【連載第275回】ゲームライフに役立つグッズをレポート


【特別回】分割画面をマルチに出力!快適プレイ!
開発中の一風変わったゲーム向け映像処理機器を取材させて頂いた


 当連載は、ゲームライフに役立つグッズを発掘し、実際に使用してみようという試みをレポートするものである。ネタに困ったときはお休みしてしまうかもしれないので不定期連載である。ちょっとした投資や工夫で、よりよいゲームライフを送っていただけるよう、鋭意努力していく所存である。


 今回はいつもとはちょっと違う特別回。新たな、一風変わったゲーム用機器を開発中だという三幸セミコンダクター株式会社からご連絡を頂き、取材させて頂いた。その模様をお伝えしていこう。

 三幸セミコンダクターは、東芝グループのビジネスパートナーとして半導体・液晶ディスプレイなどの製造・販売を手がけるエレクトロニクス総合商社。アミューズメント機向けのグラフィックスLSIやシステムボード、グラフィックLSI(いわゆるGPUのチップ)なども手がけており、ゲームとの距離も近い。

 紹介して頂いた開発中の製品は、“スケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボード”。例えばプレイステーション 3なりXbox 360の画面分割協力プレイができるゲームで、本来なら1台のモニターの上下や左右に分割されている画面でプレイするところを、このボードを介すことで2台のモニターへ出力できる。しかも、それぞれ1P側、2P側だけの画面を出力可能で、さらに画面いっぱいにアップスケーリングして表示することもできる。他にもいろいろと面白そうな使い方ができそうな機器となっている。詳しく紹介していこう。

【今週のおしながき】
ETC 三幸セミコンダクター「スケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボード」

 




● 手軽に複数モニターでのゲームプレイを実現するマルチ入力・出力HDMI機器

開発中のスケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボードを使い、実際にゲームプレイを試しているところ。1台のPS3から3台のディスプレイへ画面を出力している

 お話を伺わせて頂いたのは、三幸セミコンダクター 厚木事業部 技術部 主任 浅崎 松士氏。聞けば浅崎氏は「グランツーリスモ5」が好きで、ご家族とよく画面分割プレイで一緒に遊んでいるという。だが、画面分割プレイではそれぞれの画面が狭いし、互いの画面が見えるのも気になる。

 そこで、この“スケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボード”のような機器があれば、手軽にモニターを2台使った2Pプレイが楽しめるのではと考え、企画を立ち上げたということだ。

 当日は試作品のボードと3台のモニター、それにPS3本体とPS3用ソフト「グランツーリスモ5」や「セガラリー」を使って機能の紹介をしてもらい、ゲームプレイも試させてもらった。

 試作品の“スケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボード”は、HDMIの入力と出力をそれぞれ4つずつ搭載。スケーラ-のチップを搭載し、多彩な出力処理、アップスケーリング処理を可能にしている。

 今回お見せ頂いた機器はあくまで仮のものではあるが、ボードの大きさはそれほど大きくはなく、縦横とも約20cm程度の正方形。1枚の基盤に、HDMI端子が入出力合わせて8個、基板にはスケーリングや映像処理用のチップが載っていた。あくまで試作品であり、出力設定の操作はPCから行なっていたが、製品では簡単に使えるよう出力設定を切り替えるボタンを搭載することも考えているということだ。


こちらが開発中の製品だ。奥側にHDMI入力を4つ、手前側に出力を4つ備えており、基板にスケーリング処理のための各種チップを搭載している




 実際にどのような動作や使い方になるのか、各種設定で試している様子を交えつつ紹介していこう。まずは当日に撮影させて頂いた動画をご覧頂きたい。これをみれば、どんなことができる製品なのかがわかりやすいはずだ。

【参考動画】

・【モード1】 - 上下分割の2Pプレイゲーム画面を、スルー出力、1P側アップスケーリング、2P側アップスケーリングの3つに出力

上下分割画面の1P側、2P側を別々のモニターへアップスケーリングして出力しているところ。左が1P側、中央が2P側、右は元の分割画面だ

 こちらは上下分割での2人プレイ画面を、3台のモニターへ出力するモードだ。1つは元のゲーム画面のままスルーで出力し、あとの2つは、1P側(元画面の上半分)、2P側(元画面の下半分)を出力する。モニターが2台あれば2人別々の画面でプレイできるし、もう1台あったら元の分割画面もライブモニターのように表示させておけるというわけだ。

