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「SpriteStudio」は「ボコスカウォーズ2」のアニメーション制作に耐えうるか?

奇才・ラショウ氏の無茶ぶりにも対応可能。新バージョンの概要も発表

8月26日~28日 開催

会場:パシフィコ横浜

 「CEDEC 2015」最終日となった8月28日、ウェブテクノロジ・コムによるセッション「ボコスカウォーズ2 ~ アートとスプライトアニメーション」が開催された。

 このセッションには、ウェブテクノロジ・コム セールス&コミュニケーション部マネージャーの浅井維新氏に加え、プレイステーション 4用「ボコスカウォーズ2」を開発するピグミースタジオの代表取締役を務める小清水史氏、そして「ボコスカウォーズ」の生みの親であるゲームクリエイター・現代美術家のラショウ氏が登壇した。

 基本的には、ウェブテクノロジのアニメーション作成ツール「OPTPiX SpriteStudio」を使って「ボコスカウォーズ2」を快適に開発していますよ……と言うためのセッションなのだが、ラショウ氏の圧倒的な個性の前に全てが霞む、聴講者の度肝を抜く爆笑の講演となった。

「SpriteStudio」で「ボコスカウォーズ2」のアニメーションが作り放題?

小清水史氏(左)と、ラショウ氏(右)
シャープX1のオリジナル版「ボコスカウォーズ」

 「ボコスカウォーズ」は、ラショウ氏が第1回アスキーソフトウェアコンテストでグランプリを受賞したゲーム。ファミコン向けにも発売された知名度の高いゲームだが、オリジナルはシャープX1用となる。敵を倒して成長するところから、ジャンルはRPGと言われているが、シミュレーションやRTSの要素も含む。ラショウ氏は「『ボコスカウォーズ』こそSRPGの元祖。つまり私は始祖鳥。始祖鳥は絶滅したけれど」と宣言した。

 30年ぶりの新作となる「ボコスカウォーズ2」では「SpriteStudio」を使ってアニメーションが作られている。採用理由についてラショウ氏は「私のへなちょこ具合を出すのに最もよかった」と語った。小清水氏の補足によると、「作家の無茶ぶりを実現する」という点で優れたツールなのだという。

 ラショウ氏が「SpriteStudio」を使った一例として、バトルシーンが挙げられた。「ボコスカウォーズ」では、ユニットのバトル時に「B」と書かれたバトルマークが表示される。ここで実際に戦うシーンを見せたくて、「SpriteStudio」でバトルの様子を描き起こしていった。バトルマークは残しつつ、その向こうに戦う2人のシルエットが透けて見えるという具合だ。ラショウ氏は実に100種類以上のシルエットによるバトルシーンを制作した。

 しかしラショウ氏は最初に「SpriteStudio」のデモを見た時、「滑らかでステキな動きだけれど、『ボコスカウォーズ』ならではのものを作るにはどこか味が足りない」と感じたという。アニメーションはキャラクターに動きを付けて命を吹き込む作業だが、ラショウ氏は「わざわざ動きをポンコツにしたがる」という。具体的には、上半身は普通の滑らかなアニメーションだが、下半身はギクシャクした妙な動きになっている。ラショウ氏曰く「1つはなめらか、1つはギクシャク。このさじ加減が『ボコスカウォーズ』」だそうだ。

 ラショウ氏はアニメーションの作り方も独特だ。最初にラショウ氏が描いたイラストを取り込んで、アニメーターが普通にアニメーションさせる。そしてできたものに対して、ラショウ氏が「ちゃんとした作画」をする。最後に「ちゃんとした作画」に差し替える。

 ラショウ氏によると、「モーションが付くことによって新しいイメージが湧く。面白いゲームを作るために作画に戻っていく。その中で100パターンも作っていたらいつまでも完成しないけれど」だそうだ。また小清水氏の補足によると、ラフに描いたものを簡単にアニメ化し、その動きにインスピレーションを受けてラショウ氏が作画することによって、「ボコスカウォーズ」らしさのあるキャラクターが生まれるのだという。

