【連載第12回】開発者が語るiPhoneゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

音楽ゲーム「太鼓の達人」&「7th Deadly Beats」を開発した
バンダイナムコゲームスとユードーの開発陣に合同インタビュー

 世界中でブームを起こし、携帯電話市場を一変させたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしても注目を集めている。本連載では、iPhoneゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



1月29日 収録


 株式会社バンダイナムコゲームスは、iPhone/iPod touch用音楽ゲーム「太鼓の達人」を2月1日より配信し、続いて新作の音楽ゲーム「7th Deadly Beats」を近日配信する。この2つのゲームは、iPhone/iPod touch用の音楽ゲームで有名な株式会社ユードーが開発に携わっている。

 今回は、これらのゲーム開発に携わった主要スタッフにお集まりいただきインタビューを行なった。メンバーは、バンダイナムコゲームス NE事業本部で「7th Deadly Beats」のプロデューサーと、同社のiPhone/iPod touch用アプリ全般の営業企画を兼務している山田大輔氏、同NE事業本部でモバイル版「太鼓の達人」のアシスタントマネージャーを務める下岡聡吉氏、そして両ゲームの開発を担当した株式会社ユードーの代表取締役の南雲玲生氏の3人だ。

 両ゲームの開発についての話は、もちろんのこと、今後のiPhone/iPod touch用タイトルや、先日Appleより発表されたばかりのiPadについても開発者目線での感想を伺った。


バンダイナムコゲームス NE事業本部の山田大輔氏。同社のiPhone/iPod touch用アプリの営業企画を担当しながら、「7th Deadly Beats」のプロデューサーも務めたバンダイナムコゲームス NE事業本部の下岡聡吉氏。これまで、モバイル版「太鼓の達人」の開発に携わって来ており、iPhone/iPod touch用「太鼓の達人」の開発を行なった中心的な人物ユードー代表取締役でプロデューサーを務める南雲玲生氏。数々の音楽ゲームの開発に携わり、自ら作曲・演奏を行なうマルチゲームクリエイター



■ 「太鼓の達人」のデモ版をユードーが2日で開発

画面右から流れてくる音符に合わせて、タッチパネルの太鼓を直接指でタップ(叩いて)して演奏する

――「太鼓の達人」をiPhoneで開発することになったきっかけを教えてください。

下岡聡吉氏: 「太鼓の達人」は、ゲームセンターに登場した時から気軽に遊べるゲームで、1回のプレイが5分程度ということもあり、携帯端末やポータブルゲーム機などで短時間に楽しむのに最適なゲームでもありました。iPhone/iPod touchは音楽プレーヤーの側面もあり、音楽好きなユーザーも多いことから、早急に出すべきだと考えていました。最近だと「リッジレーサー」や「エースコンバット」シリーズなど、コンシューマーゲームで長く遊ばれ知名度の高いタイトルをiPhone/iPod touchで出していく流れもありました。

――バンダイナムコゲームスではiPhone/iPod touchを専門に扱う部署がないと伺っていますが、今回はどういった経緯から下岡さんの部署がiPhone/iPod touch版「太鼓の達人」を担当することになったのですか?

下岡氏: 私が所属するNE事業本部コンテンツディビジョンでは、これまで主にモバイルゲームを開発してきており、携帯電話向けの「太鼓の達人」を開発しました。そういった実績もありましたので、実際に開発することになったのです。

――開発はユードーさんが担当していますが、どのようにして決まったのですか?

下岡氏: 開発のプロジェクトは昨年末に立ち上がりました。実際の開発の段階になり、開発会社を検討するにあたって山田に相談したところ、ユードーを紹介してもらいました。

――ユードーさんに開発をお任せしてみていかがでしたか?

