★ iOS/Androidゲームショートレビュー★
オープンワールドの元祖、モバイル版で登場!
オリジナルより美しいリバティーシティ
「グランド・セフト・オートIII:10周年記念版」
ジャンル:
クライムアクション
開発・発売元:
ロックスター・ゲームス
プラットフォーム:
iOS版:iPad 1 & 2、iPhone 4 & 4S、iPod touch 4th Generation
Android版:Androidフォン(HTC Rezound、LG Optimus 2x、Motorola Atrix 4G、Motorola Droid X2、Motorola Photon 4G、Samsung Galaxy R、T-Mobile G2x)
Androidタブレット(Acer Iconia、Asus Eee Pad Transformer、Dell Streak 7、LG Optimus Pad、Motorola Xoom、Samsung Galaxy Tab 8.9 and 10.1、Sony Tablet S、Toshiba Thrive)
価格:
450円
発売日:
12月15日

 「グランド・セフト・オート(Grand Theft Auto)III」の10周年を記念して企画されたモバイル版「グランド・セフト・オートIII:10周年記念版」が12月15日に配信された。価格はわずか450円だ。

 この低価格でありながら、かつてPCやPS2で遊んだタイトルがそのままiPhoneやiPad、Androidフォン、Androidタブレットでプレイできる。世界のビルや車、キャラクターなどのモデリングを1から作り直したというグラフィックスは必見。そして何より後のシリーズへ継承される「GTA」ならではの“味”をたっぷりと堪能できるのがたまらない。かつて楽しんだ人はもちろん、さまざまな人に触れてもらいたい作品だ。


■ モバイルならではの操作性で、オリジナルのゲーム性をそのまま再現

主人公は劇中で名前を呼ばれることはない。名もなき人物として様々なギャングの依頼をこなし、のし上がっていく
リバティーシティのマップ。ギャング達の分布もわかる
操作ボタンの位置や、大きさなどは自由に設定できる。タブレット版は、後もう一回り大きくできても良かったようにも思う

 「グランド・セフト・オートIII(「GTAIII」)」は、最初に北米でPS2が2001年に発売され、その後PCやXbox等に移植された。日本では2003年に発売されてヒットし、多くのファンを獲得した。ギャングや汚職警官、悪徳政治家が救う犯罪都市「リバティーシティ」を舞台にしたクライムアクションゲームだ。

 「GTA」シリーズはそれまで見下ろし型の2Dグラフィックスだったが、「GTAIII」で3Dグラフィックスを採用、当時のどのゲームもなしえてないリアリティのある“街”の再現と、凝ったストーリー、そして何よりエキサイティングなゲーム性で多くの人が熱狂した。ゲーム史に残る作品と言えるだろう。

 主人公はゲーム内では名前も呼ばれることのない“男”。銀行強盗の際、仲間の女に裏切られ警察に捕まってしまう。護送車に乗せられ移動中のところを、ギャングの襲撃に遭う。ギャングは、同乗していた幹部と思われる老人を脱走させようと護送車を狙ったのだ。主人公はこのチャンスに自らも脱走、手を怪我している黒人の男「8ボール」と共に逃走に成功する。主人公は8ボールの紹介で、ギャングから様々な仕事を依頼され、これをこなしていくことになる。

 モバイル版「グランド・セフト・オートIII:10周年記念版」はオリジナルの「GTAIII」のゲーム性をそのまま再現、グラフィックスはモデリングを1から作り直している。当時PC版をプレイしていた筆者にとって、オリジナルと全く変わらないスケール感と、当時を越えるグラフィックスを、モバイル端末で実現しているというのは、大きな衝撃だった。そして450円という低価格である。現在リメイクというのはゲーム業界の流行だが、「GTAIII」のようなボリュームのあるゲームが低価格で入手できるのは嬉しい。

 モバイル版はタッチスクリーンで操作できるようインターフェイスを一新、ボタンの位置や大きさもカスタマイズできる。またオートセーブ機能もあり、ミッションを瞬時にリトライすることも可能。ロード時間も非常に短く快適だ。オリジナルの要素をそのままに、モバイル版として必要な機能を盛り込んだ作品となっている。何より世界に衝撃を与えた名作のリメイクとして、注目せずにはいられない。

