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PS3ゲームレビュー

シビアな積み重ねが真に迫る感情を描く
プロデューサーへのメールインタビューも掲載

「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」



 インタビュープレイレポート、そしてファーストインプレッションと、昨年から発売前まで本作の魅力をお伝えしてきたが、発売後となるこのレビューではその締めくくりとして、ストーリーに重点をおいて書いていこうと思う。とは言っても、過度のネタバレをするわけではなく、断片的に本作でどんなテイストの物語が展開されるのかを見せていく程度だ。

 ただ、プレイ前にどんなゲームなのかを知りたいという方は、このレビューではなくファーストインプレッションをお読み頂くほうが良いだろう。このレビューは、ファーストインプレッションもご覧いただいた上で、もうちょっと具体的に知りたいという方、もしくは購入したという方にお伝えしていきたい。

 なお、レビューの最後には本作のエグゼクティブプロデューサーであるQuantic DreamのGuillaume de Fondaumiere氏に行ったメールインタビューも掲載している。そちらもぜひご覧いただきたい。


― Story ―

アメリカ東海岸のとある都市。
不幸な事故から、息子を失い、心にキズを負った父親イーサン(Ethan)
不可解な記憶喪失に悩まされ日常生活に復帰できないまま、
彼の家庭は崩壊しきっていた。

折しも、奇怪な連続殺人事件が世間をにぎわせ始める。
被害者に共通すること、4日間の拉致、雨水による溺死、傍らに残される折り紙。

姿の見えない「折り紙殺人鬼」の恐怖は解決されないまま、
次々と死者の数を増やしていく。そして――――

 

イーサンに残されたもう1人の息子ショーン(Shaun)が姿を消す。
もし、折り紙殺人鬼の仕業であれば、4日以内に救い出さなければならない。

そして雨は、今日も降り続ける……






■ それぞれに境遇の異なる4人が、折り紙殺人鬼の事件と関わっていくサイコ・サスペンス

    「なぁ、ショーン……。
    世の中には、避けられないことがあるんだ。
    自分が望んでなくてもね……。」
    「そんなの変だよ……、おかしいよ……。」「そうだね……、おかしいね……。」

 幸福に包まれたイーサンの家庭。ジェイソンの誕生日を祝う日に小さな悲劇は起こった。飼っていた小鳥の死だ。命が消えた小鳥の姿を前にショーンは涙を流し、目の前の光景が信じられないと嘆き悲しむ。イーサンはそんなショーンに、「世の中には避けられないことがある」と教えた。これから起こる物語を象徴するような言葉。その後、イーサン自身が、人生の理不尽さ、無情さ、突然何もかも壊れてしまう苦しみに、悩み続けることになる。

 このシーンはプロローグの1つだ。最初にプレイしたときには、悲しい出来事ではあるものの、それほど重要な意味がある場面とは思わないかもしれない。だが、ある程度本作をプレイして2度目に見るこのシーンには感じるものがあるだろう。「HEAVY RAIN」はこうした奥深い描写が繊細で、深く考えさせられる。



 突然の交通事故だった。買い物途中、目を離したすきにジェイソンはイーサンの元を離れ、屋外へと出てしまう。やっとの思いでジェイソンを見つけたイーサンはジェイソンを呼ぶ。それを聞いたジェイソンは道路へ駆けだした。1台の車が迫っていた。運転手は携帯電話で会話をしていたためか、前方の出来事に気づいていない。飛び出したイーサン。

 イーサンは半年もの間、昏睡状態となった。その期間のことはゲーム中には語られていないが、おそらく昏睡状態から回復したイーサンを待っていたのは、とてつもないショックだっただろう。息子のジェイソンは帰らぬ人となっていた。それは、自分が長く昏睡状態だったことよりも、はるかに衝撃的なことだったはずだ。


