★PCゲーミングデバイスレビュー★
BlueTrack搭載のゲーミングマウスが遂に登場!! マウスセンサーの性能競争に終止符を打つ製品 「SideWinder X8 Mouse」 |
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マイクロソフトは、3月13日、ワイヤレスゲーミングマウス「SideWinder X8 Mouse」を発売した。このマウスの最大の特徴は、マイクロソフトの最新センサーテクノロジーである“BlueTrack”を心臓部に備えていることだ。
このセンサーテクノロジーそのもののデビューは、昨年10月に発売された一般向けマウス「Explorer Mouse」である。BlueTrackテクノロジーのアドバンテージは、「Explorer Mouse」のレビューでお伝えしたとおり、従来のレーザーや赤外線センサーに比べて格段のトラッキング安定性を持つ点にある。
そして今回「X8」に搭載されたものは、さらに各種性能が底上げされた「ゲーミンググレード」のセンサーであり、スキャン速度13,000fps、最大速度120インチ(304cm)/秒を公称するという高性能だ。一方で本製品は、ゲーミングマウスとしては不安材料に挙げられがちなワイヤレスのインターフェイスを採用しており、実際の使い心地は手にとってみないとわからないのも確かである。今回、サンプル機を使い、色々と検証してみたのでご紹介したい。
■ 重量級の無線マウス。独特のケーブルで充電しながらの通常使用も可能
形状は「SideWinder」シリーズのスタイルを踏襲 |
使用前には背面パネルを開いて付属の充電式電池を装着する |
まずは外観をご紹介したい。「SideWinder X8 Mouse」の本体サイズは約77×125×38mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約143gと、一般的な有線ゲーミングマウスの100g前後に比べてかなり重い。これについては、本製品は無線マウスであり、充電式電池込みの重量となるため致し方ないところだ。
カスタマイズ可能なボタン数は左右メインボタン、サイドボタン2つ、ホイールボタン、ホイールの左右チルトの計7つ。そのほかには専用のファンクションを持つボタンが5つあり、DPI変更ボタンがホイールの隣に3つ、オンザフライマクロ記録のための専用ボタンがサイドにひとつ、クイックラウンチボタンがマウスの中央に備えられている。
このクイックラウンチボタンは、Windows XPではマウスの設定画面を、Windows Vistaではゲームエクスプローラーをワンボタンで開けるというものだ。また、サイド部分には現在のCPI設定やバッテリー残量を表示する液晶パネルを装備。使用状況を即座に確認できる。
全体的な形状は従来の「SideWinder」シリーズのゲーミングマウスのスタイルを踏襲しているが、各部の形状を細かく見ていくと従来製品に比べてかなりの変化が見られる。特に影響が大きいのは、指が置かれる場所になめらかな凹みが付けられており、指のポジションが安定する。また、親指部分にあるサイドボタンの配置も工夫が施され、指の傾きだけで2つのボタンにアクセスできるようになっている。
ただし、全高が低く幅広な形状の特性から、持ち方に関しては「かぶせ持ち」に向いており、指先だけでホールドする「つまみ持ち」を主体とするユーザーには合いにくい。また、平均より大きめの手を持つユーザーでないと、自然にホールドした際に親指がサイドボタンに届かないかもしれない。
特に筆者はマウスを浅めにホールドする方であるためか、「よいしょ」と手のひら全体をスライドさせないと、サイドボタンにアクセスできなかった。そういった本製品の形状については、従来の「SideWinder」シリーズのマウスや、SteelSeriesの「IKARI」シリーズといった、大きめのマウスを違和感なく使えるユーザー向けのデザインと言える。
独特の形状に、7つのプログラマブルなボタンと、6つの特殊ボタンを装備。CPI設定は専用ボタンで常時3種類を切り替えることができ、設定は液晶パネルに表示される |
無線インターフェイス |
PCへの接続は付属のUSB無線インターフェイスを経由して行なう。この無線インターフェイスにはPCへのUSBケーブルのほかにもう一本、マウスへの充電ケーブルが備えられている。
これはラバーコートされたかなり細めのケーブルで、マウスを充電する際には、マウス本体の背面先端にあるソケットにマグネットでスムーズに装着できる。取り回しも良いため、ケーブルをマウスに繋いだままのプレイも可能だ。なおケーブルを外した状態では、満充電状態から30時間の連続使用が可能となっている。
