2016年11月22日 12:30
日本ファルコムが2015年9月、PlayStation Vita向けにリリースした都市型神話アクションRPG「東亰ザナドゥ」。往年の名作「ザナドゥ」の名を冠しつつ、30年を超える同社の歴史の中で初の現代劇という新機軸を打ち立てた作品が、1年後の2016年9月に追加要素を含むPS4版「東亰ザナドゥ eX+(エクスプラス)」として改めてリリースされた。
「東亰ザナドゥ eX+」では、PS4ならではのフルHD&60fps化に加え、新規シナリオ、新規プレイアブルキャラクターも追加。戦闘時のアクションも追加されたほか、キャラクターカスタマイズの要となるシステムでは要素の追加や調整も施されるなど、ぱっと見で目立たない部分も強化され、アクションゲームとしてのやり応えも向上した印象だ。
そこで本稿では、本作の魅力を改めて紹介しつつ、“eX+”でさらにどのように進化したのかにも触れていきたい。
ファルコム初の現代劇。実在都市をモチーフにした舞台は「eX+」でさらに没入感がアップ
「東亰ザナドゥ eX+」の舞台は現代日本、“東亰”郊外の多摩地域にある架空の都市“杜宮市”。主人公の高校生“時坂 洸(コウ)”は4月のある日、現実世界が“異界”に浸食される“異界化(イクリプス)”現象に遭遇。異界に関する事件を調査している帰国子女のクラスメイト“柊 明日香(アスカ)”との関わりや、異界を徘徊する謎の敵“怪異(グリード)”に対抗できる武器“ソウルデヴァイス”を顕現できる“適格者”としての覚醒を経て、学生生活を続けつつ異界化から街を守る戦いへと身を投じていく。
ゲーム進行はアニメのように話数で区切られ、コウや徐々に集ってくる仲間達が、次々と起こる異界化事件の真相に迫っていく。スマートフォンのような情報端末“サイフォン”が重要なガジェットとして登場し、サイフォン用アプリやアイドルなど、今風なテーマが描かれるのも同社作品としては新鮮だ。物語が進む中で異界へ突入する場面になると、ステージクリア型のアクションが展開するというのがゲームの流れとなる。
杜宮市は日本ファルコムが存在する東京都立川市がモチーフとなっており、駅前広場の特徴的なアーチ状モニュメントが作中でも再現されているほか、立川市を中心に展開する書店チェーン“オリオン書房”が実名で登場するなど、“準ご当地ゲー”としての側面も持つ。さまざまなサブイベントも用意され、架空の街での生活を存分に楽しむことができる。
「eX+」では、マップ移動時のロード時間が、その存在をほぼ感じないレベルまで激減。プレイが快適になったのはもちろんのこと、例えば店に入る際などに“現実へ引き戻される間”がなくなったことで、高解像度・高fpsの恩恵も合わさりゲーム世界への没入感が高まった印象だ。
加えて、追加シナリオとなるアフターストーリーでは、杜宮市に新マップとして遊歩道“さんさんロード”が追加。立川市の“サンサンロード”がモデルと思われる本マップは元ネタの雰囲気再現度がかなり高く、昨今“極上爆音上映”で名を馳せている映画館“シネマシティ”が実名で登場する。作品世界の広がりを感じる、杜宮市や立川市のファンには特に嬉しい追加要素だ。
また、物語を堪能するという側面においては、「eX+」でメッセージログ機能が追加されたのも特筆したい点だ。ボイス再生も可能となっており、シナリオを振り返ったり、熱い台詞をリプレイすることが可能。従来から搭載されているオートモードやイベントの早送り(「eX+」では手放しで高速スキップも可能となった)と合わせて、ノベルゲーム並みのシナリオ鑑賞環境が整っている。「シナリオの要素が濃い、現代のいわゆる“JRPG”ではメッセージログは必須」と常々考えている筆者としては、機能追加を高く評価すると共に、今後のファルコムRPGでもスタンダードになることを期待したい。
多彩な攻撃を駆使して爽快バトル! 高評価を目指すのも楽しいステージクリア型アクション
異界へ突入する際は、最大3人を前線メンバーとしてパーティを組み、キャラクターを任意に切り替えながら操作する仕組み。キャラクターによって特性の異なる通常攻撃や射撃・飛翔・剛撃という3種類のスキル、必殺技“X(クロス)ストライク”のほか、一定時間キャラクターが強化される“X(クロス)ドライブ”、回避アクションなどを駆使して戦っていく。各キャラクターのソウルデヴァイスと敵には属性が設定されており、属性相性で攻撃の威力が変わるのもポイントだ。
ステージのクリア時は、クリアタイムや受けたダメージ、各種ボーナスの達成状況などから算出されるスコアでクリアランクが決まる仕組みで、クリア済みのステージを繰り返しプレイしてスコアを更新することも可能。ボーナスの内容には攻撃を一定時間途切れさせずに当て続けることで蓄積されていくコンボ数に応じたものや、ステージ中に配置され、壊すとHP回復などの“オーブ”が出現する“ブレイクオブジェクト”の破壊率に応じたものがある。
難易度設定(5段階から選択可能)にもよるが、敵を倒して先へ進んでいくだけなら、アクションがそれほど得意ではない、という人でもサクサク爽快感のあるプレイを楽しめるバランスに仕上がっている。それでいて、高ランクを狙うと競技性が高まり、より緊張感のあるプレイを楽しめるという作りだ。さらに歯応えが欲しい場合は難易度設定を上げるのもよいだろう。
「eX+」では、“EXポイント”を消費して発動する“EXスキル”が追加。重い一撃を繰り出す技や突進技、乱舞技、範囲攻撃などキャラクターによって特性が大きく異なる特殊なスキルで、見た目にもド派手で爽快感があり、キャラクターを使い分ける楽しみがさらに増している。発動中は敵の攻撃を完全に無効化できるため、乱戦や強敵との戦いでも有効だ。