下岡氏: 実は「太鼓の達人」を開発するにあたり、数社にお声がけをしていて、ある程度動くデモ版を実際に作っていただいていました。この話を南雲さんにしたら、「言ってくれれば2日でできますよ」と仰って、本当に2日後に「太鼓の達人」のデモ版が上がってきました。しかも、既にほぼ発売するものに近いレベルの状態まで完成しており、理想のインターフェイスのものに仕上がっていました。太鼓を叩くタイミングもバッチリ合っていたのは驚きました。その時に音楽ゲームに対するこだわりを感じ、ユードーさんにお任せすることにしたのです。

南雲玲生氏: デモ版を作った弊社のプログラマーは天才で。プログラミングを書きながらゲームをプレイして、しかも話ができるくらいなんです(笑)。だから2日という短期間でも開発できたんだと思います。

下岡氏: それにユードーさんは、それまでにiPhoneアプリをたくさん出されていて、市場のことも精通されていたので、安心して任せられました。今回は最終的なビジネスモデルの骨格まで含めて、協力していただきました。




■ アプリ容量を10MBに収めるのに一苦労

――「太鼓の達人」を開発してみて、どういった点で苦労しましたか?

南雲氏: 1番はPSP版に近づけるところが大変でした。また、iPhone 3Gのスペックに合わせて作る必要があり、どんなキャラクターを描画していくかでも苦労しています。

下岡氏: ユーザーさんにはiPhone 3Gでも軽快に遊んでもらいたいと考えていて、そこが開発する上での1つのハードルになりました。演出もいっぱいあるために処理落ちも多く、かなり大変だったようです。もう1つ、アプリの容量が10MBを超えると3G環境でダウンロードできなくなるため、10MB以内に収め、Wi-Fi環境がなくてもダウンロードできるようにしたいという思いもありました。iPhoneの文化的には、PCに接続するか、あるいはWi-Fi接続することが必須なのですが、実際にそれができる環境にあるユーザーは、実はそれほど多くないと考えています。

※(最初のバージョンは、Apple側で乗せられるプログラムがかなりあったようで、配信後に10MBを越えていることが発覚。バージョン1.0.1では軽量化され10MB以内になっている。)

南雲氏: 10MBに収めるために、サウンド編集機材で空白となっている部分はチョキチョキとカットしてあります。データを切り詰めるための工夫を施すところでも大変苦労しました。

下岡氏: そのおかげで10MBなのに音のクオリティーは高いまま収録してあります。ぜひイヤフォンで曲を聴きながら楽しんでみてください。

――ほかにはどういったところが大変でしたか?

南雲氏: インターフェイスの部分でも試行錯誤しました。太鼓の左右にボタンを置いて叩く形式も検討しましたが、最終的には現在の太鼓を直接叩く形になっています。しかも太鼓を半透明にして後ろで踊っているキャラクターたちを見せるような演出も施してあります。このおかげで、やぐらの周りで踊っている人たちをやぐらの上からみるような形で太鼓を叩いている雰囲気が出るようになりました。それと、これまで「太鼓の達人」が築き上げてきた伝統がありますので、その伝統に傷をつけないように調整するのも大変でした。あとは、開発期間が短かったこともあり、デバッグなどの細かい作業も大変でした。

――開発期間はどのくらいだったのですか?

南雲氏: 実質3カ月で開発しました。最初はこのスケジュールで大丈夫なのかと皆さんから心配されましたが、僕は経験値と感覚値を持っていますので、大丈夫だという自信はありました。

下岡氏: 実際、α版やβ版まではトントン拍子に進み、大枠で遊べるところまでは、すんなりとできあがりました。予定通りの短期間で完成し、しかも今期中に間に合い、とても驚いています。




■ 5曲600円になった理由

――曲数が5曲というのは、コンシューマー用「太鼓の達人」と比べると少ないように感じてしまうのですが、なぜこの曲数になったのですか?

下岡氏: 先ほども申し上げた通り、3G環境でダウンロードするためには、アプリの容量を10MB以下にする必要があり、かつ高音質の曲を収録しようとすると曲数は限られてしまいます。そのため容量ぎりぎりまで使って収録するとなると、5曲が限界になりました。

――今回、「人気曲ぱっく」ということで、「夏祭り」、「キセキ」、「残酷な天使のテーゼ」、「タッチ」、「クラシックメドレー(ロック編)」が収録されていますが、この曲目はどのようにして決まったのでしょうか?

