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ライアットゲームズ ディレクター齋藤亮介氏ロングインタビュー

“桜の咲くころ”に「LoL」日本サービス開始。日本法人の役割と運営方針について聞く

11月28日収録



会場:ビリビリAKIBA

 2015年9月、東京ゲームショウでの日本サーバーの設置を正式発表し、現在2016年のサービスインに向けて準備が進められているWindows用MOBA「League of Legends」。その開発元であり、グローバル規模での運営を手がけるのがRiot Gamesであり、日本運営を担当するのがその日本法人ライアットゲームズLLCとなる。

 ライアットゲームズは、今年の東京ゲームショウでの発表を境に“再起動”を果たし、11月にはIWCA日本代表の壮行会や、本戦のパブリックビューイングを主催するなど、日本でのサービスインに向けて徐々にピッチを上げつつある。

 そもそもRiot Gamesとはどのような会社なのか、ライアットゲームズは日本市場においてどのような役割を担い、どのようなポリシーで日本運営を行なっていくのか、そして彼らが推進するe-Sports振興策とはどのようなものなのか。今回はライアットゲームズでディレクターを務める齋藤亮介氏に話を伺った。

 2013年頃から日本サービスを待ち続けている「LoL」ファンにとっては、日本法人再起動後もなかなかまとまった情報が出ず、やきもきさせられる日々が続いているが、このインタビューを通じて日本サーバーの稼働が日々近づいているということを実感していただければ幸いだ。

「League of Legends」を世界展開するライアットゲームズとはどういう会社なのか

ライアットゲームズ ディレクター齋藤亮介氏
2014年9月の東京ゲームショウで発表を行なう乙部一郎氏。いよいよという雰囲気が高まったが、さらに1年以上待たされることになった
11月21日にe-Sports SQUARE AKIHABARAで実施された壮行会
11月28日に実施された「IWCA」パブリックビューイング

――齋藤さんはライアットゲームズLLCのディレクターということですが、日本法人での役割は?

齋藤氏:基本的にはパブリッシング側の責任を持つという形になります。実はもう1人日本のディレクターがいまして、彼はいわゆるエンジニアリングテクノロジー、ローカリゼーション、プレーヤーサポートといったところのライブオペレーション的なところを担当することになっています。

――日本でライアットゲームズが1番注目されたタイミングはやはり2014年の東京ゲームショウのタイミングだと思います。当時代表を務められていた乙部さんは退社されたと伺っていますが、現在はどのような体制で日本法人は運営されているのですか?

齋藤氏:そういう意味ではカントリーマネージャー、日本法人の社長は空席のままです。日本法人の意思決定を見るのは私ともう1人のディレクターが本社側といろいろ相談しながらという形になります。

――2014年の東京ゲームショウで、乙部さんは日本サービスを期待させるコメントを出しました。しかし、あれからだいぶ時間が経過したわけですが、この間には何があったのでしょう?

齋藤氏:乙部氏が昨年の9月に日本サービスについて話しました。そのあとずっと何も言わないということがあったと思うのですが、この9月から、東京ゲームショウで日本サービスを告知し、10月にはビハインド・ザ・シーンの映像を出しましたし、11月はIWCA関連のイベントやりますよということで、よりプレーヤーと接点を持っていこうと戦略的な方向性が変わったことは間違いないです。

【「リーグ・オブ・レジェンド」 Behind the Scenes ビデオ】

――日本法人は1年ぶりに再起動したみたいな印象があるのですが、実際は中ではずっと動いていたのですか?

齋藤氏:実は私がこのRiot Gamesに入ったのは9月なのですが、ローカライズとかそういうところは、準備がだいぶ進んでおりました。9月1日に入ってから、まさに東京ゲームショウで何か発表するかしないかというのが、私の最初の意思決定でした。ちょうどアメリカにトレーニングおよび引き継ぎで来てくれと言われて行っていて、日本法人とアメリカ法人のスタッフが議論する中で、ちょっと君も来いと言われたのです。まあアメリカ側は出すのを辞めたほうがいいという話だったのですが、それはやったほうがいいと。やると決めてオペレーションをどういう風にやるのか考えました。そこらへんから戦略的な方向性も変わってきています。

――なるほど。Riot Gamesはグローバル企業ですが、その中での日本法人の役割というのは?

