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中国ゲーム市場におけるモバイルVRの展望を語る
2020年までに1兆円市場を見込むも、現在はまだまだ準備不足
(2016/3/20 01:47)
GDC会期4日目に行なわれた中国のモバイルゲームメーカー触控遊技のスポンサーセッション「The State of Mobile VR in China's Game Industry(中国ゲーム産業におけるモバイルVRの状況)」は、肥沃な中国ゲーム市場におけるモバイルVRマーケットの現状を報告するセッションだった。
スポンサーセッションであるため、同社が主戦場とするモバイルゲーム市場を対象に、グローバルからVRコンテンツを集めるために、対象をモバイルだけに絞ったポジショントークにならざるを得ない点は理解できるものの、出てきたデータやコンテンツの内容は無理のあるものばかりで、あらゆる点で日本を含めたグローバルのVR市場との違いが明確になり、皮肉にもVRに関して中国市場はほとんど受け入れる準備ができていないという現状を浮き彫りにしていた点で非常に貴重なセッションだった。
セッションスピーカーのViivi Li氏は、中国におけるVR市場の成長予測を皮切りに、新たなプレーヤー(メーカー)の登場、現在開発されているVRタイトルなどを紹介。ただ、データについてはいずれも根拠に乏しく、具体的な情報はほとんど開示されなかったという点では信頼性に乏しい数字となるが一応紹介しておきたい。
Li氏によれば、モバイルVRとPC/コンソールを含めたその他のすべてのVRの購入比率はモバイル7に対してその他が1としている。2016年は、モバイルVRデバイスは120万台の出荷見込みに対して、その他のVRは15,000台に留まる。2020年にはモバイルVRが750万台に対して、その他のVRは170万台まで伸びると予測している。この170万台という数字は、PlayStation VRがローンチイヤーに達成するであろう数字であり、極めて低い数字となっている。つまり、中国ではPC/コンソールVRは永遠に立ち上がらないと予測しているわけだ。
市場規模については2016年で8.7億ドル(約1,000億円)を見込み、2020年で86億ドル(約1兆円)まで成長すると予測している。
中国におけるVR市場のプレーヤーは、センサーやレンズなどを組み合わせてVRデバイスを製造するデバイスメーカー、VRコンテンツを開発するコンテンツプロバイダー、コンテンツを販売、流通させるプラットフォーマーやパブリッシャー、ディストリビューターなどとし、BtoBとしてリサーチ、教育、旅行、医療、BtoCとしてゲーム、映像、ソーシャルなどを挙げた。
デバイスメーカーについては、暴風魔境やANTVR、FiresVRなど、中国独自のデバイスメーカーが数多く立ち上がっていることを紹介。Google Cardboardもどきのものから、Android/iPhone端末をはめ込んで使用する本格的なモバイルVR端末まで様々なVRデバイスが中国で生まれつつある現状が報告された。中国ではグローバルと歩調を合わせるようにPC市場が冷え込みつつあり、VRメーカーは、手持ちのモバイル端末でVRを楽しんで貰おうという戦略を取っているようだ。
使い道についてもゲームを押し出しているメーカーはほとんどなく、その多くはバーチャルスクリーンによる映像視聴がメイン。つまりVRではなく、単なるヘッドマウントディスプレイとしての利用に留まっているわけだ。こうしたことからゲームへの投資もまだまだ限定的で、投資対象は過半数の54%がデバイスメーカーという状況で、ゲームへの投資はわずか11%に留まる。
中国は、“世界の工場”として広東省の広州、東莞、深セン無数のハードウェア製造工場を擁していることから、そこから“漏れ出る”形で、昔から模倣ハード、模造ハード、完全コピーハードなどの製造が盛んに行なわれている。かつてはPSP、iPhone、iPad、各種セットトップボックスなど様々なデバイスの模造品が生み出されてきたが、今はさしずめVRデバイスがトレンドになっているのだろう。
肝心のゲームについてはどうかというと現在はFPS、RPG、アドベンチャーなどを中心に100タイトル近くの開発が進められ、今後VRならではの新しいゲームジャンルも誕生すると予測。
その上でLi氏は、今後乗り越えるべき課題として4点を挙げた。1つは、使い心地の悪さ、2つ目はイノベーションの欠如、3点目は不完全なVR体験、最後が様々な要素の準備不足と、ものの見事に全否定した。
その後、中国で作られているVRタイトルのデモが行なわれたものの、すべてモバイルをベースにしているだけあって、解像度が低く、フレームレートも低く、VR酔いに対する配慮がなく、それでいてオリジナリティが皆無で、3つ目のデモは「フルーツニンジャ」をそのままパクったようなゲームになっていたり、場内からは失笑が起こっていた。
もっとも、「だからこそ、欧米の皆さん、中国にVRコンテンツを提供しませんか? チャンスですよ!」というのがセッションの趣旨であるため、彼らの狙いは成功していると言えるが、中国VR市場の夜明けはまだまだ遠いというのがセッションを受けて感じた正直な感想だ。