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ChinaJoy 2015の会場から見えた中国ゲーム市場の今と未来

MOBAとスマホとコンソール、そこから感じる次世代への胎動

7月30日~8月2日開催



会場:Shanghai New International Expo Center

 中国最大のゲームイベントChinaJoy 2015が4日間の会期を終えて閉幕した。筆者はこれまでE3やGamescom、東京ゲームショウなど世界中のいろいろなゲームメッセを見てきたが、ChinaJoyは今回が初めての参加だ。真夏の上海の殺人的な暑さと共に、世界の他のゲームメッセと比べてもとてつもなく巨大な規模に驚かされた。会場をくまなく歩いてみると、なるほど聞いた通りだと思う部分もあったが、日本にいると気づきにくい大きな変化も感じることができた。

 今回、中国のゲームメーカーSnailを取材させてもらい、中国のデベロッパーからも直接話を聞くことができた。このレポートでは、筆者が感じた中国市場の現在をいくつかのトピックに分けて紹介したい。

PCからスマートフォンへの急激なシフト

スマホゲームのみの出展企業もかなり多かった

 会場を回ってもっとも強く感じたのは、PCからスマホへの明確なシフトだ。出展者を見ても、通信会社や、スマホのデバイスを販売している会社、スマホのマーケティングの会社など、スマホがらみの企業が非常に多かった。

 中国ではPCゲーム成長は横ばいで頭打ちだが、スマホのゲーム市場は右肩上がりの急成長を続けている。コンソールはようやく入り口に立ったばかりで、スマホが他を圧倒している状況だ。

 上海滞在中には地下鉄が主要な交通手段だったが、その車内でも多くの人がじっとスマホを見下ろしている。日本や世界のほかの国でもすっかりおなじみになった光景は、中国でもやはり日常になっていた。中国版Twitterの微博(Weibo)や、中国版YoutubeのYouku、中国版LINEのWechatなど、中国でもデジタルネイティブ世代は盛んにネットでのコミュニケーションを取っている。

 企業ブースでノベルティをもらうには、QRコードを読みこんで登録することが条件になっている企業がほとんどで、スマホを持っていることが前提のプロモーションやマーケティングが組まれているのがうかがえた。

 中国でもがっつり遊ぶ人はPC、休憩時間にちょっと遊ぶ人はスマホという認識があるようだが、筆者が見る限り、中国のスマホゲームはMOBAやアクションゲームなど、どちらかというとコアゲーマーが好みそうなジャンルの方がより人気を集めているように見えた。もちろんパズルゲームもあったが、全体として目立っていたのはアクションゲームやMOBAだ。PCゲームをそのまま移植したようなMOやMMOPRGもあった。少数ではあるが、女性向けの乙女ゲーもみかけた。

【スマホゲーム】
漫画をアクションゲーム化した「黒猫警長 Mr.Black」
LongtuGameの「StarLegend」
完美世界のスマホ用アクションゲーム「超級 地城之光」
シミュレーションRPG風のバトルシステムが特徴的な西山居の「西遊」

中国でもMOBAが大ブーム。右も左も大会だらけ!

Tencentのスマホ用MOBA「全民超神 WE MOBA」

 人気のゲームが出たら右に倣えするという体質は、今回会場にMOBAがあふれていたことでも証明されていた。かつて中国のPCゲームといえば、MMORPGという時代があったが、今回のChinaJoyではMMORPGはすっかり影は薄くなってしまった。代わりに、目立っていたのがMOBAだ。世界的な潮流に逆らわず、中国でも1番人気はもちろん「League of Legend」で、「Dota 2」も人気がある。そのおこぼれにあずかろうと、どの出展者もPC向けやスマホのMOBAをラインナップに入れていた。

 MOBAの大会もあちこちのブースで開催されていた。e-sportsの世界大会であるWCAはもちろん、シャンダ、Tencentらゲームメーカーや動画配信をしている会社のブースなどでMOBAの大会が開催され、いずれも多くの観客を集めていた。