 1P側、2P側の横長で縦解像度が半分になっている画面をアップスケーリングすることで画面全体に表示できるのもポイント。例えば元のゲーム画面の解像度が1080p(1920×1080)の場合、上下分割されるとそれぞれ1,920×540になる。だがこれを1,920×1,080にアップスケーリングして2台のモニターに出力してくれる。

 さすがに今度はそれぞれの画面が縦長になるし、アップスケーリングされても補完処理がされているわけではないので、縦方向の解像度不足を感じるところもあるのだが、上下分割の狭い表示範囲でプレイするより表示が広く、見やすいのは嬉しい。2台以上のディスプレイが必要ではあるが、家庭で手軽に、しかも1台のPS3だけでアーケードの対戦筐体のように別々の画面でプレイできるのは魅力的だ。

 実際にゲームプレイも試させてもらった。原理的には、元の1080pのゲーム映像を3つに分配して、さらにそのうちの2つにはアップスケーリング処理も行なっているわけだが、表示はスムーズで乱れもなかった。HDMIはデジタル信号なので分配しても劣化や処理の負荷が軽く済むし、スケーリング用のチップもゲームプレイをメインに考慮して遅延の低いものを選んでいるということだ。

 ただ、スケーリング処理が入るモードでは、さすがに全く影響なしとはいかないようで、多少フレームレートが低下しているように思えた。ゲーム内の場面によって可変しているような印象で、画面内の色数が多い場面(「GT5」で言えばゴール前のスタンドがあるあたりなど)で、レートの低下が感じられた。これについては取材当日に伝えさせて頂いたので、今後の試作に配慮してもらえるということだ。


縦方向を引き延ばしてアップスケーリングしているので、さすがに元の画面と比べると縦長になってしまっているが、1P・2Pが別々の画面に、しかも画面いっぱいに表示されているのは嬉しい

・【モード2】 - 設定1の状態で、1P画面、2P画面をアップスケーリングせずに画面の中央に上下黒帯で出力

1P・2Pの画面を引き延ばさずに黒帯を上下に追加して別々のディスプレイに出力するモード

 こちらは設定1とほぼ同じだが、1P側、2P側の画面にアップスケーリングをせず、そのかわりに上下の余白に黒帯を追加するというモードだ。

 1P側、2P側の画面がそれぞれのディスプレイの中央に表示され、上下は黒帯。この状態ではスケーリング処理の負荷が小さいためか、設定1のようなフレームレート低下もあまり感じられず、よりスムーズなプレイが楽しめた。

 このモードはあまり元の映像に手を加えておらず、そのまま分割したような状態だ。さすがに上下2分割の画面を中央にそのまま配置すると、元々の見せ方である縦が低い画面にはなってしまうのだが、ゲーム側が調節したバランスなので画面比に無理がない。映画によくあるようなビスタサイズのような表示で、これはこれで面白いところがある。


画面の中央に表示された1P・2Pそれぞれのゲーム画面は、黒帯が入ったことで映画のビスタサイズのような見え方になる。スケーリング処理が軽く済んでいるからかプレイも最も快適にできた

・【モード3】 - 上下分割の2Pプレイゲーム画面の1P側・2P側別々に出力し、それぞれの左上に元の上下分割画面もワイプで表示する

それぞれの画面の左上に、元の分割画面を表示している。ちょっと特殊なモードだ。映像をこのように配置することもできる

 こちらはかなり特殊な出力設定で、上下分割のゲーム画面から1P側・2P側の画面だけを切り出して2台のディスプレイの下に配置。さらにそれぞれの左上に、元の分割画面を表示するというモードだ。

 こちらは異なる映像入力を1画面に入れ込むピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)のような機能で、1P・2Pそれぞれの画面に元画面の映像をスループット処理で入れ込んでいるということだ。

 この機器自体は元々、分割画面を別々のディスプレイに表示したいというコンセプトのものではあるが、このモードではあえて、元の映像もそれぞれが見えるように入れ込んでいる。

 実際のところ冷静に考えてみると、分割画面のゲームをこのモードでプレイしても元の分割画面とあまり差はないのだが、このような映像をこのような配置にもできるというデモンストレーション的な意味でとらえるのがいいだろう。それこそゲームにとらわれずに映像関係全般で考えると、面白い使い方ができるかもしれない。