 しかし一方で、モバイル版は遊びやすさの面で大きなハードルがある。今回筆者はiPhoneとiPadでプレイしたのだが、最初はインターフェイスの違いに戸惑った。モバイル向けの本格的なアクションゲームを遊んだのがこれが初めてということもあって、タッチパネルでの操作を体が拒否し、「コントローラでプレイしたいなあ」という気持ちがなかなかぬぐえなかった。

 というのも、キャラクターの移動は左手の指で画面に触れ、スライドさせる方式なのだが、こするように動かしても思い通りにならない事があったし、車の移動はハンドル操作がとても微妙で、最初はまっすぐ走れなかった。加えて、実はオリジナルの「GTAIII」そのものが、それ以降のシリーズと比べ、操作がシビアなのだ。車は何かに当たったらすぐにスピンするし、カーブで簡単に横転してしまう。他の車は不意の車線変更をするし、ミッションも時間制限や、条件が厳しいものが多い。モバイル版アクションゲームへの不慣れさと、当時のままの操作性で最初はかなり苦労した。これではゲームどころではないと考え、苦肉の策として液晶にボタンを貼り付ける「THUMBIES」を試したりもした。

 そして、1つのミッションに1時間以上取り組んだりして、ゲームを続けた結果、現在はかなり快適にプレイできるようになった。今ではTHUMBIESは使わず、タッチスクリーンのままが良いと感じているし、車の挙動も慣れ、思い通りに操作できるようになった。そして操作できるようになると、ゲーム性を楽しめるようになる。「GTAIII」の良さを、堪能できるようになってくる。他の車にガンガンぶつかったり、建物の間を車体をこすりながら走り抜けたり、なりふり構わず目的を達成する「GTA」シリーズで受け継がれる楽しさに、筆者はどっぷりのめり込んでいった。

 また、iPhoneとiPadと遊び比べてみた結果、本作はiPhoneなどのスマートフォンよりも、iPadやAndroidタブレットなどのタブレット向けの作品だと感じた。iPhoneでは文字が小さすぎたり、マップの目的地がわかりにくいところがあるが、タブレット版は街の細かいところもチェックでき、大いに楽しめた。

 本作をプレイすることで、現在のモバイルゲームユーザーは、どんな遊び方をしているか、インターフェイスがどう進化しているのか見ることができたと思う。この作品をプレイしたことで、他のモバイル版アクションゲームへの興味も大きくふくらんだ。過去の名作を低価格で、プレイしやすくアレンジして発売した本作は、今後のモバイルゲームに大きな影響を与える作品だと感じた。


仲間に裏切られ囚人となるが、混乱に乗じ脱走。一緒に逃げた8ボールの紹介で、仕事をこなしていくことに
主人公はギャングの依頼のまま、様々な悪事に手を染めていく。ミッションによって様々な武器を使ったり、乗り物を活用する
世界のビルや車、キャラクターなどのモデリングを、1から作り直したというリバティーシティ


■ 悪の道をハチャメチャに爆走する興奮と背徳感

火炎放射器で敵対ギャングを攻撃
自動車販売場でスポーツカーを盗む
日本の“ヤクザ”も登場する

 「GTAIII」はその後のシリーズと比べるとやはり荒削りなゲームだ。車はすぐスピンするし、ほんのちょっとの油断や操作ミスが致命的な事故に繋がったりする。制限時間が厳しいミッションも多い。それでいながら「難易度選択」はない。一昔前の“洋ゲー”と揶揄されたゲーム性の荒さや、極端に高い難易度を感じる部分は確かにある。

 「GTA」シリーズは「基本的なゲームプレイに、どれだけユニークなゲーム性と、ストーリー性を盛り込むか」という課題に挑戦し続けている。例えば、敵対するターゲットの車を盗み出し爆弾を仕掛けて再び駐車場に戻すミッションでは、傷をつけると工作がばれてしまうため、慎重なドライブと制限時間までに作業を終えなくてはいけないスピードが求められる。ゲームプレイとシチュエーションが練り上げられたミッションで、この厳しい条件をクリアしたときの達成感はたまらない。「GTAIII」はこういった、爽快感と、「悪くて危険なことをしている」という背徳感に満ちている。