齋藤氏:日本法人の役割は、日本サーバーを出す、もう少し細かく言うとゲーム業界はデベロッパーサイドとパブリッシャーサイド、ゲームを作るほうとそれをどう進めていくか、このパブリッシャーサイドをすべて日本法人が責任を持って進めていきます。当然本社にもマーケティング機能とかブランド機能とかいろいろあったりするのですが、彼らはサポート機能をもっていて、日本法人が最終的にどうやっていくかという意思決定をするのがRiot Gamesの進め方です。ですので、この日本での意思決定は当然本社ともいろいろコミュニケーションしますが、日本で決めていきます。

――先週e-Sports SQUARE AKIHABARAで実施された壮行会(参考記事)についてですが、「この壮行会を最初の公式イベントにしたのはライアットゲームズの日本のユーザーに対するコミットメント」という齋藤さんの話が印象に残っているのですが、そこをもう少し詳しく教えていただけませんか?

齋藤氏:今までの流れで説明しますと、実はこの9月からのコミュニケーションというのは、ゲームの準備が進んでますよというのをお伝えしたかったんですね。モニタリングテストで試せる準備がありますと。ビハインド・ザ・シーンではちゃんと音声収録も進んでいて、ローカライズは進んでいますと。

 11月以降は、ライアットゲームズが日本で何を重視していくのかということで、e-Sportsを前面にだしました。で、そのe-Sportsを進めるということは当然ながら、単純にゲームを出して終わりではなくて、日本に根付いた活動をしていきますよということをお伝えしたかったのです。それがコミットメントの1つだと思います。他にもファンアートとか、コスプレとかそういうゲーム外のオフラインのイベント等もやっていくことになりますが、こういったゲーム内、ゲーム外合わせて全体的にプレーヤー体験を最大化させていくことが我々のコミットメントですね。

――e-Sportsを進めていくというのは、グローバルではすでに大規模に展開されていますが、グローバルのやり方と日本でのやり方は違うのでしょうか?

齋藤氏:国によって実は違っております。実際の運営として、たとえば韓国で言うと地元のケーブルテレビ会社でe-Sports関連を取り扱っている会社が実際のリーグの運営等で前に立ってますし、ほかの国でe-Sportsが全くなかった国ではRiot Games自体がスタジオを用意して対戦ブースみたいなものを作ってやるということをやっていますし、それはその国の最適な運営の仕方をやっています。

――日本ではどうなりますか?

齋藤氏:日本ではSANKOさんがすでに我々が何かをする前からもう2年2シーズンもやっていただいているので、彼らの今までのノウハウですとか色んな蓄積されたものがありますので、それを活用しながら協力する形で進めていこうと思っています。

――それでは今のLJLの形はそのまま維持していく?

齋藤氏:そうですね。現在のLJLの運営に我々も関わっていきます。今回のIWCAがいい例です。両社でアイデアを出して実現しているところもあるのですが、例えば先週のイベントだと選手たちの試合中の声を出すようにしたのですが、あれは実はこちら側から提案したものです。技術的にはいろいろ難しかったのですが、なんとか応えていただいて、視聴者であるプレーヤーに新たな楽しみ方を提供した、というようなことをしていく感じですね。

――前回確かに声の部分は面白かったですね。ただ、それ以外の部分は、SANKOさん仕切りだったということもあって、今まで通りのSANKOさんのイベントだなという印象が強かった。ライアットらしさというのはどうやって出していくのですか?

齋藤氏:LJLに関わっていくことと、そこでライアットらしさというものを追及するかどうかというのは、また別の議論だと思っています。まず、e-Sportsがしっかりあるというのがライアットらしさだと思うのですね。

 日本のe-Sportsのありかたとして、どういった形が望ましいのだろうかと。というのは、実はこれは国によって変わってくるものなのですね。例えば、簡単にいうとJリーグとかでも、発足当初と今では応援の仕方が変わってきていますよね。それは今後我々がこういったオフラインでもオンラインでも見ながらどういった形が日本として素晴らしいのかをやることであって、ライアットらしさというものを押し付けるようなことはするべきじゃないと思っています。そこはやはりプレイしているプロフェッショナルプレーヤーと、それを見ているプレーヤー、視聴者の皆さん、彼らがどうやってプロシーンの体験価値を最大化できるのかを注目して、彼らの望むあり方を後押ししたいと考えています。

――ではSANKOさんが日本で育てた部分は大切にしながら、その上でライアットとして何が協力できるのかをじっくり考えていく?

齋藤氏:はい。

――それではLJL 2016年シーズンが始まっても、「何かガラッと変わったな」みたいな感じにはならなそうですね。

齋藤氏:それは多分ならないですね。

――今回、IWCAでは、日本代表の壮行会を行なって、パブリックビューイングを実施しましたが、惜しくも日本代表は負けてしまいました。本大会について、日本法人としてどのような感想を持ちましたか?

齋藤氏:そうですね。IWCAに出ている国の中ではサーバーがない唯一の国といってもいい状況なので、その中では良く健闘したほうだと思います。

――ラテン諸国にもサーバーはすでにあるのですか?

