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“みんなで楽しむVR”が強く打ち出されたPlayStation VR講演

新機能「プレイエリア」や開発者向け機能の存在も明らかに

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 Oculus Rift、HTC Vive、そしてPlayStation VRと、コンシューマー向けVRシステムの“ビッグ3”が出揃ったGDC 2016。現地時間3月16日に行なわれたSCEによる講演「PlayStation VR: Development and Innovation」では、誰もが楽しめる家庭用VR機器としての立ち位置を確実なものにしようとするPlayStation VRの姿勢がはっきりと打ち出された。

 この講演ではSCEの上級エンジニアであるChris Norden氏、SCEジャパンスタジオのプロデューサーNicolas Doucet氏が登壇し、PSVRの最新機能や無料配布ソフト「THE PLAYROOM VR」の開発秘話が明かされている。本稿でその内容をご報告しよう。

新機能「プレイエリア」で幅広いプレイ環境をサポート。IPD自動調整も

SCE、Chris Norden氏
プレイエリアの概念
範囲外に近づくと通知が表示される(実際に出すかどうかはゲーム側の実装次第)

 本公演ではじめに登壇したChris Norden氏によるプレゼンテーションで、「プレイエリア」というPSVRの新機能の存在が明らかになった。

 この機能はユーザーの住環境ごとに異なってくるプレイ可能な空間の範囲をあらかじめ設定しておくことで、各VRコンテンツの動作をカスタマイズ可能にするというものだ。

 この機能が生きてくるのは、立った姿勢でプレイするコンテンツ。PS Cameraによるトラッキング範囲は意外と広く、カメラから十分に離れた状態であれば幅2メートル程度の範囲は最大トラッキング範囲に収まる。

 しかし誰もがその空間をフルに活用できるわけでない。一般的なリビングルームであればソファやテーブル等の家具が障害物になることも多いだろう。PSVRのヘッドセットをかぶり、広大な仮想空間を目にして障害物の存在を忘れてしまえば……事故の元だ。

 そういった個々のプレイ空間に合わせるため、ユーザーは自分用にパーソナライズされた「プレイエリア」を設定することができる。その範囲外に近づくとPSVRのシステムが検知し、ゲームプログララムのほうに通知されるというものだ。

 ゲームプログラムはその通知をもとに、ユーザーに対して単に警告を表示したり、あるいはプレイエリアの中央に戻るよう促すといったことが可能になる。

 SCEはこの機能を通じ、ゲーム側に複数のプレイエリアに対応したアセットを用意することをゲームデベロッパーに推奨している。わかりやすい例は“ビッグ3”全てのVRシステムに対応している「Job Simulator」というゲームだ。この作品ではルームスケールから着座姿勢まで、複数のプレイエリアの大きさに合わせて各ステージ3種類のレイアウトを用意している。同様の対応が、今後開発されるPSVRタイトルにも推奨されるというわけだ。

IPD調整機能について
ゲーム内のオーディオ位置、ユーザーの姿勢に応じてPUで立体音響を生成するため、ゲーム側や出力側での音声加工は不要だ
開発者向けに配布される“Comfort Samle”。VRコンテンツで避けるべき表現も体験でき、開発者の学習に最適だという

 もうひとつ明らかになったのはIPD(瞳孔間距離)の自動調整機能だ。

 VRシステムが描画する立体映像は、ユーザーの実際のIPDに完全一致したときにはじめて本当の意味でリアルな見え方になるが、その大きさは個人によっていろいろだ。そこで、PSVRでは将来的に、ユーザーのIPDを自動的に検出してパーソナライズする機能をシステム・ソフトウェア側に用意するという。

 これまで様々なデモの機会に触れてきたPSVRはこのような調整がなされていない状態のものだったので、今まで見てきたVR映像は完全なものではなかった、ということになる。PSVRを購入して自分用にきちんと調整したとき、どれほど没入感が向上するか、実際に試すのが楽しみだ。