 中国では大ヒット作がでると、他のメーカーが右にならえで似たようなゲームを出してくるのが常だが、今年はMOBAがその標的になっていた。同じようなUI、同じようなキャラで、ぱっと見は何のゲームをしているのか判別がつかないほど似ている。

 中国ゲーム市場の競争は熾烈で、利益を出すためには、オリジナリティを鍛えるよりも売れているゲームを真似する方が簡単なのだろう。大手は自社のライセンスを守るために法的な手段に訴えたり、メディアを通じてもしているそうだが、それでもパクリを禁止するのは難しい、と取材をしたSnailのグローバルマーケティングを担当しているRichard氏も認めた。そして、唯一の方策は、技術力を上げて中小では真似のできないものを作ることだ、と語ってくれた。

 ただ、影が薄くなったとはいえ、MMORPGも一大勢力として残ってはいた。明確な数字があるわけではないのだが、MOBAは男性プレーヤー、MMORPGは女性プレーヤーとそれぞれ支持されている層が違っているように見えた。ChinaJoyには女性もかなり参加していたが、MMORPGのブースでは試遊しているのがほとんど女性というシーンも目にした。中国MMORPGではマッチョはほとんど見かけず、涼しげな顔をした長髪の男性が主人公というパターンが多いので、女性の支持を集めやすいのかもしれない。

【各地で開催されていたMOBAの大会】
やはりというか、中国でもMOBAが圧倒的な人気。特にプロゲーマーが登場するイベントは、何百人もの観衆がステージ前を埋めつくした

やっぱり大定番の「三国志」、しかし変化も

古典的な武侠の世界観に、少しずつオリジナルな要素が入ってきている

 ChinaJoyは「三国志」のゲームが多い多いと聞いていたが、確かに多かった。「中国のゲームは9割が『三国志』」と評する人がいた数年前に比べるとバリエーションが出てきてはいるが、それでも、リアルやデフォルメされた関羽がいたるところにいる。Snailで取材の窓口になってくれたチョウ・ジンコウ氏に、若い人は「三国志」に飽きていないのかと尋ねたところ、「文化として定着している」とのこと。中国人の血には「三国志」が成分として入っているくらいに、みんな好きなのだそうだ。

 とはいえ変化がないわけではない。やはり多少は差別化しなければいけないと思うのだろう。萌えキャラに擬人化させたスマホゲーム「軟妹無双」などは、キャラ絵の可愛さも相まって人を集めていた。また、「三国志」の名前を冠していても、ほとんどファンタジーだったり、キャラは趙雲なのだが装備を変えると短髪皮ジャンの誰だかわからない姿になったりと、古典的な武侠スタイルからの進化も見られた。

【軟妹無双】
イラストのクオリティが非常に高いYiwan.comの「軟妹無双」。このまま日本でサービスをしても人気が出そう

オリジナルのAndroidデバイスで国産の雄を狙う

今回いろいろ出ていたAndroidデバイスの中で、1番筆者の物欲を刺激したW3D。米Amazonでは399ドルで予約受付中だ

 今回取材させてもらったSnailのブースには、PCとコンソールのほかに、Snailが独自開発したAndroidデバイス「Obox」と「W3D」が多数展示されていた。「Obox」はコンソールっぽい外見の据え置き型デバイスで、「W3D」はPlayStation Vitaをもう一回り小さくしたようなゲーマー用のAndroidスマートフォンだ。どちらも7月30日からアメリカのAmazonなどで予約がスタートしている。中国での販売開始は9月ごろの予定だそうだ。

 「Obox」はNVIDIAのTegra K1プロセッサーを搭載し、Xbox One風のゲームパッドが付属している。背面にHDMI、USB、LANのポートがあり、コンソールのようにテレビに接続してAndroidゲームを遊ぶことができる。

