6年ぶりのナンバリングタイトルは、シリーズの持ち味を現代的に再構成しつつ、業界最高峰の技術を投じて、他では真似のできないゲーム体験を提供する特別なタイトルとなった。最初に結論を書いてしまうが、FPSファンはマスト・バイだ。
さて、本作「バトルフィールド 3 (Battlefield 3、BF3)」は、チーム戦FPSの金字塔「バトルフィールド」シリーズの正統なる後継作。PC、PS3、Xbox 360の3プラットフォームで発売されるが、最大対戦人数の違いから、PC版とその他はほぼ別物になっている。本稿ではPC版でのプレイフィールを中心にご紹介する。
打倒「コールオブデューティ モダンウォーフェア(CoD:MW)」を目指したとされるシングルプレイキャンペーンについては先日「『バトルフィールド 3』シングルプレイプレビュー」としてご紹介した。衝撃的な内容で、しっかり楽しめる。しかし、やはり本作のメインはマルチプレイだ。打倒「CoD」どころではなく、並ぶもののない特別なマルチプレイが提供されなければ「BF」シリーズとは言えない。
その意味では、「BF3」はファンとの約束を果たしている。新水準のグラフィックスとサウンドで描かれる圧倒的な空気感、戦車部隊が機動し、戦闘機が飛び交う広大な戦場、最大64人参加で展開する息つく間もない戦い。本作でしか得られない特別な体験が確かにある。
その一方で、細部に目をやると本作はまだ粗削りな部分もあり、今後のアップデートによる改善に期待を寄せなければならない部分も多い。また、仕様的に「BF2」からのファンならガッカリしそうなところもある。良いところとダメなところの両面を踏まえつつ、本稿ではマルチプレイモードを中心に「BF3」の全容をご紹介していきたい。
まずはグラフィックスに目を奪われるところだが、大規模な戦場の臨場感を表現するHDRサウンドエフェクトも素晴らしい |
■ 「BFBC」の拡大版か? さにあらず。「BF」ならではのテイストは健在
ものすごい人数が固まって出撃待ち。ワクワクする瞬間 |
本作のマルチプレイゲームは「コンクエスト」と「ラッシュ」の2ルールを搭載している。収録されている全てのマップが両方のゲームモードに対応しているので、どちらのルールをプレイするかは各サーバーの設定による。
まず、「コンクエスト」は「BF」シリーズ伝統の陣取り形式ルールだ。マップ内の各地に置かれた拠点を奪い合って無形の争いが展開する。各チームには「チケット」というリソースがあり、プレーヤーが死亡して再出撃する度に1単位消費されるほか、過半数の陣地を敵チームに奪われると時間に沿って自然減する。いずれかのチームのチケットが0になると勝敗が確定。マップ全体が戦場となるため大人数向けのルールである。
次に、「ラッシュ」は「バッド・カンパニー(BC)」シリーズで登場した非対称ルールだ。2つのチームが攻撃側・防衛側に別れてプレイする。マップはいくつかの防衛線に分割されており、攻撃側チームが各防衛線の通信施設を破壊すると次の防衛線に戦場が移る仕組み。全ての防衛線が突破されるか、攻撃側のチケットが枯渇すると勝敗が確定する。マップ内の一部に戦線が限定されるため少人数向きのルールである。
PC版はWebインターフェイス「バトルログ」を通じてゲームをプレイする仕組みになっている。ゲームランチャー、サーバーブラウザ、戦績管理システム、フレンドシステムなどが統合されており、一貫したインターフェイスで多彩な情報にアクセスできる。使いやすいが、欲を言えばゲーム中のキー設定などもここでできるとよかった |
・64人参加でプレイする「コンクエスト」の面白さ
拠点のひとつ。範囲内で一定時間経過すると自軍の旗になる |
狭いマップでは特に火力が集中して息つく間もない |
「BF」らしさを感じるのはやはり「コンクエスト」だ。PC版限定ながらぜひ最大64人収容のサーバーでプレイしたい。ラウンド開始時には1チーム32人という大人数が一斉に各拠点の確保に散っていき、そこかしこで銃撃戦・砲撃戦が展開される。空気感のあるグラフィックスと、本物感たっぷりのHDRサウンドに圧倒される。ものすごい体験だ。
