西川善司の3Dゲームファンのための「BISHAMON」講座
日本のゲームを彩る影の主役“エフェクト”はこうして作られる!


会場:シリコンスタジオ本社





 近年のゲーム開発には、なんらかの「ゲームエンジン」が必要になってきていると言うことは、筆者の連載を愛読してくれている読者達ならばよく知っていることだと思う。

 ただ、それが商用のゲームエンジンでなくともよく、各ゲームスタジオで開発した独自のフレームワークやライブラリであってもよいわけだが、とにかく開発効率を高めていくためにはこうしたテーマに取り組んでいく必要があるということを、現場のエンジニアが肌で感じている。

 ただし、高度化の一途を辿るゲーム開発において、全ての技術テーマに精通しているエンジニアがそのゲームスタジオにいることは希で、ある特定の専門的な技術テーマにおいては「ミドルウェア」(Middleware)を利用するケースも多くなってきている。

 本連載では、ゲーム開発技術、それもゲームグラフィックス方面を主眼に取り扱ってきた。中でも「ゲームエンジン」については比較的多めに取り上げてきたつもりだが、ミドルウェア技術というものは、物理シミュレーションの話題を時々取り扱うだけで、それほど多くの物を取り上げてきてはいない。

 そこで、昨今、重要度がますます増してきているミドルウェア技術にスポットをあてる特別企画をお送りすることにした。「どこ」の「なに」を取り上げるべきか、悩むところだが、オールインワン型ゲームエンジンをはじめ、顔面アニメーション、パーティクルエフェクト、ポストプロセスエフェクトなどなど、数多くの専門ミドルウェアを取り扱っているシリコンスタジオ株式会社に話を伺うことにした。

 シリコンスタジオは、GDCやCEDECなどのゲーム開発系カンファレンスにおいても多くの技術発信をしている日本の独立系開発スタジオで、特に日本のゲーム開発シーンにおいては信頼が厚いメーカーである。

 まずは同社のミドルウェアについて1つ1つ掘り下げながら、その上で、具体的にそれらミドルウェアを採用しているゲームタイトルまで広げられればと考えている。トップバッターを飾るのは世界的にもまだまだ珍しい3Dエフェクト専門のツール/ミドルウェアの 「BISHAMON」だ。


【著者近影】
東京工芸大学で3年間に渡ってCG関連の授業を特別講師としてやらせて頂いたが、カリキュラムの再編やキャンパスの移動などの理由により、2012年の1月の授業を最後にいったん終了させて頂くことになった。3年間、毎授業の終わりに質問を書いてもらっていたのだが、時々とてつもなく着眼の面白い質問があったりして、自分にとってもとても良い刺激となった。また機会があればやってみたい仕事だ。同大学は2007年に芸術学部アニメーション学科にゲームコースを設立、2010年にはこれをゲーム学科へと昇格させ、学生には主にXNAを基軸にしたゲーム製作に取り組ませてきた。時代性を考えると、今後はUNITYなどに切り替わっていくのだろうか。あるいはHTML5+WebGLか。ゲームを取り巻く環境は年々変化していくため、カリキュラムも、そして教員達自身も、その流れに呼応していく必要がある。大変な仕事である。ブログはこちら




■ 日本のエフェクト重視主義グラフィックス文化が3Dエフェクトミドルウェア「BISHAMON」を誕生させた

 世界中に存在するありとあらゆるゲームグラフィックスは2Dのドット絵からスタートしているのは間違いないが、各国の文化背景的要因がその進化の過程に強い影響を及ぼしてきた。

 日本のゲームグラフィックスは、派手で豪華絢爛なエフェクトを付加する傾向が強い。これはファミコン時代の「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」などがゲーム文化黎明期において主役となってきたことと無縁ではないだろう。ループする待機モーションで立ち尽くす敵キャラクタに対して、ド派手な閃光を伴った攻撃魔法、きらびやかな魔法陣の中からの召喚獣の出現などなど、日本のゲームファンはそうした艶やかなエフェクトに恍惚感を覚え、ゲーム体験をリッチなものと感じやすい。

 余談ながらも、これは日本のアニメや漫画にも同じ事がいえる。日本のアニメは毎秒8〜12コマ程度で、毎秒24コマを基本とした欧米アニメと比べると動きが粗いが、エフェクト効果をたくさん盛り込むことでリッチな見栄えを実現していた。漫画も同様で、欧米の漫画はどちらかといえばイラスト的な格好いいポーズ重視の止め絵が中心だが、日本の漫画は身体の部位の誇張や伸縮表現をおり混ぜつつ、ド派手な効果線や衝撃マークを多用する。昭和の少女漫画のコマを彩った花模様の背景などは、日本のゲームグラフィックスの過度とも言えるリッチなエフェクト表現に通ずるものがあるというと深読みしすぎだろうか。