「パパ……?」

「ん?」

「どうして悲しそうなの?」

「……パパにはもう少し時間がいるんだ。
元に戻るためにね……。」

「ジェイソンのことは、
パパのせいじゃないんだよ?」

「……おやすみ、ショーン……。」

ジェイソンを失った、自分のせいで失ったと、イーサンは悲しみに暮れる日々を過ごす

 事故から2年。イーサンは日常生活に完全に復帰できぬままでいた。妻のグレイスとは別居生活となり、息子のショーンはイーサンとグレイスの元を交代で行き来して生活しているようだ。

 イーサンは後悔の感情の中をさまようように暮らしていた。以前の自信に満ちた笑顔は消えてしまった。事故の後遺症なのか、不可解な記憶喪失にも苦しめられていた。ショーンもまた、以前のような明るさを失ってしまった。自分の生活が、家族が何もかも変わってしまったから。見る影もなくなった父親の姿を見るのが辛いから。苦しんでいる父親の元から母親が離れていったから。おそらくそれら全てが、彼の笑顔を消していった。

 ショーンはそれでも、イーサンとの暮らしの中で無邪気な一面を見せるところもある。子供らしい反応が見られると、少し安心する。だが、子供は時として敏感に感じ取っている。理解している。上の画像のやり取りは、ショーンが眠る前にイーサンに話しかけるシーンだ。父親を苦しめ続けている後悔を、ショーンはしっかりと感じとっていた。

 小鳥の死から2年後のこと。「世の中には避けられないことがある」イーサン自身がそれを1番よくわかっている。だが、後悔の気持ちは、自責の念は消えはしない。以前に父親から教わったことを、今度はショーンが父親であるイーサンに伝える。子供らしいストレートな問いかけに、イーサンは言葉をつまらせる。イーサンは答えられなかった。

 プロローグの中で最も重要であり、「HEAVY RAIN」の繊細な心理描写を理解してもらえる場面だと私が選んだのが、この2つ。小鳥の死を前にイーサンが人生の無常さ、誰にでも突然悲劇が降り注ぐかもしれないという、人生の残酷な平等さをショーンに語るシーン。そこからジェイソンを失い2年あまりを過ごしたイーサンへ、ショーンが語りかけるシーン。冒頭から深いテーマを感じさせる。


「息子を救うために苦しむ覚悟はできていますか?」「5分以内に自分の指を1本、第1関節から切り落としてください。」

イーサンは息子を救うために次々とその愛を試される。イーサンを操作するプレーヤーがそれに挑むかどうか、選択は委ねられている

 衝撃的なシーンの連続は、プレーヤーを本気で悩ませる。その最たるものがこの場面だ。この衝撃的な場面はオフィシャルトレイラーにも使われていて、「HEAVY RAIN」のえぐさを1番ストレートに感じてもらえる。ナビから聞こえてくる音声の無機質さとその凄惨な内容に、不気味さを感じずにいられない。オフィシャルトレイラーもぜひご覧いただきたい。

 愛はどこまで貫けるのか。「HEAVY RAIN」は愛を描いた物語だとインタビューの際に聞いた私は、悲しい出来事を織り交ぜつつも全体的には暖かな物語が展開されるのかなと想像してしまった。うかつだった。「HEAVY RAIN」が描く愛とはそんな甘いものではなく、ギリギリを迫る方向性だ。イーサンことプレーヤーを試し続ける。本当の感情を引き出すために、痛みを見せつけてくる。

 冒頭では暖かな家庭での姿を見せた。その後に悲劇があり、ぼろぼろに崩れてしまった姿も見せた。そこに残った最後の生きる支えであるショーンもまた、折り紙殺人鬼という犯罪者に奪われ、殺されてしまうかもしれない。シーンの中でだんだんと感情移入し始めていたものが、次々と失われていく。悲しみに彩られていく。そのプロセスの合間に見える数々の心理描写が、プレーヤーの心をグッと引きつけていく。

 そして、そこからさらに、真剣に悩み緊張感がピークに達するほどの衝撃的なシーンがぶつけられていく。感情移入しているプレーヤーの心をどんどんと攻めたてていく。大人のプレーヤーが真剣になれるほどのシビアさで。

