西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィックス講座・E3特別編その3

EAゲームのグラフィックスの見どころを探る


6月5日~7日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center


 Electronic Arts(EA)はブースの出展作品で、グラフィックス的に見どころがあった作品をピックアップして紹介しよう。なお、「Crysis 3」が本稿に含まれていないが、これは、後ほど別レポートする予定だ。




■ 「Dead Space 3」~見どころは進化したアニメーションとキャラクター表現


高い人気を誇る「Dead Space」シリーズ

 世界的に人気を博すも、人体の切断表現に対する自粛などがあったために日本を初めとした幾つかの地域では未発売となっているのがSFサバイバルホラーの名作「Dead Space」シリーズだ。なお、シリーズの外伝的(エピソード0的)作品であるWii用「Dead Space: Extraction」だけは日本でも発売されている。

 ゲームシステムUIを3Dグラフィックスベースで表現したり、体力や特殊エネルギーゲージをゲーム画面にオーバーレイさせずに主人公キャラクターが着ているアーマーのインジケーターという解釈で背中に表示するといったセンス溢れるデザインワークは非常に独創的であった。

 「Dead Space」シリーズは、あまり「グラフィックスがどうこう」という形で話題に上ることは少ないが、実は、ここ最近のグラフィックステクノロジートレンドをほぼ全て採用しており、3Dゲームグラフィックス的にもよくできていた作品だった。特にアニメーションが秀逸で、敵の寄生エイリアンはもちろんのこと、人間キャラクタの動きにもリアリティに溢れていた。

 「Dead Space」シリーズに登場する寄生生物(エイリアン)は、人間などの寄生対象生物のタンパク質などの素材を組み替えて成長させるような能力があるため、頭脳の有り無しにかかわらず、一定以上の大きさの肉片から手足が生えて動き回る。このビジュアルは、他のゾンビ系ゲームとは違ったグロテスクさがあり、ゲーム性においても「本体を撃つよりも、生えてきた手足を切断する事の方が重視される」というユニークさがあった。

 開発元Visceral Gamesの関係者が言うには、今作「Dead Space 3」では、従来のグラフィックス要素を順当に進化させただけでなく、人間の顔面の演技に力を入れたそうだ。具体的には疑似表面下散乱によるスキンシェーディング、環境光からの影生成に「Screen Space Ambient Occlusion」を初めて導入したとのこと。

 今作「Dead Space 3」では、メインの舞台が「極寒の惑星」ということで吹雪の奥からモンスターが出現したり、白銀の悪視界の中での戦闘が行なわれるなど、カプコンの「ロストプラネット」シリーズを思い起こさせるという声が聞かれた。ただ、「Dead Space」シリーズは、これまでも名作(含むB級)SF映画へのオマージュを大量に盛り込んでいる節があるため、今作は「ロストプラネット」の真似というよりは、極寒の南極が舞台の「遊星からの物体X」にインスパイアされたのではないか、と勝手に筆者は想像している。


今作からメインストーリーを2人で協力プレイすることができるようになった




■ 「SimCity」~ミニチュア風レンダリングが印象的な新生シムシティ

 「次世代シムシティ」と銘打って、現在2013年2月の発売を目指して開発が進められているのが副題/ナンバリングなしの「シムシティ」だ。開発はシムシティの家元、MAXIS。

 これまでのシムシティシリーズは、各ゲーム要素の依存関係こそシミュレートしていたといえたものの、各ゲーム要素を司る事象の発生確率は乱数要素が支配的であった。

 これに対し、新生シムシティでは、人や車、航空機といったほぼ全ての動体がAIの1単位として、自分の周囲の環境を認識判断しながら自発的に活動しており、水、電気、石油といった資源はその量や流れだけで処理されるのではなく、実際にゲーム世界に存在するものとして処理される。

 つまり、新生シムシティでは、仮想世界を本当に「シミュレーションしている」のだ。今作のキーワードとして掲げられている「What you see is What you sim」とはそういう意味なのだ。こうした発売前の海外作品の割には珍しく、オフィシャルサイトが立ち上がっているだけでなく、力の入った詳しい技術解説動画が上がっているので興味がある人はそちらも参照いただきたい。

 グラフィックスは、HDRレンダリングパイプラインが採用されており、昼も夜も豊かな陰影を見せてくれる。太陽光として設定された平行光源によるリアルタイム動的影生成が行なわれており、朝昼夜と太陽の位置関係に応じて影の出方も変わるのがリアルだ。

 そして、映像全体が、なんともいえないミニチュア的なビジュアルに見えるのは、ポストエフェクトの被写界深度(DOF:Depth of field)表現の影響だ。これは、実際のミニチュアをカメラで接写したときのように、極めてフォーカルエリア(ピントが合っている領域)を狭くするパラメータ設定でDOF表現を行なう事で実現しているのだ。


エンジン名は「GlassBox Engine」




■ 「FIFA13」~サッカーゲームはリアルタイムシミュレーションゲームへ


 PLAYER IMPACT ENGINEによるプロシージャル人体シミュレーションを導入したことで、一気にリアリティが増した「FIFA12」だったが、今作の「FIFA13」では、このリアル志向がシミュレーション重視路線をさらに推し進める。

 これまでのサッカーゲームでは、ロングパスをうけた際、物理法則をほぼ無視して、そのパスをうけた選手の直下に落ちていた。

 「FIFA13」では、パスをうけた選手のボールへのファーストタッチに物理シミュレーションの結果を支配的にすることで、そのボールが必ずしもパスをうけた選手の物にならなくなった。「FIFA13」では、パスコースを塞ぐ攻防だけでなく、パスをうけてからフィールドに落ちたボールを奪うことを想定した場所取りも行なえるようになったのだ。

 「FIFA12」では、PLAYER IMPACT ENGINEの導入により、転倒、あるいは転倒になりかけの姿勢からの復帰……といった表現までを可能にしたが、「FIFA13」では、ボールの奪い合い時の腕の振りかざしや肩の差し込みといったボディコンタクトまでをシミュレートする。もちろん、やりすぎは当然ファールになる。

 ただし、敵選手の走り込みを、身体の刺し入れることで妨害するようなこともできるため、ボールを持っていないときや、あるいはボールを蹴り放した後の状況下での攻防も起こるようになる。

 こうした要素は、かなりAIと密着した部分になるが、実際、「FIFA13」では、世界の一流リーグで活躍する選手の戦略の再現をAIに組み入れている。

 サッカーゲームは「ゲーム」ではあるのだが、グラフィックスやアニメーションがリアルになってきたことで、シミュレーション要素の割合を増し、その見栄えに負けない「リアルなサッカー」の再現に注力し始めたようだ。最初期は衝突回避に重きを置いたアクションゲームのようだったレーシングゲームが、時代が進むごとに車両物理シミュレーションの導入割合を増やしていき、「グランツーリスモ」的なドライビングシミュレータ系ゲームに進化してきた経緯とよく似ている。


サッカーゲームはただのアクションゲームから「AIとシミュレーションが重度に連携した戦略アクションゲーム」になりつつある?

(2012年 6月 8日)

[Reported by トライゼット西川善司]