また、本作のグラフィックスは大変にダイナミックレンジが広く、深い陰影を持つため、障害物や背景に紛れた敵の視認性が著しく低いという特徴もある。この点は好みが分かれるところが、筆者はそこに戦場らしい雰囲気を感じられるので好きだ。ミリタリー系FPSとして、迷彩服が機能するのは素晴らしい。視認性を上げたければ赤外線スコープを使えば良い。
ゲームとしては、流動性の高い陣取りルールが生み出す波乱万丈の展開が面白い。常に複数の拠点が争奪の対象となるので、人が集中して非常に熱くなる拠点が出てくれば、皆が存在を忘れて手薄になる拠点も出てくるのだ。そこに遊びの選択とメリハリが生まれてくる。
熱い地域ならそこらじゅうで銃声・砲撃音がこだまして大変な雰囲気だ。ビルの屋上からフィールドを眺めると次々に寄せてくる敵の姿が見えたりし、ますます緊張感が高まる。時には集中した砲爆撃に晒されて、画面は揺れっぱなし、何も見えない、轟音以外なにも聞こえないなんてパニック状態に陥ることも。そういった地域で激戦を楽しむのが王道のひとつだ。
逆に、防備の手薄な拠点を見つけて少人数で奪いにいくのも面白い。例えば戦場の広さを利用して大きく迂回、敵の背後を突くという作戦は苦労もあるが効果大。とはいえ、誰もいないと油断していたら戦車と鉢合わせしてドキッという体験もしばしば。そういった予想できないゲームの流れが、遊びの内容を豊かにしてくれる。
仲間とともに行動し、敵を発見すれば報告の上で銃撃戦に勝ち、チャンスがあれば拠点を確保する。個人レベルでは基本的にこの繰り返しだが、大勢が思い思いの戦いを繰り広げることで戦場の状況は止めどなく流転していく |
多彩な搭乗兵器が「BF」の魅力 |
戦闘機の取り扱いはとても難しい |
歩兵として道を極める一方で、戦車・戦闘機をはじめとする各種の搭乗兵器のスペシャリストになるのもひとつのスタイルだ。戦闘機やヘリの操縦は大変難しいが、空から一方的に攻撃できるアドバンテージは特大だ。いくつかの野戦系マップでは特にその活躍が重要になる。敵の戦車に仕事をさせないだけでもチーム全体が有利になるのだ。
ちなみに、今作では搭乗兵器そのものが出撃ポイントとなる仕組みが採用されたので、シリーズ恒例の「出待ち」で多数のプレーヤーが基地に立ち往生することがない。再出撃時に登場兵器が存在すれば直接選べるからだ。おかげで時間を無駄にせずに済む。小さいながらも的を射た新仕様だ。
ただ、「BF2」からのファンにとってはコマンダーシステムの消滅が痛手と感じられるかもしれない。「BF2」では1チームにひとりの指揮官役が戦場全体の流れに影響を与えることができ、高度な戦略性が見られるゲームでもあった。本作ではそれがなくなり、戦いの流れを決めるのは個人か、せいぜい4人単位の分隊単位になっている。そのため、「BF2」に比べて戦場全体の大きな流れというものを感じにくく、脊髄反射でプレイしている感が強くなってしまった。
ただ、それは致命的というほどではない。本作では「BF2」における指揮官の役割の一部分づつ(偵察・補給物資・砲撃など)を各クラスが持つようになっているため、分隊単位できちんと意思疎通と連携ができれば、戦いの大きな流れを感じ、また自らコントロールすることができる。
戦車の硬さと火力は大きな脅威。ロケットランチャーを装備した工兵か、空中からの攻撃が対抗手段だ |
兵士を素早く前線に展開できる輸送ヘリ。攻撃力は低いが、手薄な拠点への裏取りはお手の物。しっかり仕事ができればチームへの大きな助けとなる |
・「ラッシュ」もしっかり「BF」風味
「ラッシュ」は狭めのマップ向き |
「バトルフィールド バッドカンパニー(BFBC)」シリーズ由来の「ラッシュ」モードは、コンシューマー機水準の24人規模に向けてデザインされている。ただ、ルールそのものは「BFBC」と同じだが、プレイ感覚はかなり違う。
まず違いを感じるのが、プレーヤーが用いる火力が明らかに大きいことだ。特に援護兵クラスの専用兵器である迫撃砲。マップの任意地点を狙えるこの兵器は、「BF2」で言えばコマンダーによる砲撃支援に匹敵するほど凶悪な威力を発揮する。
前線には常に榴弾の雨が降り注ぎ、衝撃で画面が揺れ続ける。敵にスポットされるやミニマップレーダーを通じて正確な一撃が飛来するため、一定時間以上のキャンピングは自殺行為。戦場に安全な場所などないが、建物の中に潜むのは余計危ない。いつ倒壊するかわからないからだ。迫撃砲は最終近くのアンロック武器であるため現時点では使用者が少ないが、使用者が増える将来はもっとスゴいことになるはずだ。