 プレーヤーが操作する4人のキャラクターのうち、イーサンはその最たる存在、代表格だ。自分が操作するキャラクターはだんだんと自分とシンクロしていくところがあるが(操作しているキャラクターがダメージを受けたら「いてっ」と反射的に言ってしまったりするだろう)、そのイーサンの身には次々と悲しみが降り注ぎ、衝撃的な選択が襲いかかってくる。残酷なまでに痛々しい彼の姿からは、プレーヤーの心にも衝撃と心の痛みが伝わってくる。

 本作をすでにプレイした方の中には、プレイするのが辛くなった方もいるのではないだろうか。もしくは、プレイを区切ったあとに疲労感を感じた方もいたかもしれない。真剣勝負のごとく迫ってくるゲームなので、そう感じた方もいるだろう。私も軽くではあるがそういう辛さを感じたのだが、それでもストーリーの続きが気になる気持ちを止められなかった。演出もいい、音楽もいい。そのシビアさには疲弊もするけど、それだけに目が離せない。


「シェルビーさん……。
生きていても、良い事なんて無いと思い始めていましたが、
……それは間違いだとわかりましたよ。」


様々な家庭を訪れて手がかりを探るシェルビー。それだけに色んなシチュエーションにでくわす。画像のように赤ちゃんの世話をするユニークなシーンも

 プレーヤーが操作するキャラクターの1人「シェルビー」。彼は老練な私立探偵で、折り紙殺人鬼の被害にあった家族から依頼されて事件を調べている。彼のチャプターでは、被害者家族の元へ聞き込みに行くのがメインとなっている。

 シェルビーが訪れる家族は様々だが、共通点として子供を奪われた心の傷が癒えていない。聞き込みに訪れたシェルビーに対して、もうその話はしたくないという反応が強い。もしくは事件後に家庭が崩壊し、人生を諦めているケースもある。

 シェルビーのチャプターでは、そうした彼らとどのようにやり取りをするか、プレーヤーの選択がポイントになる。また、その結果も味わい深いものが待っている。シェルビーのチャプターは彼の行動を通して、事件の被害者や他のプレーヤーキャラクターとは異なる、事件の側面に触れていくものだ。

 どのプレーヤーキャラクターも操作中にL2ボタンを押すことで思考を聞くことができるのだが、それはシーンを進めるヒントであると共に、キャラクターの考えや感情を知ることのできるものになっている。シェルビーは会話のやり取りこそはこなれているが、口数自体はあまり多くなく感情が表に出てこないキャラクターだ。思考をちょくちょくとチェックしてみるのをオススメしたい。


    「私の仕事は連続殺人鬼の逮捕です。
    お言葉ですが警部、
    それ以外は……興味ありません。」

ジェイデンと行動を共にする捜査員のブレイク。彼の捜査は非常に強引で危ういものだ。彼とどう接するのか、ジェイデンを操作するプレーヤー次第

 FBI捜査官として折り紙殺人事件を捜査する「ジェイデン」。ジェイデンのチャプターは事件を捜査する警察側の視点だ。彼のチャプターの特徴はなんといってもARIという操作ツールの存在が大きいが、地元警察の署員とのやり取り、特に捜査チームの1人、カーター・ブレイクとのやり取りもまた見所だ。

 参考人にリストアップされた人物を調べるため、ジェイデンと共に行動するブレイク。彼の捜査方針は非常に強引で、ARIとプロファイリングを元にスマートに事件にアプローチするジェイデンとは対照的。参考人とのやり取りもさることながら、ブレイクとジェイデンの確執に対してプレーヤーがどんな選択をしていくかもポイントになる。

捜査過程には、緊張感に満ちた場面や危険なシーンも多い。そうしたジェイデンのシーンで最も独特なのは、ARIを使うために必要な「トリプトケイン」という薬物の摂取による副作用が起きるところだ。トリプトケインは過度に使用すると人体に影響があるのだが、一方で依存性が高く。中毒症状が出始めてしまうと、トリプトケインを手放せないという悪循環に陥ってしまうという代物だ。