 良いか悪いかはともかく、こうした文化的背景やゲームファンの嗜好により、日本のゲームグラフィックスはとにもかくにもエフェクト表現が重視されるのだ。3Dグラフィックスが中心となった現在においても、日本の「エフェクト表現重視主義」のアートコンセプトは強く残っており、日本のゲーム開発シーンでは、グラフィックスパフォーマンスの多くの部分をエフェクト描画で消費するということがザラにある。

 欧米のゲーム開発シーンでは、そこまでエフェクト描画が重視されることは少なく、厳格に定められたエフェクト用パフォーマンス予算の範囲内で収めてしまうことが多い。エフェクト描写がパフォーマンスの多くの部分を消費する日本のゲームグラフィックスとは対称的だ。

 一般的なゲーム開発シーンでは、エフェクトの作成は、プログラマーが製作した、MAYAやXSIといったDCCツール上で動作するプラグインソフト上で行なわれる。このプラグインソフトで作成されるエフェクト群は、DCCツール上でも、ゲームエンジン上と同等の振る舞いをするように設計されさている場合が多いが、パフォーマンス的には重く、開発効率があまりよろしくない。

マッチロック代表取締役社長、藤本文彦氏

 「『日本のゲームではエフェクトが重視される』、『しかし、効率の良いエフェクト製作の手法が確立されていない』。我々はここにニーズがあると感じ、エフェクト開発のための専門ツール/ミドルウェアの開発に着手したんです」(マッチロック代表取締役社長、藤本文彦氏)。

 こうして開発されたのが世界でも類を見ないエフェクト開発ツール「BlendMagic」だった。「BlendMagic」は当初ポリゴンマジックの製品としてデビューを飾ったが、後にその開発チームがマッチロックとして独立。藤本氏はその「BlendMagic」開発チームのオリジナルメンバーの1人になる。後に、マッチロックは、シリコンスタジオの子会社となり、Ver2から3へのメジャーバージョンアップのタイミングで「BlendMagic」は、シリコンスタジオが展開している「七福神シリーズ・ミドルウェアブランド」の1つである「毘沙門(BISHAMON)」を与えられ、以降は、開発をマッチロックが行ない、販売をシリコンスタジオが行なうという現在のマーケティングスタイルになっている。

 ちなみに、BISHAMONは「BlendMagic3」以降に相当するとのことで、シリコンスタジオブランドになってからは、BISHAMONとしての機能強化はもちろんのこと、他のシリコンスタジオ製ミドルウェアとの連携の強化が図られるようになった。特に、2011年に鮮烈なデビューを飾った国産のオールインワン型ゲームエンジン「OROCHI」では、BISHAMONが標準エフェクト製作ツールとして組み込まれている。なお、OROCHIについては、今後、本連載でも取り上げる予定だ。





■ BISHAMONとはなにか?〜BISHAMONで何ができるのか?

 「自分の個人的な捉え方なんですが、日本のゲーム開発シーンが求める3Dエフェクトと言うのは、モーショングラフィックスやアニメのような贅沢な映像効果で、これらはPS2時代にある程度、スタイルとして確立化されました。現在のアーティスト達は、ああしたスタイルを、今のハードの性能を活用してクオリティを上げて実現させることを求めていると思うんです。これを目標に掲げてBISHAMONの開発を行なっています。」(藤本氏)

 補足説明をしよう。プレイステーション 2のグラフィックスプロセッサGS(Graphic Synthesizer)は、かつて現役の頃に「ビデオメモリ(グラフィックスメモリ)が4MBしかない」という弱点ばかりが指摘されたが、その容量の小ささと引き替えに、ビデオメモリをGSに内蔵する実装形態としていた。このアーキテクチャがグラフィックスコアとビデオメモリとを2,560ビットという超ワイドなバス(READ:1,024ビット、WRITE:1,024ビット、TEXTURE:512ビット)を結ぶことを実現させ、当時としては異常とも言える48GB/secという超広帯域なビデオメモリ帯域を達成していたのだ。