さらに面白いことに、この無線インターフェイスは交換用マウスソールの専用ケースにもなっている。付属するソールは、元々マウス本体に装着されているものを含めて4個3セットの計12個。それぞれ黒色、灰色、白色と色分けされていて、テフロン含有率の違いで分けられているので、お使いのマウスパッドに合わせて変更してみるのも良いだろう。
形状はかなり幅広で、明らかに「かぶせ持ち」向きである。浅めの「つまみ持ち」では、親指部分のサイドボタンに指が届かないという状況になるため、本製品を使うときはかなり深めにホールドするようにしたほうがいいだろう |
無線インターフェイスとマウス本体を「充電ケーブル」を通じて接続できる。この状態では電池残量を気にせずに普通にプレイすることが可能だ。また無線インターフェイスの蓋を外すと交換用のソールを取り出すことができる。マウスパッドに合わせて使いたい |
コントロールパネルでは各ボタンにマクロや特殊コマンドを割り当てることができる。ほか、250~4,000CPIの範囲で3つのCPI設定を調整することができる |
■ BlueTrackセンサーは期待通りのトラッキング性能を示す
BlueTrackの青い光。かなり強いので、あまり直視しないようにしよう |
さて、次に中身を見てみよう。「X8」に搭載されたセンサーは、BlueTrackテクノロジーが初めて搭載されたマウス「Explorer Mouse」に比べ、単純計算で1.6倍ほどの性能を持つセンサーになっている。公称スペックではスキャン速度は13,000fpsで、最大速度は12インチ(304cm)/秒とされ、単純な数字で比べるならば、赤外線センサーを持つ他のゲーミングマウスに匹敵するか、それ以上の速度性能を持つと言える。
BlueTrackテクノロジーのセンサーが持つひとつの大きな利点は、従来のレーザーや赤外線センサーに比べて「いかなる表面上でも使用できる」という万能性にあるが、そもそもゲーミングシーンではマウスの物理的な滑りやストッピングが重要であり、それなりのマウスパッドを用いてプレイすることが当然であるため、万能性に関しては本製品のメリットとは言えない。したがって、ゲーミングマウスとしての評価としては、このBlueTrackセンサーがゲーミング用途のマウスパッド上でどれほどの性能を発揮するのか?ということが最も重要だ。
そこでまずは、弊誌連載記事「PCゲーミングデバイス道場」で利用した測定方法を用いて、本製品のトラッキング性能を測定してみた。通常800DPIで計測するところ、「X8」は250~4,000DPIの範囲で250DPI刻みのDPI設定のみが可能となっているため、今回は750DPIで計測している。マウスパッドはRazerの「Goliathus Control Edition」を使用している。
「SideWinder X8」のトラッキング性能測定結果(左)と、参考までに「IKARI Optical」のトラッキング性能測定結果(右)。別々の時期に計測したものなので縦軸のスケールが違っているが、このグラフで伝えたいのは、計測結果がいずれも安定していることだ |
ご覧の通り、トラッキング性能に関しては、同じBlueTrackテクノロジーを搭載した「Explorer Mouse」によく似た安定性を示しつつ、スキャン速度の向上に比例して限界性能が向上していることが伺える。実際には使用した測定方法の物理的な限界のほうが先に来るという始末で、4メートル毎秒以上の速度については正確に計ることができていない。そのため本当の限界はもっと上にあるかもしれない。少なくとも筆者が計測したなかで最強の位置にあったSteelseriesの「IKARI Optical」に肩を並べるか、それを上回る性能があることは確かだ。
このような限界近くの速度域は、もはやゲーミングシーンでも現実的に発生し得ないほどの運動速度だ。実際に、かなりの低感度設定で高速にマウスを操作するプレーヤーでも、3メートル毎秒を越えるスピードでマウスを動かすことはほとんどない。そのため、これ以上の性能を求めることは、もはや無意味と言ってしまってもいいだろう。トラッキング性能だけに注目すれば、「X8」はそのような領域に到達しているのかもしれない。
■ やはり不安な無線インターフェイスの問題点
ケーブルを接続しても加わるのは充電だけであり、無線で通信することは変わりない |
残る問題は、本製品が無線インターフェイスを採用していることにある。一般的に、無線マウスは、有線マウスに比べて操作遅延が大きい。マウス本体で発生した操作の情報がPCに伝わるまでに、無線通信のプロトコルを経由する分、有線に比べて多くの手間が掛かるからだ。