 ARIの影響が現われたときのジェイデンの姿は、普段の落ち着きのある姿とはまったく異なるものだ。プレーヤーはそこで「どういう行動を取るか」、「トリプトケインを飲むか飲まないか」という選択を迫られる。ただ薬を飲むだけの行為も弱っているジェイデンにとっては難しい。そのため、プレーヤーの操作もそれを反映して難易度の高いものになる。


    「……気をつけて、
    犯人かもしれない……。」

 4人のプレーヤーキャラクターのうち、唯一の女性である「マディソン」。ジャーナリストである彼女の行動は他の3人とはまったく異なる。事件に関わることを調べていく彼女の行動は他の3人のように一貫性のあるものではなく、チャプターごとにガラリと変わってくる。

 危険なところにも飛び込んでいく姿勢には危うさも感じるが、それがまたプレーヤーの緊張感を高めてくる。一方で思考を聞いてみると、きちんと状況に対する恐怖も感じているのがわかる。シェルビー同様に自身のことを話す機会があまりないキャラクターなので、思考を細かにチェックしてみると、どんな考えで行動しているのかが掴めてくる。

 折り紙殺人事件とは直接的な関わりがあるわけではない彼女なのだが、その存在は物語の重要なカギになっていく。



■ 目の覚めるような各所のグラフィックス、ユニークなトロフィーの使い方もポイント

こちらが奇妙なほどのリアリティにハッとさせられた場面。背景のスクリーンと立っている人物が重なり、まるで浮かび上がるような映像になっている
行動にトロフィーが与えられるというユニークなシステム

 さて、筆者は本作のグラフィックスがまるで実写のようにリアルかというと、「それはちょっと違うかな」と感じている。非常に精細で、特に主要人物の顔の描画については驚くほどにレベルが高いが、実写に近づけているというより、どことなく「HEAVY RAIN」ならではの味付けがされたオリジナルな画作りを感じさせる。力を適度に抜いていると感じるモデリングもあるので、全面がすさまじいリアリティとは言えない。場面によって差がある。

 だが、場面によってはその逆に、ハッとさせられる瞬間もある。まるで目の前にそれが本当に存在しているかのような錯覚を感じた瞬間があった。その1つがここに載せている画像だ。これはクオリティの話をするにはちょっと反則なのだが、背景の巨大なスクリーンの前にキャラクターが立っていることで、浮かび上がっているような錯覚が起きる。疑似3Dのような感じに奥行きを感じさせる画面だ。この静止画像でもじっと見ていると「あれっ?」と不思議な感覚になるかもしれないが、これが実際に動いているゲーム画面だとさらにすごい。ほかにも力の入った人物の表情など、随所で「これはすごいな」と感じさせる瞬間が数多くある。見た目にも見所の多いゲームだ。

 「HEAVY RAIN」はトロフィーの活用の仕方もユニークだ。普通トロフィーはやり込みプレイに対してなんらかの形を示してくれるような存在になっているが、「HEAVY RAIN」ではプレーヤーが選択した行動にトロフィーを与えてくる。良い行ないに対して与えてくれるものもあれば、そうでない行動にも用意されていたりする。色んなプレイを試してみたくなる作りだ。



■ フリーズや動作の不具合について

 現在、SCEからは、世界同時でパッチ「1.02」が配信されており、症状が改善されている模様。筆者の場合、このレビューを書くまでに大体30時間ほど本作をプレイしてきたが、フリーズが1度あったものの描画の乱れやバグと言えるようなものは特に起こらなかった。問題の程度や頻度にはかなり個人差があるようだ。