 48GB/secというと、PS2登場から10年は経つここ最近のGPUと比較しても遜色のないスペックだ。この高いビデオメモリ帯域が「膨大な半透明重複描画をOK」としたエフェクト多用文化を育んだのだった。プログラマブルシェーダが採用された初代Xboxが流行らなかった日本では、結果的にPS2時代が延長されることとなり、このグラフィックス傾向がなおさら強まったと思われる。日本のエフェクト偏重主義傾向のゲームグラフィックスは、PS2成熟期が他地域よりも長かったことも影響しているかも知れない。

 では「PS2でできたような表現」というのは実際にはどういう表現を言うのだろうか。これは漠然としたイメージ的な話なので、説明が難しいが、筆者なりの見解で噛み砕いて言い表すとすれば「フィルレート制限に縛られないリッチかつ自由な表現」ということになるかと思う。

「ただし、BISHAMONを用いてエフェクトを開発するのはプログラマーではなく、デザイナーやアーティストという想定なんです。また、基本的な機能は『BlendMagic』時代から寄せられたデザイナーやアーティストからのフィードバックを活かして直観的に使いやすくなるように改良を重ね、なおかつ機能の1つ1つは理解しやすいようにシンプルなものにしています」(藤本氏)

 具体的なBISHAMONを技術視点で解説する前に、実際にBISHAMONを使って、どのようなエフェクトが作れるのか、そして実際にどのようなゲームタイトルで採用された実績があるのか、そこをまず紹介することにしよう。

 まず、採用実績だが、ミドルウェアという製品の性格上、「採用したことを公開したくない」というゲームスタジオも多いため、下に示すのはほんの一例であるということはご了承頂きたい。

・アーケードゲーム「ガンスリンガー ストラトス」(スクウェア・エニックス)
・アーケードゲーム「機動戦士ガンダム 戦場の絆 Rev.3」(バンダイナムコゲームス)
・Xbox 360/PS3用ゲーム「Child of Eden」(ユービーアイソフト)
・PC用オンラインゲーム「ワクワク無限大ミニ四駆ワールド」(ケイブ)
・ニンテンドーDS用RPG「エストポリス」(スクウェア・エニックス)
・Xbox LIVE Arcade用パズルRPG「ジャイロマンサー」(スクウェア・エニックス)
・PSP用格闘ゲーム「北斗の拳 ラオウ外伝 天の覇王」(インターチャネル)
・アーケード用データカードダス「仮面ライダーバトルガンバライド」(バンダイ)
・ニンテンドーDS用RPG「モンスターファームDS2 甦る!マスターブリーダー伝説」(テクモ:現コーエーテクモゲームス)

【ガンスリンガー ストラトス】
「BISHAMON」採用の最新タイトルとなるスクウェア・エニックスのアーケードゲーム「ガンスリンガー ストラトス」。今夏の稼働開始が予定されている

 そしてBISHAMONで開発した作例としては、実際に2011年発売の大作有名タイトル開発に携わったというフリーランス・アーティストの作品をご紹介しよう。

【「BISHAMON」のエフェクト その1(動画)】
召喚魔法を発動したときのような不思議なエフェクト

【「BISHAMON」のエフェクト その2(動画)】
無数に走る稲妻は、伸びる帯(ストライプ・エミッタ:後述)を成長させるように設定して表現している

【「BISHAMON」のエフェクト その3(動画)】
こうしたエフェクトがユーザーの感性次第で製作可能なのがBISHAMONだ

【「BISHAMON」のエフェクト その4(動画)】
爆発や閃光のような一般的なエフェクト以外にこうしたUI画面のようなものも製作できる

【「BISHAMON」のエフェクト その5(動画)】
こうしたエフェクトはある意味モーショングラフィックス的と言えるかも知れない

 作例を見てもらうとわかるが、一般で言うところのパーティクルエフェクトとか、そういうレベルを超えた高い表現が実現できている。光筋が複雑に伸びたり、それらがランダムに近いような動きで同時多発的に発生したり、あるいは発生タイミング自体もランダムのように見えたりもして、とても「自己完結している単体エフェクト」に見えない。プログラマーが作ったプロシージャル的なアルゴリズムで生成されているように見えてしまう。

 最近では、文字図版、写真、あるいは幾何学模様などを、3Dグラフィックス的に動かす表現やアートを「モーショングラフィックス」と呼ぶことが多いが、BISHAMONはゲーム向けのエフェクトはもちろんのこと、そうしたモーショングラフィックスまでを製作できそうなポテンシャルが感じられる。




■ BISHAMONのエフェクトデザインツール

 BISHAMONは、エフェクト開発ツール(≒オーサリングツール)という側面と、作り上げたエフェクトをゲーム機などの実際のハードウェア(実機)で動作させるミドルウェア的な側面の2つに分かれている。

