★DSゲームレビュー★

裁判員となり、真実の裁きをくだせ!
「有罪×無罪」


 2009年5月21日、裁判員制度が始まった。これまで刑事裁判は3人の裁判官で行なわれていたが、裁判員制度では、裁判官3人と裁判員6人の計9人で行なわれる(実際に裁判員が参加する裁判は7月以降になる見込み)。アメリカなどで採用されている陪審制度との大きな違いは、有罪無罪の判定と量刑の決定だ。有罪無罪の決定について、裁判員制度では裁判官と裁判員で、陪審制度では陪審員のみが行なう。量刑について、裁判員制度では裁判官と裁判員で、陪審制度では裁判官のみが行なう。また、参審制度とも異なる部分がある。このように裁判員制度は、陪審制度や参審制度とは異なる日本独自の制度であるといえよう。

 あなたの周りには既に通知を受け取った方がいるかもしれない。もし裁判員に選ばれたら、原則として辞退できない。もはや裁判員制度は他人事ではないのだ。

 裁判員制度の始まった5月21日、バンダイナムコゲームスより発売された「有罪×無罪」は、そんな裁判員制度を題材としたゲーム。エンターテインメントとして楽しみながら、裁判員制度や法律に関することが勉強できる作りになっている。



■ 裁判員となり、事件の真相を解き明かし、真実の裁きをくだすアドベンチャー

「鬼嫁放火殺人事件」や「泥酔社長危険運転致死事件」など、様々な事件が用意されている
人を裁くことへの重圧や責任を感じながらも裁判員として法廷に立つことになる。20歳以上の多くの人が裁判員に選ばれる可能性があるのだ

 プレイヤーは裁判員となり、「鬼嫁放火殺人事件」や「大学教授保険金殺人事件」といった4つの事件に関わっていく。1話終われば、次の1話が遊べる形だ。裁判員は一度選ばれると、一定期間選ばれないことから、各事件ごとに名前や性別を変更することもできる。

 検察官や弁護人の話には穴があり、証拠や証言を元に裁判員であるプレーヤーが真相を解き明かしていく。さらに被告人は弁護人に秘密にしていることがあったり、証人が逃げ出したりと、とんでもないことが裁判中に起きる。ドラマティックな展開を楽しめるだろう。そう、本作はシミュレーションではなく、裁判員推理ゲームである。ここを間違ってはいけない。あくまで裁判員が題材のゲームなのだ。

 1つの事件は3日間をかけて取り組む。1日目は公判で検察官と弁護人の話を聞き、評議で中間評決を行なう。2日目は公判で証人や被告人の話を聞き、評議で最終評決を行ない、有罪か無罪を決定した後、有罪であれば量刑を決める。3日目に被告人に判決を言い渡す。公判で得た証拠品や証言から、評議で真相を解き明かすという流れだ。

 本作では3日間の裁判終了後にどこまで真相を究明できたかの割合を表示してくれる。有罪か無罪か決めたものの、実際はどうだったんだろうか……? とモヤモヤする心配はない。真相究明度が100%に満たないと、真相への手がかりを見ることができる。さらに、必要な場面からのリスタートも可能だ。

 操作は十字ボタン+ボタン、タッチペンどちらでも全ての操作が可能。セーブもいつでもできるので、電車など移動中のプレイにも向いているといえる。

 アドベンチャータイプのゲームに必須の早送り機能もある。Aボタンを押し続けるか、タッチペンでタッチし続ければ、選択肢が表示されるところまで早送りしてくれる。ただし、早送りといっても文章が読めてしまう程度の速度のため、2度目以降のプレイで選択肢を変えて、異なる展開で遊びたい場合には少し不便であり、選択肢まで一気にスキップしてくれる機能が欲しかったところだ。



■ 3日間に渡るゲームの流れ

 先ほど紹介したように、1日目に公判で検察官と弁護人の話を聞き、評議で中間評決を行ない、2日目に公判で証人や被告人の話を聞き、評議で最終評決を行ない、有罪か無罪を決定した後、有罪であれば量刑を決め、3日目に被告人に判決を言い渡す、というのが大まかな流れになっている。

