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ワンプラットフォーム戦略を採るMicrosoftのゲーム戦略は今後どうなる?
WindowsでXboxゲームが遊べ、XboxでUWP Appが動く理想的な未来がやってくる!
(2016/3/18 17:50)
昨年のWindows 10のリリース以降、Xbox OneのWindows 10化が進んでいる。10年以上前にビル・ゲイツ氏がXboxを発表して以降、MicrosoftはWindowsゲームの根本的な制作転換を図り、Xboxを生かすために、Windowsゲームを半ば捨てる方針を撮った。「Flight Simulator」や「Age of Empire」などPCゲーム業界を代表するタイトルを次々にPC向けにリリースし、PCゲーム業界を牽引してきたMicrosoftが、Xbox発表以降は、Microsoft Game Studiosが制作したAAAタイトルは、何故かPCで遊べず、お互いのリレーションもなきが如くだった。
その方針はXbox 360でも変わらず、Xbox Oneのローンチのタイミングでも変わらないままだった。それがWindows 10の登場によってすべてが変わろうとしている。MicrosoftはPCゲームを再コミットし、XboxのリソースをWindowsにも同等に振り向け、今後はXboxもWindowsも平等に扱うと発表したのだ。
Microsoftが、Xbox立ち上げ以来最大規模となるパラダイムシフトをいま断行する理由は以下の3つが考えられる。
ひとつはPS4が売れすぎていることだ。Xbox OneはXbox 360と比較してもそれを上回るペースで売上を伸ばしており、Xboxビジネスとしてはベストな結果を出している。しかし、それを遙かに上回る勢いでPS4がセールスを伸ばしており、Windowsという一番近くて遠かったゲームプラットフォームとの親和性をアピールすることで、今世代でもう一勝負かけたいということだろう。
もうひとつは、Windows 10はMicrosoftが推進するワンプラットフォームの旗頭として、すべてのデバイスにWindows 10をインストールする戦略を立てている。Xbox Oneも例外ではなく、いまやXbox Oneは実質的にWindows 10ベースのゲームコンソールになっている。
最後に、これがもっとも大きい要因だが、“Xboxを生かすためにWindowsゲームと差別化する”戦略のデメリットがあまりにも大きくなりすぎたことだ。このポリシーは特に常時オンライン接続を実現したXbox 360時代から今に到るまで、Xboxフランチャイズの最大の不評ポイントのひとつであり、Xbox 360において「ファイナルファンタジーXI」や「モンスターハンターフロンティアオンライン」など、日本法人の努力によるいくつかの例外措置はあったにせよ基本的にはNGであり、これまで様々なメーカーがクロスプラットフォーム接続を許容しないポリシーに涙を飲んできた。
その一方で、PS4はクロスプラットフォームを一切規制しておらず、国産タイトルに絞っても「ファイナルファンタジーXIV」、「ファンタシースターオンライン」、「ストリートファイターV」など、様々な有力タイトルでPCとの垣根のない自由なクロスプラットフォームプレイを実現している。
Microsoftは「どのメーカーよりもデベロッパーを尊重し、フィードバックを大事にする」と言いながら、頑なにポリシーを変えないのはおかしいのではないかということはMicrosoftのスタッフ自身ですら思っていたことだ。とりわけ今のオープンな時代に誰がどうみてもクローズドなシステムを維持する大義名分がない。このため、Windows 10化を境に、鎖国ポリシーを取り払ったのは自然な流れだ。
さて、GDC3日目のMicrosoftのスポンサードセッションでは「The Future of Xbox Game Development for Windows」と題し、Windows 10化したXbox Oneゲーム開発の今後の方針が披露された。ゲームファンに関わりのある部分を中心にお伝えしたい。
今後大きく変化するのは、あらゆるWindows 10デバイスで動作する統一のアプリケーションフォーマット「Universal Windows Platform(UWP)」が今後、Xbox Oneタイトルにも適用されることだ。実際にはもうすでにスタートしており、PC版の「Rise of Tomb Raider」と「Gears of War: Ultimate Edition」は、UWPフォーマットのアプリケーションとしてWindows版が提供されている。今後第2弾として「Ori and The Blind Forest: Definitive Edition」や「Quantum Break」など様々なタイトルがUWPフォーマットのゲームアプリとしてWindows 10に登場する見込みだ。
また、デベロッパーやゲーマーからのフィードバックを受け、G-SyncやFreesyncへの対応を含め、UWPのアップデートを年末までにかけて継続的に行なっていく。
UWPはWindows 10 PCだけ恩恵にあずかれるものかというとそうではない。今年の夏からはUWP AppがXbox Oneで動作するようになる。つまり、夏以降はXbox OneがホームPCとして活用できるようになるわけだ。
これらの仕様拡張に伴い、ついにXbox StoreとWindows Storeが1つになる。この新しいWindows Storeでは、Xbox Storeが備えている長期的なDLC配信のサポートをはじめ、バンドルパッケージ、サブスクリプションモデル、プリオーダー、動的な価格変更などなど、オンラインゲーム配信ステムが備えるべき機能を網羅している。このストアの統一は2016年中が予定されている。
そしてWindows 10のゲームサービスはXbox Liveに完全に統合される。これまでもWindows 10のXbox Appにより実質的に統合されていたが、ゲームに組み込む形でPCゲームのXbox Liveの導入が進められる。
これに伴い、ついにクロスプラットフォームでのオンラインプレイを可能にするクロスネットワークプレイのAPIが標準サポートされる。対象となるのは“PCとコンソール”。ここをあえてXboxと表記しないところに、これを機にPS4との繋ぎ込みまで一気に実現したいという願いが見え隠れする。
ただ、この件についてSCEWWS吉田修平氏に尋ねたところ、技術的には可能ながら、これまでクローズドだったプラットフォームとの繋ぎ込みは、ポリシーの違いやビジネスの面で簡単ではないという見解を示していた。少なくとも扉は開いており、あとはMicrosoft次第ということのようだ。
ところで、今回想定外の発表として参加者をどよめかせたのは、競技型ゲーム、いわゆるe-SportsをMicrosoftがプラットフォームレベルで公式サポートする「Xbox Live Tournaments Platform」のアナウンスだ。
これにより、Xbox Live SDKの一機能としてトーナメント機能を簡単にゲームに組み込むことが可能になる。「FACEIT」や「ESL」といった外部トーナメントとの親和性も高いということで、それらと協業しながらトーナメントを組み込めるという。
この「Xbox Live Tournaments Platform」は、発表に合わせて評価版を公開し、トーナメント機能を組み込んだタイトルを年内に予定しているという。
そしてXboxのインディプログラムID@Xboxは、配信対象をXbox OneのみならずWindows 10にも広げる形で継続し、今後ももっとも安価な自社販売ルートとしてインディデベロッパーを積極的にサポートしていく。
セッションのまとめとして、Microsoftのゲームプラットフォームは、デベロッパーとゲーマーにとってベストなものであり、4,800万人のアクティブユーザーを抱えた世界最大規模のゲーミングエコシステムにゲームを届けられるものとし、積極的な参加を求めた。
発表内容そのものは非常にインパクトのあるものばかりだったが、それ自体が成功を約束したものではなく、それが予定通りに実現できるのか、サードパーティーは参加してくれるのか、これを受けてPS4がどのような手を打ってくるのかによって正否が変わる。今後はこうした点に注視しながらMicrosoftの取り組みに注目していきたいところだ。