★PS3ゲームレビュー★

無敵の超能力を無法の街でどう使うか?
超能力者の誇りと幸運、孤独を感じられる作品

「INFAMOUS~悪名高き男~」


 「INFAMOUS(インファマス)~悪名高き男~」(以下、「INFAMOUS」)は超能力をテーマにしたアクションアドベンチャーだ。プレーヤーは電気を操る能力を持った青年コールとなって、政府から隔離されならず者がはびこる街と変わってしまったエンパイアシティーを舞台に、謎の計画「レイスフィア」を追う。

 フル3Dで再現された広大な街のマップ、多彩なミッション、善悪によってわかれるストーリーと、かなりの奥行きと自由度を持った大作アドベンチャー作品である。そして望まぬ力を得たコールがどう生きていくか、人々に何をもたらすのか。英雄になるか、悪魔となるか、特殊能力者としての「選択」を迫られる作品である。ヒーローをテーマにしたストーリーが好きな人にはたまらない作品となっている。



■ 大爆発を境に地獄と化す街。突然得た電撃能力でコールは何をなすのか

主人公コール。謎の爆発に巻き込まれた後、電撃を使う能力を得る。力は日々増していく、コールにはどんな運命が待ちかまえているのだろうか
政府から隔離され、地獄と課したエンパイアシティー。謎の武装集団が街を支配している
コールに接触してくるモイヤ。彼女のバックアップを得て、コールはレイスフィアの謎を追う

 「INFAMOUS~悪名高き男~」のオープニングは衝撃的である。最初に画面に映っているのは、静かな雰囲気で遠くにビル群とネオンで飾られた看板が見える、夜の都会の街角、という風景なのだが、スタートボタンを押した瞬間その世界が一変する。街のすべての電気が消え、次の瞬間カメラは遠くに光る青い光を捉える。その光が大きくなって、すべてを吹き飛ばしながら光のドームのようになってふくらんでいく。「超能力」というテーマも相まって、大友克洋の漫画「AKIRA」を思い出させるような刺激的なオープニングだ。

 主人公・コール達の住む街、エンパイアシティーはこの爆発を境に地獄と化す。街では疫病が発生し、連邦政府はエンパイアシティーを隔離、住民はパニックを起こし、暴動と略奪が始まった。どこからともなく「リーパー」と名乗る武装集団が現われ、極限状態の人々を更に追いつめていく。変化は街だけではなかった。コールの体は電撃を発する特殊体質になってしまったのだ。電撃能力は日々強くなっていく。不安が止まらないコールを支えてくれるのは、いい加減なところもあるが陽気な友人ジークと、恋人のトリッシュだけだった。

 街が隔離されて14日目、コールは大勢の人々の前で、海賊放送を流す謎の人物からテレビを通じて名前を呼ばれる。「コールはあの日爆弾を運んでいたテロリストだ!」。それは事実だった。コールは仕事として上司から荷物を運搬し、街の真ん中で開けるように指示されたのだ。あの爆弾はコールの手によって解放された。あの爆弾がなんなのか、何故コールが能力を発現させたのか、コール自身には全くわからない。コールは何者かに利用されたに過ぎない、しかしあの爆発で妹を失ったトリッシュはコールの元から去っていった。

 周りの人間からもテロリストと疑われる中、ジークは街を出ようと提案する。奇しくも何人もの人々が街から逃げだそうと、政府が作ったバリケードに殺到していた。しかし人々とコールに浴びせられたのは無数の銃弾だった。逃げ遅れ、捕らえられたコールは1人の女性と出会う。女はFBIエージェント「モイヤ」と名乗る。彼女は闇の組織「メンタリスト」が、人間の体が発する電気エネルギーを1人の人間に集める「レイスフィア」という装置を研究していたと語る。モイヤはコールの自由を条件に、街に戻りレイスフィアの手がかりを探して欲しいと依頼する。コールは自分の体の秘密を知るためにそれに同意するのだった。

 「INFAMOUS」ではプレーヤーはコールとなり、エンパイアシティーで生き抜いていく。政府から隔離され、凶悪な犯罪者達がひしめくこの街は一般の人々にとって地獄のような世界になってしまっている。この世界で強大な力を得てしまったコールはどう生きていくのか、というのが本作のテーマである。コールは街の様々な場所から電気を吸い取り、そして発射する能力を持っている。ストーリーが進むごとにコールの能力は強大になっていく。

 エンパイアシティーは3つの大きな島にわかれており、それぞれの島はならず者達の支配下にある。ゲームの主な目的はストーリーを進行させること、そして街を支配する勢力と戦い、これらを解放することである。マップにはさまざまなミッションを与えてくれる場所があり、それらをクリアしていくことでゲームは進行していく。コールの力の源は電気にある。コールが街で活動するためには、ならず者達が止めている電気をまず通電させなくてはならない。

