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Logitechダニエル・ボレロ・イノベーションセンターレポート(その1)
0.1g単位ですべてのパーツを再検証! Gシリーズ史上最強マウスの開発拠点に迫る
(2016/3/24 16:01)
Logitechはプロ仕様のワイヤレスゲーミングマウス「G900」の正式発表に先駆け、スイスローザンヌにある本社施設ダニエル・ボレロ・イノベーションセンターにおいてプレスツアーを実施した。プレスツアーでは2日間に渡って「G900」を生み出した研究施設を開放し、施設の紹介にはじまり、施設での各種実験の披露、「G900」のハンズオン、開発者インタビューに到るまで、「G900」尽くしの2日間を体験することができた。本稿では「G900」の発表と、「G900」の施設紹介が行なわれた初日の模様をお伝えしたい。
Logitechの心臓部ダニエル・ボレロ・イノベーションセンター
今回訪れたダニエル・ボレロ・イノベーションセンター(BIC)は、スイス発祥であることを誇りとするLogitechの物理的、精神的な心臓部となる。位置的にはスイス工科大学ローザンヌ校(EPFL)の一角に位置し、同社のようなテクノロジーカンパニーが数多く入居するEPFL Innovation Parkの最初の入居企業として大きな存在感を放っている。かつてこの近くには創業者のひとりであるダニエル・ボレロ氏がLogitechを立ち上げた際に拠点とした木造家屋があり、言わば生誕の地でもある。
このダニエル・ボレロ・イノベーションセンターは、グループ本社であると同時に、Logitech EuropeのHQも兼ね、そして同社の主力プロダクトであるマウスやキーボードの研究開発を手がける。オフィスの規模的には、“主戦場”である米国サンフランシスコにある米国法人よりも小さいものの、同社にとって創業から現在に到るまで精神的中枢となる施設だ。
この施設紹介を兼ねたウェルカムスピーチを担当したのは、Logitech CEOのBracken P Darrell氏。今回のプレスツアーのために、他の米国スタッフと共にスイス本社を訪れ、ここがLogitechにとっていかに特別な空間であるかを語った。
ちなみに今回の「G900」がこの地で発表されるのは、ここが「G900」の開発拠点であると同時にもう1つの大きな意味があった。Logitechのベストセラー商品であり、「G900」のキーテクノロジーであるマウス向けのワイヤレス技術がここで生み出されているのだ。
Logitech最初の“コードレスマウス”は1984年に誕生し、1991年には27MHz帯を利用したワイヤレスマウス、1998年にはキーボードとマウスをセットにしたコンボモデルなど、次々にワイヤレスマウスのヒット商品を生み出していく。その系譜に連なる最新、最高のプロダクトが今回発表された「G900」というわけだ。
既存の有線ゲーミングマウスを凌ぐ性能を備えたワイヤレスゲーミングマウス「G900」
「G900」の紹介は、Gシリーズの顔として知られる、Logitech G ヴァイスプレジデント ゼネラルマネージャーのUjesh Desai氏と、Logitech G ポートフォリオマネージャーのChris Pate氏によって行なわれた。
Desai氏は、ここスイスで発表会を行なう理由について、「スイス観光協会の全面協力を得てチーズフォンデュを食べるため」とジョークを飛ばしながら、「G900」を初披露した。
Desai氏によれば、現在のプロゲーミングシーンのほとんどは有線ゲーミングマウスが使われているが、だからといってプロゲーマーは有線マウスがベストな選択肢だとは思っておらず、やむを得ずケーブルの干渉を最小限にするためにマウスバンジーを付けてプレイしていると説明。それでは構造的にワイヤレスマウスがベストであることはわかっているにも関わらず、プロゲーマーがワイヤレスマウスを使わない理由は何だろうか?