さらにもちろん、戦線では手榴弾、グレネードランチャー、そしてロケットランチャーが乱舞する。戦場規模に比して明らかに過剰な火薬量を前に、不運なプレーヤーは為す術もなく宙に舞うしかない。
そこかしこで接近戦が発生し、爆発に巻き込まれ、味方がどんどん倒れていく。この激しさが「BF」流といったところ |
迫撃砲を撃つ援護兵 |
こうして「BF」シリーズらしいバカゲー風味も継承し、「ラッシュ」のプレイ感覚はユニークなものになっている。火力の投射量が増えれば自然と迎え撃つ側の防衛チームが有利になるため、正直なところゲームバランスは崩壊気味だが、こういう常軌を逸した派手なゲーム性は、少なくとも筆者は嫌いではない。
むしろ、24人どころか40人~50人以上でプレイする大人数「ラッシュ」が大好きだ(しつこいようだが、50人規模でプレイできるのはPC版のみとなる)。ものすごい人数が狭い戦線に集中しての壮絶な殴り合いは一見の価値あり。人が密集しすぎていて、適当に投げ込んだグレネードでトリプルキルできても驚かない。突撃兵クラスとしてプレイし、次々に倒れていく味方を蘇生し続けるだけでも凄まじいハイスコアが獲得できるなど役得もある。
大人数ラッシュはホットスポットに集中する火力に隙がなくなりすぎるため戦線が膠着し、攻撃側が勝つ見込みがゼロなあたり、チームゲームとしては完全に破綻しているが、単純に倒し倒されの関係を楽しむ気持ちで臨めば最高に面白い。「コンクエスト」と同じく、「ラッシュ」も本作独特のものになっていることがおわかりいただけるだろう。
・コンシューマー版は「ラッシュ」がオススメ
上記インプレッションはPC版がベースになっているので、コンシューマー版のプレイフィールもまとめておきたい。PS3およびXbox 360版の「BF3」と、PC版のプレイフィールとは大きく異なる。それはコンシューマー機版のマルチプレイ参加人数が最大24人までになっていることが原因だ。
人数が少ないため、コンシューマー版の「コンクエスト」では各マップがPC版の2/3程度に縮小されている。ただし、登場する兵器類は同等だ。縮小されているといっても大幅な変化はないため、「GRAND BAZAAR」や「OPERATION METRO」といった元々狭いマップであれば激しい戦いが展開して楽しめるが、「CASPIAN BORDER」を始めとする野戦系マップは広すぎて閑散とした感じになる。
もともと野戦系マップでは搭乗兵器に人員が割かれることもあって各拠点の人口密度が低く、「BF」らしい激しさは感じられない。小規模な遭遇戦が散発的に起こる程度だ。監視の目も緩いので、ひたすら裏を取って手薄な拠点を占領し合うという、どうにも締まらない戦いが続く。それをだらだらと30分もやるうちに、なんとなく勝敗が決まる感じだ。旗取りでスコアは稼げるが、盛り上がりには欠ける。
こうした締まらない戦いを何度か体験すると、「BFBC」で「ラッシュ」が発明された理由がよくわかる。常に戦線が限定されるため、「コンクエスト」とはうってかわって激しい戦いとメリハリのある展開が楽しめるのだ。
「BFBC」との違いとしては、各プレーヤーの火力が高い一方で体力が低く、一瞬で撃ち合いの勝敗が決まることが多い。そのため先に射撃できるかどうかの勝負という性質が強く、まずはマップをよく研究することが大きなアドバンテージに繋がるだろう。
また、本作のマップは複雑なものが多い。グラフィックスの陰影が深いということもあって、建物内など暗い場所でのキャンピングがかなり強力だ。撃たれる側にしてみればほぼノーヒントで弾丸だけ飛んでくる感じになる。したがって攻撃側としては、防衛側のキャンピングを崩すための分隊内連携が重要。そこにチームとしての駆け引きの面白さがある。
コンシューマー版にはこのほか「チームデスマッチ」や「分隊デスマッチ」といった小規模向けルールも搭載し、PC版とは大きく違ったものになっている。マップや兵器類が豪華になった「BFBC」としてなら十分に遊びごたえがあるので、シングルプレイ、COOPと合わせて楽しめばコストパフォーマンスの高いタイトルだ。