 これは私の推測になるが、本作はディスクアクセス、HDDのインストールアクセスが頻繁で、PS3本体への負荷が高い。そのため、本体の状態、ピックアップレンズ、HDD、設置環境等の条件次第で負荷が高まった時にフリーズや不具合(おそらくは熱暴走的なものと推測している)が起きるのではと思える。人によって症状や問題の頻度が違っていることからも、そうした様々な個人差のある条件が絡んでいるように思う。いうまでもないことだが、望まない結果になりそうだからといって、オートセーブがかかった時に、あわてて電源を落とすなどの強制終了行為は、避けるべきだろう。

 こうした現象、特に熱暴走からのフリーズは、本体をパワフルに動作させる海外タイトルに多くみられるものだ。問題が頻繁に起きるという方は、PS3の設置環境や空調、吸排気口のホコリなどに気を配ってみるといいかもしれない。プレーヤー側でできる対処としてはこれが最善だ。

 また、アップデートパッチによる調整で負荷を軽減できれば、そうした問題が起こる可能性を下げられるだろう。なお、それら環境とは別にソフトウェアに問題がある可能性ももちろんあるので、早急な原因の究明と対策をお願いしたいところだ。



■ シビアな物語がプレーヤーを引き込み、積み重ねた辛さが本当の感情にたどり着く

ほっと一息つけるような場面もあるにはあるが、全体的に緊張感の高いシーンの連続になっている。リアルでシビアなストーリーに、不気味な出来事、異常な選択がクロスしていく

 物語を味わい、深い心理描写や感情を味わう。「HEAVY RAIN」はそうした小説や映画的な面が強い独特なゲームだ。表現手法としてのゲームではあるが、中身の性質はあまりゲーム的ではないところがある。目指しているものも非常に新しい。1つの物語の中にプレーヤーキャラクターの操作を通して感情移入していき、それを深く味わっていくという、これまでにない魅力だ。その物語はこれまでのゲームにはなかったようなシビアさを持っていて、深いテーマにアプローチしている。

 物語の見せかたや心理描写はとてもうまい。同時に音楽も静かに忍び寄るようなものが多く、雰囲気を完成させている。プレイ中の没入感が高いことが特徴で、感情移入したプレーヤーはシビアな物語や心をえぐってくるような選択に、高い緊張感を持つ。その緊張感の高さはサイコ・サスペンスの魅力をビシビシと感じさせてくれる。物語を楽しむということにおいて、ものすごく良くできている作品だ。

 あらためて断っておくが、本作はアドベンチャーゲームではない。私はファーストインプレッションでもこのレビューでも、アドベンチャーゲームという表現を一切使ってこなかった。昨年の記事(インタビューやGuillaume氏のプレイを見せてもらっていた段階)では何度か使ってしまったのだが、自分で直接プレイできるようになってからはその考えを改めた。ご容赦いただきたい。アドベンチャーゲームではないというのは、特に“日本的なアドベンチャーゲームではない”という意味で、「HEAVY RAIN」はプレーヤーが積極的に物語を動かしていったり探求していくわけでもないし、正解のルートをたどるために攻略するというスタンスでもない。

 もちろんプレーヤーとしては、自分の選んだ選択や操作によって起きた結果が、正解だったか失敗だったかという事を感じずにはいられないのだが、おそらく作り手側としてはそういう上下を意識していないように思う。どんなエンディングでも、物語の結果として受け止めて欲しい、見届けて欲しいというスタンスだ。結果だけでなく、1つ1つのプロセスを、物語全体を楽しんで欲しいという思いを感じる。その試みはとてもうまく成功していると感じた。

 実際に1つの結末を迎えて(私の初回プレイはプレーヤーキャラクターがほとんど死んでしまうという悲惨な結末だった)、その次にプレイするときには違った結果になるよう選択や操作を変えていって、それによって起こった変化もさることながら、巧みな心理描写に対して新しい発見や考えも出てきた。ちなみに心理描写の面白さは、“プレーヤーが失敗したと感じるような結果”のほうが、深みがあり面白いと思えた。