おおまかなゲームの流れ
1日目2日目3日目
公判→評議→中間評決公判→評議→最終評決→(有罪の場合)量刑の決定公判(判決)

 冒頭では「午後はズバッと! まるっきりスクランブル」という番組により、事件について偏った紹介がされる、ストーリーへの引き込み方がキャッチーなものになっている。裁判が終わっておらず、真相も解き明かされていないので、番組内容を鵜呑みにしてはいけない。ただ、各話の始まり方は同じではない。

 続けて、評議室に裁判官3人と裁判員6人が集い、事件の概要や裁判への注意点などの説明がされる。第1話では裁判官が操作方法の説明までしてくれる。重要なキーワードは赤文字で表示されるので注意して読んでおこう。

 そして、本番となる公判が始まる。ここからは、第1話を例として、公判・評議・判決と分けて紹介していきたい。


「午後はズバッと! まるっきりスクランブル」は被告人が有罪の前提で報道をする個性的な裁判員達。彼らと一緒に裁判に参加し、評議を行っていく推定無罪。犯罪の証明がなければ判決で無罪を言渡さなければならない

■ 証拠や証言といった情報を集める公判1日目と2日目

 公判1日目には、被告人が人違いでないことの確認を行なう「人定質問」、検察官が審理の対象とする公訴事実を示す「起訴状朗読」、被告人に黙秘権があることを告げる「黙秘権の告知」、被告人が公訴事実に対する意見を述べる「罪状認否」、検察官が証拠により証明する事実を述べる「検察側 冒頭陳述」、弁護人が証拠により証明する事実を述べる「弁護側 冒頭陳述」、裁判所に提出する証拠を列挙する「証拠調べ請求」があり、審理1日目の公判が終わる。

 難しい印象を受けるかもしれないが、公判はあくまで証拠などの情報を手に入れるためのフェーズと思ってもらえればいいだろう。どんな事件なのか、どんな証拠があるか、検察側の主張、弁護側の主張を聞くだけだ。正直、この段階では検察側、弁護側どちらが正しいのか情報不足で判断できるものでもないので、あくまで評議での判断材料として頭に入れるだけで十分だ。また、途中に選択肢が出ることもあるが、どれを選んでも事件の究明にはあまり関係のないものなので気楽に選んでも大丈夫だ。

 得られた証拠は、いつでも見直せるので詳細を忘れてしまっても問題ない。

第1話で放火の容疑をかけられている被告人。真相はいかにシーンによってはテキストに加えて映像が挿入されるので理解しやすい証拠品は自動でファイルされていく。必要なときにいつでも確認できる
検察側は「失火に見せかけた放火」を主張し、弁護側は「放火ではなく失火」を主張。2日間で得られた証拠品や証言を元に判断することになる証拠取調べ請求では、検察側、弁護側の両者から証拠請求される

 公判2日目には、証人に体験した事実を証言させる「証人尋問」、被告人が体験した事実を任意に供述する「被告人質問」、検察官が罪状と量刑について意見を述べる「論告求刑」、弁護人が事件について最終的な意見を述べる「弁論」、被告人が事件について最終的な意見を述べる「被告人最終陳述」がある。証人尋問では、証人尋問を請求した側が行う尋問「主尋問」、主尋問の後に相手側が行う尋問「反対尋問」、裁判官・裁判員が行なう尋問「補充尋問」がある。場合によっては、同じ証人に対して、再主尋問として反対尋問の後に再び主尋問が行なわれることもある。

 公判2日目は公判1日目と違い、裁判官や裁判員が直接証人や被告人に話を聞ける。そのためゲームシステムとしても違いがある。1つ目がメモの存在。証人や被告人の特定の話から補充尋問で聞きたい内容をメモしておける。メモできる内容は3択で表示され、どれか1つを選ぶことになる。事件の真相につながりそうなものを選んでいこう。2つ目が補充尋問。メモしておいた内容を直接聞くことができるのだ。聞いた内容によっては、新たな証言を引き出すことがある。とんでもない証言が得られることもあり、真相究明には必須の重要なフィーチャーだ。