 実際に上で示したようなエフェクトは、BISHAMONのエフェクトデザインツールで作成することになる。このツールを使用するのは、主にデザイナーやアーティスト達になる。

 基本的には「3D空間の任意の場所に任意のエフェクトパーツを発生させて、これをパラメータを設定して制御する」というのがBISHAMONのエフェクトデザインツールの使い方になる。

「基本機能は本当にシンプルです。1度DCCツールを触ったことがあるならば直観的に使えます。オンラインマニュアルがサポートサイトにアップロードされているのですが、いいのか悪いのか、最初以外はほとんどダウンロードされず、カスタマーの皆さんはマニュアルなしで普通に活用できてしまっているようです(笑)」(藤本氏)

 発生させることができるエフェクトパーツは、「エミッタ」と呼ばれ、基本的なものとしては4頂点を個別に自在に制御できる「クワッド・エミッタ」、4頂点を同一パラメータで制御できる「パーティクル・エミッタ」、回転制御などが行なえないポイントスプライト相当の1頂点管理の「シンプル・パーティクル・エミッタ」といったものがある。こうした各種エミッタを駆使して、エフェクトを作っていくわけだが、各エミッタには個別のテクスチャ等が与えられ、さらには運動のパラメータや発生から消滅のタイムラインパラメータなどを与えることができるようになっている。

「応用系のエミッタの中で面白いのはストライプ・エミッタとマスパーティクル・エミッタですかね。ストライプ・エミッタは発生から時間経過と共に帯を伸ばすことができ、その移動方向や回転といった挙動をパラメータで制御することができます。タイミング制御や運動にランダムノイズを与えることもできますし、結構動的で有機的な見た目を作り出すことができます。マスパーティクル・エミッタは、今までプログラマの聖域だったGPUパーティクルをツールで編集できるようにした最新機能です。キューエンタテインメントさんとの協業の際に生まれた機能で、『Child of Eden』ではこのエミッタが効果的に活用されていますよ」(藤本氏)

【「Child of Eden」のエフェクト その1(動画)】

【「Child of Eden」のエフェクト その2(動画)】

 各エミッタは階層構造を取ることができ、これもBISHAMONのエフェクトデザインツールの特徴になっている。

 わかりやすく言えばエミッタに親子関係が設定できると言うことだ。つまり、あるところに発生させたパーティクルが一定条件下で更なるパーティクルを発生させるというような表現が簡単に行なえる。この仕組みがあることで、例えば飛び散った火花が衝突して複数の火花にさらに分裂して飛散すると言った表現ができるようになる。

 また、エミッタの親子関係やその制御管理に特化した「Nullエミッタ」という特殊なエミッタも用意されている。Nullエミッタは、複数のエミッタからなる親子関係で構成されているようなエフェクトパーツを、さらに複数個取りまとめて制御が行なえるため、毎回、同じパターンのエフェクトになっているようには見えず、まるで動的なエフェクトのような複雑で高度な表現を可能にしてくれる。

「挙動制御やタイミング制御のタイムライン設定には高次曲線のようなfカーブ(Functional Curve)を与えることができるので、滑らかで自然な動きを作ることができます。最もシンプルな例で言えばエフェクトのベースカラーを時間的に変移させる様をRGB単位でfカーブで与えれば、そのパーティクルの色が時間経過と共になだらかに変化させる表現ができます」(藤本氏)

【「BISHAMON」のツール画面 その1】
BISHAMON基本画面(左)、各エミッタの親子関係や依存関係が一目でわかるスケマティックビュー
【「BISHAMON」のツール画面 その2】
ツール全体図
【タイムライン】
パラメータをfカーブ曲線で与えることができる(左)、蝶の飛行軌道がfカーブで与えられている(右)
【エフェクト制作中の画面】
一見すればランダムに見える稲妻もノイズで揺らぎこそ与えられているものの、全体像としてはデザイナーの手によって緻密に設計されている。エフェクトは印象的に見える事が重要だが、それと同じくらい自在に制御できることが重要になる

 発生させたパーティクルに対しては法線マップテクスチャの適用が可能で、さらにUVスクロールを用いたパーティクル内のテクスチャアニメーションを与えることができる。また、キネマティクスの応用や形状の変形機能を用いればパーティクルそのものの動きに有機的な表情を与えることも可能だ。パーティクルにムービーを適用することもでき、その再生位置や速度、順序の入れ替えなども行なえるため、エフェクトという括りを超えた背景動画のようなオブジェクトの作成も行なえるようだ。