あの場面でこれを選んでいたらどうなるのだろう? あの事実をあのキャラクターが知ったらどういう展開になるのだろう? ストーリーがガラッと変わるとまではいかないのだが、そうした変化はたくさん用意されている

 ただし2周目以降のリプレイに関しては、早送りでプレイしたりイベントシーンをスキップする機能がないため少し手間に感じてしまうところがある。攻略的に物語を消化せず、1つ1つをじっくりと味わってほしいということだと思うのだが、これに関してはどちらが良いか判断は難しい(ユーザビリティ的には×だが、味わうという観点では○と思う)。非常にシビアな物語だけに2周目以降のプレイにしんどさを感じるところもあるだろうか。ここでも攻略的な姿勢で一気に消化しようとせずに、ちょこちょこと遊ぶのがオススメだ。

 また本作はマルチストーリーなわけでもない。20種類を越えるエンディングの豊富さが特徴だが、ストーリーが大胆に分岐するわけではない。繋げて考えてしまいがちなのは分かるが、エンディング(最後の結末)が豊富に用意されているということと、マルチストーリーかどうかというのは別の要素の話だ。とは言っても本編のストーリーがあまり大きくは分岐せず基本的には変化に留まるところが残念に思えたのは正直なところ。新しいアプローチの意欲作としては十分な内容があったと思うが、そのあたりは次回作に期待していきたい。大胆な分岐が用意されれば、リプレイにもより意欲的に取り組めることと思う。

 様々な人間模様、奥深い心理描写、いわゆるヒューマンドラマ的なものが好きなら、このレビューでも紹介したような「HEAVY RAIN」の描写が深く心に響くだろう。私は物語終盤の展開の1つで、圧倒的な感情の高まりを感じた。痛々しいイーサンの姿、悲痛な叫びと祈り、物語の積み重ねやそれまでの感情移入が一気に効いてくるような場面があった。プレイした際には、その場面をぜひ目指してみて欲しい。

 「HEAVY RAIN」はゲーム的かどうかの面で向き不向きがあるだろうし、シビアな物語ではあるのだが、そのシビアさゆえに心に届くストーリーを持つ作品でもある。万人にはオススメしづらいという考えは今もあるのだが、その考えを押しのけて、遊んでみて欲しいと伝えたい気持ちがある。今までにないゲームを遊んでみたいという方にもオススメしたい作品だ。



■ エグゼクティブプロデューサー、Guillaume de Fondaumiere氏にメールインタビュー

 それでは最後に、本作のエグゼクティブプロデューサーであるQuantic DreamのGuillaume de Fondaumiere氏にお答えいただいたメールインタビューを掲載しよう。基本的にはプレイ済みの方に向けて答えていただくというスタンスで、いくつか質問をしてみた。

筆者:まずは発売後の今の気持ちを聞かせてもらえますか?

Guillaume氏:「HEAVY RAIN」に関しては、周りが皆、「すばらしいアイディアとビジョンだが、発売されたときに、ユーザーがそれを理解できるかはわからない」と、口をそろえて言うようなタイトルでした。そういう意味でも、非常に刺激的なプロジェクトでしたね。約束どおりに無事発売できてこの数週間、販売本数も100万枚を突破しようとしています。

 非常に高い評価をいただいていることからも、「世界中のユーザーが、本当にゲームを楽しんでくれている」と自信を持って言える事にとても満足しています。

 さらには、Suda51さんや、上田文人さん、スティッグ・アスムッセンやピーター・モリニューにも絶賛していただき、この業界にある種の信号を送れているのだ、と、とても意義深く感じています。

 今こそ、この業界のビジョンを高め、よりストーリー性があり特徴のある、もっと意味のあるコンテンツを作っていかなければならないと思います。

筆者:ある人物の年齢の計算が合わないように思えると指摘されているのですが、その疑問は今後、解消されますか?