証人には近所のおばさんや被告人の夫などが出てくる。証人は自分が見たり聞いたりして記憶していることを話す。嘘の証言をすると偽証罪で罰せられることがあるものの、意図せず証言が事実と違う可能性もあるので注意しながら話を聞こう公判中に休廷することがある。休廷中は評議室で裁判や法律などの話が聞ける
補充尋問で聞きたい内容をメモして、証人や被告人に聞くことができる。質問内容によっては新たな証言が得られることも。質問したいのに他の裁判員の質問が優先されることもあるが、2人くらい待てば自分の番が回ってくるので辛抱強く待とう他の裁判員が質問した内容が自分がメモした内容と同じであれば、メモをチェック済みにしてくれる

■ 中間評決を行なう1日目の評議と最終評決を行なう2日目の評議

 1日目と2日目の公判終了後は評議室へとシーンが変わる。最初に事実関係を整理して、どのような事件かの概要や裁判で何が争われているかなどを確認する。

 その後、事件の内容をいくつかのファクターに分けて評議していく。1つのファクターに対する評議には10分かかり、同じファクターであっても制限時間まで何度でも評議が可能。制限時間があるものの、かなり余裕があるので、納得いくまで評議を繰り返せる。

 それぞれのファクターごとに、検察側の証明が十分(有罪)か、証明が足りてない(無罪)、どちらとも判断できないか、を評議していく。

まずは事実関係の整理。ここで改めて事件について整理しておこう評議するファクターを選び、それぞれのファクターに対して、有罪・無罪・どちらとも判断できないかを決めていく。1評議にかかる時間はゲーム内の時間で10分。制限時間までに全てのファクターに対して評議する必要がある

 それぞれのファクターの評議が始まると、誰かのコメントに対して、「黙っている」、「賛成」、「反対」、「質問」の4つの選択肢が出ることがある。これは評議の展開を左右する重要な選択肢の可能性が高い。話をどうもっていけばよいかわからない内容であれば「質問」を選んでおくと良い展開になりやすいようだ。展開がいまいちでも再度同じファクターを評議する際の参考になるだろう。また、評議の展開によっては、流れにあった証拠品や証言を選んだり、証拠品の気になる部分を選ぶなどといった場面も出てくる。証拠品や証言の選択に失敗したとしても、特にペナルティなく何度でも選択できるので心配はいらない。真相究明のためによく考えて対応していこう。

この選択肢が出たら、よく考えて選択したい。評議の展開に関わることが多い証拠確認のため、評議内容に沿った証拠品や証言を選択したり、選択した証拠品や証言に対してどう判断するかの選択をすることも

 真相究明をするにはコツがある。まず、なるべく多くの評議参加者を納得させることだ。特に2日目の評議では全員が納得しなければ真相は究明できていないと思って間違いない。「……」などと表示される裁判員がいる場合は、まず疑ってみるべきだろうが、偏った見方をしていた裁判員が、自らの判断の過ちに気づいて黙ってしまっている場合も沈黙することがあるので気をつけたい。再度評議を行ない、納得させられるまで選択肢を選び直すといいだろう。

 衝撃的な真相を究明できると特殊な演出が入る。これも真相究明には必須。すでに評議をしたファクターがあっても、他のファクターの結果によって、新たな展開が起きることもある。特殊な演出が出たら、関係しそうなファクターを再度評議してみるといいだろう。また、評議結果によって新たなファクターが生まれることもある。

話の流れをうまく運び、衝撃的な真相を究明できると……裁判員が衝撃を受ける演出が入る。これは真相究明には必須。この演出があまり出ていなければ真相が究明しきれていないと考えて間違いないだろう

 もちろん、真相究明を無視して評議を自分の思うように進めることもできる。裁判官や裁判員の多くはプレーヤーの選択に大きく影響される。自分の考えた結果にしたければ、そのように話をもっていけばいい。全員を納得させることはできなくても半数以上を誘導できるだろう。

 1日目の評議では情報が足りず、全てをファクターに対して真相を明らかにすることは不可能だ。まずは現段階でわかることだけ明らかにしていこう。だからといって、1日目の評議をきちんとやっておかないと、最終的な真相究明度を100%にできなくなってしまうので、きっちり評議する必要がある。