【UVスクロールを応用したエフェクト例(動画)】

【キネマティクスを応用したエフェクト例(動画)】

【ムービーを応用したエフェクト例(動画)】

「ごく基本的な物になりますが、物理フィールドの影響をエミッタから発生させたパーティクル達に対して与えることができます。具体的には引力、斥力、風、渦、ゴール形状などです」(藤本氏)

 例えば下向きの重力を全てのパーティクルに対して与えれば、発生後、落下するような表現ができる。斥力とは重力の反対で反発する力のことだが、これを全パーティクルの中心に設定して全パーティクルにその効果を均等に与えれば放射状に飛散する表現が行なえることになる。風や渦などは、各パーティクルがなびいたり、あるいはとぐろを巻くような挙動が再現できるため、竜巻や炎のような自然現象を模したエフェクトの作成に役立つ。

 ゴール形状は、あらかじめ設定しておいた最終形状にパーティクルが集合するような移動効果だ。これを応用すると、例えば、飛散していた粒子がシュシュっと集まって人型を形成するようなエフェクト表現が行なえる。あるいは別の形状から別の形状へ変身するような表現も行なえるはずだ。

【「引力」を応用したエフェクト例(動画)】

【「斥力」を応用したエフェクト例(動画)】

【「風」を応用したエフェクト例(動画)】

【「渦」を応用したエフェクト例(動画)】

【「ゴール」を応用したエフェクト例(動画)】

【「ゴール」をさらに高度に応用したエフェクト例(動画)】

 基本機能は、まるで「紙と鉛筆」のような、シンプルでわかりやすい構成となっていて、ひとたびそのシンプルな機能を理解すると、さらに高度な機能まで手を伸ばしたくなるような機能設計はなかなかよく考えられている。

「BISHAMONのエフェクトデザインツールは、機能1つ1つはシンプルですが、ゲーム開発現場のデザイナー/アーティストが作成したエフェクトを見せて頂くと、我々BISHAMON開発担当が見ても『一体、BISHAMONの機能をどう活用したらこんなものができるんだ?』と感じざるを得ないものが目白押しなんです(笑)」(藤本氏)

 デザイナー/アーティスト達の感性がそのまま形にできるBISHAMONだが、万能というわけではない。特定のボス戦など、どうしてもゲームエンジン側と密接に連携したエフェクト生成などはプログラマーとデザイナー/アーティストが二人三脚で作っていかなければならないというものもあるとのことだ。しかし、大量に発生させてそのゲーム世界をリッチに見せるような『脇を固めるエフェクト』群の全てを、そうした“二人三脚”開発体制で取り組んでいたのでは予算と時間がいくらあっても不足する。BISHAMONは『ゲーム世界に説得力を増強させるエフェクト』の開発を効率よく支援するツール/ミドルウェアなのだ。

「近年では、そのゲームの開発コストを低減させつつ、グラフィックスの見た目をリッチにするという目的でBISHAMONをうまく活用されているスタジオが多くでてきています。グラフィックスの物量で満足感を与えなければならないタイトルでありながら、あまり多くの開発予算や開発期間を掛けられないシリーズ物、版権物のようなゲームの開発シーンでは、BISHAMONを重宝しているようですね。最近ではパチンコ台の中のCGやネイティブアプリとしてのソーシャルゲームのグラフィックスにもBISHAMONが活用されるようになってきていますよ」(藤本氏)

【BISHAMONの概要(動画)】

【BISHAMONの主な機能の紹介(動画)】

【BISHAMONのチュートリアルより(動画)】




■ BISHAMONのランタイム

 前段で紹介したものはBISHAMONのエフェクトデザインツールだ。このツールで製作したエフェクトは、最終的にはゲームプログラムの中で動作させて初めて意味をなす。

 BISHAMONのカスタマーには、エフェクトデザインツールで製作したエフェクトを、実際にターゲットハードウェア、つまりゲーム機などで動作させるランタイムが提供されるので、一般的にはこれを利用することになる。ゲームプログラムとの統合に際して、重要な部分についてはBISHAMON側のランタイムのソースコードが提供される。

 また、そうしたBISHAMONランタイムとゲームプログラムとの統合工程に際しては、マッチロック/シリコンスタジオ側からの技術的な支援を受けられ、あるいはその工程そのものをマッチロック/シリコンスタジオ側に発注することも可能だという。

