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レベルファイブ・日野晃博氏が「KYUSHU CEDEC 2015」で基調講演
必勝の企画会議「隠し設定会議」とは?
(2015/10/18 18:11)
作品を作るため「夢の提示」をする
「企画を作る必勝パターンはあるのか?」とよく訊ねられることに対し、日野氏は「それがあるなら苦労しないし、本を書いてたくさん儲けることができる」との答えを持つ。「ヒットするかはわからないが、魅力的で必ず作る意味のある企画を考えるノウハウならあるのではないか」と話を始めた。
企画のキッカケは「ひょんなことだと思っていて、気持ちとしては『いいものを作らなきゃ!』って思ってるけど、実際にはタクシーの中で思いついたとか、人と話しててふと頭によぎったことだったりと単純」とのこと。よく「企画は商品の設計図と言われる」ことについては「企画は商品の設計図ではない」との持論を披露。「最終的には商品を作るが、企画は設計図を作る前の段階でやるべきことで、作品を作るための『夢の提示』」だと思っているという。
そして「膨大な設定を1人で書くのが困難になっているが、どんな方向に向かってどんなものになっていくのか指針を示さねばならないし、みんながやる気をもって取り組むキッカケづくりをしなければならない」と気を配る。「夢の提示」は「やる気を持って向かうためにモチベーションを産み、作品を進めていく」ためのものになるからだ。
コンセプトは全てタイトルに通ずる
日野氏は企画の際に細かいことまで書いて頑張るプランナーがいることに言及。「細かいことを書くよりも面白そうだから自分にもアイデアを出させてくれと、色んな人達が参加したくなるような企画」が重要で「企画はコンセプトの指針を示すだけでいい」という。それには「企画を取り違えて仕様書のようなものを作ってしまうと、それ以降の作業が非常にやりづらくなる」からだとか。
それは「あまりにも細かいことを書きすぎてベクトルがどっちの方向を向いているのかわからなくなるものを作ってしまう」懸念でもある。「コンセプトが仕様を侵食するような作り方をすることがあるけど、頭の中でその先が出てくるのをグッとこらえて、コンセプトをしっかり固めるまでは量を増やさないのが大事」と示した。
コンセプトの始まりだと思っているのは作品タイトルである。「RPG(仮)とかだと凄くチャンスを逃しているのでタイトルを決めるのは凄く重要」と肝に銘じている様子。「コンセプトは世界観などこういうものを作りたいと示す空想の集合体で、タイトルはその1番最初にキッカケになりうる情報。(仮)でも進められるけどタイトルは非常に大きな影響力を持っているので、企画段階でタイトルをしっかり考える。タイトルが決まるまで企画を先に進めないようにしている」と慎重だ。
例として「妖怪ウォッチ」を挙げて話を進める。「タイトルを聞いた時にどういう引っ掛かりがあるか、タイトルから絵が浮かんだり何らかの感情が浮かんでくるか。タイトルから漂う雰囲気」などを重視しており、「妖怪という言葉となるべくかけ離れたものがいいんじゃないか。インパクトを生むには正反対のもの、古い“妖怪”と“ウォッチ”という文明的なものを組み合わせた時に、違和感というか引っかかりを生み出せた」。その発想が「妖怪にウォッチがくっついたことで世界観が広がり、現在のものが絡むことで身近なものになった。タイトルから発想される企画を考えていくと、古いものではなく現代的な新しい妖怪のイメージが膨らんでいった」元になっている。
キャラクターと世界観設定のヒミツ
日野氏は「キャラクターの設定を作った時点で勝負は決まっていると言っても過言ではない」と実感。主人公を変化型と設定した場合、パターンとして「主人公の成長自体がシナリオになる。最初の段階と最後の段階で変化しているのがドラマを作る上で面白い」と重視している。例えば「最弱から最強だったのが最強から超最強になるパターン」では「弱いところから始まると面白くない。ある程度の最強から、さらに高みを目指していくストーリーに変わりはない」と説明。
逆に『妖怪ウォッチ』の主人公・ケータが不変型であることに関しては「ケータは普通だけど普通じゃない体験を次々にさせる」ことで「終始ぶれないキャラクター像を安心して見せる」効果がある。ドラマの主軸となるキャラクターを作るメインキャラクターの設定では、赤(熱血)、青(クール)、黄(お笑い)、桃(ヒロイン)、緑(ライバル・距離をおいている)の5つのキャラクターがいるかどうかをチェック。話を長続きさせられるかどうかのポイントとしているようだ。
続く世界観設定では「絵の指針を作ることではない」ことに留意。「この世に存在しない世界のルールを作る。絵を描かせるための文章ではなく、キャラクターたちがどのように動くのか。車が空を飛ぶのは常識なのかどうか、驚くかどうかで常識がどっちなのか」と具体性を示す。「ただ『美しい森があってそこに人々が住んでいる』では絵を描かせるだけに過ぎない」。
それが「企画が面白くなるヒミツ」として結実する。それは「1ページで説明できるものでなくてはならず、1ページ以上書く場合はプランニングをする人のこだわりでしかない」と先の話とも絡めた。「みんな長い文章は読んでくれないので短い文章で世界のルールを伝える。デザイナーがビジュアルをデザインすることではない」。
以上、コンセプト設定の話も含め「コンテンツがヒットするのは企画がパーフェクトだからではない」との経験を得た。「たくさんのクリエイターと絡んで自分にはない発想を持ったスタッフのクリエイティブを見る。色んな人達のアイデアを吸収して1つにまとまりやすい包容力を持っているかどうか、この世界観はあらゆる世界観を含めても違和感がないかどうか」。
必勝を導く「隠し設定会議」とは?
さらに日野氏は「隠し設定会議」の存在を明らかに。「自分が納得の行くまで企画を作りこみ、それなりの企画書となるものを決めるけど、企画1ページ以外の部分はできていないフリをして会議を開く。自分の中では世界観が完全に見えているが、決定事項がないままやる。多くをみんなの前で語らないが、質問されたら答えられる」。これこそが本題の真骨頂と言えよう。
あえて隠しているのには「企画会議でリーダー側から『こういうのやりたい』って提案されると、それありきでしか企画が出せなくなる。それが強い方向付けになってしまい、その方向の中でしかアイデアが出せなくなってしまう」といった理由がある。「そうしているとその発想はなかったというのが出てきて、それを企画として取り込むことができる。アイデアを出した人は自分のアイデアが採用されるので、モチベーションもあがる」といったメリットを見出した。
「20年以上、企画を考えるのをやっていると、新しいものをなかなか思いつけるわけではない。色んな人達のアイデアを取り込んでいかないとならないし、それこそが幅広い人達に受け入れられるコンテンツを作る必勝パターンにつながると思う」と日野氏。「企画は詳細な設定ではなく夢を語るもので、完成品でなくていい」と基調講演を締めた。改めて「日野流としたのは、あくまでも一般的ではなくて自分が経験したこと」と念を押していた。