 電気があればコールは体力も回復できる。敵の攻撃で傷を負った場合でも電気を吸い取れば瞬間的に回復できるのだ。さっきまで敵を相手にバンバン電撃を放っていたはずなのに、電気のないところにきた瞬間、電気はそこをつき能力を封じられ、車のバッテリーなど電気が残っている物を必死に探さなくてはならなくなる。電気が際限なく漏れてしまう川や海に落ちてしまえば、コールを待っているのは死だ。「弱点」をきちんとゲーム性に取り入れているところが面白い。

 ターゲットの思念を追跡したり、悪者の計画を阻止したり、警察に協力して悪者を刑務所まで連行したり、はたまた追いすがる警官と戦ったりと、様々なミッションが待っている。超能力によって強化された肉体で駆け回り、敵と戦うだけでも楽しい、超人気分が味わえるゲームである。闇の組織メンタリストはこの街で何をしようとしているのか、連邦政府はどう干渉してくるのか。徐々に力を増していくコールの未来は……ストーリーと、ゲーム性を兼ね備えた魅力的な作品である。

 本作のインターミッションはアメコミ調になっている。世界観やデザインも含めて、「X-MEN」や「スパイダーマン」などスーパーヒーローを扱ったアメコミの主人公になったような気持ちが味わえる。「INFAMOUS」は望まぬ特殊能力を得たコールが、地獄のような世界でどう生きるか、というゲームである。コールはカルマという善と悪のパラメーターが設定されており、プレーヤーはミッションで様々な選択を迫られる。得てしまった力で私利私欲に生きるか、力を人々のために使うのか。どちらのストーリーも楽しめるのだ。


インターミッションはアメコミ調のイラストでストーリーが語られる。お調子者のジーク、妹の死を嘆くあまりコールの元から去ったトリッシュ、そして謎の敵リーパー。隔絶された都市で彼らはどうなっていくのだろうか
ゲームのオープニング。スタートボタンを押した瞬間、街は崩壊、爆発の起きた地でコールは目覚める。ゲーム世界にグッと引き込まれる演出だ
ジークの家があるネオン街。暴動で破壊し尽くされ、わずか2週間で街は大きく変貌してしまっている
電撃を武器にコールは戦い続ける。レイスフィアの謎は解けるのか、強力になっていく能力をコールは制御できるのか、先が気になるストーリーである



■ 徐々に強力になる電気の力。英雄になるか悪魔になるか、決断がコールを変えていく

経験値を消費して能力を強化。善悪のカルマによって能力が変化するものもある
基本のライトニングボルトは連射できる。特に能力の少ない序盤は、銃を使ったTPSの様な感触だ
善悪選択を迫られる場面。コールのこれからの生き方そのものが問われる

 コールの基本的な超能力は電撃を発射する能力である。L1ボタンで構えR1ボタンで発射する。電撃の固まりは、弾数無制限のマシンガンのように発射できる。敵もまた銃を使ってくるので、特に能力の少ない序盤の感触は、銃で撃ち合うTPSそのままだ。敵はレーダー外の遠距離からも正確な射撃をしてくるので、戦いになれるまでは苦戦は必死だ。照準が追い切れないようなスピードで逃げ回るAIも手強い。

 コールの肉体は超能力により極限まで強化されている。どんなに高いところから落ちてもダメージを受けず、手の引っかかるところならばどこでも上れ、常人の数倍のジャンプ力を持つ。格闘の際は拳と共に電撃を放ち致命的なダメージを与える。また、敵からダメージを受けた際は配電盤や信号、車など電気のある場所から吸い出すことで瞬時に回復できる。ビルの間をジャンプで駆け抜け、つかめる所を見つけられればどんな高い場所にも上れる。軽快な操作性も相まって街を進むだけでも楽しい。

 ゲームが進むごとにコールの能力は強化されていく。物をはじく「ショックウェーブ」、手榴弾のように爆発する「ショックグレネード」、狙撃ができる「スナイパー」、両手から電気の刃を出す「ギガワットブレード」。多彩な能力を獲得することでより幅広い戦い方ができるようになる。ゲームが進めばレールやロープの上を素早く移動できたり、短時間の滑空ができるようになり、移動速度も大幅に増す。

 コールは電気能力の多彩な活用法も学んでいく。街には体力を消耗したり事故にあったりして動けない人がたくさん倒れている。彼らに電気を与えることで生命力を回復させることができるのだ。悪者に対しては四肢を拘束するロープのように電気を使える。これらの行動はコールの善悪のカルマを善の方向に傾ける。反対に悪の方に傾けるのが倒れている人の命をすべて吸い取り、自分の体力を回復させる使い方である。