これについてDesai氏は、バッテリー駆動、重さ、ラグの3点を挙げた。バッテリー駆動は、駆動時間そのものは問題ではなく、バッテリー内蔵による重量への影響やゲーミンググレードの高性能センサーとの相性の悪さを指摘。重さは単純にバッテリー分の重量が加算されてしまうことを意味し、現行最新モデルの「G303」が小型軽量であることを踏まえても、今のプロゲーミングシーンには軽さが求められている。3点目のラグについてはDesai氏は、「彼らがワイヤレスを使わない一番の理由」と言い切り、これら3点の課題を克服したゲーミングマウスが「G900」とした。
「G900」のライバルは、現行の“プロゲーマーが誰も使っていないワイヤレスゲーミングマウス”たちではなく、自社の「G502」や「G303」をはじめ、ライバルRazerやSteelSeriesの有線ゲーミングマウスたちで、無線による物理的な遅延を加味しても、それらの有線ゲーミングマウスを凌ぐ応答性能を実現したという。ちなみに、これは2日目の実証実験で真実であることを証明した。
Desai氏の後に登壇したPete氏は、本体デザインをはじめとした製品概要を紹介。「G900」の特徴について、ノーレーテンシー、ベストセンサー、ライトウェイトの3点を挙げ、Logitech Gシリーズの集大成と言えるゲーミングマウスに仕上がっているとした。
「G900」の応答速度は、現行のあらゆる有線ゲーミングマウスを凌ぎ、トラッキングセンサーは「G502」や「G303」と同じ、現在もっとも多くのプロゲーマーが利用しているPMW3366を採用。本体重量については、マウスを構成するパーツを一から見直してさらなる軽量化を図り、重さの主因となるバッテリーについては、プラスチックでコーティングした交換型のバッテリーの採用を辞め、わずか10gの750mAのスマートフォン向けバッテリーに変えている。
バッテリー駆動時間は、RGBイルミネーション点灯時で24時間。これは連続駆動時の数字で、実際にはマウスから手を離して数分経つと省電力モードに切り替わるため、「数日の大会なら充電無しで持つ」、「ビジネス用途なら2週間に1度の充電で済む」という。
そして製品担当としてこだわったのがケーブル周りの仕様だという。「G900」に同梱されるUSBケーブルは、有線マウスとして使う場合のケーブルというだけでなく、ワイヤレスレシーバーの接続先としても機能する点が大きな特徴となっている。
PCとマウスを繋ぐためのパーツは、USBケーブル、ワイヤレスレシーバー、その両者を繋ぐためのコネクタの3点で構成されている。USBケーブルはオーソドックスなTypeAのUSB端子だが、接続部がクワガタの大アゴのような形状をしており、大アゴを、G900の前部にある穴に滑り込ませることで、カチッとはめ込むことができる。TypeAのUSB端子は上下があり、接続しづらいのが弱点だが、この仕様ならゲーム中でもサクッと接続できるため、万が一のバッテリー切れ、暗いシーンでの接続でも問題なさそうだ。
“SCIENCE WIN”を実証する徹底的な検証と改良によって誕生した「G900」
「G900」の概要説明の後は、いくつかのグループに分かれ、BICの地下にある研究施設を視察し、担当者から説明を受けることができた。エレベーターもしくは階段で地下に降りると、そこはPCとモニターが置かれたゲーミングルームとなっており、PCに接続されたG900を、β版のドライバで実際に体験することができた。このインプレッションについては後ほどお伝えすることにして、各研究室での取材模様をお届けしていきたい。
ここでLogitechの中核的なプロダクトであるマウスとキーボードが生み出されており、今回は研究施設の一部を取材することができた。今回訪れることができたのは、マウスの応答速度、トラッキングセンサーの精度、無線の影響、本体デザインや内部構造を手がける研究室などを見ることができた。
マウスの心臓部であるトラッキングセンサーの性能を検証する部屋では、いわば“トラッキングセンサーのプロトタイプ”と言える大きな基盤にセンサーを取り付けたものから、歴代のプロトタイプ、コンペティター製品まであらゆるマウスが置かれ、マウスの基本的なセンサー性能から、応答速度、接地面の素材による性能の変化まで、様々な装置で徹底的に調べられている。
もちろん、マウスは手で動かすわけではなく、機械に据え付けた状態で、マウス側を動かしたり、地面側を動かしたりする。プロゲーマーから求められる高速操作への対応を実現するために、車のワイパーのような動きをする装置にマウスを据え付け、その端っこからバネを使って勢いよく左右に跳ね動かす実験を行なっている。こうした実験の成果によって、最大加速40G、最大速度300ipsといったとてつもないスペックを実現しているわけだ。
また、無線性能をチェックする部屋もおもしろかった。この部屋ではマウスデザインが無線に与える影響を調べ、デザインチームにフィードバックを戻し、ワイヤレスゲーミングマウスにとって最適なマウスデザインを追求している。