Guillaume氏: いい質問ですね(笑)。実は、そのことにユーザーが気づくかどうか気になっていました。

 ネタバレはしたくないですが、スコット・シェルビーは1967年に生まれたとされていますが、実際には……。少なくとも、記者の言うことだけを信じてはだめだということです。

筆者:ゲームは、ゲーム業界は成熟していくことができるでしょうか?

Guillaume氏: まず、ユーザーは今までも十分に成熟しており、市場に出ているゲームと異なるどんなゲームでも受け入れる準備が出来ていたと思います。

 「Heavy Rain」で掲げたものはある意味実にシンプルでした。「意味がありとても感情的なインタラクティブゲーム、傑作映画や小説がそうであるように、心をひきつけ、記憶に残るスリラーをプレイする準備はできているか?」ということ。ほとんどのゲーマーが即答で「もちろん。何でも来い!」と言うと思います。

 そんな大胆な約束を実行すること、そしてゲーマーにプレイしたくなる、購入したくなるようなゲームだということを伝えることは大変なことです。ですから、業界自体が大人のゲームへの飛躍への準備ができているか? ということこそが質問の核であったと思います。

 業界、つまり、パブリッシャーがビジョンを理解し、ビジョンに出資できるか、そして我々開発陣が最初から最後まで約束に対して誠実にあり、感情のローラーコースター体験を提供できるか、そしてメディアの方々にも、今までレビューしてきたようなゲームとは異なるゲームに対してオープンになってもらえるかを問う、ということです。

 コンセプトの段階からずっとこのアイディアを信頼し、資金的にディヴィッド・ケージとチームのビジョン達成に貢献してくれたSCEに感謝しています。個人的には、とても保守的で、前年度にヒットしたゲームの視点のみ信用するパブリッシャーも少なくないと感じています。SCEはその点で異なり、「Heavy Rain」は彼らが信じた革新的なタイトルのうちの1つに過ぎません。そのことからも、彼らの思慮深さがわかります。

 開発チームも、タイトルの開発に精力を注ぎました。3年半の長い期間、当然疑問が生じる瞬間もありますから、決して簡単なことではありません。外部の色々な人々からプレッシャーを与えられ続けているのですから、疑いも生じます。ある選択や方向性、それもゲームの核をなすような要素に対して疑問が投げかけられるのです。

 ですから、常に自分を納得させ、ビジョンを見直し、プロジェクトが希薄化しないように、時には困難な決断をしなければなりません。説得力を持ち、ある意味頑固でいなければならないのですが、これは非常にエネルギーを使いましたね。

 メディアの方々の反応に関して言えば、結果を見てとても安心し、喜んでいます。平均90点以上だったということを除いても、世界中の380のレビュー中、「他のゲームと変わらない」と、その特異性を無視してFPSやアクション・アドベンチャーと比較したレビューはほんの一握りでした。ほとんどのメディアが「このゲームは通常の基準でレビューできない」、「『Heavy Rain』は今までのゲームとは全く異なるものであり、比べることはできない」とレビューしてくれています。

 こういった考えにもある程度の成熟性が必要ですし、新しいアイディアに対してオープンでなくてはなりません。そのことからも、業界は成熟したといえると思いますし、論理的に考えると、ユーザーはこの大人向けで、ストーリー中心の感情的なゲームプレイを奨励しているといえると思います。

 また、この業界に対して、「慣例にとらわれず、革新的で、構築されてきたルールを打ち破りつつも成功を手にすることができる」という強いメッセージをも送れていると思っています。

筆者:最後に、「HEAVY RAIN」をプレイした日本のユーザーにコメントをお願いします。

Guillaume氏: 日本には、古今を通じて偉大とうたわれるゲームクリエイターたちがいます。私たちはその偉大なクリエイターたちの歩んできた道をたどって来ています。

 日本のユーザーの皆さんにHeavy Rainを受け入れていただき、そのユニークさを評価していただければ何よりです。


(c)2010 Sony Computer Entertainment Europe. Published by Sony Computer Entertainment Inc. Developed by Quantic Dream S.A..

(2010年3月29日)

[Reported by 山村智美 ]