 またこの講演では、PSVRの一部を構成するプロセッサーユニット(PU)の機能についても触れられている。その中でユーザーとして抑えておきたい事実のひとつは、PUで処理される3Dオーディオは、普通のステレオヘッドフォンできちんと聞けるようになっているということだ。オーディオの空間定位によるシミュレーションはPU側でしっかり成されるため、3Dサラウンドに対応したヘッドフォン等は不要だ(むしろヘッドフォン側で定位感を誇張するなど音質を弄るものを使うと再現性が減りかねない)。

 このほかPSVRでは、ソーシャルスクリーンを使ったデバッグモードや、VRコンテンツを制作する際にすべき・すべきでない表現を網羅したサンプルショウケースアプリなど、開発者向けに充実した機能を提供する。また、開発者向けにVRコンテンツ開発コンサルを行なう専門チームも発足させているなど、サードパーティにとって非常に心強い体制が整えられている。

 今後登場してくるゲームやアプリの充実が、PSVRというプラットフォームの成功を分けることになることは間違いない。そのためのSCEの準備は万端だ。

PSVRならではの“みんなで楽しむVR”、「THE PLAYROOM VR」の哲学

SCEジャパンスタジオ、Nicolas Doucet氏
みんなで遊べる「THE PLAYROOM VR」
HMDと別画面を出せるソーシャルスクリーン機能
異なる視点で対決・協力する新しい形のゲームプレイが実現した

 講演の後半は対応ゲーム作りの話題となり、SCEジャパンスタジオのプロデューサーNicolas Doucet氏が登壇し、全てのPSVRユーザーに無料配布される「THE PLAYROOM VR」の開発と、その哲学について語った。

 実質的にPSVR同梱ソフトとなる「THE PLAYROOM VR」のコンセプトは明確だ。視界が現実から分離されてしまうVRを、ひとりだけでなく、みんなで楽しめるものにすること。リビングルームに置かれる家庭用ゲーム機としての使命だ。

 Doucet氏はこの「THE PLAYSTATION VR」を、“世界初のVRパーティゲーム”と呼ぶ。これを実現するためにどうしても必要だったのが、PSVRのHMD側とTV側に別々の映像を表示するソーシャルスクリーン機能だった。Doucet氏が「THE PLAYROOM VR」の開発初期にその必要性に気づき、PSVRの開発チームに機能の実装を要請したことが、現在のプロセッサーユニットの仕様(1,280×720p 30fpsの映像ストリームをPS4から受け取り、テレビスクリーンに出力できる)につながっている。

 こうして実現したのが、VR HMDをかぶった人と、TVを見る人が対戦したり、協力したりするという、非対称で全く新しい形のマルチプレイゲームだ。

 ゲームデザイン的には、1つの世界で2つのゲームを作るに等しい。VR HMDと通常のスクリーンではゲーム内オブジェクトのスケール感も全く異なって見えるため、ゲームバランスの調整は非常に難しい、とDoucet氏。しかしそれを通じてこれまでにない楽しさ、これまでにないゲーム性を作り出すことが可能であるとも力説。「THE PLAYROOM VR」で実現したPSVRならではの非対称プレイの形を、サードパーティタイトルにも広げていきたい考えだ。

 このようにコンテンツの開発も独自の哲学、独自のアプローチで進められているPSVR。Oculus RiftやHTC ViveといったPC向けのハイエンドVRシステムを所有する層にとっても、PSVRはユニークで魅力的なプラットフォームに映るはずだ。こういった形で各プラットフォームの住み分けが明確になり、VR市場そのものがより分厚く成長し、より多くの人に届いていくことを大いに歓迎したい。

初期のプロトタイプ。たくさんのアイディアを試したようだ
GDC2016版で披露された「ウォンテッド」のプロトタイプ。Oculus DK2向けの爆弾解除ゲームのように、言葉を通じたコミュニケショーンを遊びにした
初披露されたシューティングゲーム。TVプレーヤーが操縦する戦闘機を、マザーシップと化したVRHMDプレーヤーが燃料補給するなどで支援するという形のゲームになっている

(佐藤カフジ)