 ピグミースタジオとしては、ラショウ氏が仕様を無視して好きなものを描くのを止めはしないという。ラショウ氏が「以前は兵站を描いていなかったので、農民をバックグラウンドで動かそうと思う」と言って、どんどんアニメーションを増やしていく。さすがに多すぎるとは思いつつも、「SpriteStudio」を使うことで指示書を作成する手間が省けて、アーティストとアニメーターだけでクリエイティブなところに専念できるのが利点だという。

 以上のように「SpriteStudio」を使って気持ちよくアニメーションを制作しているラショウ氏。最後に「ラショウさんにとって『SpriteStudio』とは何か」という問いに、「クリープの入っているコーヒー」と答えていた。意味が理解できた方はぜひ「SpriteStudio」をお試しいただきたい。

ラショウ氏のイラスト。これらをアニメーションさせるという難題
「なんかもうすごいリアルで そのくせギクシャクしてる」
ラショウ氏による「SpriteStudio」を使ったアニメ……だろうか(何の説明もなく流れた)
バトルマークの中でシルエットがバトル。これが100種類あるらしい
下半身だけを「それはそれは精巧にポンコツ化」する
アニメーションを付けてから「ちゃんとした作画」をするという流れ

「SpriteStudio 5.6」を今秋公開。「6」は2007年春に向けて開発

浅井維新氏

 先の講演に頭を抱える浅井氏は、「SpriteStudio」の今後のアップデート計画を発表した。まずアップデートとなる「バージョン5.6」を今秋に公開予定。エディタの完成度向上を目指したもので、機能改善がメインになっている。

 フレームコントロールにおいて、スライダーが途中にある時にパーツを持ってくると、変なところにキーフレームができてしまうため、パーツ追加時には先頭にキーを打つよう変更される。

 フレーム伸縮時にキーフレームをバランスよく配分する機能も追加。60fpsのアニメーションを30fpsに落とす時など、アニメーションを減らす時のバランシングに効いてくるという。

 他にスライダー操作時の挙動変更、パーツの色分け、セルマップ上のマウス挙動変更、セル編集時のUNDO対応、フォーカス遷移タイミング変更、自動保存機能追加、ショートカットキーの編集機能(他のツールに合わせたプリセット配置も提供)といった変更・仕様追加が予定されている。

バージョン5.6では完成度向上を目指したアップデートが行なわれる

 さらに、次期バージョンとなる6についても言及された。まだコンセプトのレビュー段階だが、今のところの方針として語られている。

 最初は表現力の拡張。アニメーション編集方法にボーン+メッシュ変形が加わる。1度開発したものの、色々なゲームエンジンにうまく合わせるのが大変だったのでやめた経緯がある。今回は新たに作り直しているため、その辺りもフォローするという。そのためデータ構造の見直しも行なわれている。

 次に補間およびレンダリング方法の追加。補間ロジックの拡充とともに、Flashユーザーから要望があったマスク機能も追加される。

 続いてカスタマイズ性の強化。従来はSDKを使って自由にどうぞと言ってきたが、生のデータがやり取りできない部分があったため、インポータとエクスポータを用意。外部の3Dツールで作ったものをインポートして「SpriteStudio」のデータにできる。DIYでの拡張も可能としている。

 そして重要なこととして、後方互換性は取らない。データ構造の見直しがあるためだという。ただカスタムインポータを用意するなどの対応を検討はしているという。

 スケジュールは、2016年夏からα、秋にβ、冬にRCと来て、2017年春のリリースを目指している。また現状のバージョン5系についても、バージョン6のリリース以降もサポートとマイナーアップデートは可能な限り続けるとしている。

確定した仕様ではないが、バージョン6の情報が公開された。具体的な動きは2016年夏のα版からとなる

(石田賀津男)