 家庭用ゲーム専用機などのゲームでは、ミドルウェアがどれくらいメモリを食うのかが心配される。ランタイムのメモリ使用については、ゲームプログラム側が、BISHAMONランタイムの自由に利用できる固定サイズを与えて、その中でやりくりさせることもできるし、あるいはBISHAMONランタイムのメモリ管理システムをゲームプログラム側で適宜制御させるような柔軟な仕組みも提供される。

「BISHAMONはミドルウェアですから、統合の際の選択肢は多く提供しますし、サポート体制にも力を入れています。ゲームプログラム側のシェーダなどを含んだグラフィックスマテリアルをBISHAMONランタイムに持ち込むような手立てもお客様の要望により提供しています。また、その場合、BISHAMONランタイム側のライティングシステムをカスタマー側のゲームプログラムの独自の方法に変えることも可能です」(藤本氏)

 近未来的には、HAVOKなどの物理シミュレーションミドルウェアの出力を、BISHAMONのエフェクトに入力させて、挙動をより緻密に、そして動的に変化するゲームシーンとの一体感を持たせるような拡張も予定されている。

 現在、BISHAMONのランタイムは、PS3、Xbox 360、Wiiなどの現行の主要据え置き型ゲーム機、ニンテンドー3DS、PSPなどの現行型携帯ゲーム機、Windows(DirectX、OpenGL)、Linux、パチンコ、アーケード、iOS、Androidといったスマートフォンにも対応を果たしている。もちろん、2011年末発売されたPS Vitaも対応済みだ。

 シリコンスタジオ製のゲームエンジン「OROCHI」に対応したことは冒頭でも触れたが、それ以外のゲームエンジンやゲーム開発フレームワークにもBISHAMONの対応範囲は広げられている。Windows PCとXbox 360とで透過的にゲームを提供できる「XNA」や、近年、日本でも大ブレークを果たしている米Unity Technologiesのゲームエンジン「Unity」などがその一例で、こうしたエンジンを使う中小規模スタジオにとってもBISHAMONは訴求されることになるのだ。

 言うまでもないがBISHAMONのエフェクトデザインツールで制作したエフェクトの数々は上記の多様なプラットフォームの全てで相互に利用が可能だ。また、各プラットフォーム向けのランタイムは、そのプラットフォームを構成するハードウェアに対して高度な最適化が施されている。例えば、CPU負荷を一切掛けずにGPU内部でエフェクトの発生から消滅を制御できる「GPUパーティクル」は、DirectX 10世代以降のGPUベースのシステム(アーケードシステムやWii Uなど)では「ジオメトリシェーダ」を活用するが、ジオメトリシェーダ未対応のプラットフォームではDirectX 9世代のGPUの頂点シェーダの特殊機能である「Vertex Texture Fetch」を応用して実践している。

「新ハードのような未対応プラットフォームについても、2〜3週間ほどで対応が可能です」(藤本氏)

 ミドルウェアは過去の資産を幅広く末永く使えることが重要となるだけに、BISHAMONでは、そうした「対応力の高さ」に関しては重きを置いて開発に取り組んでいるのだ。

【マスパーティクル(動画)】
GPUパーティクル機能を効果的に活用し大量のパーティクルを発生させたマスパーティクルのエフェクト例




■ BISHAMONの進化の方向性

3D立体視に対応したプレビュー画面

 BISHAMONは、ゲーム開発シーン向けの「エフェクトツール/ミドルウェア」として提供されてきたが、そのヘビーユーザー達が、BISHAMONをゲーム以外の別の開発現場でも利用するようになり、これまででは想定もしていなかった機能拡張の要望が出されるようになってきたのだという。

 近年行なわれた象徴的な事例としては3D立体視への対応がある。これは、某ディスプレイ機器メーカーが3D立体視デモ制作用にBISHAMONを利用したことがきっかけになっている。

「最近では、アニメ業界からの引き合いも強くなってきています。最近のアニメは、CGベースで製作されていますから、エフェクトもCGで付加しています。このエフェクト付加工程においてBISHAMONのリアルタイム性の高さが生産効率向上に繋がると言うことで好評価を頂いているようです。また、広告業界からも問い合わせもでてきています。業務用のデジタルサイネージ、モーショングラフィックスにBISHAMONを使いたいという問い合わせですね」(藤本氏)

【表現力豊かなエフェクト】
確かにこのようなエフェクトが作れるのならばモーショングラフィックス製作に応用したいという発想が生まれるのは自然な流れだと言える

 こうした新しいカスタマーからの要望や、採用事例が急増しつつあるゲーム業界からのフィードバックに対応すべく、現在、マッチロックではBISHAMONに対して、今春の完成を目標に3つの機能拡張に取り組んでいるという。