また、難易度が“アドバンスド(ノーマルの1つ上)”以上では、アイテム使用後にクールタイムが発生し連続使用が制限されるようになったのも「eX+」での変更点。ボス戦などで回復アイテムによるゴリ押しができなくなり、より緊張感のあるプレイが楽しめるようになった。前述の通りデフォルトの難易度は比較的易しめなので、アクションの腕に覚えがあるなら、初回プレイでもアドバンスド以上をお勧めしたい。
さらに、「eX+」の追加シナリオであるサイドストーリーやアフターストーリーでは新たな異界も登場。特にVita版で描かれたエンディングの後の物語となるアフターストーリーでは、敵の強さも、トラップを回避しつつ足場を飛び移るといったステージギミックもこれまでにないレベルに達しており、PC時代のファルコム作品を思い起こさせる、程よい遠慮のなさを感じてやり応えは抜群だった。
とはいえ、いざという時はゲームの途中でも難易度を下げることが可能で、最低難易度である“ビギナー”では一部のステージギミックに足場も追加されるので、アクションはちょっと苦手という方でも安心してプレイしてほしい。
“エレメント”による自由度の高いキャラクターカスタマイズ。「eX+」ではユニークな効果の新エレメントも追加
コウ達が使うソウルデヴァイスは、サイフォンにさまざまな“エレメント”をセットすることで能力をカスタマイズできる。エレメントは攻撃力や防御力など各種パラメーターを上げるものや攻撃で敵に状態異常を付与するものの他に、移動速度の上昇、与えたダメージに応じてHP回復など特殊なものも用意されている。クリティカル率が上がるエレメントとクリティカル時のダメージが上昇するエレメントなど、エレメント同士のシナジー効果を考えるのも面白い。
「eX+」では、一部エレメントの効果がバランス調整されたほか、エレメントの種類も増加。空中で繰り出す通常攻撃の威力アップ、敵の攻撃をギリギリで回避した際に得られるボーナス効果の上昇、ブレイクオブジェクト破壊時に得られるオーブの量が上昇などユニークなものも多く、プレイスタイルに応じた活用やキャラクターの役割分担などを考えるのがさらに楽しいシステムに仕上がっている。
伝統を受け継ぎつつ、新たな魅力も感じさせる作品。続編展開にも期待
ここ数年にわたり、「イース」および「軌跡シリーズ」という、看板的な2つのシリーズのタイトルを集中してリリースしてきた日本ファルコム。「東亰ザナドゥ」はそんな中で完全新作としてリリースされたタイトルだ。
物語を進めるアドベンチャーパートのゲームデザインやキャラクターカスタマイズのシステムは「軌跡」シリーズを踏襲しており、プレイ評価の仕組みが程よい緊張感をもたらすステージクリア型のアクションや、操作キャラクター切り替え型のパーティバトルからは過去の名作の数々が思い起こされる。そうした同社の伝統を受け継ぎつつ、同社としては新機軸となる現代劇として纏め上げた作品と言えるだろう。
そのリニューアル版となる「東亰ザナドゥ eX+」では、難易度設定にVita版の最高難易度を超えるものが追加されたほか、前述の通り一定以上の難易度でアイテム使用にクールタイムが実装されるなど、デフォルト難易度における間口の広さはそのままに、アクションゲームとしてのやり応えもさらに向上。同社初のPS4作品ということで、魅力的なキャラクター達によるバラエティに富んだアクションや派手なエフェクトを、ぬるぬる動く60fpsとフルHDで堪能できるのも大きな見どころだ。
現代日本で学園生活+異能バトルという題材自体はむしろ定番ネタと言えるもので、本作のシナリオもライトノベルやマンガ、アニメ的な「今時っぽさ」を取り込んだものとなっている。とはいえ、サブキャラクターも含めた登場人物達が人情味にあふれていたり、ゲーム進行に応じて細かく変化する街の人々との会話から、老若男女それぞれの素朴な物語を感じさせる構成など、舞台を今風にしても滲み出てくる“ファルコムらしさ”は健在。刺激的でありつつ安定感もあるシナリオに仕上がっている印象だ。
なお、これから新たにプレイする方には関係ないことだが、Vita版をプレイ済みの方は、Vita版からのクリアデータ引き継ぎ等は一切ないことにだけ注意してほしい。ステージが追加されゲームバランスも変わっているため、レベルや装備等を引き継げないのは納得だが、コウが自由に街を散策できるパートで一部のキャラクター交流イベントを見るのに必要な“縁のカケラ”の増加など、2周目以降で解放される一部要素はVita版のクリアフラグで解放できてほしかったところだ。とはいえ、筆者自身は「eX+」で難易度を上げて2周目、Vita版も含めれば3周目をプレイしたい! と感じるほど満足度の高い作品であったことも付記しておきたい。
さておき今後の展開も気になる本作だが、「eX+」の追加シナリオでは(ネタバレになるため詳細は伏せるが)続編展開への期待を抱かせるような場面も。筆者としては、フィールド探索型アクションの「イース」、コマンドRPGの「軌跡」シリーズに加え、現代アドベンチャー+ステージクリア型アクションという3番目の軸として同社の看板タイトルたりえるポテンシャルを感じている。ステージクリア型アクションゲームならではの方向性として、よりギミックに富んだステージを、特殊なアクションを駆使して打開していくような作品も期待したいところだ。
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