下岡氏: 第1弾は間口を広めたいということもあり、アーケード用とコンシューマー用を合わせて「太鼓の達人」シリーズで各ジャンルの中から1番遊ばれている曲で構成されています。

――アプリの価格ですが、5曲で600円は他の音楽ゲームアプリに比べて割高に感じます。どのようにして価格が決まったのでしょうか?

下岡氏: 割高に思われるのは覚悟しています。600円というのは以前から考えていて、利益ベースで考えてもそのくらいが妥当の価格となります。企業として作っている以上、きちんと利益を出していかないと第2弾以降のサービスをリリースできません。赤字覚悟で230円で出すという話もあったのですが、さすがにそれは無理でした。

――今後、曲目を追加していくとは思うのですが、どのような形式で配信していくのでしょうか?

下岡氏: 第2弾アプリという形で、第1弾とは別のアプリとして出していきます。理想としては第16弾まで出していき、メニュー画面を「太鼓の達人」で埋め尽くしたいと考えています(笑)。それは冗談としても、第2弾も別のアプリとして出します。次に出すものの曲名やタイトルは未定ですが、全部J-POPとか、全部アニメ曲といった形で、ジャンルごとにまとめてパックで出そうと考えています。

――アプリ内課金を使って曲の購入と言うこともできたとは思うのですが、そのようにしなかった理由は?

下岡氏: 最初はアプリ内課金で曲の追加も考えていました。ただこれをやるとしたら、最初のアプリは115円辺りのかなり安い価格で出さなくてはならなくなります。最初に企画した段階では、アプリを0円にして、曲を追加販売する形にしようという話もありました。その際は「太鼓の達人」のオリジナル曲だけにするという案もあり、間口を広げてからJ-POPなどの曲は追加課金しようかという計画もありました。しかし、たとえ1曲115円でも、アプリを有料で買ったことがない人は、お金を出さないのではないかという結論に至りました。結果が同じなら有料のパック形式で販売していった方がメリットがあると考え、パック形式にしました。「太鼓の達人」はロングテールなアプリになるだろうと思い、山が下がってきたタイミングで次のパックを出していき、年間通して売上の山をいくつも築き、ダウンロード数がある程度一定になるようにしたいと考えています。

――ちなみにアドオンの購入数が多くても、App Storeのランキングには反映されないのですか?

下岡氏: 反映されません。パック販売にした理由の1つとして、このことも関係しています。「太鼓の達人」のシリーズ作が何種類もあると、ランキングをそれで埋め尽くすこともできるかもしれません。これはインパクトがあります。

――今回「太鼓の達人」を国内販売だけにしたのはなぜですか?

下岡氏: 国外にiPhone/iPod touchが何千万台あっても、国外では「太鼓の達人」の知名度がないからです。それと音楽ゲームの場合、権利ものの楽曲を使う場合は、権利費が発生します。その影響もあって海外に配信できないのです。




■ Twitterを利用したハイスコア配信

――「太鼓の達人」にTwitter機能が搭載され、ハイスコアを出すとその記録が自動的にTwitterへ投稿される仕組みになっていますが、この機能を取り入れたのはどうしてですか?

下岡氏: いま流行っているからです(笑)。PSP版「太鼓の達人」にはPSP版ならではの遊びの要素が入っています。iPhoneでは、気軽にTwitterが楽しめることもあり、流行っていますので取り入れてみました。ゆるい感じで楽しんで欲しいです。

山田大輔氏: プロモーション展開もTwitterを使ったものでやりたいと考えています。

下岡氏: Twitterを使った疑似全国大会の開催を予定しています。急に決めたので、まだ具体化していないのですが、最高得点を競う大会を開催して、Twitter経由で何か賞品を出そうかなとも考えています。

――今後の「太鼓の達人」の展開はどのような予定でしょうか?