入力映像をこのようにレイアウトすることもできる。このモードはゲームよりもなにか別の使い道のほうが、効果的に使えるかもしれない

・【モード4】 - 左右分割の2Pプレイゲーム画面、スルー出力、1P側アップスケーリング、2P側アップスケーリングの3つに出力

左右分割画面の1P側、2P側を、別々のモニターへアップスケーリングして出力

 こちらは上下分割タイプのゲームではなく、左右に分割するタイプのゲームに対応したモードだ。この日は「セガラリー」の左右分割画面でデモンストレーションして頂いた。基本的な処理は、設定1の左右バージョンといったところで、左右方向のアップスケーリング処理を行なっている。

 こちらもやはり元のゲーム画面は左右分割表示に合わせて比率を調整しているため、横をアップスケーリングすると横幅が広がりすぎてしまうところがあるが、縦に長い窮屈な画面よりもディスプレイ全体に表示されているのはやはり遊びやすい。

 なお今回は実演してもらっていないのだが、設定2のようにスケーリング処理せず、切り出した画面を中央に配置して左右に黒帯をつける処理も可能ということだ。


縦長だった画面をそれぞれの画面に分けてアップスケーリングしている。そのためやはり横が広くなりすぎるところはある。だが、上下分割画面同様に、画面いっぱいに表示されるのは気持ちいいものだ

・【モード5】 - 1人プレイのゲーム画面を、縦に3分割して3台のモニターへアップスケーリング出力し疑似マルチモニターにする

見た目のインパクトが抜群なのがこのモード。擬似的なマルチプレイだ

 こちらは1人でゲームプレイする際にも有効活用できるモードだ。1人プレイのゲーム画面を縦に左、中央、右の3つに分割し、3台のディスプレイへアップスケーリングして出力する。

 これで、3台のディスプレイにそれぞれ、視界の左側、中央、右が画面いっぱいに表示される擬似的なマルチモニターのように表示されるというわけだ。

 見た目のインパクトはかなりのもので、さすがに横に平べったい画面にはなってしまうものの、コックピットビューなどの主観視点にすれば、それほど気にはならなくなる。描画もスムーズで、まるでゲーム側が対応しているかのような動作だった。だが、これはもともと1人プレイ用の普通の画面であり、この機器とディスプレイさえ用意すればどんなゲームでも可能な表示だ。


1画面を縦に3等分し、3台のモニターへアップスケーリングして表示している。臨場感は抜群で横に広いぶんコースの広さも普通よりずっと楽しめる




 いかがだっただろうか? “スケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボード”は簡潔に言うと、スケーラ-を搭載した高性能な映像分配機とも呼べるところがあって、4入力、4出力でスケーリングも出力レイアウトも自在。使い方次第で非常に面白そうな予感をさせる機器だ。

 ちなみに、今回は実演して頂いていなかったが、上下左右に4分割して4人プレイが楽しめるタイプのゲームを、それぞれ別々のディスプレイに最大4台へ出力するというモードももちろん可能だ(それを考慮しての4出力仕様とのことだった)。もちろんアップスケール処理も可能で、ディスプレイの台数は必要にはなるが、まるでアーケードのような4人プレイが楽しめるということだ。

 製品コンセプトとしては、スタート地点にある浅崎氏の、家庭で2人プレイを快適に楽しみたい、相手の画面が見えないようにそれぞれ別の画面で遊びたい、というものがある。活用方法としてはもちろんそれが基本になるわけだが、それ以上の使い方ができそうなところを感じさせるのがポイントだ。それこそゲーム用に使うだけでなく映像処理であったり、イベント等の業務向けにもいいかもしれない。

 なお、今回試させて頂いた“スケーラー搭載マルチ入力・出力HDMI処理ボード”は、価格や発売時期はもちろん、製品の仕様からなにからなにまで、まだ開発中のもの。興味のある機器メーカーや販売を行なっている他社様から、ぜひお声かけを頂きたいということだ。そうした方は、ぜひ当編集部へご連絡をいただきたい。三幸セミコンダクター様にお話をおつなぎいたします。


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(2011年 12月7日)

[Reported by ゲーム環境向上委員会]