当然、マイクロソフトではその問題を重視しており、「X8」の無線インターフェイスでは独自のプロトコルを実装して、遅延を大幅に削減したとされる。そこで実現したという遅延は平均30ミリ秒という数字となり、マイクロソフトではこの遅延を「プロゲーマーでも体感不能」と豪語する。
筆者が実際に使ってみた感触としても、確かに無線由来の遅延は体で感じることはできなかった。30ミリ秒というのはそれほどに小さい時間だ。しかし、別の見方もしてみよう。一般的な有線マウスの遅延は8ミリ秒程度と言われているが、それと比べると「X8」にはおよそ22ミリ秒の遅れが「確実に存在する」と言える。
これは、60フレームで動作する一般的なゲームで言うと、ちょうど2フレームほどに相当する時間だ。これをもって厳密に言えば、同等の反射神経を持つプレーヤー同士が出会い頭に撃ち合ったとすれば、「X8」を使うプレーヤーは確実に不利な立場に立つことになる。これをどう評価するかは、もはやプレーヤーのマインドの問題となるが、「X8」の無線にはもうひとつの懸念がある。レポートレートだ。
マウスのレポートレートを計測するツールで試した画面。左の線「X8」によるもので、右の線が有線ゲーミングマウスによるもの。「X8」の制御点に若干のムラが出ているのがわかる |
一般的なゲーミンググレードの有線マウスは、500Hz~1,000Hz程度のレポートレートを公称する製品が多く、実際に、500Hz~800Hz程度の頻度で有効なマウスの移動データをPCに送る能力を持っている。一方、本製品「X8」はレポートレートを公表していないが、筆者が複数のアプリケーションで実験した結果、250Hz~350Hz程度のレポートレートを持つというのが実際のようだ。
しかもそのデータをよく見ると、無線のプロトコルの特性からか、マウスを動かしている最中でも移動量ゼロのデータが含まれることがあって、有効なデータに限った実レポートレートは200Hzくらいになると見られる。つまり、非ゲーミンググレードのマウスより「ちょっと速い」くらいのレポートレートであり、この点が無線による悪影響のひとつだ。これを体感できるかというとできないのだが、遅延は確実に存在する。
さらに、本製品の最大解像度である4,000CPIでは、データ量が増えるためか、さらに実レポートレートは下がるようだ。そのため、4,000CPIで操作する軌道は、かなりカクカクになってしまう。データが送られるインターバルの増大により、平均遅延時間も若干増すことになるだろう。このため、本製品を最大性能で使うためには、500CPI~2,000CPIの範囲がベストだと考えられる。
■ センサー技術のライセンシングに期待
以上、本製品の特性を細かくご紹介してきた。やはり最大の注目点はBlueTrackセンサーにあったということで、そのトラッキング性能については申し分のない感触を得ることができた。もはやこれ以上のトラッキング性能は、実際の使用においては無意味なものとなる水準であり、「X8」はマウスセンサーの性能競争に終止符を打つ製品になり得たと評価できる。
それだけに、無線インターフェイスを採用したことによる、避け得がたい遅延の発生とレポートレートの低下は、非常に残念なところである。結論として、性能的なトータルバランスでは、他の有線ゲーミングマウスにつけいる隙を与えてしまった感がある。逆に言えば、「X8」の有線バージョンが登場すれば、それこそ性能的には最強のゲーミングマウスということが言えるだろう。
また本製品の形状については、すでに述べたように、「かぶせ持ち」向きで、「つまみ持ち」ユーザーには抵抗を感じるだろう。また、無線マウスがゆえの143グラムという重量は、ゲーミングマウスとしては非常にヘビーだ。高額商品ということもあり、まずは店頭で触って自らのゲーミングスタイルに合った製品かどうか十分吟味したいところだ。
しかしながら、形状ひとつとっても無数の好みが存在するゲーミングマウス市場で、「SideWinder」シリーズひとつに、“万人にとっての理想のマウス像”を追い求めること自体にそもそもの無理がある。可能ならば是非、他のメーカーにもBlueTrackセンサーを搭載した新型マウスに取り組んで欲しいところだ。そのためにはマイクロソフトがBlueTrackテクノロジーを他のデバイスメーカーにライセンスする必要があるが、もしそれが実現するならばゲーマーとして非常に楽しみだ。
http://www.microsoft.com/japan/hardware/mouse/swx8mouse.mspx
(2009年 3月 13日)