具体的には、この部屋には他の電波の影響を完全にシャットアウトするAnechoic Chamber(無反響室)があり、一定の距離からマウスの電波のみを飛ばして、あらゆる角度からその送受信性能を確認したり、妨害電波を飛ばしてその耐性をチェックしたり、様々な無線テストを行なっている。
担当者からは簡単な施設の紹介の後、「G900」の無線出力性能の高さ、いわゆるdBmで表される信号強度を図で見せてくれた。マウスにおける無線出力の理想的な状態は、二次元なら真円、三次元ならなら綺麗な球体を描く。この状態はどの方向に対しても均等に信号を送っていることを意味する。しかし、マウスに内蔵されたアンテナの周辺には、バッテリーやトラッキングセンサー、金属パーツなど、電波を妨害するパーツがひしめいており、何も考えずにパーツを詰め込んでしまうと、十分な信号強度を維持することができない。
この点、「G900」は、アンテナの信号強度を維持するために内部構造の最適化を行なった結果、標準とされる0dBmからプラスとなっており、アンテナの信号強度が弱まるどころかむしろ強化され、より届きやすくなっているという驚きの結果が出ていた。信号強度の波形は、0dBmからはみ出す形で前方に大きく押し出しており、理想を上回る信号強度ということになる。
これに対して、比較対象としてテストされたG700やG602などの旧世代のワイヤレスゲーミングマウスでは、側面や後面に不自然なへこみがあり、左右非対象のデザインやバッテリーなどが信号強度に悪影響を及ぼしていることを説明してくれた。
そして初日の研究施設取材でもっとも驚かされたのは、本体設計を行なう研究室だ。中央のテーブルには、外装やクリック機構、トラッキングセンサー、ネジの1本1本に至るまで、G900を構成するすべてのパーツが解体され綺麗に並べられていた。その周囲には歴代のプロトタイプや、現行のワイヤレスゲーミングマウスg700sと内部構造を比較できる立体の展開モデルが置かれ、それらを直接手に取りながら設計者の説明を受けることができた。
とりわけ衝撃的だったのは、0.1g単位でパーツを計測し直し、どのパーツがさらに軽量化できるかを再検討し、その上で改めてパーツを設計していたところだ。彼らの哲学は“軽さこそ正義”であり、本体重量を軽くすることでゲーマーの疲労は軽減され、より高速な動作が可能となり、そしてより正確な操作も可能となる、だから0.01gでも軽くなければならないというわけだ。
これはLogitech Gシリーズのファンなら驚くだろう。なぜならこれは、同社のベストセラーのゲーミングマウス「G502」と真逆の方針だからだ。「G502」はハイエンドの有線ゲーミングマウスとして、標準重量で168g(G900はゲーミングマウス史上最軽量の107g)もあり、オプションパーツのウェイトで3.6g単位で重量を調節し、お好みの“重さ”で使うポリシーを採用していたからだ。つまり、「G502」では、“重さの最適化こそ正義”だったわけである。
このモデル毎、世代毎のポリシー転換は、Logitechの大きな特徴のひとつであり、過去にこだわらず、常にユーザーファースト、テクノロジーファーストを追い求める姿勢は、いまやGシリーズの最大の強みと言っても過言ではない。
本体重量について話を戻そう。「G900」では、ただ単に軽さを追求すればいいというわけではなく、トラッキングセンサーにはPMW3366、クリック機構は耐用回数2,000万回という高性能なスイッチを採用し、なおかつテーブルの高さから落としても壊れない耐久性も必要になる。プレゼンでは各種プロトタイプを使った落下テストや加重テストの模様を映像で見せてくれたが、マウスがゆがんだり欠けたりなど様々な試行錯誤の歴史を垣間見る事ができた。ちなみに2,000万回というのはlogitechがマウスの耐用度合いを示す数字として持ち出すスペックだが、実際に3カ月掛けて検証していることも紹介された。
そして軽量化の好例として紹介してくれたのがマウスホイールだ。クリック機構と共に使用頻度の高いパーツだけに激しい使用にも耐えるように金属パーツが使われているが、「G900」では、ホイールの内側を“肉抜き”してまで軽量化を実現している。テーブルには比較対象として「G502」と「G700」のマウスホイールが置かれていたが、これらが金属特有のズシリとした重みを感じるのに対して、「G900」はプラスチックのように軽い。実際には金属が使われており、十分な強度を備えているという。まるでミニ四駆のような話だ。
「G900」の内部構造は極めて特殊で、まるでスイスが誇る精密時計のような複雑な構造をしている。ソールをつけた底面部に、センサーやICチップ、バッテリーなどを載せ、左右クリック機能を備えた丸みを帯びた外装を上から被せれば完成と言うようなシンプルなものではなく、「G900」はそもそも外装が一体化しておらず、クリック機構が外装から独立している。
ちなみにこの独立したクリック機構を、同社ではピボットキーシステムと呼んでおり、ここにも独自のテクノロジーが詰め込まれている。一言で言うと、少ない力、少ない遊びで明確なクリック感が得られ、連続使用でもそれが続くというものだ。もともと、Logitech Gシリーズのマウスのクリック感は、その安定性の高さから評価するゲーマーが多いが、「G900」ではそれがさらにまた一段と進化している。