齋藤氏:ありますね。今回、2勝4敗ということで、今日のリーグ戦最終日を迎える前までは2勝2敗で、まだまだ勝てるのでは、トップに立てるのではという良い状況だったので、そこは純粋によく頑張っていただいたなと思います。

 ただ、やはりこの夏の世界大会の時のIWCAもそうだったのですが、回数を重ねて研究されてくると、勝てなくなってくるというところがあるので、そこはやはり世界大会のレベルで場数をもっと踏んでいって継続して勝てるようにプレーヤーが世界レベルで使えるチャンピオンの数を増やすことや、戦略およびチームワークを高めていかなくてはいけないだろうと思ってはいます。

――今後日本サーバーがスタートすると、日本のユーザーが世界大会に参加するチャンスは増えるのでしょうか?

齋藤氏:増えていくように強化していきたいと思っています。まずサーバーができることによって、遅延が少なくなりますので、いわゆるギリギリのプレイがより精度高くできるようになると思うのですね。今は遅延があるところでやっていて、やはりギリギリの勝負、コンマ1秒の世界というのがやはりどうしても追及しきれないところがあるので、そこは上がってくると思います。そしてもう1つ課題として抱えているのは、世界レベルで見ると、チームのスタッフの陣容が違うのですね。

――サポートするスタッフのレベルですか?

齋藤氏:はい。プレーヤーだけではなくて、世界の強豪には“アナリスト”という方がいて、コーチもメンタルコーチを含めて色んなコーチがいらっしゃるのですが、中でもこのアナリストという方が、 逐次アップデートが入るゲームの状況を深く分析するのです。そのうえでこういう戦略がありうるというのを提案してくるのです。

――それはコーチや選手兼務でやるのではないのですか?

齋藤氏:はい。そしてアナリストが提案したものをコーチなりプレーヤーが追及して、戦略・戦術に反映するのですが、日本ではまだそういったところまで、チームのスポンサー問題もあって手が回っていないところもあります。世界大会に参加してくるチームはそういう流れになっている。そこが足りていないので、戦略・戦術面で遅れてしまっています。そうするとプレーヤーの腕だけ磨いても勝てないだろうなというのがあります。

 そういう意味では我々はe-Sportsを最初の主催イベントとして出したのは、世の中一般的にも注目を集めたい、かつそれによってスポンサーが集まるようにしたいというところがあります。そうすると選手のプレイ環境も良くなってまいりますので、世界に通用するところも出てくるでしょうし、そうして世界で活躍しだすとまたそれが相乗効果を産んでくると思うので、そこを今日本での注力ポイントの一つとしています。

――先ほど、日本代表の試合を観戦しながらDetonatioN代表の梅崎さんと話したのですが、戦況的にかなり厳しい状況で感想を尋ねたら、「まだ日本の選手が『LoL』に慣れていない」というわけですね。私は毎日8時間とか10時間とか練習しているのに、「LoL」にまだ慣れていないと言い切ってしまうのは凄いなと思ったんです。梅崎さんは「ジャングラーのレベルが序盤で2つ離されていて、世界で戦える水準になっていない」と厳しいご意見でしたが、齋藤さんのいうアナリストというのはまさにそういう視点での発言ですか?

齋藤氏:そうですね。

――なるほど。アナリストの存在は盲点でしたね。

齋藤氏:アナリストの存在もそうですが、もう少し言うと日本のプロリーグの中でもプロチームごとの差が表れていて、ゲーミングハウスや、コーチの部分の不足というところもあります。ただ、世界で通用していくことを考えたらそこのアナリストの部分は育てないといけないですね。アナリストはゲームに精通してないといけないし、かつ分析能力もないといけないし、長期的な取り組みになるかもしれません。

――なるほど。しかし、“e-Sportsをやる”ということは、当然、最終的に世界で活躍する選手を数多く生み出したいところですが、今はその水準に達していないと。ライアットさんとしてどういったことをやって、育てて、裾野を広げていこうと考えていますか?

齋藤氏:まず育てるという観点からみると第一に我々が注目しなければならないのは、ゲームに集中できる環境を作ってあげることだと思うのです。いまプロプレーヤーといってもゲームに没頭できるかというと、そうなっていないところがありまして、「これは趣味の一環で、ほかに仕事を持っていて、二足のわらじで苦労してます」みたいな方もいるので、まずはどういった形になるかは別としても、そこはゲームに集中できるような環境整備をしていこうかなと思っています。裾野を広げるという視点ではアマチュアのオフライン大会などを積極的に支援していきたいと思います。

(中村聖司)