下岡氏: やはり第2弾を優先して開発していくことになります。また現在では3Gでのダウンロード容量が20MBに増え、容量に余裕が生まれてきているので、機能やボリュームの追加を考えています。既に発売済みの第1弾のアプリにも、もう少しボリュームを持たせてあげられるかもしれません。


【スクリーンショット】
太鼓の表示を透明にすることも可能。踊り子たちのかわいいダンスが楽しめる!Twitterの設定で自分のアカウントを登録しておくと、Twitterに記録が自動でツイートされていくサウンド設定で、太鼓を叩いた時の音色を自由に変えて楽しむこともできる



■ 新感覚のオリジナル音楽ゲーム「7th Deadly Beats」とは?

自機nano-ship(ナノ・シップ)に乗って人間の体内を進んでいき、ウィルスによって占拠された患部まで進んでウィルスによる病理(ボス)を撃破していく

――配信が予定されている「7th Deadly Beats」はどのようなゲームになるのでしょうか?

山田氏: ユードーと共作したオリジナルの音楽ゲームです。ゲーム内容は、体の血管の中をシップに乗ったプレーヤーがレースゲームのように走行していき、コース上のレーンを移動しながら「シナプス」というアイテムを取って音を作っていきます。ステージの最後には大きなウィルスのボスが登場し、音を使って倒すとクリアとなります。

――どのあたりが音楽ゲームになっているのでしょうか?

山田氏: シナプスを取る時にタイミングよくタップすると、音が鳴って演奏が足されていく仕組みになっています。連続してタップし続けるとBGMが豪華になっていき、曲を楽しみながらプレイできます。逆にシナプスを取り損ねると、演奏されなくなりBGMが寂しくなっていきます。

――どういうコンセプトからこのようなゲームになったのでしょうか?

山田氏: iPhoneの音楽ゲームは、叩いても音が変化せず、タイミングに合わせて叩くだけのゲームになっているものが多くあります。もっと楽器っぽく、叩いた時にちゃんと音が出て、しかも単音ではなく、プログラムされた違う音が出て、ユーザーがステージをクリアしたら1つの曲になっているというものを作りたかったのです。

――レースゲーム風にしたのはなぜですか?

山田氏: 爽快感を出したかったからです。これまでにレースゲームっぽい音楽ゲームがなく、新しいものを作りたいという思いがありました。またiPhone/iPod touchで気持ちいい操作は何だろうと考えた時、スワイプやタップではないかと思ったのです。スワイプ操作で自機を動かし、タップして流れてくるものをタイミングよくタッチしていくという動作を考えていったら、レースゲームのような形になっていきました。

――音楽ゲームにストーリー性を取り入れた理由は?

山田氏: これまでの音楽ゲームはストーリー性が乏しいものも多かったので、「7th Deadly Beats」では、ストーリーも重厚なものにしてあります。登場人物や世界観などの設定背景もつけて、ゲームっぽい演出も施してあるので、単なる音楽ゲームとは違った楽しみが味わえると思います。

――完全オリジナルゲームをユードーさんと協業で作ることになった経緯を教えてください

山田氏: 弊社の場合、昔からゲームを本格的に作って来た会社ということもあり、音楽にシフトしたゲームが作りにくい体勢でした。弊社のiPhone/iPod touch用アプリのラインナップを見ていただくとわかると思いますが、まず第1に既存のプラットホームで作ったタイトルの移植をやってきています。開発はもう1年以上もやってきているので、そろそろオリジナルタイトルを作っていい時期になりました。そこでオリジナルなゲームを作るのに、iPhone/iPod touchに向いていないものを作っても意味がありません。iPhone/iPod touchのユーザーは、音楽を好きな方が多いので、その方々にも満足してもらえるものということで音楽ゲームになりました。南雲さんには以前お会いしていたので、音楽ゲームであればユードーさんに任せるしかないと思い、協業で開発することになったのです。




■ 全曲、南雲氏自ら作曲。ティザー版を配信する新たな取り組みも

――このゲームには、どのような曲が収録されているのでしょうか?

