ。iPhoneを回しながらバットの位置を調整し、タッチで投げてくるボールを打つゲーム方法である。ネットワークプレイも可能。ビジネスモデルには特徴があって、キャラクターのカスタマイズができるアバターをアイテム課金として展開している。ダウンロード課金とアイテム課金のハイブリッド課金だ。4.99ドル

【Inotia2: A Wanderer of Luone】
画面上のボタンで操作するRPG。5つのクラスの中、1つを選択して、ストーリモードのシングルプレイを楽しむ。また、ネットワークを通じてミニゲームも楽しめる。7.99ドル

【Sniper Vs Sniper】
スナイピング能力を競い合うゲーム。ネットワークプレイで1対1や、COOPプレイも用意されている。4.99ドル

【Crazy Hotdogs】
タイミングにあわせてホットドッグを焼き上げるシンプルなゲーム。1.99ドル

 Gamevilは2009年に5つのゲームを展開した。AppStoreのおかげで、Com2usと同じく海外の売り上げに大きく結果を残している。まだ多くのゲームは従来のモバイルゲームの移植版である。代表的な3つのタイトルを紹介したい。

【Baseball Superstars 2010】
Gamevilは携帯電話用の野球ゲームで人気のメーカーだ。そのiPhone版も注力タイトルの1つである。選手の育成してチームを作ることができるのが特徴である。5.99ドル

【Zenonia】
画面上のボタンで操作するRPGゲーム。天候、地形によってキャラクターの能力にバリエーションがある。5.99ドル

【Boom It Up!】
鉄砲を各エリアの籠まで打ち上げるゲームだ。邪魔をする様々なアイテムが登場して、それらを読みながら打つタイミングが重要とされる。0.99ドル


■ 韓国大手ゲームメーカーは、オンラインゲームのサポート系アプリを中心に展開

「創世記戦III EP1」。「創世記戦」シリーズは韓国で100万本以上が販売された人気RPGだ。日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルを通じて携帯版がサービスされている。4.99ドル

 冒頭にも説明したように韓国AppStoreには“Game”カテゴリが無く、国内でiPhone向けのゲームを展開できない状況が続いている。以前からグローバル向けにiPhoneゲームを展開しているCom2usやGamevilも、母国の韓国AppStoreだけにはゲームを展開していない。

 そんな中、各メーカーたちは、既存の自社タイトルと連携して日々の活動をサポートするアプリを開発し、韓国AppStoreに展開している。まず、韓国最大手のNCSoftは自社のMMORPG「タワー オブ アイオン」のサポート系アプリを2つ展開していた。「アイオンテム」と「Powerwiki」というアプリだ。

 「アイオンテム」は、「タワー オブ アイオン」のアイテムの取引や相場、メールといった情報を、iPhone上で確認できるアプリだ。iPhoneを通じて、販売代行に登録した自分のアイテムの販売状況などをいつでも確認できる。そして、特定アイテムの平均取引価格、取引量など、さまざまな情報を確認できる。

 「Powerwiki」は「タワー オブ アイオン」のニュース、マップ、アイテム、モンスターといった情報がすべて盛り込まれたアプリだ。いままでPCのブラウザから確認していた情報を、iPhoneですぐに確認できる。これらのアプリは全て韓国内でのみサービスされており、日本を含む、海外でのサービスは未定である。

 SOFTMAXは、Xbox 360用アクションゲーム「マグナカルタII」のタイトルガイドをiPhoneアプリとして、1月8日から展開している。「マグナカルタII」のキャラクター紹介や、ストーリー、ムービーなどを見ることができるアプリである。このほかにも、1999年に発売されたPCゲームで、日本でも携帯電話用のゲームが発売された「創世記戦III EP1」のiPhone移植版も1月に発売する。これらはCom2usやGamevilと同様に、グローバル向けに展開する予定だ。

 一方、NEXONは、iPhoneを含むスマートフォン向けのゲーム開発スタジオを釜山市に設立したことを1月14日に発表した。今回取り上げた以外にも、現在、韓国では様々なゲームメーカーがiPhone向けのゲーム、アプリを開発している。また、韓国の“Game”カテゴリがない特殊な状況から、ゲームそのものを展開するだけではなく、オンラインゲームやコンソールゲームと連動してサポート的、ガイド的なアプリが登場するなど、何らかの形でiPhone向けのアプリを提供しようとしているところが印象的だった。


