(2015/10/1 00:00)
ワーナーが発売する「マッドマックス」は、現代の文明が滅んだ世界をモンスターマシンで疾走するオープンワールドカーアクションアドベンチャーだ。プレーヤーはマックスとなり、成長する愛車「マグナム・オプス」と、奇妙な技術者チャムバケットと共に、荒野を進んでいく。
本作は映画「マッドマックス」シリーズで描かれた殺伐とした未来世界をたっぷり味わえる作品である。ストーリーはゲームオリジナルだが、映画のファンならば誰もが思う、「この世界を旅したい」という想いをかなえてくれる。殺伐としているし、未来など全くない世界だが、なぜか惹かれる「世紀末の世界」に、飛び込んでみよう!
新たな力「マグナム・オプス」を鍛え上げ、荒野を突き進め!
ゲーム「マッドマックス」では、冒頭、マックスはこの地域一帯を支配しようとする「ウォーボーイ」の首領スクロタスとトラブルを起こす。マックスは全ての装備と、愛車インターセプターを奪われる。マックスはスクロタスに一矢報いるものの、敵だらけの世界に、何もかも失った状態で放り出されてしまう。
そんな彼にチャムバケットという男が接触してくる。彼は独自の宗教観を持っており、マックスを聖なる使徒として、彼が作り出す聖なる車「マグナム・オプス」の乗り手に選び、その車を究極のものとするため、ガス・タウンを目指すのだ。マグナム・オプスはチャムバケットの優れた技術と、マックスが集めたスクラップで徐々にモンスターマシンへと変貌していく。この強力な“鋼鉄の馬”で、マックスはこの世界を突っ走っていくのだ。
「マッドマックス」はストーリー要素よりも、「荒野を改造車で旅する」というコンセプトを前面に押し出した作品である。車を改造し、襲いかかってくる暴漢どもを蹴散らし、スクロタスの領土に挑み徐々に崩壊させていく、その楽しさにフォーカスしている。プレーヤーは広大なマップでものを集め、戦い、そして破壊しながら成長していくのだ。
最初のマグナム・オプスは弱い。フレームもむき出しでスクラップを寄せ集めただけだ。しかし、ボディを得て、タイヤ周りを改良し、エンジンをパワーアップさせ、金属技術を持つ者達の技術によってアーマーもアップグレードさせられるようになり、武器製作技術の支援を受けてロケットランチャーの「サンダープーン」を取り付け、パワーアップしていく。
マックスもまた廃材を活用しジャケットや弾倉ベルトを作り、グローブに金属を埋め込んで格闘能力をアップしていく。社会が崩壊し、人類の文明が大きく衰退していく中、失われつつある技術をつなぎ合わせ、そして自らも鍛え上げながら強くなっていくこの感触が楽しい。
マップには様々な場所、拠点がある。スクロタスの支配を歓迎していない地域の勢力の砦はマックス達に協力してくれる。荒野にはスクラップがある場所、水源も点在している。そしてあちこちにはスクロタスの力を誇示する“かかし”が立てられ、石油を牛耳るスクロタスのオイルタンクが周囲を威嚇し、油を運ぶトラックが巡回している。
ゲームの最初は他の車に突っ込まれただけで大ダメージを受け、水もない状態で瀕死に近い状態で旅をしていたのに、キャラクターが強くなり、プレーヤー自身がこの世界での生き方を学ぶ事でマックスは強力な存在になっていく。スクロタスの関連施設を破壊し、たった1人でスクロタスの貯蔵施設を壊滅させることもできるようになる。
特に何台もの護衛を引き連れた輸送車の“車両部隊”を蹴散らせるようになった充実感は大きい。護衛車には、強化したハープーンを撃ち込みタイヤを外してつぶしたり、安定して弾が手に入るようになったショットガンで燃料タンクを打ち抜く、サンダープーンもここぞというときに決める。
そして残ったトラックの横面に強化したフロントグリルの牙を食い込ませる快感! この楽しさはひょっとしたらウォーボーイ側が日常的に楽しんでる感覚なのかもしれないが、マックスは1人でこれをやり遂げるのだ。思う存分“ヒャッハー”できるゲームなのである。
殺伐として、陰惨で、しかし魅力的な世界。地獄をどこまでも駆け抜けていく快感