山田氏: 最初は、既存の楽曲を入れようという話もありましたが、南雲さんに7曲全部をオリジナルで作っていただきたいとお願いしました。

南雲氏: 2泊3日くらいで山にこもって楽曲を作りました。iPhone/iPod touchのユーザーさんは音楽好きな方が多いので、ゲームクリエイター的にこういうジャンルが流行っているからと言って、そのジャンルを持ってきてしまうと、そこでボロが出てしまいます。サウンド的にもちゃんとしようと思い、ものすごく慎重に作ってあります。

――曲はどういうイメージで作っていったのですか?

南雲氏: ゲームの設定が「パンデミック」となっていて、SFの世界観になっています。「7th Deadly Beats」はタイトル名の通り、7つの大罪(傲慢、強欲、暴食、嫉妬、怠惰、憤怒、色欲)をテーマにしたステージが7つ用意されていますので、それぞれのテーマに合わせて曲調を作ってあります。1番困ったのは暴食の曲で、どんな曲になったかは、実際にゲームを遊んで聴いてみてください。サウンドは、ニューエナジーとかテクノと言われるものになっていますが、ちょっと聴いているうちにトランス感覚や、人間の内面を映し出すようなものを煽るサウンドにしてあります。

山田氏: このゲームは、ゲームありきの音楽ではなく、音楽ありきのゲームになっています。ゲームに使われている楽曲を普通に聴いているだけでもいい感じに仕上がっていて、これでライブをやろうかという話も出ています。

――ティザー版を配信したのはなぜですか?

山田氏: 単に新しいことをしたいからでもありますが、ちょっと期待感を持たせるという意味で、映画の予告ムービーみたいなトレーラーを作りました。

南雲氏: 今回は世界観から作り込んでいたので、その世界観を知ってもらうためでもあります。

山田氏: ティザー版は115円で出しているのですが、正式版が配信されると価格は高くなります。ティザー版はバージョンアップで正式版になるので、今買っておいた方がいいです(笑)。

※ 2月24日現在は正式版が配信中。

南雲氏: ユーザーさんにはティザー版で前振りのトレイラーを見ていただき、こんなゲームになるということを知ってもらって、正式版への繋がりを持たせたかったのです。単に出して終わりといった形にしたくありませんでした。やはりアップデートというのは、ユーザーさんも楽しみにしているところだと思うので、そういうワクワク感をティザー版で煽りたかったのです。

――今後はこのような展開も増えてくるのでしょうか?

山田氏: 今回の流れを狙ってやっていくというよりも、こういう前例を1個作ったので、それに似たような仕掛けが今後増えてもおかしくないと思ってます。




■ 協業することによるスピード開発の重要性

――今回、オリジナルタイトルを協業してみていかがでしたか?

山田氏: これを開発し始めたのは、去年の8月くらいからになります。絵素材から音、ゲームのエンジンまで、何もないところから完全にオリジナルで作っているにも関わらず、半年でできあがったというのはかなり早いです。音楽ゲームでは定評のあるユードーさんと協業してよかったです。

南雲氏: iPhone/iPod touchのコンテンツでは、クオリティはPSP、もしくはDS並のものを求められています。にも関わらず、開発スピードやコストはモバイルゲームのレベルを要求されています。今後は、そのどちらもできないと勝ち残っていけません。Appleも半年に1回のペースで新仕様を盛り込んできますので、コンシューマー用ゲームのように数年の開発期間をかけてやっていたら追い付けない状況なのです。ゲームが完成した頃には、iPhone OSの仕様が違うものになっている可能性もあります。そういうものに対応する必要もあるため、iPhone/iPod touchのビジネスの場合では、やはり集中して期間を縮めて作るということが重要になってきます。

下岡氏: モバイルゲームの場合ですと、ロングテールで儲かっている場合もありますが、iPhone/iPod touchの場合は違います。本当に個性的なアプリが出てきて、新しい体験のものがどんどん出てくる市場です。それに埋もれないようにしようと思うと、こちらも対抗していくしかありません。「ゲーム会社」対「世界中の独創的な感覚を持った個人のプログラマー」のような状況になっています。同じ土俵で戦うからには、負けていられません。

――今回、ユードーと協業したように、今後も他社と組んでアプリの開発を行なっていくことはあるのでしょうか?