 「W3D」はAndroidベースのゲーマー用のスマートフォン。全面にはモニターの左右に2つのアナログパッドと十字キー、十字ボタンを備えている。横に向けて持つと、人差し指が当たる両端の部分に「LR1」と「LR2」ボタンに相当する2つのボタンがある。MediaTekのLTE対応8コアプロセッサMT6595を搭載しており、RAMは2GBで、ストレージはデフォルトが16GBで64GBまで拡張可能。画面は5.5インチフルHDのIPSディスプレイ。また、アイトラッキング3Dシステムで裸眼のまま3D映像が楽しめる。通信はCDMAとGSMをサポートしている。

 このほかにも会場にはスマホを固定してモニターとして使うNVIDIAの「shield」っぽいシルエットのスマホ用ゲームパッドがあちこちから発売されていたり、Alibabaのセットトップボックス「Tmall Box 2」や、Flydigiの据え置き型Androidデバイスなど、たくさんのゲーミングデバイスが出展されていた。

 SnailでOboxの開発を担当しているTommy氏は、「Obox」と「W3D」で中国の国産デバイスの中で先行していきたいと自信を見せた。PS4やXbox Oneのようなコンソールは、中国人のデベロッパー側から見れば顧客を囲い込む脅威に感じられるのだろう。国産のコンソールで市場を作りたいという思いを強く感じた。

【Obox】

【W3D】

【その他のAndroidデバイス】

コンソールで遊ぶユーザーが新たな中国国産の流れを作るかも?

SnailがPS4とXbox One用に開発した基本無料のMOBA「King of Wushu」

 今回のChinaJoyでは、ソニー・コンピュータエンタテインメントやMicrosoftのブース以外にもコンソールの試遊台があったことが印象的だった。日本ではゲームメーカーのブースにコンソールがあるのは当たり前だが、中国では長い間コンソールとPCゲームのメーカーはブースが隣り合っていても別世界という感じだった。

 しかし、今回はSnailが自社開発のコンソール用MOBA「King of Wushu」を大々的にブース展開していたほか、完美世界が、中国での運営契約を結んでいるPS4用アクションMO「Warframe」(Digital Extremes)やXbox One用のMMORPG「Dungeons&Dragons Neverwinter Online」(Arc Games)などをこちらも大きくスペースを取って紹介していた。

 スマホ版「ラグナロクオンライン」を大々的に紹介していたXD.comは、スペースの端では、SCEカンファレンスでも紹介された美少女が主役のPS4用SF系横スクロールアクションゲーム「幻境界限」の試遊台を置いていた。

 まだまだ中国でのコンソール機のシェアは少なく、一部のコアなゲームファン以外には認知もされていないという状態ではあるが、中国市場の中でコンソールがもはや外様ではなく、開発の候補に上がるプラットフォームとして認知され始めているのを感じた。

 前述したSnailのTommy氏も、今後はPC、スマホ、コンソールが中国ゲーム市場の3本柱になっていくだろうと語ってくれた。今回、SCEのブースでも、中国のデベロッパーが作った国産PS4タイトルが出展されていた。中には、日本のコンソール用RPGに強い影響を受けた、立ち絵や顔文字を多用した作品もあり、日本のコンソール市場が伸び盛りだったスーパーファミコンからプレイステーションへの過渡期のころを思わせるような作品もあった。

 中国は多くの下請けスタジオがあり、海外の大作ゲームのアセットを手掛けているので、グラフィックスのクオリティは非常に高い。問題はその美しい画面にゲームデザインや、コンテンツ力が追い付いていないことだ。だが、かつて大味なPCゲームを出していた北米のメーカーが家庭用で派遣を握ったように、中国でコンソールを遊ぶ人が増えて、目の肥えたユーザーが開発側に回ると、中国にもここでしか作りえないオリジナリティあふれるゲームが生まれていくかもしれない。

【コンソール用タイトル】
完美世界のブース
SCEのブースでトレーラーが流れていた中国国産PS4タイトル「仙剣奇侠伝」

(石井聡)