 能力は戦いやミッションによって得られた経験値を消費して強化することができる。善悪どちらかの傾向が強くなることで強化できる能力は変わってくる。より強い力を得るためには善悪どちらかに偏っていくことになるだろう。ミッション中の決断、また「善のミッション」と「悪のミッション」のどちらかを選択することでコールのカルマは善悪に傾いていく。

 筆者は特にこの「ミッション中の善悪の決断を迫られる」場面が好きだ。民衆と警官が対峙しているとき、民衆の中から警官を攻撃し暴動に火をつけるか、それとも単独で警官と戦うか? 宝物が奪われ、さらわれそうな市民の宝物を逆に奪うか、市民の救助を優先するか? 1つ1つの決断がコールの立ち位置を明確にしていく。

 善側になると周りの人が声援を送ってくれるようになり、時には市民が敵に向かって石を投げてくれたりと協力してくれる。反対に悪になると人々は顔をしかめ足早にコールの前から去っていく。時には石を投げつけられダメージを負うことも。悪になっても敵は容赦なくコールを攻撃してくるし、悪側はかなり険しい道を歩むことになりそうだ。

 悪のミッションはコールの追いつめられる雰囲気に満ちたシナリオが用意されている。コールの力を脅威と見た警官隊を先に倒すため街を破壊したり、テロリストのコールを許せない市民達が結束して襲いかかってきたりと、コール自身が積極的に悪事をするのではなく、状況が悪へ悪へとコールを追いつめていくのだ。特殊な力を持ってしまったために世界から拒絶されるストーリーが待っているようで、展開が気になる。今回は善のルートを中心に進めたが、クリアした後には悪のルートも体験してみたい。


左から、電撃で物を吹き飛ばすショックウェーブ、狙撃するスナイパー、爆発する電気の固まりを発射するメガワット砲
倒れた人を救う電磁回復、電気の刃を出すギガワットブレード、ワイヤースライド
対象の命を吸い尽くす吸命、落下エネルギーを爆風に変えるサンダードロップ。右は発電所を復旧させるため、自分の体を通して電気を流している場面。これによりコールは新たな能力に目覚める
こちらは善のミッションの1つ。拘束した敵を後ろから電撃で脅しながら刑務所まで連行する
こちらは様々な悪のミッション。コールを責めるデモ隊を攻撃したり、復讐しようとする市民を返り討ちにする



■ 犯人護送、列車防衛、橋の確保に悪漢退治。特殊能力を駆使して人々を解放せよ!

コールの特殊能力をうらやむジーク。本来は気のいい奴なのだが、彼の行く末が心配だ
妹の哀しみのためにコールを責め続けるトリッシュ。彼女の心は再び開くのだろうか
テレビを通じて話しかける謎の男。字幕が欲しかったところだ

 エンパイアシティーは危険な無法地帯と化している。路上には動けなくなった人々と、息絶えた人が入り交じっており、車の多くは破壊され、建物も無惨な姿をさらしている。最初の島のネオン街ではリーパー達が暗躍、飲んだ人に幻覚を見させ、正気を失わせる謎のタールを水道に流している。

 コールはFBIのエージェントモイヤのバックアップを受けながら、街の電力を復旧、レイスフィアの手がかりを探す。謎の鍵は行方不明のモイヤの夫、ジョンが握っている。彼は街の通信システムに様々なメッセージを隠している。また、リーパーの活動もレイスフィアに関わっているらしい。リーパー達が流すタールを浴びたとき、コールはタールを通じて語りかけてくる女の声に苦しめられる。

 リーパー達は常人を越えた能力を持っており、彼らのリーダーである女も能力者のようだ。制御できない力に苦しんだあげく、人々を支配しようとする女とリーパー達。それはコールの未来の姿なのだろうか。能力を使ってリーパーと戦いながらコールは自問していく。やがてコールの戦いは第2の島のスラム街へ移るが、そこでも「ダストマン」と名乗る異能集団が地域を支配していた。政府の締め出しは更に厳しくなっており、街そのものをなくす計画すらあるという。コールは、街はどうなってしまうのだろうか。

 トリッシュとジークの物語も注目だ。妹を殺した爆弾を運んでいたコールが許せずコールの元を去ったトリッシュは、いまは救護のボランティアとして苦しむ人々を救っている。コールは彼女を助けるためにも能力を使っていく。いつか彼女の頑なな心が再びコールに向かって開かれる日は来るのだろうか。