山田氏: あると思います。オープンマーケットの時代なので、どこかと組んだ方がよりよいものができるのであれば、やっていこうと思っています。各分野に強い開発会社がありますから、そこと一緒になってアプリを開発していければと考えております。

――最後にこのゲームに期待している読者に一言お願いします。

南雲氏: おまけ的な要素として、弊社が出しているアプリに「ミュージックマトリックスパッド」があるのですが、あのエンジンを使ったシンセサイザー機能も搭載されています。クリアしたステージの音楽を自分でアレンジして楽しめるので、音楽好きな方はぜひダウンロードして楽しんでみてください。

山田氏: 実は第2弾も作ろうかと思っていたりするので、まずは1作目の「7th Deadly Beats」を遊んでください。


【スクリーンショット】
心地よいビートとサウンドにあわせて自機をスライドし、コース上に散りばめられたサウンドのかけら(シナプスブロック)を集めていくことで音楽が完成する世界をパンデミックが襲い、新型ウィルスの感染によって人々は「虚無」という病に犯されていく。ウィルス対策チーム”7th Breakers”の活躍を描いた物語になっているプレーヤーも含めて約10人ほどの人物がゲームに登場する。それぞれの人物設定や背景も用意されている



■ 「ガンダム」のアプリを出すには、中途半端なものは作れない

――これまでの御社のタイトルは米国子会社で作ったものが多かったようですが、昨年末から日本で作ったものが増えてきましたね。今後も日本での開発を強めていくのでしょうか?

山田氏: 昨年末からは、弊社で開発しているものが多くなっています。実は「塊魂」や「タイムクライシス」などは日本で開発していて、販売元がNamco Networks Americaになっているだけです。Namco Networks Americaでも作っていますが、全タイトルの半分くらいは日本で開発しています。

――今後のラインナップはどのようなタイトルを予定しているのでしょうか?

山田氏: 今ちょうど来期のロードマップを作っているところです。来期は、バンダイナムコゲームスのキャラクターもののゲームも増えてくるかと思います。日本アニメのコンテンツものは世界で受けているように見えて、市場が1番大きいのはやはり日本です。2009年夏くらいまでは、日本でのiPhone/iPod touchの普及台数が少なく、日本限定でコンテンツを出しても規模に合わない状況でした。今回「太鼓の達人」を日本市場に向けて出しましたが、日本でのiPhone/iPod touchの販売台数が国内でも約300万台くらいはあると推測していますし、市場として十分に成立してきていると思います。そういうことから、今年はキャラクターもののアプリは、前向きに検討していきたいと考えています。

下岡氏: iPhone/iPod touch用の「ガンダム」は使命として出さなくてはいけないという気はしています。時期やマーケットの問題が非常に大きいのですが、出ないということはないです。第1弾はどういう形が1番いいのか、じっくり考えてみないとわからない状況ではあります。

山田氏: 「ガンダム」のアプリとなると、我々のキラーアイテムになりますし、中途半端なものは出せません。「ガンダム」のアプリを開発して、ユーザーの方々にダメだと思われたら、それで終わりになってしまいますので、非常に慎重に考えています。




■ iPadの登場がiPhone/iPod touch用アプリ開発に与える影響

発表されたばかりのiPadの話題はかなり盛り上がった。やはり期待は大きいようだ

――先日、iPadが発表されました。iPhone/iPod touch用のゲームはiPadでも遊べるそうですが、今後iPhone/iPod touch用ゲームの作り方は変わってきますか?