 1つは、カメラ、光源、アニメーションモデルの持ち込みに対応させることだ。この機能が追加されることで、BISHAMONのエフェクトデザインツールで、カットシーン(イベントシーン、ムービーシーン)の進行に完璧にシンクロしたエフェクト作成/演出が行なえるようになる。ゲームではイベントシーンの作り込みに貢献できるし、アニメやサイネージの用途では映像作品を製作する上での基本的な編集工程を実践できるようになる。

 2つ目は、マテリアルとレイヤーの概念の導入だ。「マテリアルの概念の導入」とは、簡単に言えばゲームプログラム側で管理している材質表現を司るシェーダーシステムをBISHAMONのフレームワークに持ち込めるということだ。「レイヤーの概念の導入」は、ランタイムでオフスクリーンバッファの制御までの面倒を見るというものだ。例えば、「このエフェクトは大きく広がって広範囲に描かれることになるので縮小バッファ(詳細は「ロスト プラネット」グラフィックス講座を参照のこと)を活用する」といったことが指定できるようになる。

 3つ目はBISHAMONに、完全3D対応のゲーム内ユーザーインターフェイス(UI)設計とスクリプト制御を行なえるようにする機能拡張だ。現在、ゲーム内のメニューやステータス表示画面などはAdobeのFlashベースで基本設計を行なってそれをコンバートしたり、あるいはScaleformのようなミドルウェアを利用する場合が多いが、これらで作れるのは基本的には2DベースのUIだ。BISHAMONのエフェクトシステムで、2D、3Dを問わないUIや、Flashゲームのような簡単なアプリを作成できるようにしようというのが3つ目の拡張点になる。

 例えばゲームシーンに散らばっていた煙や埃、砂利などのパーティクルがシュッと集まってメニュー画面を形成したりといったような、見たこともないような斬新なUIを開発できるようになる。また、この機能は、前述したデジタルサイネージやモーショングラフィックスへの応用も広がる予感もする。

【アニメーション(動画)】
BISHAMONでアニメーションモデルをエフェクトとして再生した映像

「この後はWebGLへの対応をにらんでいます。すでにiOSベースのモバイル広告サービスiAdはWebGL使用も許可されていますし、世の中のWebの流れはHTML5/WebGLに向いています。ですから、BISHAMONで製作したエフェクトをHTML5対応のWebブラウザなどで利用できる仕組みを構築していくことは必然だと考えているんです。また、これはBISHAMONの新しい活用の場を切り開くことにも繋がりますし」(藤本氏)

 また、PS3、Xbox 360の先にある次世代機や、スマートフォンを初めとした組み込み系への展開も考えているという。具体的にはOpenCLをはじめとしたGPGPUソリューションへの対応だ。もともとエフェクトはゲームグラフィックスの主役ではないので、いくらエフェクトが重視される日本のゲームグラフィックスといえども理想としてはシステム負荷の隙間を埋めるような形での実現が望ましい。BISHAMONのランタイムが、GPGPUやOpenCLへの対応を果たせば、CPUが空いているときにはCPUに、GPUが空いているときにはGPUにエフェクトの処理を実践できるようになる。

 この他、直近の予定としては、BISHAMONで製作するエフェクトのマテリアルや、オリジナルのGPUパーティクルの作成を支援するシェーダーオーサリングツール「BISHAMON SHADER」とシリコンスタジオが手がけるミドルウェア御三家「DAIKOKU」、「YEBIS」、「BISHAMON」の3つの成果物を統合的にプレビューでき、さらに基本的なオーサリングまでが行なえる「DYBツール」(仮称)の提供が予定されている。

「BISHAMON SHADERは、現状はプログラマーブルシェーダ仕様(SHADER MODEL:SM)3.0/4.0までの対応としていますが、近未来的にはDirectX 11世代SM5.0への対応も行ないます。OpenGL ES対応のシェーダーコード出力などにも対応させて、独立性の高いGPUパーティクル用途に限っては、単体でも使えるシェーダーオーサリングツールとしての価値をも高められたらな、と思っています」(藤本氏)

【BISHAMON SHADER】
BISHAMONで製作するエフェクトのマテリアル作成を支援するシェーダーオーサリングツール「BISHAMON SHADER」(左)、「DAIKOKU」、「YEBIS」、「BISHAMON」の3つの成果物を統合的にプレビューができ、さらに基本的なオーサリングまでが行なえる「DYBツール」