 ジークは面白い役柄を与えられているキャラクターだ。特殊能力を得たコールのそばにいるたった1人の親友ジーク。コールの活躍を喜びながらも善行を続けると、「儲ける機会が減るかもしれないだろ」などと冗談とも本気ともつかないことを言う。ことあるごとに「俺も能力が欲しいぜ」といい、コールの知り合いと言うことで女の子を引っかけようとしたり、自らも活躍しようとして敵に捕まってしまったりする。

 悪ぶってるところもあるジークではあるが、コールが悪のルートに進んでいるときは、「街の開放のためなんだろうけど、やり過ぎなんじゃないのか」と諫めたりもする。太ったお調子者のジークだが、その言葉にはナイーブさも感じさせられる。コールとジークの関係がこれからどうなっていくかも強く興味を惹かれるところだ。

 こういった「INFAMOUS」のストーリーは様々なミッションを通じて展開する。本作はストーリーを進めるメインミッションと、街を開放するサブミッションがある。サブミッションをクリアすることで地域が開放され、その地域に敵が出なくなる。敵の地域ではビルの屋上からスナイパーのように狙撃され、地上にいれば敵が次々と出てくるので通るだけでも危険だ。メインミッションを進めるためにも、サブミッションで地域を開放していくのがいいだろう。

 「INFAMOUS」のミッションには様々な物がある。サブミッションは、敵がビルに仕掛けた監視装置をビル全体をくまなく探して破壊したり、敵に気づかれず尾行したり、敵に連れ去られようとする市民を助けるといったミッションもある。善悪のミッションでユニークだったのが市民のデモ隊に対するものだ。善の場合はコールを褒め称え、敵に対抗しようという市民達のデモを敵から守ることになる。反対に悪のミッションでは、コールを糾弾しようとするデモ隊とそれを守ろうとする警官隊を襲う。

 メインミッションは更に展開が凝っている。電車に閉じこめられた市民を救うために殿舎の屋根に乗り、コールの能力で電気を供給しながら電車を走らせ敵と戦ったりする。連れ去られた男の残留思念を追いかけたり、写真を手がかりに物を探したり、様々なギミックが用意されており、これらはサブミッションにも活用されていく。政府が飛ばす無人偵察機をビルをに登って打ち落としたりと、様々なアイデアに驚かされる。

 少し残念に思ったのが翻訳部分だ。本作は音声は英語で、字幕による翻訳を行なっているが、群衆の声やテレビの音声などは翻訳されていないのだ。「INFAMOUS」では突然テレビを通じて謎の男がコールのことを語ったり、ニュース番組で事件の推移が語られたりするのだが、字幕がないため細かいニュアンスが伝わりにくい。また、群衆達は時々コールに助けを求めたり悪態をつくのだが、ここも字幕をつけて欲しかったところである。もちろんストーリーは把握でき、主要人物達のやりとりはしっかりと翻訳されているのだが、もう一歩踏み込んで欲しかった。

 「INFAMOUS」は街を駆けめぐり、数を頼みに押し寄せてくる敵を特殊能力で撃退する超能力者気分が満喫できるアクションアドベンチャーである。望まぬ力を得てしまった悩みや、特殊能力者であるための生き方を追体験できるシリアスなストーリーも用意されている。善悪によって変化する展開も興味深い。特にヒーロー物が好きな人にオススメしたいタイトルだ。ヒーローの孤独と苦悩、責任、そしてなによりも“選ばれた者”である誇りを体験できる作品である。


地域を開放するサブミッション。依頼に応えることでその地域に敵が出現しなくなる
こちらは探索要素。爆発の時に電気を蓄えた破片を集めるとコールの力は増していく。また、ジョンの記録を集めることで事件の真相が明らかになっていく
さらわれた男の残留思念を追い、リーパーの陰謀を暴く。途中には、地面にエネルギーを走らせ攻撃してくる特殊能力者が登場する
街の人を苦しめる黒いタール。水道管を通じて飲む人を幻覚に包んでしまう。止めようとするコールも幻覚に苦しめられる
エンジニアを助け出し、可動橋を接続させるミッション。エンジニアを守らねばならない
この他にも電車に乗ったり、ビルに仕掛けられた監視装置を破壊したり、多彩なミッションがある。右のミッションは制限時間内にチェックポイントを通過するタイムアタック要素が盛り込まれている

"INFAMOUS" is a trademarks of Sony Computer Entertainment Inc.
(C)Sony Computer Entertainment America Inc. Published by Sony Computer Entertainment Inc.
Developed by Sucker Punch Productions LLC.

(2009年 11月 5日)

[Reported by 勝田哲也 ]