山田氏: iPadは上位互換ではあり、iPhone/iPod touch用のゲームも遊べますが、実際には別物だと考えています。iPadで遊ぶなら、iPad用に開発したいと思います。

南雲氏: 開発の現場ではiPhone/iPod touch版のゲームを開発する時に、iPadのことも考えて、2種類の解像度の絵を用意しておくことになるのかもしれません。

――これまでに出したゲームをバージョンアップして、iPad用に対応させていくというのはあるのでしょうか?

山田氏: あると思います。解像度の高いiPadで単純に等倍してしまうと画面が荒いものになってしまいます。それは、ゲーム開発者としては妥協できない部分ですので、iPad用に作り直すことになる思います。作り直さないのであれば非対応にするかもしれません。

下岡氏: iPhone/iPod touch用のゲームは、その端末用に遊びやすく作っています。それが本体の大きさが違うiPadでは遊びにくくなる場合もあるので、インターフェイスを含めて考え直す必要も出てくるとは思います。

――もし、iPad用「太鼓の達人」を出すとしたら、どんな感じになりますか?

下岡氏: もし日本でiPadが150万台くらい出るほどヒットしてくれれば、大きな画面を活かして2人プレイをやってみたいですね。2人がiPadを挟んで座り、その真ん中にある縦置きのiPadで両側から叩き合うという感じで遊べると面白くなるかと思います。




■ 「リッジレーサー」にバーチャルパッドや対戦機能を搭載!!

――ところで、以前配信したiPhone/iPod touch用「リッジレーサー アクセラレーテッド」に関して読者の方も気になっていると思うのですが、その後はどのような展開を予定していますか?

山田氏: いろいろなご意見をいただいて、我々開発チーム一同は反省と励ましと、今後へのモチベーションをいただきました。ご満足いただけていないところが多々あることは重々承知しています。最初のバージョンは十分に満足いただけた方が少なかったと思います。それに関しては真摯に受け止め反省しています。実際にバージョンアップを何度かして、操作性やドリフトの時の挙動など細かいところも含めてバージョンアップで修正し、今はかなりご満足いただけるよ出来になっていると思います。

――今後もバージョンアップの予定はあるのでしょうか?

山田氏: 3月の頭にもう1度バージョンアップをかけて、いろいろなものを追加していきます。操作面ではバーチャルパッドを用意します。さらにコーナリングでの修正も入れてあります。他にも新モードやコース、車の種類も追加してあります。ミュージックライブラリーの機能を使ってiPodの曲をBGMにして遊べるようになります。あとBluetoothでの対戦も追加予定ですが、対戦に関しては今回のバージョンアップには間に合わないかもしれません。さらにFaceBookとの連携も視野に入れて開発していますので、今後の「リッジレーサー」も期待していてください。

――最後にこの記事を読んでいる読者に向けて一言をお願いいたします。

下岡氏: iPhone/iPod touch版「太鼓の達人」は太鼓を気持ちよく叩いて遊べるように作ってあり、爽快感もあって楽しめます。これまで「太鼓の達人」シリーズを遊んだことがない方々に遊んでみて欲しいのはもちろんですが、本作は特にシリーズを遊んでいただいている方々に遊んで欲しいです。まずは第1弾をダウンロードしてみてください。よろしくお願いいたします。

山田氏: 「7th Deadly Beats」は、弊社がこれまでiPhone/iPod touch市場でやってきたゲームとは、かなり毛色の違うものになっていると思います。音楽ということを意識して作ったものなので、音楽が好きな人はぜひ遊んでみてください。もちろん、ゲームをちょっと遊びたいと思っている人にも十分に楽しめるエンターテイメントゲーム&ツールになっています。新しい体験をしたい人は、ぜひ遊んでみてください!

南雲氏: 両方のゲームとも自信を持って送り出した作品なので、皆さまには遊んでいただきたく思います。また遊んだ感想をApp Storeのレビューに書いてくれると嬉しいです。

――本日はありがとうございました。


「7th Deadly beats」TM & (c) 2009 NAMCO BANDAI Games Inc.
「太鼓の達人」(C)2000-2010 NBGI

(2010年 2月 24日)

[Reported by 川村和弘]