 以降の作品と比べると、ストーリー要素、特にキャラクターの描写は控えめだ。キャラクターのエキセントリックさはあまり感じられないし、主人公の立場も状況に流されていく感じが強い。主人公を取り巻くストーリー要素や、個性的なキャラクターは次の作品である「Grand Theft Auto: Vice City」で大きく開花する。そこから比べるとやや淡泊に感じるが、カメラアングルや、ハチャメチャなミッション、一部のアクの強いキャラクターなどで本作の魅力、そして今後の広がりを確かに予感させる。プレイをしていくことで、本作が大ヒットした理由を確かに確認できる。

 ゲームバランス的にも、現在の価値観から見れば、本作は難しく感じるかもしれない。しかしだからこそ、ミッションを成功させるための工夫が楽しい。レースミッションの場合は速い車を探す必要がある。「以前のミッションで自動車売り場出てきたよな……」と記憶を頼りに行ってみると、スポーツカーが展示されていたりする。他にも、武器屋にいって充分な弾薬を確保しておくのはもちろん、ミッションを受ける前に狙撃ポイントを探しておいたり、待ち伏せをするためのルートを調べたり、目的地までのショットカットルートを探しておいたりする。プレーヤーの準備がプレイの結果にちゃんと反映される。こういった“努力”も本作の楽しいポイントである。

 「GTAIII」のミッションは、ストリートガールを警察のパーティーに届けたり、アイスクリーム好きのギャングを販売者に爆弾を仕掛けておびき寄せたり、銀行強盗の運転手を務めたり、ハチャメチャなものばかりだ。成功し続けることで組織の幹部達に認められるが、「愛人とデキている」というデマを流されただけで、命を狙われることもある。そして次に主人公が身を寄せるのが“ヤクザ”の組織で、彼等から言われるのが「信用を得るために、以前所属していたボスをヤれ」というもの。悪の世界を突きすすむ主人公は何を想うのか、心理描写はほとんどないが、だからこそ想像がふくらむ。

 筆者は本作をプレイして、最初は自動車の操作感などで手間取っていたが、プレイを続けていくうちに習熟していった。「人間の適応力ってすげえ」と思うところもあるが、それ以上に感じるのは「やっぱり俺は『GTA』が大好きなんだ」ということだった。車の挙動や、ミッションごとの難易度のばらつきなどで不満を感じることもあるが、次々と提示されるミッションの面白さ、こなしていく達成感、殺伐としていながらエネルギッシュなストーリーが小さな不満を吹っ飛ばしてしまう。そして「GTAIII」の面白さを再確認しただけでなく、かつてプレイしたシリーズ作品の記憶が蘇ってきて、さらにのめり込んでいった。

 450円という価格は本作のボリュームやストーリー、そしてゲーム体験を考えればとんでもなくお得だ。本作をがっつり、たっぷり遊んでもらいたい。筆者のようにタッチスクリーンでのアクションゲームに慣れていない人は、最初はかなりゲームに手間取ると思う。しかしその先には、魅力的な「GTAIII」の世界が広がっているのだ。この独得な操作を学習する価値は充分にある。モバイルアクションゲームファンはもちろん、かつて「GTAIII」に夢中になった人、「GTA」シリーズファンはぜひチェックしてもらいたい。世界で大ヒットした「GTAIII」の魅力を再確認できるだろう。

 現在、「Grand Theft Auto V」の公式ページではトレーラーを見ることができる。「GTA」ファンにはとても気になる映像だ。舞台はどうやら西海岸のようで、「Grand Theft Auto: San Andreas」に登場した地域なのか、今後の情報が楽しみだ。

 今回のモバイル版は、改めてシリーズをふり返り、「GTA V」に対する期待を高めてくれる。筆者もモバイル版で「GTA」シリーズへの愛が強く燃え上がった。「GTA V」が本当に楽しみだ。どんな世界が広がり、どんなキャラクターが登場するのか。本当に待ち遠しい。


ミッションは失敗してもリトライ可能だ。真ん中はポケベルへの連絡、時代を感じさせる
パトカーの前で車体を塗装し直しても逃げられるなど、大味さを感じさせる部分も。タクシーミッションや、海の上のミッションも
様々なギャングに紹介され、大きな仕事を依頼されるように
レースや路上のパッケージを拾うミッションも。右は敵を誘い出し、爆破するミッション
警察の包囲を突破したり、車の追跡や、指定された電話に出たり、多彩なアイディアに驚かされる



(2011年12月20日)

[Reported by 勝田哲也]