 1日目の評議で全てのファクターに対しての評議が終わると中間評決が取れるようになり、有罪、無罪、保留を決定する。ここでの結果は参考程度のものであり、最終評決の結果には関係ない。ただし、有罪と無罪の票がハッキリと分かれているなら、評議が不十分といえるだろう。

いくら中間評決とはいえ、票が割れすぎている。このような結果になるのは評議が不十分だからといえるだろう

 2日目の評議、これが最も重要な場面だ。ここで全ての真相を解き明かせななければ真相究明度は100%にならない。裁判官、裁判員全員を納得させる評議をする必要がある。納得できない人が1人でもいたら、それは真相が解き明かせていないといえる。再度評議をしたり、他のファクターを評議してから、改めてそのファクターを評議するといいだろう。

 2日目の評議で全てのファクターに対しての評議が終わると最終評決結果が取れる。これで全てが決まってしまうのだ。真相を究明できていれば、全員が同じ票を入れるはずだ。

最終評議の結果、有罪5票、無罪4票となった。裁判員法では、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む、員数の過半数が必要であると定められている。今回は有罪の内の1票を裁判官が入れているので有罪と決まった

 最終評決の結果が有罪であれば量刑の決定を行なう。量刑の決定について裁判官から参考となる情報を聞くことができる。情状などを踏まえて量刑を決定しよう。懲役3年以下の場合のみ執行猶予をつけられる。自分が決めた量刑が採用されたかは3日目の判決で知ることができる。

有罪が確定したら量刑を決める。今回のケースだと検察官からの求刑は無期懲役。裁判官から参考となる情報を聞けるものの、被告人の人生を左右してしまう内容なだけにどうするか悩ましいところだ

■ 3日目の公判で行なわれる判決と真実への道

 3日目の公判では被告人に判決を言い渡す「判決」が行われる。有罪の場合は量刑も言い渡される。判決後、真相が究明できていない場合は、明らかに真相が究明できていないとわかるような演出になっている。

有罪判決で懲役20年に。真相が究明できていないこともあり、裁判長からの結論に至った理由は「被告人が被害者宅に火を放ったことを示す直接的な証拠は、何1つ存在していないが、被告人から被害者への悪感情から、殺意が芽生え、放火に及んだと考えることが最も合理的である」と、すっきりしないものに。結果を出した主人公も本当に被告人が有罪だったのか深い後悔の念に苛まれてしまう

 最後に真相究明度が表示される。100%にしたいものだが、残念なことに満たないときもあるだろう。そうなると事件は未完として扱われ、真相への手がかりを見ることができる。また、ここからのみ裁判を途中からやり直すことが可能だ。本作では1度クリアした話であっても、改めてプレイする際に裁判の途中から始めることができない。全話の真相究明度100%を目指すなら、未完のまま次の裁判を始めてしまうより、ここで真相の手がかりを元に裁判を途中からやり直すほうが遥かに効率がいい。

 重要なポイントごとにセーブしておけばいいのでは? というのは最もな意見だと思うが、セーブデータは1つしか持つことができないのだ。

真相究明を怠ったプレイをしてしまうとこのように酷い結果になってしまう真相究明度が100%未満だと未完となるが、真相への手がかりとしてヒントを見ることができるさらに再挑戦のめやすとして、どこからやり直せばよいかまで教えてくれる親切設計がありがたい


■ 最後に

 シミュレーションではなく裁判員推理ゲームというだけあって、話の展開を楽しめる作りになっている。実際の裁判では、検察官や弁護人もわからなかった真相を次々に明かしていくことはそうそうないだろうが(あったらあったで困ったことだが)、並べられた結果に対してただ有罪か無罪かを決めるのではなく、真相究明をしていくことができるため、のめり込んでプレイできた。

 裁判員制度とはどんなものなのか、文字だけでなく、絵や音などゲームを通じて楽しみながら勉強できるし、直接裁判員制度には関係のない情報についても学べるようになっている。裁判員制度に興味がある方や推理タイプのアドベンチャーゲームが好きな方にオススメしたい。


(C)2009 NBGI

(2009年 5月 30日)

[Reported by 木原卓 ]