 藤本氏によれば、ビジネス面でもBISHAMONはどんどん進化させていくとのことだ。昨年、大きな取り組みとして行なったのは、BISHAMONの個人向け販売だ。

「事の発端は、実力派の同人ゲーム製作サークル『illuCalab -いるからぼ-』さんからの問い合わせでした。いるからぼさんをはじめとする同人サークルやプロのエフェクトデザイナーさんの支援と、我々側の独自調査の結果においても強いニーズがあるという手応えを感じたため、個人向け販売を2011年10月よりスタートさせています」(藤本氏)

 「BISHAMON Personal」と名付けられた個人向けバージョンの提供スタイルは4つあり、エフェクトデザインツール本体が売り切り契約が49,800円、年間契約タイプが9,800円。エフェクトデザインツールを含まないランタイム部分やライブラリ群、コンバータ群をパックしたSDKが19,800円だ。両方共に個人用とはいえ、売り上げ高1,000万円未満であれば商用用途も認められている。まさに同人ゲームサークルや大学などの研究開発機関にはおあつらえ向きのパッケージだと言える。なお、商用制限のないプロ版のSDKは74,800円となっている。

 このように業務用途契約版とは違ってシリコンスタジオ/マッチロックからの技術サポートはないぶん低価格なのが最大の特長だ。BISHAMONの機能のほぼ全てにアクセスできるという点では、業務用バージョンとの機能格差は基本的にはないので、個人だけでなく中小スタジオにとってもお得なバージョンだといえる。

 さらに、各方面で活躍中のBISHAMONユーザーのデザイナー/アーティスト達が製作したエフェクトデータを販売していくエコシステムの構築にも今後は力を入れていくという。現状でも、マッチロックのオンライン販売サイト「マッチロックストア」 で「BISHAMON Personal」本体が販売されているが、これを拡張していく計画のようだ。

【スマートフォン向け2Dエフェクトの一例(GIFアニメ)】
燃え上がる炎。リアル系というよりは、アニメ系の可愛らしい炎だ(左)、線香花火のような、儚く散りゆく炎のエフェクト(右)

「一線級で活躍されているデザイナー/アーティストさん達は、自分が製作したエフェクトの秘伝のワザがネタバレしたり、芸術作品とも言えるテクスチャが流用されてタダで使われてしまうことを嫌います。なので、将来は、クラウド技術を利用するなどして、Web上で動作するビュアアプリでエフェクトのプレビューや利用シーンに合わせた基本的な編集までが行なえるようにし、最終的なエフェクトデータを出力してローカルPC等に保存する段階で都度課金できるようなエフェクト販売システムを考えています」(藤本氏)

 ローカルに保存されるのはBISHAMONのエフェクトデザインツール上のプロジェクトデータではなく、あくまでエフェクトのバイナリであったり、あるいはムービーファイル、連続の静止画ショットになるため、デザイナー/アーティストの「秘伝のワザ」と「芸術作品のようなテクスチャ」は守られることになる。そうなれば、BISHAMONベースで創作活動を行なっている一流のデザイナー/アーティスト達が、このエコシステムに参加しやすくなり、彼らは自身の作品で収益を上げられるし、BISHAMONとしてはその価値を高められるようになるというわけだ。

【Real Time Effect Series「Flare」Vol.1(動画)】
マッチロックのエフェクトストアを通じて販売されるサードパーティーの「BISHAMON」用エフェクト集「Real Time Effect Series『Flare』Vol.1」。16種類のフレアをベースに、高品質なテクスチャーを用意。各パーツが単独で組み合わさっているため、ノードの組み替えやパラメーターの調整次第で、独自のフレアを製作する事が可能としている。制作はアグニ・フレア。




■ おわりに

 本稿を読了した読者は、今後、ゲームと接した際に炎、煙、稲妻、魔法陣、爆発……といったエフェクト群を目にした際に、「一体どうやってできているんだろうか」と興味を示せるようになったのではないだろうか。

 そうした「脇役のグラフィックス」を製作したり、あるいはその表示するためのツール/ミドルウェア「BISHAMON」は、今後もデザイナー/アーティスト達にとっては「主役のツール/ミドルウェア」となり続けることを目指すだろう。その機能とビジネスモデルの進化で、その存在価値を高めつつ、活躍の場をますます広げながら。

 次回は、シリコンスタジオが手がけるもうひとつのグラフィックス系ミドルウェア「YEBIS」を取り上げる予定だ。

(2012年 1月 27日)

[Reported by トライゼット西川善司]