ゲームの「マッドマックス」では独特のオカルト的な雰囲気も魅力だ。マックスを導くように現われる謎の男グリッファは、巨大な幌を背負っており、神秘的な雰囲気を持つ。グリッファの反応を見ると、マックスにしか見えてないのでは? とも思われる。
彼がいるところにはいつも煙が立ちこめていて、壁画が描かれているのだが、彼がいなくなるとそういったものは全てなくなって、時には地形そのものも変わっているのだ。彼はゲームのルールとしてはマックスの能力値を増やしてくれる存在だが、そのときのマックスとグリッファの会話も興味深い。
なぜマックスは1人で、そして何のために戦い続けるのか、グリッファは問うが、マックスは答えを出せない。それはまるで自分自身と会話をしているようだ。彼の存在がなんなのかはストーリーの大きな鍵となりそうだ。
映画もそうだが、やはりこの世界の“歪み”は興味深く、面白い。干上がった海の底のような砂漠の大地で、タンカーなどの沈没船を砦とし、自らの体を傷つけることで強さを主張する人々。落ちている食べ物はドッグフードばかり、雨水や朝露を溜めてもあっという間になくなる。それでも人は武器を持ち、がらくたをつなぎ合わせてくるまで走り回って、戦うことをやめない。
そこかしこで手に入る「歴史の遺物」という残骸では、幸せそうな子供達の写真や、かつて人生を謳歌していた人々の記録が手に入る。彼らは皆死んでしまったのだろうか、それともこの世界に順応し、全く違う存在になってしまったのか、彼らと同じ、幸せだった過去に思い出を持つマックスは、どこへ行くのか、そんなことも考えてしまう。
地獄のような世界だがなぜそこに惹かれるのだろう? プレーヤー自身も問いかけながら本作をプレイすることになるだろう。砂と岩ばかりの荒涼とした世界、見かける人間は敵ばかり、オイルも水も減っていき、補給ポイントを気にしなくてはいけない。それでもこの世界を旅するのは“楽しい”のだ。
“サウンド”のこだわりも触れておきたい。本作は“音”にこだわっており、車で走っているとき、エンジン音だけでなく、ガタガタミシミシと色々な雑音が混じるのだ。最初はどこかで工事をしているのかと思ったが、これはマグナム・オプスの車内で響いている音なのである。走る場所でも変化するし、車を変えると音が変わる。
まだ手に入れてないがV8エンジンだとまた音が変わるだろう。ドライブゲームはエンジン音にこだわりを持つ作品が多いが、“オンボロな感じ”にこだわるところが面白い。またPS4版の場合はハープーンを発射したときなどコントローラーからの音の演出も楽しい。
この世界「ウェイストランド」は、昼夜で様々な顔を見せる。その荒涼とした大地をフルスロットルでいつまでも走っていくのは、たまらない快感だ。荒れ果てた地形、殺伐とした世界……だからこそアクセルを限界まで踏み込み、どこまでも、どこまでも走っていきたくなる。
本作は他のオープンワールドゲーム以上に車と、そして荒野の疾走感にフォーカスしたゲームだ。ストーリーでユーザーを魅了するタイプのゲームではないが、「マッドマックス」ファンの心を強く揺さぶるし、映画を知らなくてもこの独特の疾走感に魅了される人は多いと思う。
天候という点では、「嵐の怖さ」も本作の表現は見事である。「マッドマックス」では警告メッセージの後、数分で嵐が来る。砂埃で視界は全くきかなくなるだけでなく、雷が落ちてきて、嵐の時に外にいるとすぐにゲームオーバーになってしまう。さけるためには味方の拠点に逃げ込むしかない。筆者は敵の拠点を攻略中嵐が来てしまい、身動きがとれなくなってしまった事があった。建物の中に逃げ込んだが、生き残れる保証はない。祈るような気持で時間が過ぎるのを待った。結果として無事だったが、このおびえる気持はリアルでとてもドキドキした。
ゲームの「マッドマックス」は何十時間も楽しめるオープンワールドゲームだ。世界は広大で、成長ポイントもたっぷりあり、思う存分荒野を放浪できる。この世界に魅力を感じた人、「ゲームだからこそあえて殺伐な世界に身を置いてみたい」という人にオススメである。映画世界の“主人公”になりきれる。「マッドマックス」ファンはもちろんだが、映画が生んだこの緻密な世界はたとえ映画を知らなくても、魅力を感じてもらえるだろう。