ゲームルールによらず、大人数×狭いマップとくれば、前線に人溜まりができる。適当射撃でダブルキル。グレネード1発で大惨事。まあ、やられる方が多い気がするが、お互い様。味方を支援してスコアを稼ごう |
■ プレーヤー成長要素・武器アンロックシステムの功罪
セッション終了時にスコアが集計され、各キットの経験値が加算される |
一定スコアに達すると対応するアイテムがアンロック |
アタッチメントが増えると戦闘効率も高まる |
さて、話が若干前後してしまったが、次にキャラクタークラスについて説明したい。本作には「突撃兵」、「工兵」、「偵察兵」、「援護兵」の4クラスが存在し、それぞれに別系統のアンロックシステム(キット)が実装されている。
例えば「突撃兵」としてプレイすると、各ゲームセッションで獲得したスコアが「突撃兵キット」としての経験値に加算され、一定以上の経験値を獲得すると次のクラス固有武器がアンロックされるという仕組みだ。また、武器・兵器毎の経験値もあり、同じ武器を使ってKILL数を稼ぐ毎に新たなアタッチメントが解除されるという仕組みもある。
また、経験値にはクラスを問わない「ランク(階級)」という系統もあり、こちらはどのクラスでプレイした結果であっても全てのスコアが経験値に加算される。これが一定の値になるとランクが上がり、全兵種向けのアイテムがアンロックされる(たいていはサブウェポン)。
これらのアンロックシステムはプレーヤーに長期的な目標を与え、各ゲームセッションでハイスコアを目指してがんばろう、という気持ちにしてくれる点でとても良いものだ。筆者も、次の武器をアンロックするために早くゲームをプレイしたくてたまらない。ただし、これを功の部分とすれば、罪の部分もある。
ひとつは、初心者泣かせの仕様であること。クラス毎に存在する数々のアンロック武器が、たいていは初期武器よりもずっと強い。例えば、(米軍)突撃兵クラス固有の初期武器であるM16A4に比べて、中位のアンロック武器であるM416(両軍で使える)は精度が高く、ほとんどの場面で明らかに強い。さらにアタッチメントのフォアグリップ、赤外線スコープ、レーザーサイトをアンロックすれば輪をかけて使いやすくなり、ノーマルの初期武器を使う初心者が相手なら不利な状況からでも蹴散らせる。
こうして「BF3」は、はじめたばかりの初心者にとってはとても辛いゲームになっている。与えられた武器の性能が低いために倒されるばかりでつまらない、それによってスコアが稼げないのでなかなか上位武器がアンロックできないという悪循環に陥る人も少なからず出てくるだろう。
こういう仕組みを取る場合、初心者を救済するための何らかの措置があってしかるべきだが、めぼしい機能はないようだ。強いて言うなら、狭いマップで戦線が膠着した時を狙い、死体を蘇生し続けてスコアを稼ごう、というアドバイスを先達がする余地があるくらいだろうか。
もうひとつの問題は、プレイするクラスを柔軟に変え難いこと。これは、アンロック要素がクラス固定でのプレイを促している点に由来する。1つのクラスを突き詰めるプレイスタイルは悪いものではないが、明らかにチームや分隊内のクラス構成が偏っている時でさえ、次のクラス固有武器アンロックが気になり、心理的に他のクラスに変え辛くなっている。ゲームが本来持っている自由度を活かすためにも、この心理的抵抗を和らげる何らかの仕組みがあればと思うところだ。
レーザーサイトがあれば直接照準がぐっとやりやすく。赤外線スコープがあれば敵を発見しやすくなる。まずはこれらのアタッチメントをアンロックするまで1つの武器でがんばってみるのがオススメ |
・不満点をいくつか……
拠点奪取で250点 |
旗を取りに行くよりKILL稼ぎに集中するほうが儲かる場合も多い |
ここで、「BF」シリーズのファンとして本作に足りないと感じられた部分を述べてみる。まずひとつ大きなものは、「仲間と連携している感覚が薄い」という点だ。
「BF2」に比較すると指揮官システムが存在しない影響もあり、チームプレイへの誘導は多分にスコアシステムに依拠する。本作のスコア獲得の仕組みは、拠点を中立化させれば200点。拠点を取れば250点、敵を倒せば100点。自分がダメージを与えた敵が別の仲間に倒されれば、与えたダメージの分だけ得点が入る。倒れた仲間を蘇生させると100点。回復や弾薬補給アイテムが利用されると25点、自分がスポットした敵が味方によって倒されると10点、などなど。
