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Civilization V: Brave New World

ヴェニスの商人大作戦: 明確な戦略を持つことが勝利への近道

ヴェニスの商人大作戦: 明確な戦略を持つことが勝利への近道

交易を軸に戦略を展開できるヴェネツィア共和国
半島状の大陸沿岸に首都、近隣に複数の都市国家と理想的な立地
海上交易路は陸での通商に比べメリットが倍増する
モンテスマがいたので一時期戦争になったが水際で防衛

 というわけでここからは実際のプレイ戦略をご紹介していこう。モデルケースとして、今回追加された新文明のひとつ、ヴェネツィア共和国によるプレイを取り上げてみる。

 ヴェネツィア共和国はそのイメージ通り、交易特化型の文明だ。開拓者の獲得や都市の併合ができないという制限で首都しか直轄できないという弱点がある代わりに、利用できる交易路の数が通常の2倍となり、経済と文化外交上のの強いアドバンテージを持つ。

 またユニークユニットとして大商人のかわりとなる「ヴェニスの商人」が登場し、これを消費することで任意の都市国家を傀儡国家とすることができる。実質OCC(1都市チャレンジ)が強制されつつも一定の国力を確保することが容易で、交易と都市国家外交が戦略の要となる、「BNW」ならではの文明だ。

 ちなみに「BNW」のコンピューターAIは「God and Kings」以前にも増して都市を厳選して建設するようになっており、オリジナル「Civ5」で見られたような“ちょっとした空き地があればすかさず都市をねじ込む”ようなことが少ない(文明志向にもよるが)。おかげで首都しか直轄できないヴェネツィアでは、他国と国境を面して火花を散らすような危険性が減り、モンテスマのような戦争狂がゲームに存在しない限りは戦争のことを余り考えなくても良いことがメリットだ。

 ヴェネツィアは交易路の観光ブーストによる文化勝利、あるいは多量の金銭と同盟に裏付けられた軍事プレイも狙える文明だが、たいてのゲームの流れにおいて外交勝利を狙うことが鉄板の選択となる。

 さて、都市国家の傀儡化および同盟関係の樹立によって国力を伸ばす文明である以上、古代から全世界を探索し、早くから全ての都市国家と接触を確立することはとても重要だ。そのためヴェネツィアでのプレイでは、探索を進めやすい沿岸に首都を建設することがひとつのキーポイントとなる。

 首都を港町とするメリットはもうひとつ。通常の2倍という交易路を最大限に活用するためには、「隊商」の2倍の利益を得られる「貨物船」の採用が利益になるためだ。交易路の数は中世にも10を超える数となるため、そのすべてを「貨物船」で接続すれば収入は莫大なものとなり、まず金銭面で困ることはない。

 交易路は都市国家との関係にもプラスの影響がある。まずは金銭で多数の都市国家との同盟関係を樹立し、交易路の維持よりその関係を固める。その上で、社会政策「文化後援」ツリーの全解除が戦略の要。都市国家からの大量の贅沢資源の確保、「スコラ学」による科学出力の確保など、都市国家との同盟関係で得られるメリットをブーストすることで、大国にも伍する国力を確保だ。

 予算の関係や、ライバル文明の工作により同盟関係の維持が難しい都市国家に対しては「ヴェニスの商人」の出番だ。同盟にならぬなら、傀儡都市にしてしまえばいい。「国際議会」の開催に備えて「ヴェニスの商人」を活用すれば、存在する都市国家を全て同盟関係とすることが可能だ。これにより議会での票数トップを容易に確保できる。この実権を生かして大国の足をおおいに引っ張ろう。

「ヴェニスの商人」を使えば都市国家を一瞬で傀儡都市にすることができる

国際会議で多数の票を独占。議長国となって外交勝利を目指す

 そして目指す勝利条件は、ズバリ「国際連合」での世界のリーダー投票による外交勝利。工業化以降のイデオロギーに「自由」を選択することでさらに交易によるメリットをブーストできるため、有り余った金銭は都市国家への工作や、モンテスマなどの戦争狂から振りかかる火の粉を水際で食い止めるため、海軍ユニットの購入に当てるのもいい。

 中世以降、ほとんどの都市国家を掌握できれば勝利は盤石だ。「国際連合」が設立される現代フェイズに向けて着々と準備を進めていこう。AIが積極的に都市国家を滅ぼす作戦に出た場合はとても苦しい展開となるが、その場合は経済上のアドバンテージを最大限に活かす作戦に切り替えてもいい。

 というわけで今回のプレイではヴェニスの商人の大活躍で危なげなく外交勝利を達成。今回は実験も踏まえて難易度「皇子」であったので、今後はそれ以上の難易度「国王」、「皇帝」でもうまくいくか試してみたい。

勝利条件「世界の指導者」選出会議は、世界の半分以上の票数を獲得できれば達成可能。都市国家との同盟数を調整して勝利だ

外交、文化勝利の戦略に幅広い深み。シリーズに求める面白さが高まった

「God and Kings」で導入されたスパイは、今回「外交官」にも任命できるようになるなど外交面のオプションが広がる
各ゲーム要素は都度解説を見られるが、要素が多いだけに全体を把握するのはなかなか大変

 このように「BNW」では、素の「Civ5」にはなかった文明発展のシナリオを描く事が可能となった。ヴェネツィアのような外交勝利一辺倒の文明も面白いし、これまた新文明のブラジルのように、文化・観光にブーストを得られる文明で芸術・考古学に力を入れ、文化勝利を目指すのも興味深い。

 ちなみに文化方面の戦略は、素の「Civ5」においては1文明内で自己完結する傾向が強かったのだが、「BNW」では観光圧力という概念の存在により、宗教のシステムと併せて、他の国に対して大いに迷惑をかけることも可能な存在となっている。剣の力で勝てないなら、ペンの力で倒せば良いというわけだ。

 外交・文化面での戦い方が多彩になったことで、“戦争”が多彩な戦略オプションの中のひとつに位置づけられるようになった。これが本作のプレイ感覚を、とても「シヴィライゼーション」らしいものにしている。他のRTSやSLGとは違い、本シリーズにおいての戦争は、外交上の問題を解決するための手段のひとつに過ぎないものであるべきだ。「BNW」ではそのバランスが実現した。

 それだけ遊びの幅が広がった本作だが、弱点もある。「God and Kings」で追加された宗教・諜報のシステム、「BNW」で追加された交易・文化・外交面のシステムなどなど、プレーヤーに選択を求める項目が非常に多くなっているため、ゲームとしてのシンプルさが欠けている。正直、全体の把握や、個別の操作は相当煩わしいものになっている。

 それだけに、オリジナル版から長くプレイしているプレーヤーならともかく、「BNW」から本作「Civ5」にデビューする場合はゲームの勘所を掴むまえに挫折する、ということになりかねない。ゲーム内のインタラクティブヘルプ・アドバイス機能は非常に充実しているものの、それでも個別のシステムが相互にどう影響するかは相当に複雑であり、プレイの中で順次把握していくしかないためだ。

 とはいえ、間違いなくこの「BNW」によって、「Civ5」の面白さは大幅に広がっている。手応えのあるシミュレーションゲームを求める方なら、絶対にプレイすべき作品だ。

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(佐藤カフジ)