【アイオンテム】
取引情報やアイテムの相場など、使ってより便利な「タワー オブ アイオン」の日々の生活情報を確認できるアプリだ。現在は韓国のみサービス中。0.99ドル

【「タワー オブ アイオン」Powerwiki】
プレイしながら、WEBを開かずに、iPhone上で「アイオン」のモンスター、アイテム、マップなどの情報を確認できる。無料

【「マグナカルタII」タイトルガイド】
「マグナカルタII」のプロモーションのため作られたアプリ。ゲームの紹介や、Amazonの「マグナカルタII」購入リンクなどが盛り込まれている。無料

【「World of Warcraft」Mobile Armory】
今回紹介したこういったサポート系のアプリは、韓国内だけの話ではなく、世界中にある。これは韓国でもヒットしている「World of Warcraft」のサポート系アプリ。こちらは欧米、韓国で使用できるアプリだ。無料

【A.V.A】
NHN USAは「A.V.A.」を紹介するアプリを展開している。無料

【STRIKERS 1945 PLUS】
Windy Softは日本IPである「STRIKERS 1945 PLUS」のiPhone移植版をグローバル展開している。4.99ドル


■ “Game”カテゴリが存在しない韓国AppStoreの今後はどうなる?

 韓国のiPhone/iPod touchゲーム市場の今後の課題は、“Game”カテゴリが存在しないことをどうするかということだ。そうなった経緯は、韓国でゲームのレーティングを審査するゲーム物等級委員会が、AppStoreにおいてレーティングを通さずにゲームがサービスされてしまうことを恐れ、強く反発した結果である。

 AppStoreに登録するにはAppleチェックと呼ばれる審査が1回行なわれるだけで、ゲーム物等級委員会といった機関にゲームのレーティングを通して貰うのは自己申告で成り立っている。韓国においてゲームをサービスするためには、必ずレーティングを通す必要があり、例外は設けないというのが、ゲーム物等級委員会の言い分だ。一方、Apple側としては全世界で同じ手順で行なわれていることを、韓国だけがゲームの登録にゲーム物等級委員会の審査を通す特別なルールを入れることは認められず、最終的に韓国のAppStoreだけ“Game”カテゴリを外すという結果になってしまった。

 しかし、この状況は、誰がどう見ても“現代の禁酒法”に他ならず、個人や小規模のデベロッパーたちによる多くのゲームが“Entertainment”カテゴリ内でサービスされ始めている。これらのゲームたちは自己申告でレーティングを貰ったゲームもあれば、レーティングの審査無しに登録したゲームもある。こうしたゲリラ的な動きに対してゲーム物等級委員会は、レーティングを通してないゲームリストを作り、Apple側にサービス禁止の処置を申請している。Apple側はその申請を受理し、今後レーティングを通してないゲームはなくなる予定である。

 現状では、Com2usやGamevilといった一部の大手メーカーはグローバル向けにiPhoneゲームを展開しているのみで、大手メーカーのほとんどは、Appleが正式に“Game”カテゴリをオープンしてくれるか、その代わりとなる提供方法を用意してくれない限り、静観を決め込むつもりでいる。

 このゲーム特有のレーティングをどうチェックし、設定していくかという問題は、韓国だけではなく、他の国々でも今後問題となっていく可能性が高い。各国にはゲームのレーティングを決める機関があり、ちゃんとした規則の下で安全にゲームを遊んでもらうために、必ずレーティングを通すルールになっている。AppStoreの自己申告だけでレーティングを通すというのはあまりにも無防備過ぎるし、レーティングの意味がなくなってしまう。

 Appleはゲームプラットフォーマーとしての責任を持ち、韓国だけではなく、全世界のAppStoreのゲーム登録システムを考え直すべきだろう。そうすれば、韓国において“Game”カテゴリがない問題も解決できるだろうし、韓国から優秀なiPhoneタイトルが多数生まれてくるはずだ。今後、Appleがどういう動きを見せるか注目したいところだ。

韓国のAppStoreには、“Game”カテゴリがなく、多くのゲームが“Entertainment”カテゴリ内に入っている。このゲームの中にはレーティング審査を通してないゲームも多い

(2010年 1月 15日)

[Reported by DongSoo“Luie”Han]