チームプレイを促すよう工夫されたかに見えるスコアシステムだ。しかし、拠点の奪取・防衛や、分隊内の連携に関わるボーナスがやや薄い。稼ぎどころをわきまえれば敵をひたすら倒し続けた方がハイスコア&高K/Dレシオが得られる場合が多く(例えば戦線の裏からひたすら迫撃砲、山の上からスナイプ、敵拠点の裏で出待ちなど)、そのためプレーヤーがなかなか旗の奪取のために一致団結し難い傾向がある。
これを防ぐためには唯一の作戦単位である分隊の連携を促すもっと強力なシステムが必要だと感じる。例えば、どの拠点を狙うかなどの行動指針を分隊内でわかりやすく共有できる仕組み。さらに、分隊同士で意思疎通するための手段があればもっと良いかもしれない。素人考えで申し訳ないが、ただ、現状のままではチームゲームとして一味足りないと感じるのだ。
「Teheran Highway」。勝負が傾きやすいマップのひとつ |
フラッシュライトを直視すると…… |
もうひとつ指摘しておきたいのは一部マップのゲームバランスの悪さ。「コンクエスト」モードの特定のマップ、例えば「Teheran Highway」では、米軍サイドが基地まで押し込まれると、あとは1歩も前進できずどうにもならなくなることがよくある。敵の強力な火力に抑えこまれ、しかもルートが限定されすぎていて裏取りもできない。このあたりは、各マップが「ラッシュ」と両対応であるために、構造が直線的であるところに原因があるように思える。
また、ゲーム全体の傾向として防衛側が有利すぎると感じる。武器アタッチメントのレーザーサイトやフラッシュライトを直視すると視界が真っ赤・真っ白になって何も見えなくなるという面白いビジュアルエフェクトが存在することも一因で、大抵の場合、待ち構える方が非常に有利だ。
これに加えて、前述したように各人の持つ火力が高いため、一定以上の人数が参加するゲームでは、攻撃側の出所を抑えればほぼ完封できる。このバランスは、進行ルートが限定される「ラッシュ」で強く感じられる。マップによっては勝敗がはじめから決まっているようなものなので、チームとしての勝利がどうでもよくなり、個人スコアに走るプレーヤーが主流になっても仕方ない。このあたりは今後の調整次第だろうか。
このように本作のマルチプレイは面白くもまだ荒削りな部分が残っており、特に戦略的な奥深さという点でまだまだ改善の余地がある。「BF」シリーズが持つ本来のポテンシャルはまだまだ発揮されていないと感じられるため、将来のアップデートでどれだけ変わっていくかが、長期的に遊べるゲームになるかのポイントになりそうだ。
この「SEINE CROSSING」マップは戦線が膠着してビクともしなくなりがち。序盤に中央の陣地を確保した方が大抵は勝つ。動きがなくなるのはプレーヤーのせいか、ゲームのせいか。チームプレイをより促進する仕組みがあれば打開できそうな印象がある |
■ COOPモードでフレンド対抗スコアアタック
2人協力して拠点を防衛 |
「BF」シリーズとしては初搭載となったCOOPモード。本作では6つのCOOP専用ミッションが用意されており、クリアスコアをフレンドと競える仕組みが提供されている。
COOPモードは2人プレイ専用で、フレンドを誘ってゲームをスタートするか、もしくはランダムマッチングを選べばオンライン上の誰かとプレイできる。ワイワイと会話しながらプレイするとひときわ楽しいので、ぜひフレンドとプレイしよう。
ゲーム内容はシナリオに沿って敵を排除しつつ、どんどん進んでいく直線的な流れを基調としている。倒されるとダウン状態となり、死亡する前に味方に助け起こされる必要があるところも踏まえれば、「Left 4 Dead」に近い雰囲気がある。
COOPミッションの1つ目「Operation Exodus」では、市街地に攻めてくる大量の敵兵を撃退しつつ、脱出ヘリの到着を目指すという流れになっている。2人のプレーヤーのうち、どちらかが死亡してしまうとその場でゲームオーバー。最初からやり直しとなるので、なるべく一緒に行動して互いをカバーしよう。
敵は多数、味方には集中砲火。車両の陰に隠れて安心していると、ロケット弾まで飛んでくる。油断すれば一瞬でダウンだ。難易度ノーマルでもかなり苦戦するが、敵の出現パターンはガッチリ決まっているので、繰り返しプレイして攻略していこう。
「Operation Exodus」。最初のミッションとはいえ敵兵はウジャウジャ出る、歩兵戦闘車も出るわでなかなか大変。味方が倒れたらすぐに助けに行こう |
2つめのCOOPミッション「FIRE FROM THE SKY」ではうって変わり、2人のプレーヤーはヘリのパイロット・コパイロットとして前線の火力支援を担当することになる。ひとりはヘリを操縦し、ひとりは火器を操作して……という協力プレイだ。歩兵戦とは全く違ったスキルが必要となるあたり、「BF」らしい幅の広さがあって面白い。
2つめのミッションはヘリを操縦。パイロット役は、ガンナー役が的確に目標を捉えられるようサポートしてあげよう |
クリアスコアは記録され、フレンドに見えるようになる |
そして最初の2つのCOOPミッションをクリアすると、3つ目のミッションがアンロック。また異なる趣向の協力プレイが展開される。
各ミッションはクリア時にミッションスコアが記録される仕組みがある。もちろん高い難易度で早くクリアするほどハイスコアだ。クリアスコアは「フレンドのランキング」として「バトルログ」上の目立つ位置に表示されるため、負けず嫌いのプレーヤーなら腕利きのフレンドを誘ってスコア競争と洒落込むのもまた一興。
各ミッションはマルチプレイともシングルプレイとも異なる趣きで「バトルフィールド」を楽しめるよう、豊富なシチュエーションが散りばめられているので、まずはひと通りプレイしてみるだけでも楽しめる。正直、シングルプレイキャンペーンとCOOPモードだけでもフルパッケージタイトルの価値があるのだが、これに比類なきマルチプレイが付いているのだから恐ろしいタイトルだ。
一転して夜間作戦、特殊部隊ライクな潜入シーンも。幅広いシチュエーションが楽しめる |
■ かつてない大風呂敷を広げたチャレンジ精神に乾杯
ソツのない優等生タイプのゲームタイトルが主流になりつつある昨今、EA DICEが彼らの矜持にかけて生み出した本作「BF3」は、色々な意味で規格外のチャレンジ精神に溢れている。
「BF」シリーズ伝統の大規模マルチプレイをメインに据えつつ、史上最高クラスの映像を実現するためにPC版をメインターゲットに据え、しかも動作対象をWindows Vista以降に絞ったこと。さらにはAAAクラスのシングルプレイキャンペーンとCOOPモードまで搭載し、初心者からベテラン、ひとり遊び派から対戦派まで幅広く誰にでも楽しめるものを目指したこと。同時に、規模縮小版とはいえコンシューマーゲーム機版もしっかりリリースしたこと。これほど八方美人なゲーム企画は、EA DICEでなければ正気を疑われるレベルだろう。
さすがは世界で1,000万本を売るゲームだ。これだけの大風呂敷を広げつつ、各ゲーム要素が高いレベルでまとまり、誰が本作を購入しても一定以上の満足が得られるものになっている。これを実現したEA DICEはスゴい!
しかしながら、その八方美人ぐあいがマルチプレイモードの完成度に影を落とした印象もある。前述したように、本作のマルチプレイには、チームプレイ誘導の弱さ、戦略性の欠如(期待したほどではないという意味で)、バランスの悪さ(いくつかのマップで顕著)が見られる。調整不足のままリリースされたのではないか。「BF」シリーズの名を冠していなければそこまで気にならないかもしれないが……。
ポテンシャルは高い。緻密かつダイナミックに表現された戦場で、64人という大人数で臨場感たっぷりの戦闘を繰り広げられるゲーム。特別な体験ができるタイトルなので、荒削りな現在でも筆者は十二分に楽しめている。
その上で、さらなる完成度の向上に期待している。次の「BF」ナンバリングタイトルが何年後に出るかはわからないが、それまでずっと飽きずに遊べるゲームになっていって欲しい。最高峰の開発力を持つEA DICEならばそれができると期待しよう。
http://www.ea.com/jp/
□「Battlefield3」のホームページ
http://www.battlefield.com/jp/battlefield3
(2011年 11月 1日)